中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 フリー

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で127人、25府県で新規感染者ゼロとなっています。新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」に世界中が怯えています。アフリカ諸国だけでなくベルギーを始め欧州や香港、イスラエルでも見つかり、各国で入国制限が強化され、今後の拡大によっては再びロックダウンが現実味を帯びてきています。日本政府も水際対策の強化を発表しましたが、南アフリカら6カ国から入国者に10日間の宿泊施設に待機させるというもので、昨日も書いたように、前回の失敗に終わった水際対策と同じで全く学習が出来ていません。オミクロン株が見つかった国からの入国を全面禁止するとともに、今後の世界での感染状況を見ながらさらなる強化を行っていくべきです。日本では第5波が終息し、景気が回復しつつありますが、更に回復を加速するためには新たなウイルスの侵入を防ぐしかありません。これに失敗すれば第6波が襲来し再び緊急事態宣言発出という事態になりかねません。岸田政権には菅政権と同じ轍を踏まないように、くれぐれも後手後手に回ることなく先手先手で取り組んでもらいたいものです。

さて、今日は、クリス・アンダーソン著「フリー」(NHK出版)を紹介します。アンダーソン氏は、「ロングテール」「フリーミアム」「マイカームーブメント」といったキーワードでデジタル時代の新しいパラダイムをいち早く提示したワイアード誌の元編集長です。

1.無料ビジネス「フリー」

 私たちの身の回りには、グーグル検索やGメール 、LINE、FacebookTwitterなど無料のものやサービスが増えています。スマホアプリもほとんどが無料です。最近ではアメリカからMilesが上陸し、1ヶ月でに登録者数を100万人に達成しました。

 こうした無料のビジネスモデルの仕組み「フリー」を解き明かしているのがこの本です。

 無料ビジネスモデルが増えてきたのには次の3つの理由があると言っています。

  1. 出費の痛み・・・利用者は、有料ですと「お金を出すかどうか」、費用対効果を検討しますが、無料ですと出費の痛みを考える必要はなく、即座に利用します。
  2. ネットワーク効果・・・ネットワーク効果とは、使う人が多いほどサービスの価値が高まるという効果です。電子メールやSNSなど自分一人が使っているなら何の価値もありません。知り合い全員が使うので便利になり価値が高まるのです。
  3. 限界費用・・・限界費用は、商品1個増やすのに必要な費用のことです。普通の商品の場合では1個増やすのにかかる製造・流通コストのことで、商品を無料で提供するにもお金がかかります。デジタルの世界では、無限にコピー可能なので、無料で大量に配っても追加のお金はかかりません。

2.無料で儲ける仕組み

 高品質のサービスを無料で提供すれば、使う人は爆発的に増え、サービスの価値は高まります。しかし、デジタルの世界では追加の限界費用はかからないとしても、初期段階では当然費用は掛っています。

 ビジネス(商売)というのは慈善事業ではなく「儲けること」がその本質です。社会に貢献することもビジネスの目的ではありますが、利益を上げて儲けることが出来るから、社会貢献も出来るのです。無事ネスの目的は「儲けること」です。

 これは無料サービス「フリー」にも言えることです。無料サービス「フリー」でも儲けなければビジネスとして成り立ちません

 この本では、無料ビジネス「フリー」で儲ける方法が4つ紹介されています。このうちの最初の2つは昔からあったモデルであり、あとの2つはデジタル時代に出てきたモデルです。

  1. 内部相互補助モデル・・・無料で利用者(顧客)を増やし、別の有料版で儲ける方法
  2. 三者間市場モデル・・・広告で儲ける方法。テレビやラジオなどはCMで広告主がお金を払っているからで、グーグルも広告収入で成り立っています。先ほどのMilesもこのパターンです。企業に利用者の移動情報(ビッグデータ)を提供し、企業を利用者をマッチングさせることで、企業側から支払いをもらっています。
  3. フリーミアムモデル・・・一部のプレミアム顧客が負担する方法。一般には無料ですが、データ使用量の多いヘビーユーザーは有料となるもの。
  4. 非貨幣市場モデル・・・社会貢献活動として行う方法。ウェブの世界では、情報発信にほとんどお金が掛らないので、お金を得ることが目的でなくても様々な情報をネットで提供できるようになっています。ウィキペキアもボランタリーで運営されています。

3.有料ビジネスへの脅威

 デジタルであれば、複製コストはゼロなので、無料ビジネスは大きな破壊力を持っています。これまで有料ビジネスを行ってきた人にとっては大きな脅威です。

 例えば、音楽業界の場合、楽曲が無料配信され、CDなどの売上は減少しています。しかし、多くのミュージシャンは稼いでいます。これはライブ活動のおかげです。CDなどの印税収入が減ったとしても、ライブ収入は増えています(コロナ禍で減っていますが、コロナが収束すれば増えていくでしょう)。デジタル音楽のように無限にコピーできるものは無料になる一方で、ライブでミュージシャンと共有する時間や生の音楽はかけがえのないものとして更に価値が高まって行くのです。

 一方で、現在、無料ビジネスは岐路に立たされています。人々は、無料でFacebookやグーグルを利用するときに、無料と引き換えにプライバシーや個人情報が漏れているということに気づき始めています。だからといって利用者が減少したという話は聞きません。便利さに麻痺してしまっているのかも知れません。

 有料ビジネスとしてはどうすればいいのでしょうか?

 無料ビジネスはFacebookやグーグルだけではなく応用範囲は広いのです。無理に無料ビジネスと戦っても勝ち目はありません。むしろ戦わず、無料ビジネスの特徴を理解し、場合によっては味方につけて、有料ビジネスの良さを武器に顧客に大きな価値を提供して稼ぐことを考えるべきだと思います。

 先ほどの音楽業界のライブのように、顧客が求める価値が何なのかを把握し、無料ビジネスでは出来ない有料ビジネスの良さを提供していくことで、無料ビジネスと有料ビジネスがうまく共存できるのではないかと思います。 

休日の本棚 知識創造企業

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で121人で、29府県で新規感染者ゼロとなっています。昨日紹介した南アで確認された変異株は「オミクロン株」と名付けられ、WHOは「懸念すべき変異株」に分類すると発表しました。この新らしい変異株は、ウイルス表面にある突起状の「スパイクタンパク質」などで30以上もの変異がみられ、既存のワクチンが効きにくく感染力も強いということです。既にベルギー、香港、ボツワナなどでも見つかっています。日本政府は、水際対策を強化し、南アなどの6ヶ国からの入国者に対しては今日から10日間の待機を要請することにしていますが、欧州ではこれらの国からの入国を禁止しています。水際対策強化と言いながら、極めて不十分な対策であり、これでは、必ずすり抜けて入ってきます。これまでも日本の水際対策の杜撰さは指摘されていましたが、全く学習できていません。わが国のような島国では水際対策を万全にすれば、流入は防げるのです。日本政府の危機管理能力の低さにあきれて開いた口が塞がりません。

さて、今日は、野中郁次郎&竹内弘高著「知的創造企業」(東洋経済新報社を紹介します。野中氏は一橋大学名誉教授で、竹内氏は一橋大学教授を経て現在はハーバード・ビジネススクール教授です。

一般に知識には言葉に出来ない「暗黙知」と、言葉に出来る「形式知」があります。

スポーツは暗黙知の塊です。野球にしろゴルフにしろ「脇を締めて、腰を捻って」などと形式知だけを伝えても上達しません。指導者のバットやクラブの振りをみて、それをまねて、何度も繰り返し、指導者に手・腰を支えてもらいながらフォームを修正し、これらを何度も繰り返すことでフォームが固まっていくのです。何度も何度も繰り返し体に覚え込ませなければ身につかない暗黙知です。音楽の世界も同じです。ピアニストは何度も何度も同じ曲を引いて反復練習します。

熟練の職人が若い職人に自分の技術を伝えるときにも似たようなことが行われます。また、接客業で若い社員が先輩社員の動きを見ながら、見よう見まねで接客を繰り返すのも同じです。

知識というのは氷山のような構造であり、氷山では水面に見える部分の下に膨大な氷の塊があるように、言葉に出来る形式知の下に言葉に出来ない膨大な暗黙知が存在するのです。

「知識社会」と言われている現代では、企業に生まれる「知識」が企業の競争力を左右すると言っても過言ではありません。しかし、知識が企業の中でどのように作られるのかがよく分かっていませんでした。

そうした中、日本企業の事例研究を通して、「組織的な知識創造」を理論化し、世界に高く評価されたのが本書です。かつての日本企業の成功は組織的に知識を創造する仕組みを持っていたからなのです。

野中氏らが提唱する「知識創造理論」は、意識的に知識を創り出す方法論のことです。組織の中では、個人間で形式知暗黙知を交換し合って、知識が作られていくきます。

野中氏が知識創造理論を提唱した背景には「なぜ日本企業がこの20年間で急速に力を失っていったのか」という問題意識がありました。そして、日本企業における卓越性やイノベーションのあり方を問い直し、日本企業の閉塞感を打破できるような21世紀に求められる経営の知のあり方を実践の中で理論化しようとしたのです。

知的創造理論の特徴は、「人間中心の精神・価値観」に基づいた経営のあり方を前提に、実践という立場から理論を再構築しようとしています。企業内部の有形資源のみを資源とし、一企業の利益を最大化するために競争優位や利益追求に主眼を置いた従来の市場原理主義的な経営理論とは一線を画し、知識を資源として捉え重視する理論です。

前述したように、知識には「暗黙知」と「形式知」があります。「暗黙知」は言語や文章で表現しにくい主観的・身体的な経験知で、個人に体化される認知スキルや身体スキルを含みます。これに対して、「形式知」は特定の文脈に依存しない一般的な言葉や論理で表現された概念知です。イノベーションのような「新たの知識の創造」においては、「まだ言葉にならない個人のアイデア」のような「暗黙知」をうまく育てて、誰でもが共有できる価値のある知識、「形式知」に変換するということが必要になります。簡単に言えば、これが知識創造です。

「知識創造の現場で起こっていること」はもっと複雑で説明しにくいのですが、繰り返しイノベーションを起こすには、その仕組みを理解することが重要なのです。知識創造理論では、暗黙知形式知の概念をうまく活用し、知識創造の仕組みを体系化しています。SECI(セキモデル)と言われているものです。

その流れは、次のようになります。

  1. 共同化(Socialization)・・・体験を共有し、暗黙知を伝える。
  2. 表出化(Externalization)・・・暗黙知を言葉に落とし込む。
  3. 連結化(Combination)・・・他の形式知を結合し、知識体系を創る。
  4. 内面化(Internalization)・・・個々の内面に次につながる暗黙知が育つ。

このSECIサイクルによって、知識創造はこの順番で、暗黙知形式知が相互作用しながら進むとされています。

このような知識を生み出すには、知識を生み出す多様な場を社内に用意することが重要です。ホンダには「ワイガヤ」という手法があります。合宿で参加者は7~8名、具体的なテーマを3日3晩、延々と議論し続けるのです。初日は本音で自分の意見を主張し合い、2日目には互いに意見を理解しようとし、3日鬼は論理的な意見も出尽くし、初日の議論に立ち戻ると、更に本質的な議論になり、創造的な新しい解決策にたどり着くというのです。また、稲盛和夫氏が創業した京セラでは、本社12階にある百畳敷きの和室でコンパをやります。その部屋で肩を寄せ合いみんなで一つの鍋をつつき酒を飲みながら、本音で対話をします。手酌は御法度、ひたすら相手に注ぐまくるのです。そうすることで、考え方もme thinkingからwe thinking に変わるというのです。徹底的に行うことで「why?」の意識が入ってきて、共通感覚に到達し、互いに「そういうことか」というところにまでたどり着くのです。

全人格をかけた知の格闘をすることで、やがて互いが一体化して共感が生まれ、共同化が進んでいくのです。

今成長する海外のグローバル企業では、組織的な知識創造を重視しています。グーグルでは、オフィスに社員が集まり飲食しながら情報共有する環境をととのえています。ネットだけで業務が進むデジタル時代でも、直接人がふれあうことで生まれる知識の重要性に気づいているのです。ところが、今の日本の会議では、会議を開くことが目的化され、ダラダラと無意味な議論がなされ手います。そこには知識の創造などありません。

この「知識創造企業」は1995年に英語で出版され、世界中にナレッジマネジメントブームを引き起こし、世界のビジネスの現場に大きな影響を与え、日本の多くの企業も知的創造を取り入れてきました。野中氏らは、大企業の経営を中心に研究されており、この知的創造理論も中小企業を念頭に置いた理論ではありません。

しかし、大企業に比して規模が小さく、現場力がすぐに上へと上がっていく中小企業の方が現場の暗黙知形式知に変換し、それを現場に浸透させていくということは容易なように思います。

中堅・中小企業で「知的創造」に取り組むことは、極めて有用であると思います。

稲盛経営と永守経営

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で119人、29県で新規感染者ゼロとなっています。全国的にした止まりしている者の低水準で落ち着いています。来年度からのGOTOトラベルの再開や会食での人数制限緩和など規制緩和の動きが加速していますが、ドイツでは死者が10万人を超え、南アフリカで新たな変異株が見つかるなど、世界的には再拡大しています。南アフリカで見つかった変異株は、免疫回避、高い感染力が懸念されています。日本では、外国人の入国緩和が行われ、更に外国人団体観光客の受け入れに剥けたさらなる緩和が検討されています。これまでの日本の水際対策は極めて杜撰さであり、新たな変異株の国内流入を抑えるにはしっかりとした水際対策が求められます。世界的な新型コロナウイルスの動向を見極めながら、入国緩和を行うべきですし、場合によっては強化することも必要です。

さて、今日は、日経BizGateの「『稲盛と永守』2人の経営者はなぜ失敗しないのか?」という記事を取り上げます。

これまでも京セラ会長稲盛和夫氏と日本電産会長永守重信氏の経営哲学については折りに触れ紹介してきました。ただ、個別に紹介し、両者を並べて紹介したことはありません。この日本を代表する2人の経営者の経営哲学を比べてみれば多くの共通項があることが分かり、中小企業経営者にとっても、経営の参考になるはずです。

小集団ごとに採算管理するアメーバー経営を特徴とする稲盛氏、圧倒的な営業力を強みとする永守氏、という風に違いはありますが、ともに「失敗しない」経営が信条です。

「具体的な数字に落とした中期計画は立てない」「目標に掲げたことは必ず実現する」など、目標の設定と精華への徹底的なこだわりでそれを実現しています。

1.自利と利他

 稲盛氏は、以前紹介した「稲盛経営12箇条」を見ても明らかなように、「利他の心」あるいは「無心の心」の大切さを説く一方で「数字は経営の基本」という姿勢を忘れていません。前者はフィロソフィ、後者がアメーバ経営に基づく採算管理です。まさに渋沢栄一の「論語と算盤」そのものです。

 アメーバ経営というのは、稲盛氏が京セラを経営する中で、京セラの経営理念を実現するために作り出した独自の経営管理手法です。組織をアメーバと呼ぶ小集団に分けて、各アメーバのリーダーが中心となって各アメーバの計画を立て、メンバーが知恵を絞って努力することでアメーバの目標を達成していきます。そうすることで、現場のメンバー一人ひとりが主役となって、自主的に経営に参加する「全員参加経営」を実現するものです。

 稲盛経営の基本は、極めてシンプルで「売上最大、経費最少」「値決めは経営」で、これをアメーバに徹底させることにあります。企業を支えるために独自の管理会計の仕組みを作り、各アメーバに採算責任を担わせるのです。

 ただ、これではアメーバ単位の部分最適に陥りやすいという欠点が出てきます。そこで、アメーバのリーダーにはフィロソフィに基づいて行動することが求められます。

 稲盛氏は「リーダーは、同じ会社で働く同士として、会社全体の視野に立ち、『人間として何が正しいのか』という一点をベースに判断しなければならない。自らアメーバを守り、発展させることが前提だが、同時に会社全体のことを優先する利他の心を持たなければアメーバ経営を成功させることは出来ない」と言っています。

 アメーバ経営を単に自立分散型経営、独立採算管理という一面だけで捉えてしまうと、本質を大きく見誤ることになります。アメーバ経営は「利他の心」というフィロソフィが前提としてなければならないのです。

2.経営は数字

 永守氏も「経営は結局は数字がものをいう」と語ります。先日書いたように、永守氏は目標を語る際にワクワクするような将来像を付け加えます。永守氏は、「夢・ロマンを語ると同時に、会社の力、可能性を具体的な数字として頭にたたき込んでおくこと、これが経営の第一条件」と言います。

 永守氏は、「事業の基本は販売」と言い切り、「1に販売、2,3,4がなくて、5に技術開発」と言うのが口癖で、永守経営の強みは圧倒的な営業力にあります。

 永守氏は、稲盛氏のアメーバ経営に与せず、あくまでも事業所制を基本とし、これまで日本の伝統的なメーカーが採用してきた管理手法を維持しています。しかし、日本電産では、顧客第一主義を徹底し、営業が示す市場価格に合せつつ、10%以上の収益を稼ぐ力が求められ、市場と直結して全社が一丸となって利益を生み出していく仕組みが徹底しています。

 管理会計については多くの目標管理の仕組みがありますが、それらは単なるツールにすぎません。いくらツールを覚えても、これを徹底的に使いこなせなければ意味がありません。逆に、一見当たり前のツールであっても、経営が徹底的に使いこなせれば持続的に成長し続けることは可能なのです。永守経営がそのことを示しています。

3.「志す」心

 稲盛氏も永守氏も「戦略」という言葉を好みません。稲盛氏に至っては「経営するには経営戦略が大事だ、経営戦術が大事だと一般に言われていますが、一生懸命に働く以外に成功する道はないと思っています」と言います。そして、「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」ことが大切だと言います。

 事業を構想するときには楽観的に考えなければ何も始まりません。一方で、具体的な事業計画に落とし込む際には、悲観的にあらゆる最悪の事態を想定する必要があります。そして行動に移すときには再び楽観的になって必ず実現すべく積極的に手を打っていくのです。この3拍子が稲盛経営の神髄です。

 この中で、稲盛氏が最も重視するのが「志す力(構想力)」です。ネガティブで悲観的な考えをすると、どうしてもいい発想は生まれません。目標設定する場合には、必ず楽観的な立場に立って、考えなければならないのです。

4.野戦の一刀流

 永守氏も、ポーターの教科書的な戦略とは全く無縁です。「実践を知らない経営学者や経営コンサルの戦略論など、有害無益」とまで言います。

 永守氏と言えば、M&A戦略によって世界中に300ものグループ企業を擁していますが、その本質は、大きな岩の間を小石で埋めて石垣を築く「石垣戦略」です。

 また、大胆な投資戦略やグローバル戦略も、マーケットに先行して投資するという永守氏流の「待ち伏せ戦法」の実践です。

 更に、永守氏の真骨頂は「新陳代謝」にあり、足し算だけでなく引き算も躊躇なく進め提起ます。これは永守氏流の「捨てる経営」です。シェアが1番、2番の事業は続けるが、3番以下の事業は売っていくのです。

 戦略レベルでみれば稲盛・永守経営の特徴は、次の3点に要約できます。

  1. 自ら未来を拓く力・・・ブレずに自らの威信年を貫く
  2. 空間をつなぐ力・・・局初戦にとらわれず、大局的に捉えて判断する
  3. 時間軸に対する柔軟な発想・・・大きな波を捉える先見力と変化を迅速に捉える動体視力のよさ

5.失敗ゼロの経営

 稲盛氏も永守氏も、立てた目標に対して、成果を出すことに徹底的にこだわります。目標は努力目標ではなく、あくまでも必達目標です。

 他の企業と大きく異なる点が2点あります。

  1. 具体的な数字に落とした中期計画は立てない
  2. 目標に掲げたことは必ず実現する

⑴中期計画は立てない

 1年先なら大きな狂いもなく読むことは出来ますが、3年、5年先となると、誰も正確な予想は出来ません。その1年だけの計画を月ごとの、さらには1日ごとの目標にまで細分化して、それを必ず達成できるように努めることが大事なのです。

 ところが、ほとんどの企業が中期計画策定に夢中になっています。VUCAの時代に数年先の確実な数字など予測できるはずはありません。そのようなことに時間や労力を使うのは全くの無駄です。予測できない中期計画を策定しても、あとはその修正に追われるだけで、さらに時間と労力の無駄がかさみます。

 永守氏は長期ビジョンは示しますが、数字を事細かく積み上げることは時間の無駄と考えています。こだわるのは長期的な高い目標と、短期的な堅実な成果です。

⑵目標を必ず実現する

 稲盛氏も永守氏も、今まで失敗したことはないと豪語します。

 永守氏は「これまでわが社で解決できなかった問題、開発できなかった新商品はない」と語り、「理由は簡単で、途中で絶対にギブアップしなかったから」と言います。 

 稲盛氏も「ネバーギブアップこそ成功の条件だ」と言い切ります。「もう駄目だ、無理だというのは通過地点に過ぎない。すべての力を尽くして限界まで粘れば、絶対に成功する」「いかなる逆境も跳ね返し、可能性を信じて、挑戦する限り失敗はない」と言っています。

 当然、途中でつまずき、思い通りに行かないことはあるはずです。しかし、そこで学んで、成果につなげていくのが稲盛経営・永守経営の特徴です。これはエジソンの失敗観に通ずるものです。

タスク依存の解消

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で77人で、31県で新規感染者ゼロとなっています。東京5人で、祝日のデータとはいえ今年最少となっています。ワクチンパスポートの実証実験が行われていますが、2回のワクチン接種を終えたとしても、時間が経過すればワクチンの効果は低下します。接種から1年後にどれほどの意味があるでしょうか。却ってワクチンパスポートを過信し感染拡大を引き起こすのではないかと懸念します。ワクチンパスポートを運用するとしても有効期間は最後のワクチン接種から8ヶ月~10ヶ月とすべきです。早い段階でワクチン接種を終えた方は既にワクチンの効果がかなり低下しています。今行うべき事は3回目のワクチン接種の前倒しとそれに向けた準備です。政府も3回目のワクチン接種の前倒しとその基準策定に取り組んでいるようですが、遅くとも来年早々には3回目のワクチン接種できるようになってくれれば、感染者数を現状のまま押さえ込んでいくことが出来るのではないかと思います。

さて、今日は、東洋経済オンラインの「自己満足?『タスク依存』に陥る人の無意味な多忙 時間かけても『上司の評価は50点』から抜け出す」という記事を取り上げます。

1.自分の仕事を極めればよい? タスク依存に要注意

 周囲から働き者とみられていても、その印象は実際の生産性や成果とはほとんど関係がありません。特に日本の場合、出社してデスクに向かっていれば仕事をしていると見なされます。仕事をしている(多忙な)振りをすることが問題なのです。

 会社が給料を払うのは、投資に対して見返りがあると考えるからです。従業員が勤務時間中デスクに向かっていることに価値があるのではなく、アウトプットつまり成果に価値があるのです。私たちは成果を出すために報酬(給料)を得ているのです。

 出世してリーダーとなっても、これまでと同じ仕事を続けてしまう人は多いのです。しかし、リーダーがすべきことは、自分が率いる人たち(メンバー)と同じ仕事をすることではありません。その人たちを率いて仕事をさせることです。

 この記事では、お金や仕事を優先して時間がなくなってしまうことを「タイム・プア」と呼んでいます。

 管理職にもなると、出席しなければならない会議も増え、部下を向き合う時間がなかなか捻出できずに部下の育成もままならなくなります。これまでと同じ仕事をしていたのでは「タイム・プア」の状態に陥ることは当然です。

 ある程度は部下に権限委譲して自分が出席しなければならない会議を減らし、自分が行うタスクも制限し部下に仕事を任せることが重要になります。そうすることで部下の育成も出来るのです。これによって時間の余裕が生まれ、「タイム・プア」から「タイム・リッチ」へとシフトが図られるのです。

 一方で、管理職、リーダーとなれば、部下のタスクにも注意が必要になってきます。出社し対面で仕事をしていたときと違い、リモートワーク下においては、タスク管理は非常に難しくなっています。誰がどのような仕事をどれだけ、どれくらいの進捗で行っているのか把握することが困難になっています。

 多すぎるタスク量はオーバーフローするので問題ですが、後で述べるように優先順位をつければ解消できます。問題なのは、タスク量が少ない人です。限られたタスクしかしないと与えられたタスクにダラダラと無駄に時間をかけてしまいます。時間をかけて仕上げたからといって良いものが出来るわけではありません。自己評価は100点満点でも管理職からみればせいぜい50点といったところです。

 自己満足で磨き上げるよりも、生煮え状態でもいいので上司に相談し、コミュニケーションをとりながら完成度を高めていく方がよりよいものが出来ます。部下が自分勝手に仕事をすると、方向性がずれたり、やらなくてもいいことまでやってしまいます。ここでも重要なのは信頼関係であり、それに基づいたコミュニケーションです。

2.タイム・プアは優先順位付けで解消できる

 上司としては、部下が1つのタスクに執着しないように、適切にタスクを与えて同時並行的にマルチタスクをこなせるようにすることです。これは部下の育成にも繋がります。

 ビジネスにおいては。時間の経過によって仕事の優先順位が入れ替わることがあります。部下が自分でそれを判断することが難しい場合もあります。部下が自分で判断できるようになるまでは、最初は、上司が優先順位を決めていくことも必要です。そうするうちに、部下も自分で何が最優先か、何を後回しにしていいのかが分かるようになってきます。

 「何かあったら休日でも勤務時間外でも対応しなければならない」という方針の企業では、オフを犠牲にすることが美徳であるように思われています。そのような企業でなくても、オフに対処しなければならない場合が出てきます。その時でも優先順位が決まっていると、オフを犠牲にしてまで対処する必要があるのかどうかの判断が出来ます。

 以前「良い戦略 悪い戦略」で書きましたが、ポーターは、「戦略でまず考えることは何をやらないかだ」と言っています。戦略にかかわらず、ビジネスにおいて「選択と集中」によって「何をするかを決める」よりも「何をやらないかを決める」のが重要なのです。この「何をやらないかを決める」ことはなかなか難しいことです。

 最初は、上司がタスクに優先順位をつけ「やらなくてよいタスク」を決めて伝えることで部下のアウトプットの精度が高まり、更に自走力が身につきます。そうなると、部下が報連相を自発的に行うというサイクルが生まれます。こうして、上司と部下との双方に「タイム・リッチ」な仕事の循環が実現できるのです。

永守重信氏の言葉

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で113人で、26県で感染者ゼロとなっています。欧州や韓国で感染再拡大が広がる中、日本だけが感染拡大を押さえ込んでいます。日本では衛生環境が良く国民の意識が高く真面目に感染対策を行っているからでしょう(政府の感染対策が優れているからではありません)。日本生命保険の調査で、飲みながら親睦を深める「飲み二ケーション」を「不要」という回答が6割を超え、初めて「必要」と回答した割合を上回ったとのことです。新型コロナ禍で人々の意識が変化したことの表れであると思われます。これまでも書いていますが、仕事だけでなく、人間関係においてコミュニケーションは重要な意味を持っています。これまでは「飲みニケ―ション」はコミュニケーションの一つの形として企業内でも重要の位置づけがなされ奨励されていました。一方で、部下への説教や強制参加、飲みたくない・飲めない者への強制などといったハラスメントがあったことも否定できません。コロナ禍で、コミュニケーションが大幅に減っており、個人のモチベーション、エンゲージメントの低下に繋がり、組織の生産性にも大きな影響を与えています。今後は、企業においても、お酒に頼らない親睦やコミュニケーションのあり方を考えていく必要があります。

さて、今日は、東洋経済オンラインの「永守重信『人の心をつかんでこそリーダーだ』」という記事を取り上げます。

永守氏は日本電産の創業者で、現日本電産会長です。永守氏が日本電産を創業したのは、1973年自宅の6畳間でわずか3人の従業員を前に、「兆円企業を目指す」「精密小型モーターの分野で世界一になる」と宣言し、それから半世紀で、今や世界に300を超えるグループ企業を擁し、従業員11万人を抱える「世界一の総合モーターメーカー」に成長させました。先日も「SF 思考」で書きましたが、永守氏は「10億円企業になる」という目標を掲げる際に「やがて自家用ドローンが普及し、ロボットの数が人口を超える」「これによって精密小型モーターの受注が大幅に増える」という未来像を語ります。「SF思考」で書いたように、永守氏の話にはストーリーがあり、聞く人が「ワクワクして面白く、やってやろう」とやる気にさせてくれます。

この記事では、永守氏が語る「最高の自分をつかむ」ための生き方、「悔いのない人生を歩む」ための知恵が語られています。永守氏の言葉は経営者だけでなくすべてのビジネスパートンにとって役に立つと思います。

1.困難は「解決策」を連れてやってくる

 永守氏は「人生とは、苦楽が交互に織りなす『サインカーブ』である。どんな人生でも良いことと悪いことは50対50になっており、多くの苦しみを経験したあとには、必ず大きな喜びがやってくる」と言います。

 だからこそ、困難や逆境の中にいるときこそが、飛躍のチャンスであり、ここから逃げずに乗り越えたときに大きな喜びが待っているのです。「困難は必ず解決策を連れてやってくる」から、逃げずにその困難にしっかりと向き合い、解決策をつかみとることが大切なのです。

2.心の機微をつかむ

 会社や職場でも、上司が部下の心の機微をつかんでいれば、部下は楽に働け、のびのびと力を発揮できます。

 永守氏は「心の機微をつかむとは、厳しさと優しさを時と場合に応じてバランス良く発揮していくこと」と言います。

 以前から、部下の育成方法で「認めて、任せて、褒める」と言っていますが、当然部下がミスをすれば「叱る」ことも必要です。叱ったあとには必ずフォローすることを忘れてはいけません。永守氏も「叱るべきときには徹底的に叱るが、そのぶんの心配りを忘れないこと」と言っています。

 「とくに昨今の若者に対し、ただ激しく叱るだけでは逆効果」と言い、「最初は『褒める』を大きく『叱る』を小さくから入っていきながら、『叱る』をだんだんと大きくしていく。『褒める』と『叱る』をバランス良く織り交ぜていく『ハイブリッド式叱責方』が必要である」と言っています。全くその通りですが、ここでも重要なことは、お互いの信頼関係の構築で、そのためにコミュニケーションが重要だということです。

3.リーダーに求められる力

 永守氏は、「リーダーに求められる力として最も重要なのが『訴える力』である」と言っています。

 リーダーは、理念、ビジョン、自分の情熱、夢などを、聞く者の心にしみこませ、魂を揺さぶるまで、何度も語り続けなければなりません。永守氏は、これを「千回言行」と言います。人は目で見たり、耳で聞いたりだけでは動きません。自らの意思で行動するためには、その理由がしっかりと腑に落ちていなければならないのです。つまり「腹落ち」していることです。千人全員に理解させるためには千回同じことを言わなければならないのです。

4.時代の流れを見据えて常に変化し続ける

 セオドア・レビットの「マーケティング近視眼」を紹介したときに書きましたが、成長産業というものは存在しません。成長のチャンスを創出し、それに投資できるように組織を整え、適切に経営できる企業だけが成長できるのです。何の努力もなく、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入します。永守氏も「どんなに隆盛を極めた事業でもピークアウトは必ず訪れる。したがって中長期的な視点に立って次の一手を打つことが何よりも大事だ」と言います。

 物事には、変えていいものと変えてはいけないものとがあります。変えてはいけないものは、理念、社是、あるいは会社の基本精神です。要は企業の根っこにあるもの、存在意義です。

 時代の変化につれて、根っこ以外の枝葉の部分については、どんどん変えていかなければ時代の流れに乗り遅れてしまいます。

 例えば、かつては「人の倍働く」というのが当たり前の時代でした。「長時間労働」こそが「ハードワーキング」の定義でした。

 しかし、今はハードワーキングの定義も変わってきています。肝心なのは、競争相手に勝てる仕事をしたかどうか、時間ではなく仕事の質が重要なのです。結果がすべてなのです。肉体ではなく頭脳をフル活用する「知的ハードワーキング」が求められているのです。

 企業変革については、ジョン・P・コッターの「企業変革の落とし穴」で紹介した企業変革の8段階が参考になります。

  1. 変革が緊急課題であるという認識の徹底
  2. 強力な推進チームの結成
  3. ビジョンの策定
  4. ビジョンの伝達
  5. 社員のビジョン実現へのサポート
  6. 短期的成果を上げるための計画策定・実行
  7. 改善成果の定着とさらなる変革に実現
  8. 新しいアプローチを根付かせる

5.人材の育成

 永守氏は、人材の育成について、「自ら考えて行動する」型にはまらない「とんがり人材」が求められると言います。そして、若い人に向けて「一番になれるものを見つけて欲しい。それが見つかれば自信を持って人生を歩んでいけるはずだ。そして『大ボラ』を吹いて欲しい。旗を掲げて夢を叫ぶからこそ、『成し遂げる力』を発揮することが出来る」と言っています。

 「S F思考』でも書きましたが、重要なのは「何がしたいのか」ということです。いまは、誰も先が見通せず、何が正解か分からない時代です。だからこそ自分が「何がやりたいのか」という意思がなければ、前に進むことは出来ません。

 永守氏も目標を語るときにあわせて未来像を語ります。

 未来像がポジティブであればあるほど、共感する人が増え、それによって実現の可能性も高まります。先行きが分からない時代なので、未来像なんてどのようにでも描けます。それを腹落ちできるストーリーにまとめ上げ、意味づけできるか、つまりそのストーリーを聞いた人が納得して共感できるかのかかっているのです。

休日の本棚 マネジャーの仕事

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で50人と今年最少になりました。休日のデータとはいえ、悦ばしいことです。世界的に感染が再拡大し、ロックダウンを行う国がある中、日本だけがコロナを抑制できていると言って過言ではありません。なぜ、ここまで減少し再拡大させることなく押さえ込んでいるのか、専門家も首を傾げているところですが、減少したからと言って油断することなく感染対策を取り続けていきましょう。

さて、今日はハーバード・ビジネスレビューに掲載されたヘンリー・ミンツバーグ著「マネジャーの仕事」という論文を紹介します。ミンツバーグ氏は、言わずと知れた世界的なマネジメントの権威で、カナダのマギル大学教授・経営学大学院教授です。

マネジャーの仕事は何かと問われれば、ほとんどが「計画し、組織し、調整し、統合すること」と答えます。しかし現実にマネジャーがしている仕事を見ると、この4つの言葉ではほとんど説明できません。ミンツバーグ教授は、この4つの言葉は「せいぜいマネジャーが仕事をするときに考えている、曖昧な目標を暗示する程度のものである」と言っています。

ミンツバーグ教授は、半世紀以上にわたって、「マネジャーは何をしているのか」といった根本的な問いかけをしてこなかったことを指摘し、「それではどうやってマネジャーのための計画や情報システムを設計できるのだろうか」「どのようにして経営のやり方をカイゼンできるのだろうか」と疑問を呈しています。

そこで、ミンツバーグ教授は、この論文で、この4つの単語から引き離し、もっと根拠のある、そしてもっと役に立つマネジャーの仕事について説明しようとしています。

1.マネジメント業務についての伝説と事実

 ミンツバーグ教授は、多種多様なマネジャーたちがどのように自分の時間を使うかについて観察し、それらを分析しまとめています。ここで得られた事実が、これまで我々が受け入れていた神話の大部分に疑問を呈することになったというのです。

 マネジャーの仕事についての神話が4つあり、観察分析の結果、事実は神話と異なると言っています。

神話1】 

  • マネジャーは内省的で論理的な思考をするシステマティックな計画立案者である

事実

 マネージャーはたゆみないペースで仕事をし、その行動は簡略、多様、不連続を特徴とし、更に行動に出ようとする強い志向を持っていて内省的活動を好まない

神話2

 効果的なマネジャーは、遂行すべき決まった職分を持たない

事実

 例外的事態を処理するほかに、マネジャーの仕事には儀式や式典、交渉、それに組織を周りの環境に結びつけるソフトな情報処理など、数多くの決まった職分の遂行が含まれている

神話3

 シニア・マネジャーが求めるものは集計的な情報であり、それを提供するのに最適な手段は公式のMIS(経営情報システム)である

事実

 マネジャーは口頭のメディア、すなわち電話と会議を重視している

神話4

 マネジメントは科学であり、専門的職業である。現在はそうでないとしても、少なくとも急速にそうなりつつある

事実

 マネジャーのプログラム―時間の配分や情報の処理、意思決定などーは、マネジャーの頭脳の奥深くにしまい込まれている

 マネジャーの仕事について様々な事実を考察すると、それが非常に入り組んだ、困難なものであることが分かります。マネジャーに課せられた義務は大変重いが、仕事を委譲することは容易くありません。そのため、マネジャーはオーバーワークになり、多くの仕事を皮相的にこなすようになります。簡略、細切れ、そして口頭のコミュニケーションが仕事の特徴となるのです。しかもこうした特徴こそが、マネジャーの仕事を科学的に改善することを拒んできたのです。

 2.マネジャーの仕事の基本

 ミンツバーグ教授は、まず最初にマネジャーを「組織、あるいはそのサブユニットを預かっている人物」と定義します。

 この定義では、CEOのみならず大統領、総理大臣、宗教指導者、職長、スポーツチームの監督まで含まれてしまいます。

 このような人々は、皆共通するものを持っています。それは、全員が、ある組織単位に対するフォーマルな権限を付与されているということです。その権限から、様々な対人関係が生まれ、その対人関係によって情報にアクセスすることが可能になり、その情報によってマネジャーは自分の組織のために意思決定し、戦略を策定することが出来るのです。

 ミンツバーグ教授は、「マネジャーの職務は、様々な『役割』によって、すなわち、ある職位によって明確になった組織化された行動の集合によって説明することが出来る」と言います。

 フォーマルな権限は次の3つの対人関係上の役割をもたらし、この役割から3つの情報上の役割が生まれます。この2組の役割によって、マネジャーは4つの意思決定に関わる役割を果たすことが出来るようになるのです。

⑴対人関係における役割

  • 看板的役割
  • リーダー的役割
  • リエゾン的役割

⑵情報に関わる役割

  • 監視者としての役割
  • 散布者としての役割
  • スポークスマンとしての役割

⑶意思決定に関わる役割

  • 企業家としての役割
  • 妨害排除者としての役割
  • 資源配分者としての役割
  • 交渉者としての役割

3.より効果的なマネジメントを目指して

 マネジャーの能力は、仕事に対する洞察によって大きく左右されます。仕事をする手際の善し悪しは、職務のプレッシャーとジレンマをいかによく理解し、対応できるかに係っています。したがって、自分の仕事について内省できるマネジャーは、その職務をうまくこなすことが出来ます。

マネジャーの仕事を停滞させる原因は、①権限委譲のジレンマ ②一人の頭脳に集中したデータベース ③マネジメント・サイエンティストとの協力の問題 です。これらはマネジメント情報のほとんどが口頭でのコミュニケーションから得られたものであることで起こりうるのです。

  1. マネジャーは自分が所有する情報を分かち合う、系統だったシステムを確立するように求められている
  2. マネージャーは、表面的な仕事に追いやろうとするプレッシャーを意識的に克服するために真に関心を払うべき問題に真剣に取組み、断片的な具体的情報ではなく、幅広い上京を視野に収め、更に分析的なインプットを活用するよう求められる
  3. マネジャーは義務を利点に変え、やりたいことを義務に変えることによって、自分の時間を自由にコントロールできるように求められている

4.マネジャーの教育

 マネジャーになるには重要な知識を十分に消化吸収しなければなりませんが、頭で理解しただけでは泳げないのと同様、知識学習だけでは人材は育ちません。

 マネジメント・スキルというものは、実際にも理論的にも実行とフィードバックを通して学ぶべきものなのです。

 重要なマネジメント・スキルとしては、同僚との関係の育成、交渉の遂行、部下の動機付け、心の悩みの解決、情報ネットワークの構築と情報の発信、不確実な状況下での意思決定、資源配分など様々ですが、マネジャーは実務を通じて学び続けるように、自分の仕事について内省的でなければなりません。

ミンツバーグ教授は、最後に「マネジャーの職務ほど企業にとって大きな重みを持つものはない。社会が我々に事えてくれるのか、あるいは、我々の能力や資源を浪費するのかを決定するのはマネジャーである。今こそ、マネジャーの仕事に関する神話から脱皮するときだ」と言っています。

失敗から学び成長する3つのステップ

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で143人で、29県で感染者ゼロとなっています。欧州で新型コロナの感染者が急増していますが、お隣り韓国でも再び増加しています。ワクチン接種率において日本とほとんど変わらず、マスク着用も行っているにも関わらず、何故急増しているのでしょうか? 今月1日より行動規制を大幅に緩和しており、人の移動の増加が一つの原因ですが、もう一つがワクチン接種から時間が経ったことによる免疫効果の低下です。日本でも高齢者施設などでクラスターが発生し、ワクチンを2回接種した人が感染するブレークスルー感染が出てきていますが、これも免疫効果の低下によるところが大きいと思われます。日本でも、ワクチンを過信するのではなく、大人数での会食を控え、これまで通り密を避け、マスク、手洗いを励行することで、新型コロナだけでなく、これからは流行するインフルエンザの対策にもなります。

今日は、Forbes JAPANの「失敗から学び、成長するために役立つ3つのステップ」という記事を取り上げます。

現在は変化のスピードが速く、先を見通せず何が正解かわからない時代です。政治や経済、ビジネスにおいても、大きな変革が起き、予想もつかない事態が次から次へと現れてきています。こうした中、常に成功するとは限りません。成功体験ばかりを称賛し、失敗を隠そうとする風潮では、成長も発展もあり得ません。むしろ、この複雑で混迷する環境の中、生き残ることも難しくなります。

失敗は成功につながる学びの宝庫」「失敗は成功の母」などと昔からよく言われることですが、今のように常に変化し続ける環境でこそ、真に活かされる言葉ではないかと思います。

この記事では、失敗した後に成長するための3つのステップが紹介されています。

1.少し経ったら、失敗について考える時間を取る

 仕事で失敗した時にどうすればいいのでしょうか? これに対して、「失敗したことを早く忘れろ!」と言われることがあります。仕事の失敗は誰もが平気でいられないから、そう簡単に忘れることはできません。失敗したことを気にしてグジグジしていたのでは、先に進めません。いったん失敗したことを忘れて、仕切り直すこと、つまり次の挑戦へと一歩踏み出さなければならないのです。

 しかし、完全に忘れてしまったのでは失敗を活かすことはできません。失敗した後にそこから学ばないのは、チャンスを失うようなものです。

 失敗した直後は、気も動転していてマイナス思考に支配されネガティブな考え方しかできません。そこで、一旦忘れて、しばらく時を置いてから冷静に客観的な目で眺めなおすのです。そうすると失敗をプラス思考でポジティブな視線で見ることができるようになります。

 とはいえ、失敗について再考するまで、あまり時間を置きすぎてもいけません。長く時間を置けば、その間に重要な細部を忘れてしまうことになるかもしれませんし、自分に都合がよいように記憶の置き換えが起きることもあります。

 この記事では、「失敗の発生に近い時期でありながら、今後改善できることについて客観的に考えられるようバランスをとるために、失敗から48時間後くらいを目安に時間を取るのが良い」と言っています。一晩ゆっくりと寝て翌日か翌々日に再考するのが冷静で客観的に自分を見つめることができるのではないかと思います。

2.失敗について書きとめる

 起きたことを考えるだけでは不十分です。その時の状況を書き留めることも重要です。書き留めることで、頭の整理ができ、順序立て、系統立てて考えられるようになります。

 人は自分の考えを書き留めるとき、全体像を確実にとらえたいという思いから、よりじっくりと考えるようになります。書き留めることなく頭の中だけで考えているときには、思考があちこちに飛び回り、深く考えることができず浅く薄っぺらな思考で終わってしまいます。

 さらに、「失敗ノート」をつくることで、後日読み返すことができます。

 人間という生き物は、同じ失敗を繰り返すものです。たとえ一度は失敗を糧として成功に導いたとしても、時が経つにつれて忘れ、再び同じ失敗を繰り返します。「失敗ノート」に書き留め、繰り返しそれを読み返すことで、再び失敗することを減らすことができます。

3.自分の失敗を他の人に打ち明ける

 失敗から学んで行動を起こせるように自分の背中をさらに押したければ、自分の失敗談やそれに対する自分の考えを他人に話すことです。失敗から学ぶためのモチベーションをもう少し高めたいと思っているのなら、失敗を自分の心のうちにとどめていてはいけません。他の人に失敗を打ち明ける目的は、必要に応じちょっとした支えをもらい、自分に説明責任を課して、自分のモチベーションを高めるためです。

 自分の失敗を打ち明けるには勇気がいることです。

 この記事では、「自分の弱みを晒せば、心が解き放たれて、カタルシスを得られることもある」と言っています。

 自分の失敗を人に打ち明けるというのは、自己のモチベーションを高めるというだけではありません。

 経験したことを内省し、成功したことも失敗したことも、次の経験に活かせるように言語化・教訓化することで個人の成長スピードを高めることができるだけでなく、個人の経験という暗黙知形式知化して、つまり見える化して全員が共有できるようにすることで、組織全体の成長につながるのです。

休日の本棚 ブランド優位の戦略

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で110人、27県で新規感染者ゼロとなっています。全国的には今年に入って最も低い水準が続いています。しかし、北海道では、8月中旬をピークに減少傾向が続いていましたが、今月に入り前週を上回る傾向が続いています。北海道では気温が低い時期に各地に先行して感染が広がる傾向があり、昨年2月下旬には北海道で国内最初に感染拡大し、その後東京、さらに各地の感染拡大につながりました。専門家も、今後も北海道の動向を注視する必要があると言っています。やるべきことはただ一つです。忘年会・新年会も極力控え、やるとしても少人数で一次会だけ、気を緩めることなく、これまで通りの感染防止対策を続けること、それだけです。

さて、今日は、デービッド・A・アーカー著「ブランド優位の戦略」(ダイヤモンド社を紹介します。著者のアーカー氏はカリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学の名誉教授で、マーケティング戦略論の大家です。

デザイン性だけでなく一風変わった技法で快適さや美味しさを追求してきたバルミューダが、スマートフォンの発売を発表しました。4.9インチの小型ディスプレイを採用し、背面も手になじむ質感とカーブで小さく持ちやすいデザインとなっています。

これまでのバルミューダの家電販売も、他とは違った尖った部分を持ち高価格でもそれなりの売上を上げ、まさに優れた「ブランド戦略」を展開しているように思います。

しかし、このスマートフォンのスペックでこの価格(10万円超)は高すぎるように思います。これが成功するかどうかは他とは違う尖った部分が消費者の心をつかむことができるかにかかっていますが、これも一つの「ブランド戦略」であることは間違いありません。

ブランド戦略とは、ブランディングを行うための戦略のことです。ブランディングとは、企業の製品やサービスあるいは企業そのもののコンセプトを明確にして「誰にどのような場面で使ってもらいたい製品・サービスなのか」「自分たちはどのような企業なのか」を顧客に提示することを言います。

ブランド戦略を行うことで得られるメリットとして、⑴競合他社との差別化ができる ⑵顧客からの信頼感(顧客ロイヤリティ)を獲得することで長期的売り上げが見込める⑶多額な宣伝費用をかけなくても集客できる ⑷知名度が上がり新規顧客の獲得がしやすくなる ⑸ブランド自体に価値があるので強気の価格設定ができる などが挙げられます。ブランディングマーケティングの上位にある活動で、明確な戦略の下でブランディングがなされていなければ、マーケチング戦略も方向性を定めることが出来ません。したがって、ブランド戦略は企業経営にとって極めて重要な意味を持ちます。

アーカー氏は、この本の中で、強いブランドを戦略的に作る方法を教えてくれています。

アーカー氏は、ブランドが持つ見えない価値を、「ブランド・エクイティ」(ブランドの見えない資産価値)と名付け、「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資産の一つと考えています。

1.ブランド・アイデンティティ

 強いブランド・エクイティを作るには、「ブランド・アイデンティティ」を考えなければなりません。ブランド・アイデンティとは「ブランドをどう見られたいのか?」ということです。一方で、ブランド・イメージとは「今、ブランドがどう見られているか」です。

 ブランド・イメージは顧客である消費者側の視点であり、ブランド・アイデンティは作り手の企業側の視点で、ブランド戦略策定者の意思を含んでいます。

 ブランド・アイデンティは、そのブランドが何を目指すのかを決めるものです。

 アーカー氏は、強いブランド・アイデンティを実現するためには次の4つの視点が必要であると言っています。

  1. 「製品」としてのブランド・・・顧客は製品を通じてブランドを実体験します。製品はブランド・アイデンティティの重要な一部です。しかし、製品だけではすぐに真似られてしまいます。ブランドは単なる製品以上のものなのです。
  2. 「組織」としてのブランド・・・組織には経営者をはじめ社員が有する理念・価値観があります。顧客は商品を買うことで、その企業・組織の有する理念・価値観を広めているのです。組織の理念や価値観も、強いブランド・アイデンティティを作っているのです。
  3. 「人」としてのブランド・・・人は強いブランドを、あたかも「自分にとって大切な人」のように感じます。これがブランド・パーソナリティで、ブランドから連想される人間的特性の集合です。例えば、ブランドに若くて男性的なイメージややさしくしとやかな女性のイメージがついているというものです。ブランド・パーソナリティによって、ブランドの購入者は、なりたい自分になれたり、感情を豊かにするわけです。
  4. 「シンボル」としてのブランド・・・ブランドを表現するものは何でもシンボルになります。マクドナルドの独特のMのマーク、マスコットである「ドナルド・マクドナルド」、ケンタッキーの「カーネル・サンダース」、アップルの「スティーブ・ジョブズ」など、これらが、シンボルとして、強いブランドをパワフルに伝えます。

2.顧客にとっての便益

 強いブランドを作るには上の4つの視点だけではまだまだ不十分です。顧客がブランドを信頼し、商品を買うようにするには「顧客にとっての便益」を明確かつ具体的にする必要があります。「顧客にとっての便益」は次の3つが考えられます。

  1. 機能的な便益・・・機能は真似されやすく、差別化が難しいので、多くの場合、企業にとっての「顧客にとっての便益」はこのレベルに留まっています。
  2. 情緒的な便益・・・買ったり使ったりしていい気持ちになれるブランドにはこれがあります。ブランディングで、単に製品属性や機能的便益だけにとらわれていたのでは強いブランドを築くことはできません。顧客は、感情的・情緒的に刺激されることを求めているのです。
  3. 自己表現的な便益・・・顧客は単に気持ちいいだけでなく「これを持つとこういう自分になれる」と考え、そのように行動するようになるのです。

 こうしたブランドの構造を理解し、それに合わせて自社のブランドを構築していけば、強いブランドが出来上がります。

 アップルの商品が高いのは、ジョブズが「自社製品を高級品にしたい」と考えた結果です。もともとアップルのブランド・イメージはパソコンオタク向けに洗練された商品を提供するというものでした。そこで贅沢品を参考に、高額所得者に対して、当時は消費者向けの電子機器には非常識であった「直営店」を通じて販売することで、所有する喜びや「アップル=クール」というキャンペーンを展開し顧客に自己表現を提供してきました。

 アップルのように、、ブランド・アイデンティティを目標にして、現在のブランド・イメージとのギャップを把握し、強いブランドを作る方法を考えるのです。

3.蓄積効果

 ブランド・アイデンティティは、長期間、首尾一貫してキャンペーンをすることが必要です。必要なのは蓄積効果です。ブランド・アイデンティティを頻繁に変えると過去に蓄積されたものは無価値・無駄となり、顧客も「そのブランドって結局何だったのか」と首を傾げるだけでなく混乱させてしまいます。

 同じキャンペーンを首尾一貫して続けることで、強いブランドイメージが作り上げられるのです。首尾一貫すれば、ライバルを圧倒する強いブランドが作られ、ライバルが真似できなくなるのです。

 確かに同じキャンペーンを延々と続けていれば、顧客に飽きられます。しかし、飽きられるということは必ずしも悪いことではありません。世の中に広く受けいられた証拠であり、「飽きた」顧客で今の強いブランドが出来上がっているのです。

 一方で、時代は刻々と変化し、変化のスピードも速まっています。何も変えることなく、過去を引きずっていても、時代遅れで古臭くなることもあります。コアとなるブランド・アイデンティティから離れることなく、時代に合わせることが必要になります。

ブランド構築はそれほど容易なことではありません。わが国で流通する汎用品の平均点は高く、消費者もそのレベルに慣れているので、独自性を有するブランド構築は難しいのです。

「自分たちはこの独自商品で勝負するんだ」「この商品は大企業の汎用品を相手にしても絶対に市場で受け入れられるんだ」と強い意志を持ち、決して揺るぐことなく努力を続けてきた人や企業の商品やサービスが「ブランド」と形容される場所にまでたどり着くことができるように思います。

休日の本棚 リーン・スタートアップ

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で159人で、27件で新規感染者ゼロとなっています。全国的には少なくなっていますが、北海道や神奈川では2週続けて前週同曜日に比べて増加しており、注意が必要です。

過去最大規模の経済対策が閣議決定されましたが、規模は大きくても個々の対策を見るとどれも費用対効果が少なく、何を目的とした財政支出か全くわからないもののオンパレードです。その最たるものが、18歳以下への10万円給付、2万円のマイナポイントの付与ですが、公明党に押し切られた愚策中の愚策です。コロナ対策とは言えず極めて不公平なバラマキ以外の何ものでもありません。これまでのコロナ禍で得られたはずの教訓が全く活かされていません。結局岸田政権も何も学んでいないということです。

さて、今日は、エリック・リース著「リーン・スタートアップ」(日経BP社)を紹介します。著者のリース氏は多くのスタートアップ企業を立ち上げ、スタートアップ・ベンチャー・大企業に事業戦略や製品戦略のアドバイスをしているアントレプレナーです。

この本は、スタートアップ企業を成功させる方法を分かりやすく説明しています。

リース氏が行う方法は、「トヨタ生産方式」から学んだものなのです。

1.トヨタ生産方式

 トヨタ生産方式と言えば、「製造にかかるコストを極限まで低減させること」を目的に、ジャストインタイム(JIT)自働化を2本柱としています。トヨタ生産方式は、徹底的にムダを排除することが必要で、トヨタではムダの徹底排除によって、作業能率の大幅な向上を実現しています。ムダとは①手持ちのムダ②作りすぎのムダ③運搬のムダ④加工そのもののムダ⑤在庫のムダ⑥動作のムダ⑦不良のムダの7つです。

 そして、これらのムダを徹底排除するためにトヨタ生産方式ではJIT生産と自働化生産を柱とします。JIT生産とは「すべての工程が、後工程の要求に合わせて、必要なものを、必要な時に、必要な量だけ生産(供給)する生産方式」です。自働化生産とは、「生産ラインや機械で不適合品や異常が発生した時点で、品質保証のためにそれらの異常を検知して作業者や機械が自ら生産ラインや機械の自動運転を止める仕組み」のことです。そして、これらを具体化するために、後工程引き取り方式、小ロット生産、平準化生産、かんばん方式などが行われます。

 このようにトヨタ生産方式トヨタの生産(製造)部門で採られている方式なのです。

 トヨタ生産方式と言えば、ムダ排除によるコスト削減という点に目が行きそうですが、本来の本質は効率性、生産性の向上にあるのです。

 ムダの徹底排除、コスト削減だけがトヨタ生産方式ではないのです。場面に応じて対処して効率性・生産性の向上を図るという臨機応変さが必要です。これもまたトヨタの「カイゼン」なのでしょう。

 中小企業の中にも「トヨタ生産方式」「カイゼン」に取り組まれているところもあるでしょう。しかし、トヨタ生産方式をそのまま採用しても効果が認められない場合も多いのです。それはムダ排除やコスト削減にばかり目がいって効率性・生産性の向上という面をないがしろにしているからです。たんに真似をしただけではダメなのです。自社に合った方式を臨機応変に採用する必要があるでしょう。

 トヨタ生産方式の説明はそれくらいにして、この本に戻ります。

 この本のタイトルは、トヨタ生産方式を研究したMITのジェームズ・P・ウォマック、ダニエル・T・ジョーンズらの「リーン生産方式が世界の自動車産業を変える」という本が基になっています。リーン(Lean)は「贅肉がなく引き締まって痩せている」という意味です。「リーン生産方式」では現場の学びを重視し、無駄を徹底的に省くことに主眼が置かれています。

 「リーン・スタートアップ」も「顧客にメリットを提供しない活動は、すべてムダ」というところからスタートし、顧客からの学びを重視し、無駄を徹底的に省いて、新規事業を立ち上げるのです。

2.顧客から学び、改善し続ける

 スタートアップだけでなくすべてのビジネスにおいて、「商品が必要な顧客を早く発見する」ということが極めて重要になりますが、リース氏は「顧客が必要とする『実用上最小限の機能を持った製品』を早く作り、検証しろ」と言い、この「実用上最小限の機能を持った製品」をMVP(Minimum Viable Product)と名付けました。

 リーン・スタートアップでは、「学び」の積み重ねを重視します。「アイデア」をもとに製品(MVP)を「構築」し、顧客の反応などのデータを「計測」し、結果から「学び」を重ね、学びのフィードバックループ、サイクルを何度も繰り返すのです。これはトヨタの「カイゼン」そのものです。ただ、ここでは、徹底的に顧客視点に立った改善が求められています。顧客からの学びを重視し改善を繰り返すのです。

 ここで問題なのが完璧にやろうとして時間をかけすぎることです。学びのループ、サイクルを1回回すのに時間をかけすぎること自体が時間のムダになるのです。

 各活動を完璧にこなすことが目的ではありません。ループ、サイクルを数多く回し続けることで、顧客からの学びを多く蓄積することが目的なのです。

3.戦略の方向転換「ピボット」

 われわれは、新規事業や起業では、すごいアイデアや優れた戦略が必要と考えがちです。しかし、そのようなものはほとんど必要ありません。重要なのは、製品に優先順位を付け、顧客を選び、顧客に検証し、データを取り、学びを積み重ね、方向修正するといった地道な作業の積み重ねなのです。

 細かい修正の繰り返しと戦略の方向転換をしつこく繰り返すことで成功へと向かうのです。この戦略の方向転換を、リース氏は「ピボット(Pivot)」と名付けました。ピボットというのは本来は「回転軸」のことですが、現在、ビジネスにおいては「方向転換」「路線変更」を表す用語として使われています。

 ここでも重要なことは、地道に愚直に、顧客視点に立ってひたすら改善を繰り返すということです。修正や戦略の方向転換は何ら恥ずべきことではありません。元から完璧なものや完璧な戦略などあるはずはありません。

日本では「トヨタ生産方式カイゼンなんて古い」と言う人がいます。「カイゼンばかりしているから日本企業はダメなんだ」と言う人もいます。しかし、カイゼンなくして新しいものは生まれません。すごいアイデアなんてほとんどありません。地道なカイゼン作業の積み重ねしかないのです。

トヨタが生み出したトヨタ生産方式カイゼンを今一度「顧客視点」で見直してみるのによい本です。

経営理念の浸透

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で163人、27県で新規感染者ゼロとなっています。一昨日1か月ぶりに40人となった北海道も昨日は20人で、増加傾向に転じたというわけではなさそうなのでひとまず安心です。イギリスで感染者が急増していますが、これまでのデルタ株(AY.4)が変異したデルタ・プラスと呼ばれる変異株(AY.4.2)に置き換わりつつあるようです。日本ではこの変異株は今のところ見つかっていませんが、症状が出にくいことから水際対策も困難で、日本に入ってくれば第6波の引き鉄になるのではないかと懸念されています。ただ弱毒化しており重篤化のリスクが低ければ、インフルエンザと同じ扱いで良くなるので経済を回していくことに重点を移しても問題はなくなります。

さて、今日は、日本の人事部の「ビジョン、ミッションが約7割の企業が明確化できているが、そのうち2割の企業では浸透できていない」という記事を取り上げます。

企業におけるビジョンやミッションの重要性はこれまでにも触れてきましたし、「パーパス経営」でも企業の「パーパス=存在意義」を明確に再定義することの重要性を指摘しました。

本当に企業がビジョンやミッションを明確にできているかは疑問ですが、この記事のアンケートに答えた企業の70.1%が「ビジョン・ミッションを明確化できている」と回答しています。しかし、従業員にビジョン・ミッションが浸透しているかどうか聞いたところ、「従業員に浸透している」と答えたのは「ビジョン・ミッションを明確化できている」と回答した企業のうち22.7%にしかすぎません。

経営者経営トップがビジョンやミッションを明確にしていても、従業員に浸透していなければ何の意味もありません。

今は、環境が激変し先行きが見通せず何が正解かわからない時代です。また、価値観や考え方も様々で多様性の時代でもあります。このようなVUCAの時代、多様性の時代に、社員全員が一致団結して進んでいくためには、ビジョン、ミッション、更にはパーパスを明確にして全員がそれを共有していくことが不可欠になります。従業員がビジョンやミッション、パーパスを共有し「腹落ち」できていなければモチベーションも高まりませんし、組織やチームの生産性向上・成長にもつながりません。

1.理念の浸透

 ビジョンやミッションの浸透には、2つのパターンがあります。その1つは、組織の規範に個を染めていく「組織統合型」これはトップダウンと言えます。もう1つは、この確立を促したうえで自由に振る舞えるようにする「自立支援型」で、これはボトムアップと言えます。

 どちらが正解かというのは一概に言えませんが、それぞれの企業文化や風土に合わせて違ってくるように思います。ただ、両者を上手く使い分けながら行っていくのがいいのではないかと考えています。

 ビジョンやミッションをつくるのは経営者や経営トップです。経営者や経営トップが作った企業理念を中期計画や年度計画につなげ、それに基づいて役員が目標を設定します。さらにこれを全社に公表し、部長陣がこれに基づいて部門の目標を、更には課長陣も同じようにチームの目標を、とつなぎ、個々のメンバーの目標へとつないでいきます。これはトップダウンです。一方で、一人ひとりが「何がやりたいのか」を明確にしてこれを表明する機会を設け、それを上へとつなげていく。これがボトムアップです。

 「SF思考」の時に書きましたが、「自分は何のために働くのか」という意思が明確でないまま、上から降りてくる仕事だけこなすのでは、変化はありませんし成長もできません。「何がやりたいか」という意思がなければ前に進めません。

 ビジョンやミッションといった企業の理念は、抽象的な文言で書かれることが多いのです。従業員にとっては、抽象的すぎて日々の業務とはかけ離れてしまうことになります。そのためにビジョンやミッションをより現場に近いところに下ろしてくる必要があります。経営者から役員、部長、課長と下へと順次下ろてくることで、具体的になり現場との距離が縮まります。そうすれば、個々人が「何がやりたいのか」という意思を明確にできそれにつなげることが出来るのです。

 トップダウンの「組織統合型」でも、ボトムアップの「自立支援型】でもどちらかだけでは中途半端なのです。両者がうまく回ってこそ、ビジョンやミッションといった企業理念は全従業員に浸透するのです。

2.経営理念と人事

 個々人の「何をやりたいのか」という意思を上につなげていくためには人事部が重要になってきます。経営理念を最もイノベーティブに体現しているのは人事部でなければならないのです。

 経営理念は、VUCAの時代、多様性の時代において、益々重要性を帯びてきます。企業はメンバーシップ型からジョブ型へ、プロジェクト型などの組織形態へと広がり、今後は独立して働く人も増えてきます。働き方が多様化する中で、企業が個人を引きつける最も重要な要素は、「ワクワクするビジョン」です。

 人事が組織に理念を浸透していくために、一人一人との社員との面談や採用などの地道な活動を通じて、上からの理念の浸透と、下からの意思の引き上げを行う必要があるのです。人事部が、トップダウンの終着点であるとともにボトムアップのスタート地点でもあるのです。