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ミステリーを読む「屍人荘の殺人」

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伏見稲荷大社

おはようございます。

今日は、今村昌弘著「屍人荘の殺人」「魔眼の匣の殺人」(東京創元社)を取り上げます。

何故この本を取り上げたかと言いますと、「屍人荘の殺人」は神木隆之介浜辺美波中村倫也の共演で映画化され、現在上映中だからです。映画の評判はいまいちのようですが、これまであまり原作より優れた映画を見たことはありません。

「屍人荘の殺人」「魔眼の匣の殺人」は、ミステリー小説オタクの大学生葉村譲と私立探偵の顔を持つ剣崎比留子らが活躍する本格ミステリーです。「屍人荘の殺人」は、「第18回本格ミステリー大賞」などミステリーランキングの1位を獲得した小説です。ゾンビが出てきてホラーのような、密室殺人のミステリーのような・・・斬新というか奇想というかなかなか面白いと思います。「魔眼の匣の殺人」も人里離れた研究施設の主の老女の予言、予知能力、クローズとサークルで起こる殺人事件など、ミステリーの設定として面白いです。ネタバレになるので、小説の内容はこれくらいでやめておきます。

現在ミステリーという言葉が定着していますが、かつては推理小説と言われ、それ以前は探偵小説と言われていました。世界最初の探偵小説は、1841年のエドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人事件」です。日本の探偵小説の先駆けは明治22年(1889年)に書かれた黒岩涙香の「無惨」(刑事が探偵として登場)だそうです。

探偵小説の特徴は、事件が示され、探偵が捜査していく過程に読者自身も参加して推理できるという点にあります。「モルグ街の殺人事件」にしろ「無惨」にしろ物語の面白さより犯罪捜査の過程の科学的な推理が中心となっています。

推理小説は、犯罪が身近になり関心の対象となって社会的な意味を持つようになります。そして、社会派という分野が生まれるのです。たとえば水上勉「海の牙」は水俣病を題材とし、笹沢佐保「人喰い」は経済優先の社会を批判しています。また松本清張の小説も社会派です。社会派は社会問題を取り上げることに重点を置くようになり、推理小説の本道に戻ろうという動きが本格派を生み出すのです。

本格派と言われるものは、謎解き、トリック、名探偵の活躍などを主眼とするものです。戦前の江戸川乱歩(初期の作品)から戦後の横溝正史の作品などが本格派の先駆けです。その後本格派はリアリティに欠けるという批判などから一時衰退します。しかし、1970,80年頃から本格派が再び盛り上がりを見せます。横溝正史鮎川哲也にはじまり泡坂妻夫島田荘司など。島田荘司の「占星術殺人事件」「斜め屋敷の犯罪」「暗闇坂の人食いの木」「龍臥亭事件」など御手洗潔シリーズは本格ミステリーとして本当に面白いです。

1980年代後半に綾辻行人が「十角館の殺人」でデビューして新本格ミステリーの時代に突入します。綾辻行人有栖川有栖法月綸太郎、さらに京極夏彦西澤保彦森博嗣、そして、その後も多くの新人ミステリー作家が生まれていくのです。

本格派、新本格派と言われるミステリーも単に奇抜な推理や斬新なトリックだけを用いているわけではありません。それだけでは時代に取り残されてしまうでしょう。やはりその中に社会的な意味合いが必要です。社会の動きをとらえていなければ単なる娯楽小説で終わってしまうでしょう。娯楽小説が悪いわけではありませんが。

多くのミステリーがその時代の社会との対応で書かれて、その時代の問題を提起しその解決策を示してくれています。ミステリーを読むということはその時代を読んで、自らもその時代の問題点を考える筋道を得るということだと思うのです。

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戦後日本がどのように進んできたのか、それをミステリーを紐解くことによって明らかにしようとしたのが古橋信孝著「ミステリーで読む戦後史」(平凡社新書)です。戦後史の中でミステリーをとらえる、ミステリーファンには面白い本だと思います。

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