中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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20世紀最高の経営者

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おはようございます。

今日は、新型コロナウィルス関連の話はやめにします。3月1日に「フォーチュン」誌で「20世紀最高の経営者」に選ばれたジャック・ウェルチ氏が亡くなられました。ウェルチ氏はゼネラル・エレクトリック社(GE)の最高経営責任者を務め、そこでの経営手腕から「伝説の経営者」とも呼ばれています。今日はウェルチ氏の経営手法についてみます。中小企業の経営にも役立つところがあると思います。

ウェルチ氏は、ピーター・ドラッカーの信奉者で、1980年代にアメリカの整理解雇ブームを引き起こした人物として有名です。ウェルチ氏の基本的は経営手法は、①「リストラ」「ダウンサイジング」といった大規模な整理解雇を行うことで資本力の立て直しを図る ②企業の合併・買収(M&A)と国際化を推進するということです。また、部下にあえて過大なノルマを課して克服させ、業績も人材も同時に伸ばすというストレッチ・ゴールの手法も取り入れました。日本企業の中にも導入しようとする企業が出てきますが過大な要求に精神的に参ってしまう社員も多く成功とは程遠いものでした。GEのCEOを退任後はMBAのオンラインプログラムを立ち上げるなど人材育成に尽力されました。

「ストーリーとしての競争戦略」(東洋経済新報社)で有名な一橋大学国際企業戦略研究科教授の楠木建氏によれば、競争戦略の2つの主要視点としてポジショニングと組織能力があります。ポジショニングの戦略は企業を取り巻く競争環境の中で「他社と違うところに自社を位置づけること」です。それに対して、組織能力の戦略は他社と違ったもの、即ち「競争に勝つための独自の強みを持つ」ということです。日本企業は、ポジショニングよりも組織能力に基盤を置いた戦略に傾倒してきた面があります。

ウェルチ氏は、CEO就任後「ナンバーワン、ナンバー2の事業しかやらない」「参入障壁が低くて多数乱戦になる事業はやらない」「市場や技術の変化の激しい事業はやらない」といった切り口で、手掛ける事業領域を大胆に絞り込む戦略をとりました。これはポジショニングの戦略です。ここの戦略的意思決定は数年後に増収増益をもたらし、これによってウェルチ氏が「伝説の経営者」「20世紀最高の経営者」と呼ばれるようになったのです。

戦略には競争戦略と全社戦略があります。競争戦略は、ある企業の特定の事業が特定の業界の競争の土俵で他社とどのように向き合うかに関わる戦略であり、全社戦略は、どのような事業集合であるべきか、複数の事業のバランスをどのように構築するか、そのためにどの事業に最も優先的に経営資源を振り向けるべきか、どのような分野に進出し、どのような分野から撤退するかを考える戦略です。ウェルチ氏の「ナンバーワン・ナンバー2戦略」は全社戦略です。

競争戦略と全社戦略とは相互に関係しますが性格が異なります。戦略を考える際に、全社的な戦略なのか、個々の事業の競争戦略なのかを見極めることも重要です。全社戦略は経営者が意思決定し、個別の事業の成果を評価しその事業に対する資源投入の水準を決めることになるので、経営者の仕事です。M&Aによる事業構成の組み換えや企業再生も全社戦略になります。個別の事業の競争戦略は個別事業部門の責任者の仕事です。

中小企業においてはその点が明確でなく、全社戦略だけでなく競争戦略もすべて経営者が行っているところが多いのですが、すべてを経営者一人で行うには限界があります。個別事業の競争戦略は、個別部門の責任者に任せてみることも企業の成長・発展には必要なことではないでしょうか。それによって、経営者は全社的な戦略にすべての労力を注ぎ込むことが可能になります。

ウェルチ氏は、「参入障壁が低くて多数乱戦の事業はやらない」「市場や技術の変化が激しい事業はやらない」というように、手掛ける事業領域を極端に絞り込みました。これは、業界の競争構造を重視する戦略の典型です。他社に先駆けて魅力的な業界に参入し、先行者優位を確保できれば長期利益を可能にします。しかし、利益の高い魅力的な業界は誰にとっても魅力的で他社も参入を考えます。一時的に利益の高い業界でも次々と他社が参入してくれば持続的な競争優位は難しくなります。一時的な利益に目が奪われ長期的な視点が欠落すればかえって損失を被ることにもなりかねません。

ウェルチ氏は、その点をしっかりと見極めたうえで、手掛ける事業領域を絞り込むことにしたのです。

最初に述べましたが、日本企業は組織能力に重点を置いています。つまり、「競争に勝つための独自の強み」に重点を置いた戦略を採ろうとしますが、他社が簡単にまねできない経営資源を構築するには時間がかかりますし、現在のグローバルな経営環境・社会環境の下ではなかなか困難です。

いま日本企業には、「他社と違うところに自社を位置づける」というポジショニングの視点も必要です。自社の位置づけ(ポジショニング)を明確にしたうえで、独自の強み(組織能力)を強化していく、そういう企業が最強となります。楠木氏は、「現実にはポジショニングと組織能力のどちらかに偏ってしまう。それにどのようにに対処するかが企業経営に突き付けられた本質的な挑戦課題だ」というような趣旨のことを述べられています。企業においてポジショニングと組織能力のバランスをとることが重要なのですが、困難だということです。心してこの挑戦的な課題に取り組んでください。