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休日の本棚 「ゾンビ」を読む

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おはようございます.

先日、新型コロナウイルスに対する中小企業支援で「ゾンビ企業」が増加するという記事について紹介しました。そこで、今日は「『ゾンビ』とは何か」について書いていきたいと思います。

ゾンビに関する映画と言えば、1968年のジョージ・A・ロメロ監督「Night of the Living Dead(邦題 ナイト・オブ・ザ・リビングデッド)」、1978年の同監督「Dawn of the dead(邦題 ゾンビ)」、2005年の同監督「Land of the Dead(邦題 ランド・オブ・ザ・デッド)」です。「ゾンビ」は昨年日本公開40周年で再上映されました。また、2002年にニンテンドウゲーム「バイオハザード」が発売され、これはミラ・ジョヴォヴィッチ主演でバイオハザードシリーズとして映画化されています。

ゾンビとは、何らかの力で死体のまま蘇った人間で、ホラー作品などでは「腐った死体が歩き回る」「墓場から出てきた死体がぎこちなく歩き回る」という描写がなされます。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」では、父親の墓場に向かう兄妹、兄ジョニーが「やつらはやってくるよ。バーバラ」と墓地を怖がる妹バーバラをからかうところから始まります。この言葉を発した後、口を開けよろよろとぎこちなく歩く見知らぬ男が現れ二人に近づきます。妹バーバラはその男にただならぬものを感じつかみかかろうとする手から咄嗟に逃げ助かりますが、兄ジョニーは殺されます(実際は死ぬわけではなくゾンビにされてしまいます)。この男はうつろな目でカメラを見つめます。これが、現代的なゾンビ・ホラー映画の幕開けとなり、ゾンビと言えば「うつろな目でぎこちなく歩き回りつかみ取ろうとして手を伸ばして近づく」というイメージが出来上がりました。

さて、ゾンビという言葉は、カリブ海域諸島で信じられているヴードゥー教に起源をもち「生きる屍」を意味しています。ヴードゥー教の神聖かつ秘密の儀式の中にゾンビを作る風習があります。ハイチの田舎では、ヴードゥー教の司教による処刑として行われているのです。人をゾンビに変えるというヴードゥー教の風習において二つの神経薬理的物質が使われています。フグの体内で生産される神経毒であるテトロドキシンとチョウセンアサガオです。テトロドキシンが人を麻痺させる特質を利用して危うく命を落とす直前まで麻痺を持続させ仮死状態にします。必要量のテトロドキシンの投与はすべての随意筋を麻痺させ呼吸をほとんど感知できないまで浅くします。死ぬことはありませんが外観はまるで死んでいるようになります。死んでいるように見える人物をよみがえらせるときに、チョウセンアサガオを服用します。チョウセンアサガオ有機リン酸エステル中毒を引き起こす化学物質を分解するのでフグ毒の分解を加速します。この時に犠牲者の意識を混濁させ他人の言いなりになるようにすることができるのです。こうしてゾンビが出来上がるというわけです。

こうしたホラー映画に出てくるようなゾンビについて脳神経科学の立場から説明・解説されているのが、ティモシー・ヴァースタイネン、ブラッドリー・ヴォイテック著「ゾンビでわかる神経科学」(太田出版)です。この本はゾンビを取り上げながら脳神経科学、脳の仕組みについて教えてくれています。ゾンビに関する本や映画を取り上げながら解説されていますので面白いです。

ゾンビ症候群は意識欠陥活動低下障害(CDHD)で、その症状は、患者は活動を意図的に制御できず、無気力で疲れきったような動きを見せたり(運動感覚消失)、喜びの感覚を失ったり(快感消失)、全般的な言語機能障害(失語症)や記憶障害(健忘症)に陥り、摂食などの欲求行動や攻撃的「闘争・逃亡」行動を抑えられなくなるのです。患者はしばしば見慣れたものや人を認識するのが困難となり(失認症)、持続的睡眠障害が慢性的不眠症という形で表れた結果「覚醒せん妄」状態に至ります。また、患者は反社会的行動パターン(人をかんだり食べようとしたり)も見せ、そうした典型的暴力行為は生身の人間に対してのみに限られます。他の感染者に対しては非常に強い向社会的行動をとり群れることになります。

CDHDには2種類あり、映画「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」「ゾンビ」「ランド・オブ・ザ・デッド」に出てくるような「のろまなゾンビ」とダニー・ボイル監督の「28Days Later(邦題 28日後・・・)」の出てくる「怒りっぽいゾンビ」があります。原因は、脳の低酸素症であり、長時間低酸素状態が続けば「のろまのゾンビ」が生まれ、短期間の低酸素状態なら「怒りっぽいゾンビ」が生まれるというのです。どのような原因でCDHDが発症するかは明らかになっていませんが、脳の一連の変化から新皮質のいわゆる「高次」認知領域の喪失が関わっているとされます。感染により影響を受ける皮質領域の大部分は連合部で、意思決定と複雑な行動の産出に関わり、広範な連合皮質の機能不全が視床下部や偏桃体といった深部脳領域への二次的な変化を引き起こすと考えられるというのです。

この本は、最後にゾンビから生き抜くための秘訣を挙げています。面白いので挙げておきます。

  1. ゾンビと闘うな。ゾンビに抵抗してもゾンビは痛みを感じない。
  2. 息をひそめやり過ごせ。ゾンビはもっと気を引くものを見つければ忘れる。
  3. ゾンビの注意をそらせよ。ゾンビは気が散りやすい。花火や閃光弾が役に立つ。
  4. ゾンビを振り切れ。ゾンビはぎこちない足取りで追ってくる。
  5. 説得するな。ゾンビはあなたの言うことを理解できない。
  6. ゾンビを模倣せよ。ゾンビは群れる。その中に紛れゾンビのようにふるまえ。

さて、ゾンビの脳神経科学よりもっと脳神経科学を勉強したいと言うなら専門書になりますが、信原幸弘他編「脳神経科リテラシー」(勁草書房)を勧めます。この本は理系だけでなく文系にも配慮され文理横断的に脳神経科学を取り扱っています。人間の脳の仕組みに興味のある方はどうぞ。

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