休日の本棚 クマのプーさんの哲学
おはようございます。
昨日の新規感染者は、全国で795人でこれまで最多であった4月11日の694人を超えて過去最多を更新しました。そのうち東京238人で、大阪は121人と過去最多を更新しました。大阪以外にも愛知64人、埼玉62人、福岡61人と過去最多を更新しています。そのほか神奈川68人、千葉40人、兵庫30人と全国的に急激に増加しているのが見て取れます。
大阪での急増に、医師は「東京と似た広がり方で危機的状況である」と指摘しています。これは大阪だけでなく、愛知や福岡でも同じではないかと思います。
政府・菅官房長官は、「緊急事態宣言を出す状況ではない」「医療体制はひっ迫していない」と楽観的な発表を繰り返していますが、政府の分科会の専門家らは、「今後も感染は拡大する」「今の段階で最も考えられる最悪の状況は、じわじわ言って、あっという間に衣料がひっ迫するのが意外に早く来てしまう可能性がある」とし、休業要請なども視野に早急に対策を打つよう提案しています。
日本医師会の中川会長は、「急増している感染者が激増すると、新型コロナウイルス感染症の医療崩壊だけでなく、通常衣料を含めた医療提供体制の崩壊につながる可能性が高い」として、「我慢の4連休にしてもらえないか。国民の皆様においては初心に帰って、県境を越えた移動や不要不急の外出を避けてほしい」と第2波を念頭に要望しました。
このような状況で、詳細が決まっていないのに前倒しで「GoToトラブル」を見切り発車させた政府の愚かさ加減に腹立たしさすら覚えます。
感染しない・感染させないためにこの4連休は自宅にこもります。
さて、今日は、J.T.ウイリアムズ著「クマのプーさんの哲学」(河出文庫)を紹介します。
「クマのプーさん」は子供向けの本ではなく、奥が深く限りなく広がる意味を持つ本で、現代の学問、批評、理論が与えてくれる様々な手法を使って解読すべき本だということです。この本は、「クマのプーさん」を引用しながら、古代ギリシアのプラトン、アリストテレスから、デカルト、スピノザ、ライプニッツといった合理主義者、ロック、ヒュームといったイギリス経験主義、見る、ラッセル、宇位とゲンシュタインといった後期経験主義、カント、ヘーゲル、ニーチェといったドイツ哲学、ハイデガー、サルトル、カミュといった実存主義と、哲学の流れを紹介しながら、クマのプーさんが人々が抱える問題や悩みを吹き飛ばす、愉快な哲学入門書となっています。
「クマのプーさん」を読んだことのない人にも(私もほとんど読んだことはありません)、面白く哲学を学べる本です。
「クマのプーさん」と言えば、「頭の悪いクマ」、愛すべき愚か者の代名詞ですが、そのプーが様々な思想や哲学に関係していると言われるようになったのは、最近のことではありません。フレデリック・C・クルーズの「ちんぷんかんプー」やベンジャミン・ホフの「タオのプーさん」などでもプーさんの思想や哲学が取り上げられています。
本書で著者ウイリアムズは、プーだけでなく、プーの世界に登場する仲間たちの言動に次々と哲学的意味を見出していきます。
例えば、プーがイーヨーにプレゼントするつもりのはちみつを途中で全部平らげ、空っぽの「つぼ」だけを渡すというシーンがあります。普通の読者なら、これを純真なクマの率直で愚かで愛らしい行為と受け取るはずです。しかし、ウイリアムズは、ここに3つの意味を持たせます。
1つ目は、地球球体説に至る第一段階である地球筒型説の教えです。プーほど発達した知能を持たないイーヨーには、地球球体説を教える前にまず筒型説を教えるべきだというのです。それには、筒形をしたつぼを渡すのが適当であるというわけです。ちなみに「はちみつ」は心理を表すものとされています。
2つ目は、この「つぼ」をプーが繰り返し「便利なつぼ」と言っていることから、ミルの功利主義に結び付け、更に「最大多数の最大幸福」にまで話を進めています。もし、プーがはちみつを食べるのを我慢していたら、プーは喜びを奪われたことになり、イーヨーにとっても喜びを与えられなかったというのです。プーがはちみつを食べたことによってプーを幸せになり、イーヨーも「つぼ」をもらって幸せになったというのです。
3つ目は、この「つぼ」のエピソードは韓との道徳律に対する批判にもなっていると言っています。カントは「同時に普遍的法則となることを君が欲することができるような格率、そうした格率だけに従って行動せよ」と言っています。「格率」というのはカントによって提唱された言葉で「自分の持つ行動規則」と定義されています。この格率の普遍化が可能であるならば自分は道徳的ということになります。ここでは、プーが大好物のはちみつを喜んでプレゼントしたからといってイーヨーが喜ぶとは限りません、つまり人にプレゼントする場合は普遍的な道徳法則に従うべきではないということになります。
このように、本書で、ウイリアムズは一つのエピソードに複数の哲学を見出しそれを面白くかつ真面目に説明しています。
更に、哲学を体現しているのはプーだけではありません。プー以外の登場人物(?)も哲学を体現しています。
イーヨーは、プーから「つぼ」だけをもらい、慰める仲間を尻目に「風船の残骸を入れたり出したりできる」と喜びます。イーヨーにはストア学派の伝統が現れていますし、ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」の全貌を解くカギにもなっています。コブタは道徳哲学への示唆に富んでいますし、フクロはほかのキャラクターにもみられるように、日常生活からかけ離れることを誇る学術的哲学という者への生きた風刺にもなっています。朝食を探し求めるトラーには高度に洗練された功利主義を唱えたミルの思想に見る二次的動機の重要性が現れています。
一種のこじつけではないかと思えるところもありますが、そこはウイリアムズの鋭い洞察力だと思って読めば、プーという偉大なる哲学者の世界に引き込まれすんなりと理解できます。
「クマのプーさん」を通して、哲学を理解するにはもってこいの本ではないでしょうか。