中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 武器になる思想

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おはようございます。

昨日の新規感染者数は全国981人と2日連続で過去最多を更新し、東京も366人と1日当たりの感染者数が初めて300人を超えました。東京の366人のうち、20代と30代が全体の約63%を占めていますが、40代と50代が約2割、60代が約1割と全世代に広がっています。また、感染経路不明者は225人で61%となっています。感染者は23区だけでなく多摩地区などにも広がりを見せているようです。大阪は104人と2日連続で100人を超え、78人が感染経路不明者です。そのほか、愛知で97人、福岡で66人、埼玉64人、滋賀17人、奈良13人、和歌山9人とこれらの地域でも過去最多となっています。また兵庫では35人と緊急事態宣言後最多となり2日連続で30人を超えました。これらを見ると全国的に市中感染が広がっていることは明らかで、もはや第2波の到来と言ってよいように思います。このままいけば、「GoToトラベル」によってさらに急激に感染者数が地方で増加する恐れがあります。

官房長官は、「(東京の)医療提供体制はひっ迫している状況ではない」と発言していますが、杏林大学医学部の山口教授は「国のリーダーが使っている『東京の医療がひっ迫していない』というのは誤り」であると明確に否定され、「『医療はひっ迫していない。だから遊びましょう。あるいは旅に出ましょう』ということが現場のこれだけ疲弊している医療者にどういう風に響くか、想像力を持っていただきたい」と痛烈に批判しています。感染者が急激に地方に広がれば東京のように医療体制が十分でない地方では完全に医療崩壊が起こります。目先のGoToトラベルに惑わされることなく、自主的に不要不急の外出を控え、「うつらない・うつさない」ために十分な対策をとりましょう。一人一人が注意するしかありません。

今日は、小林正弥著「武器になる思想 知の退行に抗う」(光文社新書)を紹介します。小林正弥氏は千葉大学大学院社会科学研究院教授で、専門は政治哲学・公共哲学・比較政治です。マイケル・サンデル教授のNHK「ハーバード白熱教室」で解説を務めたことでも有名です(興味がなく知らない人はサンデル教授ともども知らないでしょうが)。因みにサンデル教授は「これからの『正義』の話をしよう」(ハヤカワ文庫NF)が世界的にベストセラーになっています。

「人気取りのためにウソを語るリーダーと、分かりやすさしか求めない人々。ポピュリズムが世界を覆っている。歴史から明らかなように、このままでは民主主義は必ず衆愚化する。私たちはあきらめるしかないのか?どんな状況でもよりよく生きるために必要なのは、主体的に考えて判断するための知恵。その礎が思想である」のです。

日本の現状を見ると、自民党公明党の安倍政権が2012年から続き、国論を二分した安保法制やいわゆる共謀罪法、働き方法案などを次々と成立させました。他方、森友・加計問題や公文書改ざんなどの不祥事が次々と起こり、更には「桜を見る会」や新型コロナウイルス対策などから、国民の信頼は低下していますが、政権は継続しています。異例の長期政権になっている理由は選挙制度改革の影響もありますが、政権の思想も影響していると言っています。このような日本の政治を見て民主主義の危機を感じ、苦々しく思っている人がいる反面、逆に喝采して政権が目指す会見の実現を願っている人もいるのです。多くの人が安倍政権に批判的であるのに世論調査では40%近い支持率を集めているのです。近い将来(2021年9月末)にはこの政権も終わります。それでは次の政権はどうあるべきでしょうか。この問題を考えるために思想が重要です。新型コロナで先が見えず混沌として情勢が激しく動く時こそ、政治思想に注目することが重要です。世の中が安定しているときには、あえて思想まで変える必要はありませんが、新型コロナに対する政府の対応などを見て日本の政治に危機感を抱いたのなら、政治における哲学を見つめなおすことが必須となります。

この本は、質問に答える形で、様々な政治思想の中身、それらと現実の社会との関係について説明されています。一般の読者が関心を持ちそうな論点が多岐にわたって挙げられていますので、関心のある所だけ読んでもよいようになっています。本書の中身についてはあえてこれ以上深入りはしません。興味があれば各自で読んでください。

とはいえ、それでは面白みもありませんので、いくつか取り上げましょう。

  • 社会は良くならないが、政治家は詐欺師?・・・自分の利害しか考えていなかったり良識が欠けたりしている品位の低い政治家、中には詐欺師やうそつきのような人もいます。安倍政権下では閣僚や政治家のスキャンダル、更には逮捕者まで出ています。昔に比べ政治家の質の劣化は否定できないようですが、それは選挙制度の変化も影響しているとともに、そのような人物を選んだ有権者にも責任があります。
  • 官僚は何をやっている?・・・今の安倍政権下の森友・加計問題、公文書改ざんなどが起きるのは長期政権で政治家と高級官僚との間に深いつながりが出来たから(黒川検事長問題も)。もはや近代国家と言えず、政治行政の劣化が生じ前近代的な君主国の政治行政になっています。
  • 世界中、経済が最優先では?・・・発展途上国では経済優先、一定の経済成長が達成されると、価値観の変化により経済よりも大事な問題が現れ、生活の質、心の豊かさ、環境などを重視するライフポリティクスが重要になってきていました。しかし、リーマンショックによる市場の混乱、失業の増大などの経済問題が浮上し再び経済優先になっています。経済を最優先事項とする政治状況は相対的に安定した時代に現れていますが、現在はその基礎が崩れています。特に新型コロナ禍では経済最優先とはなりません。しかし、今、政府は感染防止対策よりも経済最優先にかじ取りしています。それが、今後どうなるかは分かりません。そのツケが国民に回ってこなければよいのですが。

本書の最初に、自分の思想を見極めるための質問が載っていますので、それを紹介します。

①あなたは「秩序」と「自由・平等」のどちらを重視しますか?

➁あなたは「自由」と「平等」のどちらを重視しますか?

③あなたは「伝統」と「変化」のどちらを重視しますか?

➃あなたは「自由」と「民意」のどちらを重視しますか?

⑤あなたは「自由」と「国家」のどちらを重視しますか?「国家」は必要ですか?必要ならどれくらい大事ですか?

⑥あなたは市場経済の「効率性」と経済的な「平等」のどちらを重視しますか?市場経済は今後も維持されるべきですか、根本的に変革すべきですか?変革するならどのような方法ですべきですか?

⑦あなたは性差、年齢、障害の有無などによる「能力差」と「平等」のどちらを重視しますか?これらによる差別はなくすべきですか、やむを得ないですか?

⑧あなたは「所有」の権利と「福祉」の権利のどちらを重視しますか?経済的な「格差」は当然ですか、是正すべきですか?

⑨あなたは憲法の「ルール」と「国益」のどちらを重視しますか?

⑩あなたは主権者としての「責任」と自分が好きなことをする「自由」のどちらを重視しますか?

⑪あなたは日本の伝統文化と他文化や少数派の文化の尊重とどちらを重視すべきだと思いますか?社会の成員は「純血」であるべきですか、「混血」も認めますか?

⑫あなたは「国益」と他国との「協調」のどちらを重視しますか?「軍拡」と「軍縮」のどちらを重視しますか?「核兵器」は必要ですか、不要ですか?そもそも「戦争」に備える軍備は必要ですか、不要ですか?

⑬あなたは「権利」と「義務・責任」のどちらを重視しますか?政治において何が正しいかを決める際に、生き方の問題や価値観・世界観を考慮してよいと思いますか、思いませんか?

それぞれの問いが政治思想と一対一で対応しているわけではありませんが、本書を読めば大まかにどの思想に対応しているかが分かるはずです。自分の位置が分かれば、政治に対して自覚的にかかわることができ、他人の意見や世の中の流れに流されることなく自分の頭で思考することが出来ます。

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