中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 戦略参謀

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1535人で2日連続で1500人を超えました。また東京472人、埼玉74人、千葉73人、奈良19人、長崎15人など過去最多を更新しました。大阪は195人、愛知181人、福岡121人、沖縄58人、兵庫32人と相変わらず高い水準にあります。沖縄では人口10万人当たりの感染者数は全国ワーストで看護師の確保が見通せない状況です。全国の病床使用率は約4割となり、ここ2週間で急激に増加しています。この状況が続けば、近い将来医療崩壊が現実味を帯びてきます。政府、地方自治体や分科会の見解と医療の現場に携わる人たちの認識には大きな乖離が見受けられます。医療の現場に携わる人たちに認識こそ真実に近いでしょう。こうした現場の声にもっと耳を傾けるべきです。

さて、2013年に放送された「半沢直樹」の第2作が7月からスタートしています。銀行員、経済小説のドラマ化としては、「倍返し」などの名言やキャラクターの芝居がかった口調などで堅苦しいイメージはなく、面白い作品です。前作は、主人公の半沢が、銀行員の覇権争いに巻き込まれながら組織内で自分を貫き通し出世をしていくという話です。このドラマの原作は、池井戸潤氏の「ロスジェネの逆襲」と「銀翼のイカロス」です。ドラマのネタバレになるので、この2作の紹介はやめておきます。

そこで、稲田将人著「戦略参謀 経営プロフェッショナルの教科書」(ダイヤモンド社)を紹介します。著者の稲田氏はマッキンゼーアンドカンパニーに入社し、大手電機企業、大手建設業、大手流通企業などの戦略策定や経営改革に携わった経営コンサルタントです。その経営コンサルタントの肩書を持つ稲田氏が、自己の経験に基づきリアリティを持たせて描いた企業改革小説です。中身の約8割が小説で、2割が経営戦略や企業改革の説明となっています。経済小説(経営小説)として読んでも面白く、経営戦略や企業改革を学ぶという意識で読んでも役に立ちます。

この小説の舞台は大手紳士服チェーン「しきがわ」、AOKIと青山を足して2で割ったようなイメージの企業です。稲田氏は紳士服の青木(現AOKI)の企業改革にも取り組まれた経験があることから紳士服チェーンが舞台に選ばれたのでしょう。

「しきがわ」の営業マン高山昇は、ある日、経営幹部の目の前で会社の給与制度を批判したことから、新設の経営企画室に飛ばされてしまいます。しかし、高山は、持ち前の正義感と行動力(「空気の読めなさ」)を武器に、室長の伊奈木とコンサルタントの安部野の支援を受けながら,改革の推進役として一歩ずつ成長していきます。創業者の息子四季川達志(2代目社長)や番頭役の阿久津剛次(社内ナンバー2)と対立しながらも愚直に改革に取り組む主人公高山の姿を通して、トップの参謀役である経営企画の仕事とは何か、企業改革の在り方をリアルに描いた小説です。

まず、本書では「経営企画」の仕事とは何かについて、次のように説明されています。

「企画というのは、目的を明確にし、現状を把握したうえで、そこから、目的達成のための意味合いを抽出し、成功のための仮説を立て、実行案を組み立てるという一連の動作のことだ」

「経営の意思としてやらなければいけないが、それを任せられる部門がない課題や仕事を請け負う、あるいは推進するのが、(経営企画室の)参謀機能と位置付けられるわけだ」

この本ではPDCAの重要性が随所で語られています。PDCAとは、もともとは品質を改善する方法として考え出されたものですが、着実に目標を達成し、仕事のやり方を継続的に改善していくには、計画(Plan)-実行(Do)-検証(Check)-改善(Action)のサイクルを回すことが求められます。PDCAは仕事の基本でありながら、うまく回らず同じ失敗を繰り返すことが往々にあります。それは、目標や計画があいまいであったり、最後まで実行されないとか、やりっぱなしで評価・検証しないとか、失敗や反省が次に生かされていないといったことから生じます。

「企業がずっと成長していくためには、新しいことに挑戦し続ける必要がある。そして、新しいことへの挑戦には常に失敗のリスクが付きまとう。しかし、PDCAを精度高く、高速に回すことが出来れば、素早い調整により、失敗の可能性は極小化できる。さらにいえば、あるレベル以上の人材を選んで新しいことに挑戦させた場合は、万一失敗ということになっても、その本人にとっては、ものすごく価値のある学習になっている」

また、経費削減と経費低減は違うということが語られています。多くの企業は、本来やるべき経費低減ではなく、経費の削り込み、経費削減をやっているというのです。つまり管理レベルが低い会社では、業務上の支障が出る経費まで無理に削減しているというわけです。

「企業の活動は、仕入れ費用と活動のための経費を有効に使うことによって、よりお客様に喜んでもらう製品やサービスを開発、提供して事業を発展させることです。そして、その効果を検証しながら、より良いものへの挑戦を行うことが基本です。経費低減活動は言い換えれば、理をもって経費を有効に使う能力を身につけていくということ」

また、人事機能の使命について「社内の方向性を合わせ、社員に前向きなエネルギーを発揮させること」といい、成果主義評価制度などの新しい人事制度の導入を行ったとしても、マネジメントのレベル向上なしには意味がないと言い切ります。

人、性善なれど、性怠惰なり」であることを踏まえ、「お天道様は見ています」と言う状態を創ることがマネジメントの大切な役割だと言っています。

企業が順調に成長するというのはまれで、その成長はS字曲線を描きます。いずれの企業においても経営不振の時期はあります。その時には「当たり前のことをきちんとやる」ことが大切だと言っています。起死回生の一発逆転ホームランはありません。基本に忠実にやることです。謙虚な気持ちで丁寧に事実を因果を押さえながら、精度高く、高速のPDCAを回すことです。不振時のうち手は、当期に効果が期待できる短期的なものと、本当の企業の強みをつけるある程度長期的なものの両方をバランスよく組み合わせることです。

企業の不振は「市場との乖離」から生じます。市場、お客様は、常によりよいもの、すなわち、よりお値打ちで利便性が高く、心地の良いサービスを求めて移動します。市場を冷静に、正確に分析・把握してみると、今のお客様が満足していないことが見えてきます。市場を正しく把握し、剛体企画・事業企画を行えば当たる確率は高くなります。

企業の活動は、「市場や世の中に、その事業活動が生み出す価値によって貢献し、永続的な発展を目指す」ことです。ところが、個人や一部の人にとっての利益を優先しようとする輩が出てくる可能性があります。その動きは企業が目指すべき方向性と必ずしも一致せず、企業の健全な活動を阻害することにもなりかねません。こうした「業」に立ち向かうためには、トップによるリーダーシップの発揮が大前提です。トップが事業の実態、組織運営の状況を多方面からリアルに把握する、あるいは健全な参謀などを機能させて、深く把握できる状況を作ると言うことが、改革推進には必須です。また、組織が動く「しくみ」をつくることも重要です。次に向けた改革を考え、実施していく習慣、改革文化づくりも重要です。体の免疫力が低下すれば弱い菌であっても活発に増殖します。企業でも同じです。企業内の「業」を押さえて、方向性を示し、社内の努力の方向性を統一させるのがトップマネジメントの役目なのです。

「上のリーダーシップが弱まった時、その下では人のエゴイズムが頭をもたげます。歴史を見ても、国のリーダーシップが失われたときに、国が荒れるのもこのためです」

「経営者に必要なのは、『煩悩』が生まれない、そして大きくならない、しっかりとした経営の意思決定ができる体制です。『人、性善なれど、性怠惰なり』です。事実を捏造した報告がまかり通ることがない体制を作る必要があります。つまり、社長がリーダーシップを発揮できる体制をしっかりつくることです」

「トップがやらなければならないことは、土俵づくりです。社長には、社員が力を最大限発揮できるようにするための土俵づくり、そして、そこでの価値観の徹底、ルールづくりなど、社長がリーダーシップを発揮し、社長を中心に会社が動く状況づくりを進めていただくことだと思います。『人、性善なれど、性怠惰なり』です。ツイ保身に走ってしまうのは、人の性というものです。それを全体最適に持っていくのがマネジメントの役割です」

参謀機能、つまり会社の経営企画室がやるべきことは、教科書的に列挙すると次の通りです。

1 営業企画

  • 事業方針の策定・・・商品構成や価格帯の方針。前年実績と直帰のトレンドを踏まえトップが承認する方針づくり。
  • 商品、営業系の精度が高く高速のPDCAづくりの推進

2 経営企画

  • 事業の正しいPDCAの回る状態づくり・・・ここに、精度が高くコミットメントレベルの高い計画づくり、執行状況の報告、確認の仕組みづくり
  • 業務効率化推進・・・BPR、経費管理など
  • 車内の課題管理

半沢直樹」や池井戸氏の小説に興味があれば、この本も小説として読んでも面白いと思います。

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