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休日の本棚 GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で985人、うち東京256人、大阪136人、神奈川101人、愛知69人、福岡68人と大都市を中心に感染は続いています。東京では感染経路不明者が160人で、感染経路が判明している96人中、職場内感染が36人に上っています。このうちの28人が同一の会社に勤務しており、その会社での感染者は全従業員の4割と大きなクラスターとなっています。そこはオフィスが比較的狭く密集状態で働くような職場環境だったようですが、多くの中小企業は何処も似たり寄ったりの状況だと思います。中小企業では難しいこととは思いますが、一部でもテレワークを導入して出社する社員に人数を減らし密にならないようにするとともにマスク・消毒・換気を徹底し、またデスクで飛沫が飛ばないようにパーテーションで仕切るなどの対策をとることで職場内感染はある程度防げるのではないかと思います。6月25日のブログ「職場内クラスター」で企業で職場内クラスターの発生を防止するために推奨される対策について書いていますので、また参考にしてください。

今日は、アダム・グラント著「GIVE&TAKE 『与える人』ほど成功する時代」(三笠書房)を紹介します。著者のアダム・グラント氏はペンシルバニア大学ウォートン校の史上最年少終身教授で、フォーチュン誌で「世界で最も優秀な40歳以下の教授40人」に選ばれた組織心理学者です。また。、本書は、以前にも何度か紹介しました一橋大学国際企業戦略研究科教授楠木建氏が監訳を務めています。

楠木氏は、本書の帯で「世の”凡百のビジネス書”とは一線を画す一冊!」と紹介し、フォーチュン誌の「読むべきベスト・ビジネス書」に選出され、アマゾンUSではリーダーシップ部門で第1位を獲得した本です。

この本のタイトルである「GIVE&TAKE」とはこの世の中を形成する当たり前の原理原則のように思えます。しかし、これからの時代にその常識ともいえる原理原則が通用するのか。これが著者の問題提起となっています。著者によれば人間には次の3つのタイプがあるのです。 

  1. ギバー=人に惜しみなく与える人
  2. イカー=真っ先に自分の利益を優先する人
  3. マッチャ―=損得のバランスを取る人

著者のグラント氏は鋭い視点で、このそれぞれの特徴と可能性を分析していきます。

「ギバー」といっても「ひたすら他者に与えるだけ」ではなく、「テイカー」も「人から取ろうとするだけ」ではありません。どのタイプも最終的にはタイトルにある徹「ギブ&テイク」に落ち着きます。いずれにしても、人はギブしたりテイクしたりしながら仕事をしています。要するに世の中は「ギブ&テイク」で成り立っています。しかし、「ギバー」と「テイカー」と「マッチャ―」では「ギブ&テイク」に至る道筋がまるで異なるのです。

例えば「テイカー」であったとしてもギブすることも少なくありません。しかし、テイカーは自分中心で物事を考え自分の利益を得る手段として、相手にギブするのです。つまり、テイクという目的を達成する手段として有効だと考えればギブするのです。これに対し、「ギバー」は、相手のことを考え真っ先に相手に与えるだけです。ギバーの頭の中にはテイクの文字は全くありません。結果として、相手からの見返りとしてテイクが生まれるのです。「人間関係の損得は五分五分であるべきだ」と考えるのが「マッチャー」です。自分と相手の利益・不利益をその都度バランスし、ギブとテイクの帳尻合わせをするのです。

本書では、膨大の実証研究によって骨太の論理が展開されています。単なる何の根拠やエビデンスのない自己啓発本とは異なるところです。また、定量的なデータ分析に基づいた事実だけでなく、リアリティ溢れるビジネスの現場の事例が多く出てきて面白いです。こうした具体例が論理に説得力をもたらすとともに、ビジネスマンにとって役に立つ内容になっています。

著者は、「ギバーこそが成功する」という論理を展開していきます。しかし、著者の実証研究では、平均的なパーフォーマンスはギバーが最も高い反面、最も低いのもギバーだったのです。「ギバーこそが成功する」というためにはある条件が必要だということです。しかし、残念ながら「こうすればギバーになれる」というものはありません。先ほども書きましたが、ギバーは相手からの見返りを期待して行動するわけではありませんし、見返りがあるのかないのか、いつ返ってくるのかもわかりません。「与える人が成功する」には時間がかかるのです。時間に鷹揚な人でないとギバーにはなれないのです。「ギバーであることは100メートル走では役に立たないが、マラソンでは大いに役に立つ」という言葉を引用しています。

また、テイカーやマッチャ―は損得勘定で自分が相手にしたことを記録するわけですが、ギバーは人間関係の繋がりを重視しギバーに助けてもらった人の記憶に克明に残るのです。その意味でギバーは「記録」よりも「記憶」を重視します。

ではどうすればギバーになれるのでしょうか? 先ほど、「こうすればギバーになれる」というものはないと書きましたが、ただ1点「がんばるな」というだけです。多くの自己啓発書では、「これまでの行いを悔い改めろ」「これからはこうしろ」というのですが、本書では「がんばる必要はない」というのです。ギバーというのは本来人間が持っている本性です。人間が持っている本性を正面から見据えれば自然とあるべきギバーの姿に戻っていくというのです。

成功しているギバーは、4つの重要な分野で独自のコミュニケーション法を用いているとしています。

  1. 人脈づくり・・・新しく知り合った人々と関係を培い、以前から付き合いのある人との結びつきを強めるためのアプローチ ここで重要なのは。強いつながりは「絆」を生み出すが弱いつながりは「橋渡し」として役立つということ。
  2. 協力・・・同僚と協力して業績を上げ、彼らの尊敬を得られるような働き方 頼り合うことは弱さではなく強さの源であり、多くの人のスキルをより大きな利益なために活用する手段だ。
  3. 人に対する評価・・・才能を見極めてそれを伸ばし、最高の結果を引き出すための実用的なテクニック 自分こそが一番賢い人間になろうとするのではなく、たとえ自分の信念が脅かされようと他人の専門知識を柔軟に受け入れる。
  4. 影響力・・・相手に自分のアイデアや関心事を支持してもらえるようなプレゼン、販売、説得、交渉をするための斬新な手法 自分の弱点を晒すことを恐れない。重要なのは質問力。

また、テイカーの見分け方が紹介されています。これはなかなか面白いです。

  • イカーは自分のことで頭がいっぱいなので、三人称(私たち)より一人称(私)を使うことが多い
  • イカーは自分は優れた人間とみなしているので、給料が大幅に違うのは当たり前と思っている
  • イカーが経営する会社の年次報告書は経営者(テイカー)の写真が大判である(自己顕示欲の表れ)
  • イカーのSNSのプロフィールについてプロフィール写真は露出度が高く慎み深さに欠け、投稿している情報は押しつけがましく、自己中心的でもったいぶっている

また、テイカーとの付き合い方が紹介されています。それによれば、テイカーと付き合うにはマッチャーになればよいというのですが、それでも相手がテイカーとして行動してきた時には、ギバー、マッチャー、テイカーを使い分け、ぴったりの戦略をとるのが得策だと言っています。最初は協力的な態度に出て、相手が張り合ってこない限りはそのままの態度を維持するのです。相手が張り合ってきたとしても、常に同じように張り合ってはいけません。3回に2回は張り合うが、3回に1回は協力的な態度で応じるのです。これこそが他者志向の戦略です。つまり「テイカーを相手にするときは、自衛のためにマッチャーになるのがよい、但し、3回に1回はギバーに戻ってテイカーに名誉挽回のチャンスを与える」というわけです。

多くの人は「他者に利益を渡す」ということは「自分の利益がなくなる」と考えがちです。しかし、「自己利益」「他者利益」とは両極にあるものではなく、「他者に利益をもたらすためには自己犠牲は必要ない」のです。成功するギバーは「自己犠牲」ではなく「他者志向性」をもっているのです。例えばチームで仕事をするとき、自分の取り分を心配するのではなく、みんなの幸せのために高い成果を出す、そこに目標を設定すれば、チーム全体の利益が上がりひいては自分の利益につながるというわけです。

最初に「ギバー」には二極化した成功するパフォーマンスの高いギバーとパフォーマンスが低いギバーがいると言いました。パフォーマンスの低いギバーは「自己犠牲タイプのギバー」です。「病的なまでに他人に尽くすあまり自分自身のニーズを損なう」のです。自分を犠牲にして与えてばかりいればすぐにボロボロになってしまいます。「他人志向」になるということは、受け取るより多くを与えても、決して自分の利益を見失わず、それを指針に「いつ、どこで、どのように、誰に」与えるかを決めることなのです。そのためには他者への関心に自分への関心を結び付けることが出来ればよいのです。他人のことだけでなく自分のことも思いやりながら、他者志向的に与えれば、心身の健康を犠牲にすることはなくなります。また、サポートネットワークを築いて助けが必要な時に頼るということも重要です。特に自己犠牲タイプのギバーは与えすぎたことよりも与えたことでもたらされた影響を前向きに認めてもらえていないことが原因で燃え尽きてしまいます。周囲からのサポートを受けることこそが、燃え尽き防止の強力な特効薬となるのです。

最後に、次のように言っています。

「人と人とが密接に結びついた世界では、チームワーク、サービス業、ソーシャルメディアといったことがますます重要になっていくにしたがって、ギバーが人間関係や個人の評判を築き、成功を拡大させるチャンスが広がっているのだ。・・・ギバーは成功を、他人に峰ラスの影響をもたらす個人的なものと考えるのだ。この成功の定義は、働く人の雇用スタイル、評価、報酬、昇進のやり方を根本から変えてしまう。個々の従業員の生産性だけでなく、この生産性が周囲の人々に与える影響にも注意を払わなければならないということだ。成功のイメージが『個人の業績+他人への貢献度』で成り立つとすれば、職場でもギバーになる人が増えるかもしれない。テイカーもマッチャーも、個人と共同体両方の利益を高めるため、他者を思いやらざるを得ないだろう」

私も「他者志向」で成功するギバーになるように努力したいと思います。仕事と人生の両面で役に立つ良い本だと思います。 

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