中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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トヨタの危機管理

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で551人、そのうち東京163人、神奈川101人、大阪78人などとなっています。愛知、福岡、沖縄など一時感染者数が多かった地域は少しずつ下火になってきていますが、相変わらず、東京、神奈川、大阪は高い状態で下げ止まっています。このままの状況で、GoTo トラブルの東京解禁、GoToイーツのスタートは再び感染拡大を引き起こすのではないかと懸念します。

さて、菅新内閣が発足しました。布陣を見ると安倍内閣時よりは少しマシで、実行型の人材配置になっているように思いますが、昨日書いたように「老害」と言われないように国民のためにしっかりと仕事をして行動力を示してもらいたいものです。今朝の新聞に菅新内閣を評して「安倍首相のいない安倍内閣」「ちょこっとだけ回転寿司内閣」と揶揄されていましたが、うまい表現で言い得て妙です。

安倍前首相の突然の辞任発表に伴う退陣で火中の栗を拾った菅首相ですが、コロナ禍という国難の中課題は山積みです。安倍内閣時にはナンバー2として安倍政権を下支えしてきましたが、総理大臣は官房長官とは重みが違います。菅首相の外交手腕も未知数です。菅首相は、「アベノミクスを継承する」と言っています。「アベノミクス」はまさしく「アホノミクス」です。このようなものを継承すべきではありません。アベノミクスとの決別こそが最大・最高の選択枝です。自ら「国民のための内閣を作る」と言われたので、その言葉通り私利私欲に走らず、利他の精神で国難に立ち向かってもらいたいものです。たとえ「火中の栗」が「貧乏くじ」になったとしても国民のために誠心誠意命を懸けたのであれば評価されます。7年以上も首相の座にあって評価されないよりはマシです。

さて、がらっと話は変わり、今日はプレジデント・オンラインの「トヨタがコロナ危機のとき『役員向けの報告書』を現場に禁止した理由」を取り上げます。

新型コロナウイルスの影響で危機にある自動車業界の中で、トヨタは直近四半期決算で黒字を計上しています。何故、トヨタは、コロナ禍という危機的状況でもびくともしないのか、この点について触れているのがこの記事です。

トヨタ本社に事務3号館と呼ばれる建物があります。1階にある大部屋には机、事務用品、地図とホワイトボード、TY会議システムがあるだけです。この場所こそが、新型コロナ危機対応の対策本部です。この危機対策本部には生産・物流だけでは対応できない課題も多く、調達、総務、人事の本部長、担当者らもTV会議で参加しています。

この記事では、タランティーノ監督の「パルプ・フィクション」に出てくる名優、ハーベイ・カイテル演じる危機管理のプロ「ザ・ウルフ」が取り上げられています。「ザ・ウルフ」は、ジョン・トラボルタ扮する主人公とその相棒が死体の処理に困っているとタキシード姿で現れ、二人の話を聞き、状況を把握して瞬時に適格な指示を出し、「急いでいるから」と言ってホンダのスポーツカーNSXに乗って走り去ってしまいます。ザ・ウルフは危機における情報の把握が速く、ソリューションの指示が的を得て、かつ絶対に慌てることがないのです。これこそが危機管理に必要なことだというのです。

この記事では、「危機管理におけるリーダーの仕事を知りたければ、本を読みよりも『パルプ・フィクション』を見て、ザ・ウルフの仕事のやり方と態度を学んだ方がいい」とまで言っています。

トヨタの危機管理対策本部の責任者が、まさにこの「ザ・ウルフ」なのです。ここは、主に生産・物流現場の対策本部なので、主な議題は工場の生産状況と部品の供給、サプライチェーンの保持についてです。自動車部品の数は約3万点と言われ、そのうち3割は内製品、残りの7割が協力会社の製品です。トヨタの工場が稼働していても協力会社の生産がストップすれば車を製造することはできません。対策本部の目的は「いかにして部品3万点の欠品を防ぐか」ということに尽きます。生産部門と調達部門がサプライチェーンのマップをもとにして、生産できない部品を特定し、代替生産の計画を立て、トヨタの組立工場までの物流ルートを確立するというのが目的です。

トヨタには、阪神淡路大震災リーマンショックといった危機を経験し、何度も危機対応に従事してきたメンバー達がいます。彼らは、危機的状況で何を為すべきか、を熟知していて、何が起こってもパニックにならず事態を把握し冷静に分析し的確に処理をしていきます。危機的状況の中で力を発揮するのは、場数であり過去の経験・体験です。その彼らの頂点にいるのが危機対応本部の責任者です。危機対応はこの責任者に全権委任されていて、必要に応じて社長に事後報告するということになっています。

対策本部がやることは2つだけだというのです。

1つ目は、危機に直面している現地へ先遣隊を派遣することです。多くの企業では、現地の協力企業からの報告だけで情報の入手が終わるところ、トヨタでは自社のプロを派遣して改めて情報を取得するのです。先遣隊がプロの目で見て、復旧の判断をするのです。そして一番重要なのは「むやみに生産を再開させるな」ということだそうです。普通ならば早期に生産を再開させようとするはずですが、トヨタではまず1番は協力会社の従業員、家族、周辺の人々の安全確保、次が生活の復旧、最後に生産の復旧という順番です。先遣隊は24時間以内に第一報を入れます。そこでは物と情報の流れ図(トヨタ生産方式の改善に使うフローチャート)をつけることになっています。これを見れば、工場のどこが壊れていてどこがネックになっているかがひと目でわかるからです。先遣隊が伝えてくるのは現場の情報だけではなく、復旧に必要な物資も本部に伝えてきます。

「危機管理は問題を解決することだけではなく、現地に行った先遣隊、支援部隊が新たな問題を見つけなければならない」というのがトヨタのルールのようです。今ある問題を解決するだけでなく、新たな問題点を把握することによって今後の危機管理に生かせることが出来るのです。こうした体験・経験の蓄積がトヨタが危機的状況にあっても強みを発揮できる要因の一つのように思います。「問題がない」と言う考え方が「一番の問題」なのです。たとえ何も問題がなくても、そこからなにがしかの問題点を把握して将来につなげることが重要です。危機を通して、われわれ自身が危機に対応する能力をプラッシュアップしていかなければならないのです。そのために絶えず問題を見つけてこなくてはならないのです。問題がないところから問題を見つけてこなければならないのですから至難の業だと思います。しかし、トヨタではそれを成し遂げるからこそ危機管理のプロ、「ザ・ウルフ」と言っていい人材が育つのです。問題を見つけるために何が必要か、それには「目的と当事者意識を持って現場を見つめること」が重要なのです。

先遣隊をやった後にやるべき2つ目は、壁に貼った大きな地図に問題点を書いた情報をペタペタと貼っていくことです。サプライチェーンマップを参考に、部品が途切れた会社、途切れそうな会社の情報を張り付けるのです。書いてあるのは会社名、会社概要、製品名などです。地図さえ見れば、どの会社のどの部品が途切れたかが一目瞭然で分かります。貼り付けられた情報を見た担当者がすぐに手当てを行うのです。対象の会社と話し合い、代替するところへ発注する、あるいはすぐに支援隊を送るというわけです。そして、解決したらホワイトボードに結果を書くのです。解決情報を書くのはあくまでもホワイトボードなのです。パソコンは記録をまとめるだけに使うのです。パソコンに経過や解決策を記載していたら膨大な記述になってしまい、スクロールしないと読めなくなってしまいます。ホワイトボードであれば解決して時間が経ったものは順次外していけばいいのです。そうすることによって、新鮮な情報がひと目でわかります。

また、トヨタでは、大部屋で進んでいる危機管理、対応についていちいち報告書を作成して役員に上げることをしません。その理由は、「危機管理は一刻一秒を争う。担当者は問題を解決することに集中する」必要があるからです。役員はもちろん社長も危機対応が知りたければ自ら大部屋に足を運び、壁管理とホワイトボードを見て自分で確認しなければなりません。

このようなトヨタ方方式を実践できる企業が他にあるでしょうか。トヨタだからできたことと言うのは簡単ですが、危機管理にどのように対処するかはよく分かります。トヨタのやり方や態度を頭において自社での危機管理のやり方や態度を考え直してみることは有益かもしれません。