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ハンコ廃止・電子印鑑

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で485人、そのうち東京144人、神奈川65人、埼玉35人、愛知49人、大阪48人、沖縄20人、北海道19人、広島16人などとなっています。政府分科会の尾身会長が言うように「下止まり」している感はありますが、沖縄では2日連続で20人を超え、北海道、広島、埼玉では飲食店などでクラスターが発生し感染者数は増えています。まだまだ注意が必要ですし、今週末には4連休の感染状況が判明すると思われるのでその結果が心配です。

9月24日、河野行革相は、すべての中央省庁に対し、押印についての見直しを要請しました。行政手続きで「押しましたというだけのハンコはいらない」ということで、小泉環境相を始め各大臣が賛同しています。また、河野行革相は、26日にはハンコの次にファックスも廃止する考えを示しました。

テレワークの中で紙にハンコを押すためだけの出社が問題となりましたが、ハンコの廃止やファックスの廃止に伴うペーパーレス化はコロナ禍・ウイズコロナでの働き方改革として重要です。以前にもハンコ文化やペーパーレスについて書きましたが、また触れておきたいと思います。

企業が作成し事業者間で取り交わす書類には、請求書、見積書、発注書、契約書など様々なものがありますが、これらの書類に印鑑の押印は必要不可欠でしょうか?

ハンコがなければ書面の法的効力が認められないというものもありますが、そのような書類は公的機関に提出する書類に限られています。民間企業間や個人間で取り交わす書面の多くは、ハンコがなくても無効となることはありません。

ではなぜこうした書類にハンコが押されるのでしょうか? 取引を円滑に進めるための社会慣習・商慣習にしかすぎません。ハンコが押印されていることによって有効に成立しているとの意思確認がスムーズになされるということです。

契約書を例にとって説明します。契約というのは、「当事者間の意思表示が合致することで成立する法律行為」で、お互いが合意することで片方又は双方が権利や義務を負うものです。この契約の成立には書面の作成も必要ではなく口頭だけでも有効に成立します。契約において「契約自由の原則」というのがあります。これは、①締結の自由=契約を締結するかしないかの自由 ②相手方選択の自由=誰と契約するかの自由 ③内容決定の自由=契約内容を当事者間で自由に決定できる ④方式の自由=特定の方式を必要としない の4つで成り立っています。このうちの④方式の自由から、方式に制限はなく口頭でもよいということになるのです(民法522条 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない)。ただ、口頭で成立しただけならば、争いになった場合に契約内容を証明することが困難なために書面にされるのです。書面にハンコが押されていなければ、あとで誰でもが作成できる(偽造できる)こととなり、ハンコのない書面は事実を証明する証拠としては弱くなります。ハンコがあればお互いの意思が合致し有効に成立したから押印されたのだと契約成立という事実の証明力が高まります。その前提となるのは、「ハンコは自分で大切に保管される」という社会常識・慣例があるからです。裁判の話をすれば、ハンコが押印されているなら一応有効に成立しているとの推定が働き(民訴法223条4項 私文書は本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する)、これを覆そうとする(偽造されたと主張する)側が反証を上げなければならないのです。

このように見ますと、社外との法的効力を伴う書面については、互いに押印するということがトラブル防止やトラブル発生時の「保険」として意味があることになります。それに対して、特に社内文書については、文書の重要度にもよりますがあえてハンコは必要ないように思えます。社内ルールとして、ハンコが必要な書面と不必要な書面を明確に区別することでハンコを押印する手間や押印の為だけの出社というロスを排除できます。

ハンコを廃止するという中で、ハンコの意義を認めることとも関連し、電子印鑑が注目を浴びています。これは、ハンコの印影をスキャンして、パソコン上の契約書等に貼り付けて電子ファイル形式でメール送信するものです。しかし、電子印鑑自体は認印と同じ効力しかありません。むしろ印影をスキャンして貼り付けただけなので偽造されやすくなります。しかし、お互いのメールのやり取りも保管することで信用度を高めることが出来ます。自社の印影がスキャンされるリスクを考えると文字に懸かるように押すことでスキャンしにくくできます。

インターネットにおいては、紙ではなく電子上の話で直接ハンコを押したりサインすることはできません。インターネットの世界では、正しいIDとパスワードが入力されれば本人と認識されますから、IDとパスワードを盗まれた場合本人に成りすますことが出来ます。インターネットでは本人確認に問題があることから、2013年4月1日に「電子署名・認証業務に関する法律」が施行されました。

これにより、電子署名は手書き署名や押印に代わる真正な成立を証明する電子手段となり、しかるべき認証業務を行う機関が発行したデジタル証明書を使ったデジタル署名を文書にほどこすことで本人の意思により電子文書が作成されたとみなされるようになりました。電子証明書が施された文書は紙文書の「実印」と同様の効力を発揮するということです。

すべての印鑑を廃止するというのは困難ですが、社内ルールを決めて、先ずは社内文書のハンコ廃止から進めていきましょう。社外文書については相手があることですから、お互い合意が出来たものから電子印鑑に切り替え、さらに電子証明書を利用するなど段階的に取り組んだらよいでしょう。