中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 論語と算盤

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で542人、そのうち東京196人、神奈川66人、大阪50人、千葉34人、埼玉30人、兵庫29人、沖縄25人、愛知19人、北海道15人などとなっています。

アメリカではトランプ大統領夫妻が新型コロナウイルスに感染しました。トランプ大統領は、これまで「感染を心配していない」「対策は万全」などと豪語してきましたが、マスク着用を軽視し、トランプ大統領に感染させたと思われる側近のホープ・ヒックス元広報部長もマスクを着けずにトランプ大統領に同行していました。他にもロバート・オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官やペンス副大統領の報道官らの感染も確認されています。ホワイトハウス内の危機管理の甘さが露呈された形となっています。奇しくもトランプ大統領の感染で、マスク着用などの基本的な生活様式の重要性が再確認できました。3密を避け、マスク、手洗いなどの新たな生活様式を守っていけば新型コロナは徐々に収束に向かうはずです。GoToトラベル、GoToいーつ、GoToイベントで経済の活性化が図られていますが、気を引き締めて新たな生活様式を守りながら楽しんでいきましょう。

さて、先週の休日には、「諸葛孔明の兵法」、「論語」を紹介しました。その流れで、今日は、渋沢栄一著「論語と算盤」(角川文庫)を紹介します。

渋沢栄一は、1840年に埼玉に生まれ、明治政府では大蔵少輔事務取扱となり井上馨大蔵大輔の下で財政政策を行いました。明治六年(1873年)に大蔵省の総務局長を辞職後は実業家に転じ、第一国立銀行理化学研究所東京証券取引所といった多種多様な企業の設立・経営、更には商法講習所(現・一橋大学)や大倉商業学校(現・東京経済大学)の設立にも携わり、「日本資本主義の父」と呼ばれています。2026年の新一万円紙幣の顔となることが決まり、来年にはNHK大河ドラマ「晴天を衝け」が放送される予定です。因みに主人公渋沢栄一を演ずるのは吉沢亮さんです。

渋沢栄一は、武蔵国の血洗島村の豪農の家に生まれたのち武士となり、尊皇派志士から徳川慶喜の家臣・幕臣となり、慶喜の異母弟徳川昭武随行しパリに留学、帰国後明治政府の要職に就きます。そして大蔵省退官後は実業家として活躍するという波乱万丈の人生は大河ドラマにぴったりです。渋沢栄一を主人公にした小説も、城山三郎著「雄気堂々 上・下」(新潮文庫)、津本陽著「小説渋沢栄一」(幻冬舎文庫)などがあります。

論語と算盤」は1916年に書かれました。

この「論語と算盤」は、渋沢栄一が信念とする「道徳経済合一」説に基づくものです。幼少期に学んだ「論語」を中心とする儒教的な考えを拠り所として、倫理・道徳と利益(渋沢の言葉では「利殖」)を結び付け、経済を発展させながらも利益を独占するのではなく、国全体を豊かにするために富は全体で共有するものとして社会に還元するという考え方です。渋沢が育った江戸末期、道徳教育を受けていたのは武士階級で、商業界では収益だけが目的の拝金主義になっていました。道徳なき商業における拝金主義と武士層の空理空論の道徳主義を結び付け、道徳に基づいた商業を打ち立てようとしたのです。渋沢は、教育についても言及し、知育と徳育の重要性を語っています。徳育によって、拝金主義や利己主義を排除して商業の公共性や社会性を身につけることが出来ると考えたのです。こうしたところからも、渋沢が社会貢献に力を入れていた理由が分かります。

ここからは、「論語と算盤」で語られる渋沢の考えをピックアップしていきます。

  • ただ空理に趨り虚栄に赴く国民は、決して真理の発達をなすものではない。ゆえに自分等はなるべく政治界、軍事界などがただ跋扈せずに、実業界がなるべく力を張るように希望する。これはすなわち物を増殖する務めである。これが完全でなければ国の富はなさぬ。その富をなす根源は何かといえば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。ここにおいて論語と算盤というかけ離れたものを一致せしめることが、今日の緊要の務めと自分は考えているのである。…ここに「道徳経済合一説」の考えが明確に表れています。
  • 昔、菅原道真は和魂漢才ということを言った。これは面白いことと思う。これに対して私は常に士魂商才ということを唱道するのである。(中略)人間の世の中に立つには、武士的精神の必要であることは無論であるが、しかし、武士的精神のみに偏して商才というものがなければ、経済の上から自滅を招くことになる。ゆえに士魂にして商才がなければならぬ。(中略)やはり論語は最も士魂要請の根底となるものと思う。(中略)商才も論語において充分養えるものである。(中略)その商才というものも、もともと道徳をもって根底としたもので、道徳と離れた不道徳、欺瞞、浮華、軽佻の商才は、いわゆる小才子、小利口であって、決して真の商才ではない。…ここでも「道徳経済合一説」が語られその根底に「論語」の重要性が述べられています。
  • 論語にはおのれを修め人に交わる日々の教えが説いてある。論語は最も血管の少ない教訓であるが、個の論語で商売はできまいかと考えた。そして私は論語の教訓に従って商売し、利殖を図ることができると考えた。
  • 人が世の中に処していくのには、形勢を観望して気長に時期の到来を待つということも、決して忘れてはならぬ心がけである。
  • 私は蟹は甲羅に似せて穴を掘るという主義で、渋沢ノブを守るということをこころがけておる。(中略)私の主義は誠意誠心、何事も誠をもって律すると言うより外、何物もないのである。
  • 得意時代だからとて気を緩さず、失意の時だからとて落胆せず、情操をもって道理を踏み通すように心がけて出ることが肝要である。(中略)しかしながら、得意時代と失意時代とにかかわらず、常に大事と小事とについての心掛けをち密にせぬと、思わざる過失に陥りやすいことを忘れてはならぬ。
  • 与えられた仕事にその時の全生命をかけて真面目にやり得ぬ者は、いわゆる功名利達の運を開くことはできない。
  • 自己の立場と他人の立場とを、相対的に見ることを忘れてはならぬ。
  • 正義を断行する勇気は如何にして養うかと言えば、平生より注意して、まず肉体上の鍛錬をせねばならぬ。(中略)勇気の修養には、肉体上の修養とともに、内省的の修養に注意せねばならぬ。
  • およそ世事に処するに方っては、一身を立つると同時に社会のことに勤め、能う限り善事を殖やし、世の進歩を図りたいとの意念を抱持している。
  • 人が完全に役に立ち、公にも私にも、必要にしていわゆる真才真智というのは、多くは常識の発達にあるといっても誤りではない。
  • 人の行為の善悪を判断するには、よくその志と所作の分量性質を参酌して考えねばならぬ。
  • 忠と孝とこの二者より組み立てたる意志をもって、何事も順序良く進ませるようにし、また何事によらず、沈思黙考して決断するならば、意思の鍛錬において間然する所はないと信ずる。
  • 真正の利殖は仁義道徳に基づかなければ永続するものではない。
  • 孔子の言わんと欲する所は、道理を有た富貴でなければ、むしろ貧賤の方がよいが、もし正しい道理を踏んで得たる富貴ならば、あえて差し支えないとの意である。
  • 富の度を増せば増すほど、社会の助力を得ているわけだからこの恩恵に酬ゆるに、救済事業をもってするがごときは、むしろ当然の義務で、できる限り社会のために助力しなければならぬ筈と思う。
  • 富を造るという一面には、常に社会的恩義あるを思い、徳義上の義務として社会に尽くすことを忘れてはならぬ。
  • 商業の徳義はどうしても立て通すようにして、最も重要なるは信である。
  • 古聖賢の説いた道徳というものは、科学の進歩によって事物の変化する如くに、変化すべきものではなかろうと思うのである。
  • われわれは飽くまでも、おのれの欲せざる所は人にも施さずして、東洋流の道徳を進め、弥増しに平和を継続して、各国の幸福を進めていきたいと思う。
  • 生産利殖は必ず仁義道徳によらなければならぬ。
  • 利殖と仁義の道とは一致するものであることを知らせたい。私は論語と十露盤とを持って指導しているつもりである。
  • 真に人を評論せんとならば、その富貴功名に属する、いわゆる成敗(成功と失敗)を第二に置き、よくその人の世に尽くしたる精神と効果によって、すべきものである。
  • 修養ということは広い意味であって、精神も智識も身体も行状も向上するように錬磨することで、青年も老人も等しく修めねばならぬ。かくて息むことなければ、遂には聖人の域に達することができるのである。
  • 忠信孝悌の道を重んずることをもって、大なる権威ある人格養成法だと信じている。(中略)高尚なる人格をもって正義聖正道を行い、しかる後に得た所の富、地位でなければ、完全な成功とはいわれないのである。
  • 商工業などについての競争上の道徳という者があったら、前来繰り返せし通り、善意競争と悪意競争、妨害的に人の利益を奪うという競争であれば、これを悪意の競争というのである。叱らずして品物を精選した上にも精選して、他の利益範囲に食い込むようなことはしない。これは善意の競争である。つまりこれらの分界は、何人でも自己の良心に徴して判明し得ることと思う。
  • 武士道は移して以て、実業道とするがよい。日本人は飽くまで大和魂の権化たる武士道を持って立たねばならぬ。
  • 商業道徳の骨髄にして、国家的、むしろ世界的に直接至大の影響ある、信の威力を闡揚し、わが商業家のすべてをして、信は万事の本にして、一信よく万事に敵するの力あることを理解せしめ、以て経済界の根幹を堅固にするは、緊要中の緊要事である。
  • 青年は良師に接して、自己の品性を陶冶しなければならない。(中略)昔は読む書籍そのものが、悉く精神修養を説いているから、自然とこれを実践するようになったのである。修身斉家と言い、治国平天下と言い、人道の大義を教えたものである。
  • 孝の大本は何事にも強いて無理をせず、自然のままに任せたるところにある。
  • 人生の運というものは・・・自ら努力して運なるものを買いたくせねば、決してこれを把持するということは不可能である。
  • 忠恕はすなわち人の歩むべき道にして立身の基礎、つまりはその人の幸運を把持することになるのである。
  • 成敗(成功と失敗)に関する是非善悪を論ずるよりも、まず誠実に努力すれば、公平無私なる天は、必ずその人に福し、運命を開拓するように仕向けてくれるのである。(中略)苟も事の成敗以外に超然として立ち、道理に則って一身を終始するならば、成功失敗のごときは愚か、それ以上に価値ある生涯を送ることができるのである。

この「論語と算盤」は経営者や起業家向けに書かれた書物ではありますが、ある意味人生論でもあり、人間論でもあって、すべての人に役に立つ本です。一読と言わず、何度も読むことをお勧めできる本です。

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