中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

最高裁判決は「非正規を見捨てた判決」か?

f:id:business-doctor-28:20201014082400j:plain

おはようございます。昨日の新規感染者は全国で501人で、そのうち東京166人、神奈川54人、埼玉31人、千葉24人、大阪69人、北海道20人などとなっています。相変わらず、首都圏及び大阪の多さが目立ちます。これによって、国内の感染者はダイヤモンド・プリンセス号の乗船者を除き9万人を超えたとのことですが、諸外国に比べればまだ少ない数字に留まっています。

10月5日、WHO(世界保健機構)の理事会で、緊急対応責任者から「世界人口の10分の1が新型コロナに感染している」という衝撃的な発言がありました。WHOが公表している全世界の感染者数は、約3500万人ですが、全世界の人口の10人に1人が感染しているとすれば約7億8000万人が感染していることになり、20倍以上の差があります。明確な根拠が示されておらず、話の信憑性については疑問ですが、今後も多くの人に感染リスクがあることは明らかで、日本だけが収束するということもなさそうです。日本政府は海外からの入国も海外渡航も緩和する方向でますが、段階的かつ慎重に行わなければならないと思います。今後も長期間にわたってこのウイルスと付き合っていかなければならないことはを肝に銘じて、気を緩めることなく、緩やかな収束に向け新たな生活様式を続けていきましょう。

さて、今日は、昨日出された最高裁判決について取り上げます。

昨日、最高裁判所は、正社員と非正規社員の待遇格差をめぐる裁判で2件の判決(大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件)を出しました。これらは、原告側が正社員と同じ仕事をしているのに賞与や退職金がないのはおかしいと訴えたものですが、最高裁判所はいずれも「不合理とまでは評価できない」と一部の支給を認めた高裁判決を変更しました。

この判決について「非正規を見捨てた判決である」「経営側に配慮した判決だ」と批判的な論調がありますが、おおむね妥当な判決と思います。万が一、一部退職金の支給を認める判決が出れば、退職金請求の時効は5年なので企業は非正規社員にさかのぼって退職金を支給しなければならず、また訴訟ラッシュが起こることにもなりかねませんでした。そうなれば実務は混乱に、中には退職金の支払いができず倒産する企業も出てきたかもしれません。何とかそれらが避けられ、企業や実務が混乱に陥ることはなくなりました。

この裁判では多くの論点がありましたが、賞与(ボーナス)と退職金について説明します。

この裁判の論点は簡単に言えば、旧労働契約法第20条(現パート・有期法第8条)の解釈です。旧労働契約法第20条は「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めのあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合において、当該労働条件の相違は、労働者の職務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この上において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはいけない」と規定しています。これは、同一労働同一賃金について規定されたものです。

この最高裁判決でも、「労働契約法第20条は、労働契約が有期であることによる不合理な労働条件を禁止したもので、賞与や退職金についても不合理と認められる場合はありうる。その判断に当たっては、賞与や退職金の性質や支給目的などを考慮すべきである」としています。一般論としては妥当な解釈です。

同一賃金同一労働の原則」というのは、「正規も非正規も同じ仕事をしていれば賃金も同じ」というほど単純なものではありません。問題は合理的か不合理かの判断基準です。旧労働契約法第20条にも明らかなように、①職務内容 ②責任 ③配置変更範囲 その他の事情という4つの事情を総合的に考慮して合理的か不合理かを判断してなければならないのです。

従って、今回の2つの裁判でも、上記4つの要素を勘案し、具体的事情を考慮した上で判断を下しています。「非正規だから賞与や退職金を支払わなくてもいい」と言っているのではありません。ですから、「最高裁が非正規に賞与や退職金を払わなくていいという判決を出した」などと安易に考えることなく、この判決を受けて企業はどうすべきかを考えなければなりません。

ここで重要なのは、先ほどの4つ(職務内容・責任・配置変更範囲・その他の事情)の判断基準です。ここで、明確に正社員と非正規社員が区別されていなければ、非正規社員は実質的に正社員と同じということになり同一労働同一賃金の原則が適用され、賞与や退職金を支払わなければ違法ということになってしまいます。

したがって、正社員と非正規社員で職務の内容、責任、配置返還範囲について具体的な差異を設けて規定し、現実の運用においてもその通りしなければなりません。

ここで、具体的にどのような差異を設けるべきか、4つの判断基準を見ておきます。

1.業務内容の差異

  • 業務内容や役割における差異の有無及び程度
  • 業務量(残業時間や休日労働、深夜労働の有無)
  • 臨時対応業務の差

2.責任範囲の差

  • 業務に伴う責任の内容、差異の有無・程度
  • 人事考査の差異

3.配置変更範囲の差異

  • 配転(業務や職種変更、転勤)、出向、昇格、降格、人材登用における差異

4 その他の事情

  • 正社員登用制度の有無・実績、労働組合やその他労使間の交渉状況、従業員への説明状況、労使慣行、経営状況、処遇向上措置の実施状況や実績、非正規労働者の定年後再雇用の有無など

企業としてはこの4つの判断基準に応じた対応をとることが要請されます。同一労働同一賃金は、国が進める正規と非正規との格差・待遇差を是正しようという政策に基づくものですから、企業としても、格差を是正しできる限り非正規を正規に近づける努力が必要なことは言うまでもありません。

小泉政権下の竹中平蔵経済政策担当相が中心に推し進めた雇用の流動化政策によって派遣労働・非正規労働が急激に増加し、ワーキングプアと呼ばれる低賃金労働者が大量に生み出されました。竹中平蔵の責任は極めて重大と言わざるを得ません。(その竹中平蔵が先日書いたベーシックインカム案を持って菅政権のプレーンとなってるのは由々しき事態ですが、今日の話とは関係ありません)

今後は、日本型雇用が崩壊し、旧来の「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」に緩やかに移行しようとする中で、業務とは何か、責任とは何か、配置の在り方はどうあるべきかが検討されなければならず、その中で同一労働同一賃金の在り方も問われることになります。

この判決が経営側に配慮した判決とも言われていますが、一般論として「不合理と判断されることもある」と指摘している通り、事案によっては厳しい判断がなされることもあります。今後は、各企業ともに、このことを念頭に置いたうえで、正規・非正規の在り方、更には雇用の在り方を検討して行くことが重要になるように思います。