休日の本棚 みんなの経営学
おはようございます。
昨日の新規感染者は全国で2509人、そのうち東京584人、神奈川192人、埼玉168人、愛知219人、大阪399人、兵庫151人、北海道183人などとなっています。東京、山梨(21人)、高知(19人)、大分(18人)で過去最多を更新し、重症者も520人と最多となっています。
大阪では「医療緊急事態宣言」が発動され最初の週末を迎えましたが、人出はあまり減っておらず、「コロナ慣れ」というか気の緩みが見られるように思います。このままでは医療崩壊が現実味を帯びてきます。政府が無策無能である以上、国民一人一人がしっかりと感染対策に取り組むしかありません。今一度、緩みかけた気を引き締め、自分の身は自分で守り、自分の家族や高齢者・基礎疾患保有者にうつさないという強い意識を持ってこの危機を乗り切りましょう。
さて、今日は、久々に経営に関する本を紹介します。佐々木圭吾著「みんなの経営学」(日本経済新聞出版社)です。著者は、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授です。概して、大学教授が書いた経営本は実践向きではなく理論のための理論になっていることが多いのですが、「使える実践教養講座」と書かれているように、理論家のための本ではなく経営者やビジネスパーソンの実践向けで役に立つ本になっています。
本書の構成は
Ⅰ 経営学はなぜ必要か ― 儲けるためではなく良く生きるための学問
Ⅱ 企業とは何か ー 企業論をもとに経済活動の主人公を知ろう
Ⅲ 職場にやる気を超すには ー 楽しく働くためのモチベーション理論
Ⅳ 優れたリーダーの条件とは ー 集団を束ね導くための理論
Ⅴ 1+1を2以上にする組織とは ー 挑戦と安定を両立する
Ⅵ 良い戦略経営を実現するには ー 本当に勝つための経営戦略論
Ⅶ これからの経営学 ー 未来の経営を捉える視座
となっていて、これを見ても実践・実務向きの本であることが分かるはずです。
各章ごとに簡単に要点だけを見ていきます。
Ⅰ 経営学とは何か
- 経営学は単に思考するための学問ではなく、思考して行動するための学問です。経営学は、ある現象が怒ったり、何かが変化したり、差異が生じた原因を、外的な環境や社会状況に求めるのではありません。むしろその外的環境さえも主体的に構成しようとするような、企業や組織の中の個人と言った対象そのものの意思決定の内実に減少や成果の原因を求める学問なのです。経営学を身につけている人は、主体的で積極的な姿勢を身にるけているので、物事がうまく運ばなくても他人や世の中のせいにはしません。
- 機械を操作するように他人を動かすことはできません。「人(部下)を動かす」というよりも「人(部下)に動いてもらっている」と言う自覚が経営(マネジメント)を考える際の最も大事なスタートポイントになります。
- 多くの経営理論は、直接それが実践上の解となるものではありません。むしろ様々な経営減少をできるだけ客観的に、ズレや漏れのないように把握する概念的枠組みのようなものです。それを知ることで、自分や自社の持っている偏見や先入観と言った目に見えないメガネを自覚的にとらえられる鏡なのです。
- 経営理論を知ることで、動機付けやリーダーシップや戦略の立て方などのそれぞれの領域の体系的な諸概念を学べ、自分が勝手にそれしかないと思っていたやり方を客観的に見直すことが出来るようになります。経営理論は実践上の解そのものではなく、解を導き出すための自省を促進する概念的枠組みと言えます。
Ⅱ 企業とは何か
- 企業とは一般的に「営利を目的として経済事業を行う組織体」です。そして、企業の当事者は出資者と経営者ということになりますが、そうなると従業員は雇用された外部者となってしまいます。しかし「経営資源はヒト・モノ・カネ」という言葉が含意しているように従業員は経営資源です。従業員は企業の重要な経営資源であるという視点が重要です。
- ヒトという財は企業の資産の中で最も不確実な存在で、本当の価値も測定困難ですし、将来どれだけ成長するかもわかりません。そこで大まかには生涯をかけてバランスをとるように設計されたのが日本型年功序列的賃金と言えるかもしれません。従業員は入社してしばらくの間は生産性以上の賃金をもらいますが、若年、中堅時代には本来受け取るべき生産性よりも少ない賃金で働くことになり、その未払い分は中堅持代以降の賃金と退職後の企業年金で受け散ることになります。日本の従業員は単なる賃金契約された労働者ではなく、企業に賃金の未払いという形で出資を行っている出資者で、主体的に企業の当事者だと言っていいのです。
- 企業は社会全体の発展や雇用機会の拡大というような公共の利益と出資者の営利目的にかなう私的な利益を両立させるべき存在です。企業の私的利益が上がれば必然的に社会の利益の上がるような政策が必要です。出資者の営利目的と同時に、従業員に対する安定的な雇用を提供し、安定と挑戦を両立させることでイノベーションを興し社会を改変していくことこそが企業の主要な存在意義です。
Ⅲ 職場にやる気を起こすには
- モチベーションの内容理論・・・「動因(刺激)」→「満足」→「仕事モラール(やる気)」→「生産性(業績)」という図式の出発点である動因を効果的なものにしようとする理論 科学的管理法による差別的出来高賃金制度など
- モチベーションの過程理論・・・人間の欲求が充足されるプロセスに注目して人間のやる気を引き出そうとする理論 マズローの欲求段階説など
- 人間はカネのためだけでなく、仲間を作りたい、認められたいというような社会的欲求や自我欲求を持っているので、金銭的報酬だけでは限界があります。イノベーションの時代には、失敗する確率が高い挑戦を自発的に行っていく意欲を高めるためには組織的な「支え」が必要です。仲間の協力や組織の支えがあってこその挑戦意欲です。過度の競争心を掻き立てる外発的インセンティブ制度は逆効果です。仕事そのものの工夫、楽しさの追求、挑戦を支える仕組みといった内部的なモチベーションが重要です。
Ⅳ 優れたリーダーの条件とは
- 理想的なリーダ-シップ像がもてはやされていますが、リーダ-シップとは「集団を束ね、目的の達成に導くよう影響を与える力」のことで公式の職位に依存することのない属人的能力のことです。職位など肩書は関係なく「もしあなたが突然職位を失ったとしても、周囲のメンバーをまとめ、ついてこさせることのできるあなたの能力」ということです。
- リーダーの機能は「職務遂行」と「集団維持」の2つです。職務遂行能力の高いリーダーは、集団メンバーの基本的な任務や役割や目標を設定し、部下に対して仕事の仕方を指示するとともに、仕事の結果を評価し、適切なフィードバックを与えるなどの行動をとります。どちらかと言うとクールな態度でノルマを達成していくリーダーです。集団維持機能の高いリーダーは、集団メンバーの個人的事情や感情に気を配り、部下のアイデアを尊重することで部下を動機づけ、アフター5などに相互作用の場を設ける行動をとります。親しみやすく優しく職場をまとめていくリーダーです。「良いリーダーは厳しくもあり優しくもある」ということです。
- 自分で立ち上げたり、世界初・日本初という事業に挑戦したりする、本人たちも時間を忘れ取り組む楽しい仕事のときにはリーダーや上司の関与は負の効果を生み、逆に失敗の後始末や顧客の言いなりといったつまらない仕事の時はリーダーや上司の関与はやる気を増します。
Ⅴ 1+1を2以上にする組織とは
- 企業の中核に位置するのは人または人材で「組織は人なり」と言えます。しかし、優秀なメンバーだけを集めたドリームチームが必ずしも卓越した業績を残すわけではないことも事実です。組織メンバーの一人ひとりが自分の持つ力を十二分に発揮できるような仕組みになっているかが重要です。
- 問題の原因を短絡的に誰かのせいにするのではなく、問題が生ずる組織的特性や問題を引き起こすような人を生むメカニズムを解明したうえで、根本的に解決しようとする姿勢(組織論的アプローチ)が重要です。
- 組織には、協同意志、共通目的、コミュニケーションが必要です。この3つの要素がきちんとしていないと、組織は正常に機能しなくなります。この3つの要素が組織を見る際の最も基本的なメガネです。組織の具合がおかしくなった時、その「犯人探し」ではなく、このメガネを通して組織の本質的な問題を解明し対策を打てるようにしなければなりません。具体的には「やる気はあるのか(協同意志)」「全員が目的を理解し納得しているか(共通目的)」「メンバー全員のコミュニケーションは取れているか(コミュニケーション)」と言った目で組織を見ることです。
- 組織は、一人ではできないことを複数の人間が協力し合って実現しようとして生じる関係性です。人間が一人ではできないことの根本は「安定」と「挑戦」を両立させることです。「失敗してもいいからどんどん挑戦しなさい」と言えて、挑戦し確信するための安定性を確保する装置が組織であり、「協同意志」「共通目的」「コミュニケーション」という組織生成と存続の3要素を機能させる実効性のある組織設計を常に考えておかなければなりません。
Ⅵ 良い戦略的経営とは
- マイケル・ポーターによれば、戦略とは「正しいことを正しく行うこと」です。戦略策定のための基本的な理論枠組みやツールとして、SWOT、PPM、3Cなど様々なものがあります(これらの説明については省略します)。これらの戦略策定ツールを使って戦略を作っても即座に儲かったり成功に導いたりするものではありません。
- 戦略とは「あるべき姿」と「現状」のギャップを埋めるべく「シナリオ」から構成される一連のプロセスです。目標となる数値を創ることが戦略ではありませんが、現実には数値目標を創ることが戦略とされてしまっています。
- 経営戦略ではスポーツのように勝ち負けが決まる客観的なルールはありません。「勝ちが客観的に与えられない」と言うことが経営戦略の一つの特徴です。勝ち負けは自分で決めるしかありません。現実の企業経営を考えれば「勝ち」は企業の経営者やリーダーが組織メンバーに対して演出されるべきもの、経営者やリーダーが勝ち負けの判断基準を明確に従業員に共有させたうえで、現状や直近の成果を効果的に従業員に伝えなければならないのです。
- 経営戦略を考える重要なポイントは①「あるべき姿」―企業理念や経営ビジョン②戦略策定の順序―現状を分析し、現状でできることをシナリオとしてその結果としてるべき姿を射作っていく③経営戦略論(ロジック)―「できるだけ企業価値を上げるためのシナリオはいかなるものか」と言うテーマへの論理的回答を体系化したものの3つです。経営戦略論は「どうすればいいのか」についての視点は与えてくれますが、「どうしたいのか、どうなりたいか」は自分で決めるしかありません。
- 現場にパニックではなく行為を引き出すことができるか否かが、よい戦略か否かを分ける大きな一つの分岐点になります。そのうえで、現場が持ち帰ったりリアリティにミニを傾け、理想を掲げる中央と事実を掴む現場との対話を行っていくことが大事です。良い戦略は振り下ろすものではなく、中央と現場とで練り上げていくものです。
- 年功序列で人が長期にわたって会社にいるという日本企業では、知識や技術と言ったヒトに宿る資源が組織内に蓄積されます。イノベーションが叫ばれる現代、こうした技術的資源を有効に活用するためにも、祖意識や従業員の行動や感情への効果を考慮した戦略経営がより重要になります。
Ⅶ これからの経営学
- 理論と現実が必ずしも一致するわけではありません。しかし「理論は理論」と閉まって置いてはいけません。理論は、現実を効率的かつ効果的にとらえるメガネです。
- 理論を生かすということは、単純な時間の流れの中から経験を構築し、その経験の反省を通じて、現実や自分をより一層知るとともにそこから明日の糧となる新しい理論や知識を生み出していくことです。こうした経験・現実と理論魯理論との往復運動の起点として、例えば営業だったらマーケティング理論やマネジメント理論など、仕事に関連する理論を身に着けておくことは必要です。
- 景気の浮き沈みの激しい今日において、日ごろ経営の実践が利益や成長、あるいは企業として生き残りを目的として展開されていることはまぎれもない事実です。しかし、経営学の目的は実践を後押しするだけの、企業の成長や利益をもたらすことではありません。利益や成長は、企業が社会や人々に幸せをもたらすという目的に対する手段です。
- 経営学を学ぶ意味は、理想的・倫理的な視点を持って、人々の自由と平和を維持発展させようとする企業経営を構想・実現することにあるのです。