中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 P&G伝説のGMOが教えてくれたマーケティングに大切なこと

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で3345人、そのうち東京769人、神奈川397人、埼玉306人、鳥羽317人、愛知126人、大阪338人、兵庫137人、京都82人、福岡154人、沖縄80人、北海道106人となっています。緊急事態宣言の効果か、かなり感染者数は抑えられてきています。政府は、緊急事態宣言を3月7日まで延長する方針ですが、感染者数は減ったとはいえ、医療のひっ迫状況は変わらず、やむを得ないことだと思います。3月7日までに完全に新型コロナウイルスを抑え込み、再々延長がないようにしたいものです。そのためには、一人ひとりが更なる感染防止対策を徹底するしかありません。

さて、今日は、六角マリ&加茂純編著「P&G伝説のGMOが教えてくれたマーケティングに大切なこと ジム・ステンゲル流日本企業再生へのメッセージ」(中経出版)を紹介します。P&G(The Procter & Gamble Company)は、アメリカ・オハイオ州に本拠を置く 世界最大の一般消費財(家庭用製品、化粧品など)メーカーです。ジム・ステンゲルは、P&Gに25年在籍し7年間GMO(グローバル・マーケティング責任者)を務め、P&G退職後はジム・ステンゲル・カンパニーの社長兼CEOとしてトヨタなど日本企業のコンサルタントをしています。本書は、編者の2人が、そのジム・ステンゲルに日本が取り組むべきマーケティングの課題と解決方法について話を聞き、その提言をまとめたものです。

日本企業は、精巧なモノづくりを強みとして、戦後長い間成功してきました。しかし、グローバル競争が高まるビジネス環境において競争力を失い、製品の「品質の高さ」のみでは差別化が難しくなってきています。売り手が自分の基準で高い製品を誇るだけでは十分でなくなり、そうした状況に対応できなくなっていることが、日本企業が国内のみならずグローバル市場でもアジア新興企業に後れを取っている原因です。

本書では、それは「日本企業のマーケティング力の問題」だと言います。日本企業は、マーケティングよりも営業の力で売り抜こうとしてきました。しかし、今、品質の高い製品を作れば売れるという時代ではなくなってきています。「売り手が売りたいものを売るのではなく、買い手が欲するものを売る」ことが必要になっています。これこそがマーケティングの基本です。いまこそ、買い手が欲するものを効率的に、かつ大量に供給することを可能にする、マーケティング本来の考え方が力を発揮するのです。

ジム・ステンゲルは、日本企業が抱えるマーケティングマネジメントの課題を、次のように指摘します。

まず、機敏さ、スピードと変革が課題です。スピードについては、まだまだ遅い、遅すぎます。これは、プロセス、リーダーシップ、グローバルチーム、ダイバシティ(人材の多様性)、さらには危機感の問題です。この点において、日本企業は今すぐ変わるべきです

日本企業は、より一層『消費者志向』になる必要があり、マーケティングの機能・必要性を明確にしたうえで、着実に実行していくことが必要です。

次に、本書の要点を挙げておきます。ここにマーケティングの本質と日本企業が取り組むべき課題が見えています。

第1章 P&Gマーケティング力の失墜とステンゲル氏による復活のストーリーから学ぶ9つのこと

 1989年からP&Gの会長兼CEOペッパーの下で、全社的な改革プログラムが実施されますが、高い目標設定と現実とのギャップから失敗、ラフリーが社長兼CEOに就任します。ラフリーは、過去の反省から、改革の焦点を①すべての中心に消費者を置く ➁外に開かれたオープンな関係モデルにする ③M&Aに依存せず持続可能な内部成長を遂げることを優先する ④持続可能な内部成長を遂げるために、イノベーション中心の組織をつくる ⑤イノベーションを新たな視線で考える という5つの項目に絞ります。ラフリーは「消費者こそが主役」という考えの上に立ち、イノベーションを日常業務に統合されたプロセスと考え実践していきます。もともとP&Gはマーケティング重視の経営を進めていましたが、ラフリーは同社の強みであるマーケティング組織を再生し、そのマーケティング力を復活させようとし、マネジメントチームの責任者としてステンゲルを迎え入れたのです。

  1. まず、スタッフという「内なる消費者」への理解を深めよ
  2. 職場内のありのままの姿を知り、スタッフの本音を聞け
  3. 『消費者との接触、月当たり6時間」ではプロのマーケターは育たない
  4. 好感と信頼を生む「マインドセット」を徹底させる
  5. 「だれに」「何を」「どのように」という明快な共通言語をつくる
  6. マーケター育成のためのトレーニングプログラムをつくる
  7. 専門知識の開発と共有が推進される組織をつくる
  8. エネルギー・情熱・焦点を見失いかけたらオフィスを抜け出して店に行け
  9. マーケティングのエキスパートスタッフに長期的なキャリアパスを示す

最強のマーケティング力を取り戻すと公言したステンゲルは世界中を飛び回り、スタッフたちとマーケティングのあり方について語り合い、自分のビジョンを伝え続けました。スタッフの本音を深く知り、スタッフとの信頼関係を築き、その良好な関係を維持していくためには、何よりも積極的にスタッフからのフィードバックに耳を傾け、その内容をより良い方向に反映していくことが重要です。また、組織内の雰囲気や習慣を身近に感じ、知ることに日々努めることも大切です。このことは消費者の話に耳を傾け、観察し対話をする、そうして「共感」が高まり、さらにより良い関係を築くことにもつながります。消費者の本当に求める製品・サービスを創ることで、そのブランドに対する「愛情」と「信頼」を育んで、初めて消費者との良好な関係が築けるのです。そのためには、まず、スタッフとの信頼関係を取り戻すことが重要なのです。

第2章 ステンゲル流マーケティングを受け継ぐ日本人マーケターが教えてくれた5つのこと

 ここでは、日本のP&Gでマーケティングの経験を積み、ステンゲルからマーケティングを学んだ山田実氏による具体例が示されています。

  1. 「ブランド構築フレームワーク」を社内で徹底・浸透させる
  2. 「WHO」にこだわり抜く大切さ
  3. 商品の訴え方は国民性の特長を生かす
  4. リーダーシップは全社員に求められるスキル
  5. ブランドポジションを社内外に浸透させると”思い付き商品”がなくなる

トップダウンですべてが決定されるような企業もあります。それでは社員のやる気も沸きません。P&Gのフレームワーク「WHO」「WHAT」「HOW」を取り入れ徹底して活用すると、枠組みはあるものの、自分たちで考え、アイデアを出して進めていくことができ、マーケティング業務に対するモチベーションが高まります。

P&Gマーケティング改革成功の鍵は「現場の徹底」にあります。共通言語としてのフレームワークを浸透させ、経営陣からスタッフまで意識を統合できるフレームワークを浸透させることにより、全スタッフがマインドセットとして身につけていたのです。それには、繰り返し繰り返し、日常的に行われるトレーニングと、トップからスタッフまで同じフレームワークマーケティングを理解し議論できるという組織としての強みがあったからです。P&Gではリーダーシップはマネージャーに限らず、全スタッフに必要なものとして教えられ、上司が部下を教え、その部下がマネージャーになり部下を教え育てていくというカルチャーが引き継がれているのです。

第3章 ステンゲル氏から日本のビジネスリーダーに送る13の言葉

  1. 「御社の製品の優れている点、他社との違い、消費者へのインパクトを正確に答えられますか?」
  2. 「1日に20時間働いていますが、その活動は本当に効果がありますか?」
  3. 「消費者に届く言葉で情報を提供してください」
  4. 「これからのマーケティングは、プラットフォームについて考えましょう」
  5. 「Creativity(創造性)とDiscipline(トレーニング)重視のマーケター育成に真剣に取り組んでください」
  6. マーケティングにおける共通言語をつくって下さい」
  7. 「どこの国に行っても、同じ考え方とプロセスでマーケティングが行われることを望みます」
  8. 「2年先の未来を予測し、イノベーションを考えてください」
  9. M&A時には3カ月以内に相手企業のカルチャーを把握してください」
  10. CMOこそがマーケティング組織の活性を促す鍵になります」
  11. 「「新人スタッフは入社当日からプロのマーケターとして育ててください」
  12. 「これまで培ってきたものを大切にして、そこからビジネスを加速させるものが何かを考えてください」
  13. 「私がマーケティングで大切にしている10の哲学をご紹介します」

ここで、13に上げられているジム・ステンゲルのマーケティング哲学を紹介します。

  • すべてにおいて、好奇心を持とう。会社の中でも外でも。
  • どうしたら消費者の生活をより良いものにできるか、そこに集中しなさい。あなたの製品やサービスが競合よりも消費者の生活を更により良いものにするにはどうしたらいいのか、それを発見することに集中しなさい。そして、一度それを見つけたら、それをベースとしてマーケティングプログラムを組み立てよう。
  • 会社の外では競争の気概を持て。内では、協力の気概を持て。
  • 社内のすべての部署が何をしているかを理解せよ。そして、どうしたら彼らが協力してくれるのか。また、あなたの仕事にドンんば付加価値を提供してくれるのか。それを理解せよ。
  • 基準を高く設定しよう。あなた自身、同僚、広告代理店などの外部パートナーに。あなたが基準を決めるのだ。それを忘れるな。
  • 決して現状に安住するな。満足するな。たとえマーケティングシェを100%獲得したとしても、その商品カテゴリーをさらに成長させることは常に可能だ。
  • 利益が出るだけのマーケティングシェアを獲得すること、商品カテゴリーの新たな消費を生み出すこと、そして既存ブランドを発展させ、新しいブランドを創り出すこと、これらがあなたのミッションであり、マーケティングの本質だ。
  • 広告は人々の心を、そして行動を変えることができる。広告の力を信じよう。
  • あなたが人々をリードするのは、あなたの知識や影響力によってだ。身分や地位によってではない。
  • 常に革新を起こそうとして、トライしては失敗し、又トライして、そこから学ぶ。それが世界で一番素晴らしいマーケティングプログラムを作り上げることになる。

ステンゲル氏は「どうしたら消費者の生活をより良いものにできるか。この基本を毎日問い直せ」と言います。これがマーケティングの基本です。常にそこに集中して、マーケティングを考えることが重要なのです。

第4章 ステンゲル氏のマーケティング戦略から提案する5つのポイント

 ステンゲル氏のマーケティングに対する考え方は「とても基本に忠実」ということにつきます。「どうしたら消費者の生活をより良いものにできるか」、マーケティングマインドセットを社内に浸透させること、等。どれもシンプルで、かつ簡単に実践できる内容に思えますが、これができている日本企業は少ないと思われます。ここでは、今後日本企業がグローバルにお活躍できるようになるために取り組まなければならないことを、改めて5つのポイントに絞り、包括的に提案されています。

  1. 消費者が最も大切にする価値を実現せよ。
  2. Creativity(創造性)、Discipline(トレーニング)、フレームワークを見直す
  3. CMO機能前提で、グローバル・マーケティング組織の編成を考える
  4. 消費者やスタッフとの対話こそが、ブランドにとっての財産になる
  5. マーケティングイノベーションを生み出す社内カルチャーを構築せよ

日本においても、マーケティングに対するする重要性の認識は高まり、マーケティングの積極的に取り組もうという企業も増えています。しかし、まだまで不充分です。

ステンゲル氏のマーケティングは基本に忠実なもので、それこそマーケティングの本質を示しています。「言うは易しく行い難し」ですが、マーケティングの基本に立ち返り、消費者によりよい製品やサービスを提供するにはどうすればいいのか、を問い直しながら、ステンゲル氏の提言に耳を傾けることが、日本企業再生の道かもしれません。

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