中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 2050年の世界(1)

 

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1885人、そのうち東京491人、神奈川176人、埼玉169人、千葉145人、愛知114人、大阪127人、兵庫94人、京都27人、福岡103人などとなっています。新規感染者は減少していますが、昨日の死者は121人と過去最多となりました。政府は、10都府県の緊急事態宣言解除を見送りましたが、重症者数や死者数、病床利用率など医療体制のひっ迫状況から妥当な判断と言わざるを得ません。新たに兵庫と山梨でイギリス型の変異株が確認され、市中感染が広がっているように思います。ワクチンの期待が高まっていますが、南アフリカでは南ア型の変異株にアストロゼネカ社のワクチンは効果が薄いということで接種が中止されています。WHOも南ア型の変異株にワクチンの効果が限定的だということに懸念を示しています。既にオーストリアで南ア型が流行しているようですが、イギリス型も南ア型も変異株の日本国内への流入を食い止める水際対策の徹底が求められます。

さて、最近、ジャック・アタリ著「2030年ジャック・アタリの未来予測」(プレジデント社)、ピーター・ディアマンズ&スティーブン・コトラー著「2030年 すべてが加速する時代に備えよ」(NewsPicksパブリッシング)、成毛眞著「2040年の未来予測」(日経BP)と数十年後を見通した未来予測の本が出版されています。まだ、これらのどの本も読んでいませんので、今日はエコノミスト編集部編「2050年の世界」(文春文庫)を紹介します。

エコノミスト誌」が創刊されたのは1843年、日本で言えば江戸時代末期です。エコノミスト誌は発行部数至上主義とは逆向きの方針で、誰もが読む雑誌ではないということを誇りに、世界を席巻するアメリカ流合理主義的なロジックとは一線を画し、独自のロジックと視角で政治と経済を論じ続けてきています。全世界で155万人以上の購読者を有する「エコノミスト」が明確なデータと独創的な視点で「2050年の世界」を大胆予測しているのが本書です。

編集長のダニエル・フランクリンは、本書の目的として、①人々の健康から財産まで、あらゆる側面から世界を変革するトレンドを特定して探求すること ②①で特定したトレンドによって、2050年の世界がどのように形作られるかを予測すること の2つを挙げています。

明日の天気を予測するのも難しいのに数十年後の世界を予測することができるのでしょうか? 確かに、ナシム・タレブがブラック・シワンと名付けた予測不可能な事象が黒鳥のように世界を飛び回っています。しかし、来週や来年を予測するよりも数十年後を予測することの方が容易いのではないかと言うのです。長い年月の間にある種のパターンができ、今後数十年間に起こる重大な変化の一部はかなり高い精度で予測可能となるというわけです。例えば、人口統計に関しては、実際に近い数字がはじき出され、この世界人口に纏わるトレンドは、ほとんどの問題に影響を与えるとも言えます。

2050年を予測する4つの共通項は

  1. 未来を予測するために過去を振り返るという手法で流れを読み取る
  2. 単純に過去を未来に当てはめるのではなく、そうした流れが途絶することを見越していく
  3. アジア、特に中国の隆盛を重視する
  4. 暗い見通しが好きな未来予想とは逆に、前向きな進展の構図を描き出す

フランクリンは、「本書が描き出す未来は、終末論的な予言ほどおぞましくない。もちろん、将来には数多くの危機が待ち受けており、メガチェンジへの適応には必ず困難が伴うだろう。しかし、2050年の世界はそれほど悪い場所ではない。(中略)明るい光が差し込んでくるはずだ」と言ってくれています。

第1章 人口の配当を受ける成長地域はここだ

 世界的な出生率の低下は、人口動態で突出した出っ張りの世代を生み出し、その世代が労働年齢に達する地域は急成長し、リタイヤする被扶養世代になった時に、成長は止まる。

  • 人口動態はある程度確実に未来予測できる指標で、すべての予測の基礎となる。
  • 世界的趨勢として高齢化が進み、富裕国では100歳まで生きることが普通になる。
  • アフリカは人口が急増化し、労働年齢人口も増え続け、人口の配当を受ける可能性が高い。
  • 中国は、2025年に14億人でピークを迎え、その後減少に転じる。
  • 人口の都市化も大きく進む。
  • 出生率は世界的に低下し、世界の人口増のスピードは減速し、やがて人口増加は止まる。
  • これから人口の配当を受ける地域は、インドとアフリカと中東である。若年層の膨らみは政治的な不安定要因になる。
  • 人口の負の配当を受けるのは、日本、欧州、中国であり、特に中国は大きな影響を受け、安い労働力による世界の製造工場の役割を終える。日本は世界史上未踏の高齢社会になる。

第2章 人間と病気の将来

 高齢化と肥満化が世界的な趨勢となり、途上国にも慢性疾患に苦しむ人が増える。急速な都市化がそれを後押しする。一方で医療技術の進歩は疾病の治療法に革命をもたらす。

  • 高齢化と肥満化が世界的な趨勢となる。
  • 世界の人口の急速な都市集中化は、途上国にも、癌、脳卒中、糖尿病などの慢性疾患に悩む人々を増加させる。
  • ワクチンが開発されたポリオなどの病気は、今後も世界的の公衆衛生の広がりが撲滅されていく。
  • 一方でスーパー耐性菌の登場は人類の脅威になる。
  • 高齢化に伴う最も深刻な影響はアルツハイマー病の増大である。痴呆老人の介護は、結果として各国に財政的圧力をかける。
  • ゲノム解析による出生前診断が進み、新しい薬も開発される。
  • 失敗した研究のデータの共有は将来の研究にプラスになる。

第3章 経済成長がもたらす女性の機会

 過去40年、先進国で目覚ましい発展を見せた男女同権。今後は、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)の新興国で、経済成長の必要から女性の機会はより開かれる。だが、中東などでは時間がかかるだろう。

  • 法の下の平等、教育の機会均等、家族計画、労働市場への自由な参入など、先進国における女性の地位は過去40年で著しく上昇した。
  • アフガニスタンなどイスラム圏で宗教的な制約の強い国では、女性の参政権すらない国も多く、その解消にはより時間がかかる。
  • BRICs新興国では、すでに教育の平等は制度として確立されており、それら知識層の女性が、経済の急成長から、今後広く、様々な分野で労働力として参入、経済成長をさらに促進する。
  • 女性の早期退職慣行が段階的に廃止されれば、年金の支給開始年齢が男女を問わず引き上げられれば、女性は高齢まで働く必要に迫られる。
  • 先進国では、高齢化による介護の問題が、女性の職場進出に影を投げかける。育児と介護と労働のバランスを男女間、そして社会・企業でどうとっていくかについての議論が行われ、様々な政策が採られるだろう。
  • 1970年以降、OECD加盟国では結婚率が半減し離婚率が倍増した。婚外子の割合が3割から5割に達し、更にこうした傾向が加速し、女性は育児と職業の負担のバランスに苦闘することとなる。

第4章 ソーシャル・ネットワークの可能性

 常時接続と常時オンライン、ソーシャル化されたスーパークラウドの世界は、車や電化製品などにも広がる。一方で、一社支配に対する懸念も強まり、政府の規制が予想される。

  • インターネットが与えた影響は、ソーシャルネットワークで、パソコン通信掲示板の世界からFacebookの世界まで。その人口は8億人を超え、一つの国家となっている。
  • SNSの交流から、①意思決定において友人や他人の影響力が強まる ②集団の英知を利用したウイキペディア型のサービスを利用する度合いがますます強まる ③新聞やテレビの大マスコミに頼らず大規模な運動が可能になる という3つのトレンドが予想される。
  • 社内の協業をうながすために、セキュリティの厳しい社内SNSの新しい形が生まれ、それを利用する企業が増える。
  • 求職活動のソーシャル化も進む。
  • 車に限らず、日常の電化製品のあらゆるものに、常時接続のネットを利用したソーシャル機能が搭載される。
  • 一社支配によるプライバシーの管理への懸念は、政府の規制を招くか、非営利団体によるデータの管理といった方向に向かうかもしれない。
  • 一社支配が長く続く可能性は少ない。新しいイノベーションを持ったネットワークが参入し既存のSNSにとって代わる。

第5章 言語と文化の未来

 グローバル化と最新技術は文化に影響を及ぼすだろう。しかし、人々の嗜好には地元色がいつまでも残り続けるだろう。英語の一極支配は続き、中国語は世界言語にはならない。

  • 音楽、映画、文学などの娯楽は、実は優れてローカルなものである。通信の発達は世界の距離を縮小させるが、これらの娯楽は、引き続き文化に裏打ちされたローカルなものが各文化圏で優勢を保つ。
  • ウェブの発展によりテレビはオンデマンド型になるという予測は成り立たない。むしろ、番組の放映までに様々なプロモーションを行い、放映時にはウェブのSNSを使ったざわめきの広がりを期待し、益々映画の興行のような形になっていく。
  • 紙の本は、電子書籍にとってかわられるが、一定の役割で生き残る。
  • 英語の言語としての一極集中は崩れない。中国語は数多くの漢字を覚えなくてはならないハードルがあり、世界言語になり得ない。

第6章 宗教はゆっくりと後退する

 経済発展で人々は宗教を相対化する傾向にある。2050年には、世界の信仰者の数自体は増えていくが、原理主義的勢力は退潮し、最終的に地球を受け継ぐのは無宗教の勢力だ。

  • 貧しければ貧しいほど宗教に帰依する割合が高くなり、豊かになればなるほど、宗教は相対化されていく。
  • 経済発展の遅れと宗教性の高さには、強い連関がある。貧困と宗教の強い結びつきは国内にも存在する。
  • 現在出生率が高く、人口の配当を受け経済成長を続ける新興国も、先進国化するにしたがって、宗教は相対化され、無宗教者の割合は増えていく。
  • 唯一の例外がアメリカだが、平均寿命は世界34位で、殺人の発生率・人口に占める服役者数も、先進国の中で飛びぬけて高く、貧困国のパターンを示している。このあたりが、アメリカにおける宗教人口の多さの理由になっているかもしれない。

第7章 地球は本当に温暖化するのか

 地球は、温暖化することは間違いないが、それがどの程度の温暖化になるかは、不確定な要素が多く、判断が困難。温暖化の条件がそろうとそれを修正するには時間がかかる。

  • 気候変動については現時点で正確に予想する方法が確立されていない。エネルギーのポートフォリオがどう変わるか、経済成長がどうなるのか、さらに気候の変化に対する人間の対策など、様々な不確定要素が多すぎる。
  • 全体として、人間が活動する結果としての二酸化炭素の増加は温暖化に結び付くということはコンセンサスとしてあり、だからこそ、先進国が音頭を取って、二酸化炭素排出削減の試みがなされてきた。
  • 新興国が経済成長を達成するためには、二酸化炭素をこれまで以上に排出せざるを得ないというう課題もある。
  • 温暖化により北極は、夏の間は海になるという将来が予想される。海水部が増えることにより、海洋地下資源開発の促進、新たな漁獲域の出現のなど大きな変化があるだろう。
  • 人類の活動によるもう一つのの副産物「エアロゾル」は冷却機能を持つ。成層圏にこのエアロゾルを人為的に注入することによって温暖化を防ぐという案があるが、どのような影響が出るか分からないことも多く、リスクがあるので実現しないだろう。

第8章 弱者が強者となる戦争の未来

 中国の台頭、技術の拡散、新しいテロ戦争などで、アメリカの超軍事国家としての優位性は、さまざまな領域で崩れ始める。そうした中で、核戦争の危険は冷戦時代以上に高まる。

  • 第二次世界大戦後、戦争による死者数は劇的に減っている。それは冷戦期、米ソ対立によって、戦争が逆に管理させていたからだ。
  • 一方で、不確実性は高まった。技術の拡散によって、不良国家やテロ組織がアメリカに非対称的な戦争を仕掛けられるだけの力を持ってきている。それを可能にしたのは、インターネットを基盤とする既成の通信技術と暗号化ソフト、安価の精密誘導ミサイルと迫撃砲、人間が持ち運びできる新型の防空兵器、対衛星システム、対艦ミサイル、核弾道を搭載できる高精度長距離弾道ミサイルなどの技術である。
  • 地域間紛争の危険が高まっている。その原因は、宗教を起点とし、水やエネルギーなどの資源を争うべき実利として行われる。そうした地域間の紛争で、核兵器の使用の懸念がある。
  • イランは確実に核保有国になる。サウジアラビア、エジプト、イラク、シリアといった国々など、米国と同盟関係にあるアラブの諸国は米国を信頼しておらず、米国の核の抑止力に頼らず、独自に核を持とうとするだろう。
  • 無人飛行機などの戦争のロボット化はさらに進む。
  • 先進国は、高齢化による財政悪化で、かつてほど防衛費に国家予算を廻せなくなる。

本書では、さらに、経済とビジネス、知識と科学など多岐にわたって、「2050年の世界」について語られています。それについては、次の休日(2月13日)に引き続き書いていきます。

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