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休日の本棚 ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1362人、そのうち東京369人、神奈川105人、埼玉164人、千葉98人、愛知59人、大阪142人、兵庫56人、京都23人、福岡64人、北海道39人などとなっています。新規感染者は大幅に減少していますが、医療体制のひっ迫は続いています。緊急事態宣言延長後初めての週末ですが、各地の人出は増えているように思います。まだまだ気を緩めることはできません。

昨夜、東日本大震災の余震とみられる震度6強の地震が福島・宮城を襲いました。被災した地域の人たちのご無事を願っています。今回の地震が10年前の余震だと思うと自然の凄さを感じます。コロナ禍で巣篭もり生活が続いていますが、家具を固定するなど今まで以上に自宅を安全にすることが最優先の災害対策になりそうです。

さて、今日は藤田勝利著「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社を紹介します。著者の藤田氏は、外資コンサルティング会社を辞め、30歳でマネジメント・スクール『ドラッカー・スクール』に留学した経験を持つ経営コンサルタントです。

本書は、著者が「ドラッカー・スクールでマネジメントについて何を学び、どのように考えを整理し、実践で活かしてきたか」という視点で書かれています。本書は著者の留学体験記ではありませんし、ビジネスノウハウ本でもドラッカー教授の理論を紹介する本でもありません。マネジメントの大切な原理と、日々の実務で実践できることを目指して書かれています。

マネジメントという言葉が何を意味するのか、あまり明確ではありません。

日本では、「マネジメントできる人財が必要だ」「マネジメント能力を高めてもらいたい」「業績悪化はマネジメントの問題だ」「マネジメント力の強化が喫緊の課題だ」などと言われることがありますが、言っている本人も明確に意味を理解しているとはいいがたいと言ってよいのです。一般に「マネジメント=菅理」と捉えられています。

しかし、著者が、ドラッカー・スクールで学んだことは、「マネジメントとは人間と創造に関わるものである」というのです。人と組織の強みや創造性を最大限に引き出して経済的・社会的に価値ある成果をあげることがマネジメントなのです。もちろんその一要素として、「管理」「統制」も必要ですが、会社や組織はつまるところ人間の集団であり、その集団を創造的で生産的にするため必要なのがマネジメントなのです。

マネジメントを「管理」ととらえれば、機械的に「方法」「ツール」を導入すればよいはずですが、「創造」ととらえなおすと、社会、政治、人間、組織、心理、歴史、文化、統計などの素養も必要になります。

本書の目次には、「マーケティング」「イノベーション」「会計」「情報技術」など、経営において重要と考えられるテーマが並んでいますが、これらの個別テーマとマネジメント現底の繋がりが重視されています。

また、「セルフ・マネジメント」というテーマが最初にあります。何故、経営の本でありながら「自分自身のマネジメント」が必要なのか、これについて、本書では次のように書かれています。

  •  ドラッカー教授は、「組織のマネージャー」である前に「個」のビジョンや価値観を明確にし、自分自身という希少な資源を最大限に生かすことが大事だと考えていました。どんなに大きな事業ビジョンを掲げても、それが自分自身の軸とズレていると、結果として組織を率いるうえでもブレが出てしまうからです。「会社が」という言い方が強まり、「私が」という一人称の言葉が出てこなければ、メンバーの心は徐々に離れていくでしょう。

1.「セルフ・マネジメント」から始まる。

 多くのマネージャーが自分自身の「外」のことに意識を奪われ、自分の「内面」をマネジメントできていません。自分自身の内なる感情や情熱が閉じ込められ、自分の強みが活かせていない場合、「その人の想い」が感じられません。話の内容に感心することはあっても、「感動」することはありません。それでは組織を動かすエネルギーは生まれてきません。感動によってこそ、人は自発的に動くのです。「自分自身の価値観や強み」を認識することが大事です。自分の内面にある価値観や強み、考え方、感情を知り、まず自分自身という資源を活かすことが、組織と人をマネジメントしたり、幾多の困難な悩みを乗り越えていくうえで極めて重要です。

2.マネージャーは何を目指すのか

 業務スキルの「集合体」がマネジメントではありません。個としての技能や知識の延長線上にマネジメント力があるわけではありません。

 ドラッカー教授は、マネジメントが根本的に目的とするものを次のように明確に表現しています。

  1. まず、その組織に特有の使命を果たすこと
  2. 働く人たちを、仕事を通じて活かし、生産的にすること
  3. 事業を通じて社会の問題解決に貢献すること

つまり、マネジメントは、「社会、組織、人の3点をつながったものとして捉える」ことです。マネージャーとしての能力は、メンバーという生身の人間を活かし、チームとして成果を上げることです。マネジメントとは、人と組織を活かして社会的な成果を上げる、そして、結果として多くの人の人生を、より良くすることができる仕事です。このマネジメントの本当の目的を知ることで、事務作業が多く負荷の高い「管理」としてではなく、やりがいのとても大きな使命としての「マネジメント」へと大きく人の意識が変化していくはずです。マネジメントの個々の技法や手法をバラバラに身につけるよりも大切なのは「目的」の方を先に明確にすることです。

3.マーケティングの本質ー顧客創造的な会社とは

 顧客を創造することがマネジメントの最大の目的です。フレームワークを使った分析に頼りすぎるのではなく、「本当のところ顧客が何を購入しようとしているのか、その本質を掴まえる努力」が大事なのです。いかなる組織にも「顧客」が存在します。「その顧客をいかに創造するか?」というマーケティングの議論を通じて、組織内部の問題も健全に解決されます。個々の組織の問題を逐一解決しようとするよりも、マーケティングの観点から解決した方がはるかに建設的です。組織運営と顧客創造のマーケティングは密接につながっています。ドラッカー教授が「顧客と顧客価値」に軸足を置いたマネジメント理論を展開しているのも、それが人と社会を幸福にするもっとも本質的な考え方だからです。

 「顧客がどのような人で、顧客は何を価値として、わが社からどのようなサービスや製品を購入したいのだろうか?」この問いに全員が真摯に向き合い、すべての仕事とこの問いが連動している組織こそが、本当にマネジメントを実践している組織と言えるのではないでしょうか。

4.イノベーションという最強の戦略

 組織はイノベーションなくして生き残れませんし、組織がイノベーションできないと組織の集合体である社会も成り立ちません。人間は生まれながらにして創造的な存在です。この「創造性」という人間本来の、無限の可能性を組織のマネジメントや経営に活かすことで、人間本来の強みが活かされ、高業績を生み出す組織が作られます。

 ドラッカー教授は次のように言います。

 顧客の本当の満足要因や価値と感じていることを知る「マーケティング」と新たな満足や価値を生み出すために自己変革していく「イノベーション」、これら基本機能について徹底的に話し合い、見直すことが企業にとっての生命線です。

 現在の変化の激しい事業環境においては、企業は絶えずイノベーションしていくことが不可欠です。しかしそれは、一発逆転を狙った大規模な投資や商材でなくてもいいのです。一部の人間のひらめきに依存するものでもありません。むしろ懸命に現場で顧客や製品と向き合っている「多くの普通の社員」の意識や見方が少しずつ変わることこそが条件です。社員が、お客様の、取引先の、市場の小さな変化を発見し、その変化を事業に有効に活かすことで、昨日よりも明日の生産性が高まるのです。地味でも理にかなったイノベーションの連続が組織の、事業の明日を創ります。

5.会計とマネジメントの「つながり」

 組織がそのミッションを達成し、社会や人間を幸福にしていくための成功の「バロメーター」である利益や収益性、それらが何によって生み出されているのか、その生み出され方はマネジメントの視点から見て適正なのか、会社の数字の見方に、マネジメントの哲学と戦略を融合することが重要です。これは、以前「会計と戦略のマネジメント」という本を紹介した時にも書きました。数字の背景にある事業の本質、経営陣の考え方、戦略の方向性が的確かどうかという、マネジメントの視点が必要です。

 日本の多くの企業では、経営管理・会計・財務を担当する部門の責任者と事業の責任者の間に溝があるケースが少なくありません。両方ともマネジメントをする上で不可欠な機能であり、ゴールは1つのはずです。両者が同じ「マネジメント」の視点で、共通の言語で、知恵を融合させていけば、どのような会社もさらに強い事業体質に生まれ変われるはずです。

6.成果を上げる組織とチーム

 組織論がもてはやされています。企業経営にとって組織は重要な中心的な存在ですから当然と言えば当然です。しかし、理論が精緻化されて本質を見誤っているきらいがあります。そもそも組織とは何を目的に創られるか、どうすれば最高の組織として成果が生まれやすいか、という本質こそが重要です。

 各論に入りがちな視点を「自分たちの事業はそもそも何だろうか」「顧客は誰か。顧客は何を買ってくれるだろうか」「その事業で卓越した成果を上げるために、どういった方法と手段を選ぶことが有効か」「その方法論を、全体目的のためにどう活用することができるか」と言った全体的な視座に戻すことで、真の成果や貢献の方向に、人間のエネルギーを統合し、大きな力に変えていくことができます。

 「組織とチームが成果を上げるため」に大切なマネジメント原則では、

  • 何を目的、使命としてどのような事業をしていきたいと強く願っているか
  • その目的のために仕事を通じて人の資質や強みをどう引き出し、最大化できるか
  • 自律的・自発的に考え、話し合い、協力し合う環境や風土をどのように築くか

という根本的な問いが重要です。いわゆる組織論的な方法論や理論に依拠しすぎるのではなく、シンプルかつ重要なこの問いに明確に答えを出すことが重要です。

「目的と使命によって組織をリードしていく」という考え方と「現場の人々の考え方、行動の仕方、それを生み出している組織風土」の見方の両方が大事です。ワクワクとするような事業目的と、個々人の仕事、行動の仕方、考え方を一致させていくところに、組織の真の成功があるのです。

7.情報技術とコミュニケーションについて本当に大事なこと

 どのような高機能で優れた情報システムであっても「マネジメント」や「戦略」の観点から評価・活用しなければ、まったく意味がありません。システム自体が経営やマネジメントの主体者になることはなく、それはあくまでも経営を強力に支援するツールにすぎません。

 マネジメントの考えの中で、情報システムという有効なツールをどう活かしていくかがポイントです。「このシステムを導入することで、このように顧客価値、顧客満足を高めたい」「このシステムにより、社員の自律性をこのように高めたい」という意図の共有こそが大切です。

情報技術において重要なのは「技術」ではなく「情報」です。情報技術の「テクノロジー」からどのような「情報」を抽出して、コミュニケーションを通じてそれらをいかに有効な知恵に変換していくか、これこそがマネージャーが創造的に考えるべき大切なテーマです。「事業目的と顧客にとっての価値を定義し、組織と人の働きを生産的にし、成果につながる」というマネジメントの役割は情報技術の開発・導入に際してもブレてはいけない基本原則です。

ドラッカー教授は、マネージャーに不可欠な資質は知性ではなく、「真摯さ」と言っています。事業でも個人でも、本来抱いていた目的、情熱、想いはシンプルで、各論に惑わされることなく、一貫して「良い仕事」「ワクワクするような商品やサービス」に意識を向ければいいはずです。こうした「真摯さ」が重要なのです。

本書では、最後に、ドラッカーの言葉で締めくくっています。

マネジメントとは、事業に生命を吹き込むダイナミックな存在でる。そのリーダーシップなくして、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない

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