中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 新しい世界(1)

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1234人、そのうち東京327人、神奈川131人、埼玉121人、千葉123人、愛知46人、大阪94人、兵庫42人、京都16人、福岡71人などとなっています。死者は78人、重症者は526人とまだまだ安心できる状況ではありません。死者の中には無症状のために自宅療養中の50代の女性が10日に容体が急変し搬送後に死亡が確認されたというケースもあります。新型コロナを甘く見てはいけません。全国的に減少傾向にありますが、緊急事態宣言下の11都府県のうち愛知、岐阜以外は減少幅が小さくなり鈍化傾向にあります。医療体制のひっ迫状態が緩和されるまで、もう少し我慢しましょう。

さて、今日はクーリエ・ジャパン編「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」(講談社現代新書を紹介します。先日、「2050年の世界」という本を紹介しましたが、本日紹介する「新しい世界」は数十年後の未来予測ではなく、アフターコロナの時代、予測不可能な大転換の時代を生き抜くために、私たちは何を為すべきか、今を時めく世界の賢人16名が熱く語ってくれています。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスパンデミックによって、世界中がパニックに陥り、思考停止の状況にもなりました。しかし、同時に、未曽有の危機的状況で、コロナという人類共通の問題に世界中が一丸となって取り組む姿勢を見せています。問題はコロナだけではありません。資本主義の行き詰まり、拡大する格差、地球規模の環境破壊など、パンデミックを奇貨として、これらの問題にも一致団結して立ち向かおうとする姿勢を生み出しています。そこには一抹の希望があります。アフターコロナの時代、ニューノーマルの時代は決して悲観的なものではありません。

この書は、世界最高の知性と洞察力を兼ね備えた16名の「21世紀の賢人」が、それぞれの専門分野の立場から「世界の今」を分析しつつ、「世界のこれから」について論じています。

1.私たちが直面する危機 ― ユヴァル・ノア・ハラリ

  マクロの視点から人類の歴史を叙述した世界的ベストセラー「サピエンス全史」と「ホモ・デウス」の著者で、ヘブライ大学教授のハラリが、仏誌「ル・ポワン」のインタビューに答え、新型コロナウイルスが社会にもたらす変革について分析したもの

  • 我々は歴史の渦に入った。
  • 我々は新しい世界を生きることになる。
  • 人類は、この21世紀の初めに、核戦争や生態系の崩壊、テクノロジーの変容といった実存的脅威にさらされていますが、こうした問題に対処するのにヒステリーは役に立ちません。それよりも過去の成功体験を正しく評価することー病院、教育、ごみ処理施設、情報の発達など、先行世代が我々に残してくれたものに感謝することーのほうが、集団的物語を構築するためのより適した基礎になるでしょう。それから、我々が直面している危険や、それに対処する際にわれわれが果たす役割を誠実に把握することが重要です。我々の世代はコロナウイルスだけでなく、経済危機にも直面しています。この責任から逃れるべきではありません。最後に、グローバルな連帯を信じる必要があります。私たちが直面している主要な問題のどれ一つとして、一国だけでは解決できません。グローバルな問題にはグローバルな解決策が必要なのです。

2.パンデミックがさらす社会のリスク ― エマニュエル・トッド

  ソ連崩壊、リーマンショック、イギリスのEU離脱を予言し、世界にさまざまの警鐘を鳴らしてきたフランスの歴史人口学者のトッドは、「コロナ時代をどう見ているのか?」仏誌「レクスプレス」のインタビュー記事。

  • 新型コロナウイルス感染症が地球全体をスキャナーに欠けて特権や力関係を浮き彫りにしている。
  • これまでの体制で罪を犯した人たちが、今も体制に残っているわけですが、その人たちが反省したのを信じろというのでしょうか。それではあまりに安易です。無処罰はもう終わりにしなければなりません。見せしめには拘禁刑や罰金が必要です。フランス社会にはモラルが必要であり、罰則なしにモラルはあり得ないのです。これは単に原則の話ではありません。今のフランスには社会が暴発するリスクがかなりあるのです。フランス国民は自国の指導者が自分たちを守れないことをわかっています。政権が広報手段を握っていることをいいことに、今後もあることないことを言い続け、経済の問題を何とかしようとしないなら、次に起こるのは「礼節をわきまえた階級闘争」ではなく「市民同士の戦争」です。

3.危機を乗り越えられる国、乗り越えられない国 ― ジャレド・ダイアモンド

  新型コロナウイルスの蔓延、東京五輪の延期、首相の交代、上げきれないほどの事件が日本で起きている。私たちは、この難局を乗り越えられるだろうか? 「銃・病原菌・鉄」などの著書で知られるダイアモンド博士が、「危機を乗り越えられる国、乗り越えられない国」をテーマに米メディア「ノエマ」のインタビューに答えたもの

  • 一国が危機を乗り越えるうえで重要なのがナショナル・アイデンティティ国民意識)です。今回の危機で学べることがあるとすれば、この危機を通して人類がグローバル・アイデンティティを築ける可能性が出てきたということです。新型コロナが人類全体の問題と気づければ、気候変動や資源の枯渇、格差の拡大、核兵器のリスクといった問題も人類全体の問題と気づき、人類全体で課題に取り組める可能性があります。
  • 歴史的転換点を迎えたときの「国家の指導者の資質」も、国家が危機を乗り越えられるかを左右する重要な要因です。難局に強い国はドイツです。ドイツは現実的でまともな自己評価ができ、ナショナル・アイデンティティもあり、地政学の趨勢に自国を合わせていけるのです。
  • 日本の足を引っ張る大きな要因はいくつかります。一つは、ドイツと異なり、韓国や中国と意義深い和解ができていないということ、敵対関係が今も続いていることは危険に思えます。近代社会における女性の役割をまだ受け入れられていないところも日本の特徴です。人口が減っている国で、誰が保育や介護を担うのか、誰かが担ってくれなければ女性は仕事に復帰できません。移民を受け入れないことも問題です。
  • 明治維新の時には現実的な自己評価ができていましたが、戦前・戦後の日本では現実的な自己評価ができていません。大事なの一国の統治に関わる人たちの世界観が「世界を知ったうえで、作り上げられたものであるべき」ということです。自分たちの思考傾向に都合のいい世界観になっていては駄目なのです。井の中の蛙では痛い目に遭います。

4.ポピュリズムと「歴史の終わり」ー フランシス・フクヤマ

  主著「歴史の終わり」でソ連崩壊を民主主義や自由経済の勝利と位置づけ、今後は共産主義かリベラルな民主主義かといったイデオロギー闘争はもう行われないと、その意味で「歴史は終わった」と宣言し、大きな注目を集めた日系のアメリカの政治学フクヤマが「ル・ポワン」のインタビューに応え、新型コロナウイルスと民主主義、国家について語ったもの

  • 政治体制とパンデミック対応の質との間には相関関係はないと思います。中国だけは例外で、うまく対処できているように見えますが、発表された数字には疑念が残りますし、ウイルスが領土外に拡散するのを放置しました。民主主義体制の国でも、韓国、ドイツ、北欧諸国などは上手く対処できています。
  • 相関関係を見出すとすれば、アメリカ、ブラジル、メキシコ、ハンガリーなどポピュリストの指導者に率いられたポピュリスト国家が対応に手間取っているということです。
  • パンデミック対応の明暗を分けたのは、国家の力です。すべては公衆衛生と緊急事態に関わる対策をとる国家の能力次第ですが、国家や指導者、その賢明さに人々が寄せる信頼次第でもあります。
  • 今回のパンデミックが明らかにしたのは強力な国家への欲求です。しかし、より強権的な体制の誘惑に負けて自由主義モデルを放棄したりはしないでしょうが、ともかく、自由主義社会保障、そして国家介入のバランスの修正は必要です。
  • 国家が生き残る為には、専門家、公益に身をささげる公正な人間、彼らに見mを傾け最終的に決定を下す指導者が必要だということです。

5.コロナ後の世界経済の羅針盤 = ジョゼフ・スティグリッツ

  2001年にノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学スティグリッツ教授にフランスの日刊紙「フィガロ」がインタビューを行ったもの

  • 今回の新型コロナの危機の特徴は、需要と供給の両面でまさに暴落状態だということです。政府は対策に乗り出し、アメリカ政府は2兆ドルを超える財政支出を決め、戦時を除けばいまだかつてない財政出動です。
  • この危機の特徴は、公衆衛生と経済を分けて考えてはいけないということです。問題なのは、一番弱い立場にある人たちに支援を届ける能力が足りていないということです。
  • 経済回復はⅤ字回復ではなくU字回復になるはずです。新型コロナの今後がどうなるか分からないので、各世帯は支出に慎重になり、お金を貯蓄に回すようになります。消費は減り。それなりの期間、需要は回復しない見込みです。
  • 巨額の財政出動の結果、どの国でも債務残高が膨れ上がっていますが、利回りが低いのでそれほど懸念することではありません。このパンデミックから本当に抜け出したときに、消費意欲が戻ってくることが想定されるので、その時物価上昇の圧力がかかる可能性があります。この時のお金の流れをうまく利用して大きな政治課題に取り込むべきです。富裕層に税をかけて格差を是正したり、炭素税を導入して環境問題に取り組んだりできるはずです。

6.「反脆弱性」が成長を助ける ― ナシーム・ニコラス・タレブ

  「ブラック・スワン」でリーマンショックを予言したタレブですが、彼が、巨大で予期せぬ衝撃に耐える力として提唱するのが「反脆弱性」というコンセプトです。タレブ本人が仏誌のインタビューに答え、分かりやすく解説したもの

  • 脆弱性を「無秩序を嫌うもの」と定義すると、その対極にある「反脆弱性」についても定義できます。あえて言えば、「無秩序を糧とする独特のしなやかさ」のことです。簡単な例で言えば、もし体をストレス要因に全く晒さないでおくと、弱って年齢よりも早く老化してしまいます。あらゆる組織はストレス要因を通して、環境と繋がっているのです。経済も、企業経営も小さな衝撃を必要としているのです。森の中で小さな火事が起こらないようにすると、その間に燃えやすい物質が堆積し、将来、大火事が起こった時に被害が大きくなってしまいます。
  • 金融の過度の安定によって小さな不況が起こらなくなると、業績の悪い企業が再編される機会を失い、収益が安定しすぎている企業も改善なく、最終的に倒産する危険が高まります。何らかの限定的な小さなショックが必要なのです。
  • 「反脆弱性」のあるものは「ブラックスワン」と呼ばれる巨大で予期せぬ衝撃に、うまく持ちこたえることができます。私たちの成長を助け、強くしてくれる小さなリスクと、身を守らなければならない巨大で極端なリスクを区別する必要があります。極端なリスクにはパラノイア的に警戒し、有益な小さなリスクを取るのです。

7.ITソリューションの正体 ー エフゲニー・モロゾフ

  新型コロナの危機を乗り越えるために、これまで以上に「ITソリューション」に大きな注目が集まっています。だが、一見して便利な対策が、希望の未来ではなく、最悪の事態へとつながりかねない。「コロナとIT対策の盲点」についてテクノロジー評論家のモロゾフが警鐘を鳴らす。

  • 新型コロナにより「ソリューションニズム」が台頭してきた。これは「他の選択肢も時間も財源もないから、デジタルの絆創膏を貼ることくらいしかできない」と考える思想だ。ソリューショニズムの信者は、テクノロジーを使えば、政治に首を突っ込まなくて済むと考える人たちで、「イデオロギーを超越した」政策を推進し、グローバル資本主義の車輪を回し続けることに精を出している。
  • 感染防止のための2種類のソリューショニズムがある。一つは「進歩的なソリューショニズム」でアプリを使って、正しい情報を適切なタイミングで知らせれば、人々の行動を変え、公共の利益を損なわずに済むという考え方だ。もう一つは、「懲罰的なソリューションニズム」で、デジタル資本主義の巨大監視インフラを使って、私たちの日々の行動を制限し、それに背く人には懲罰を加えるというものだ。
  • 真に怖れるべきことは、今回の危機をきっかけにあるとあらゆる問題にソリューショニズムのツールを使うことが標準になってしまうことだ。ソリューショニズムのテクノロジーを使って個人の行動を規制するように影響を与える方が、難しい政治問題と格闘しながら危機の原因を取り除く方が簡単だが、それでは公共の想像力がますます縮むことになる。
  • 問うべきは、「社会主義か、それともネオリベラリズムか」というように、どのイデオロギーが、競争がもたらす力をうまく活かせるかということではない。どのような制度があれば、デジタル・テクノロジーがもたらす新しい協働のかたちやイノベーションをうまく活かせるのかということだ。

8.スクリーン・ニューディールは問題を解決しない ー ナオミ・クライン

  ジャーナリストのクラインが、シリコンバレーが新型コロナ危機に乗じて、リモート学習やオンライン診療などの非接触型テクノロジーを拡充し、「人間をマシンに置き換える」構想を加速させていると、「スクリーン・ニューディール」の到来に警鐘を鳴らしている。

  • 今の危機が示しているのは「コロナ以前の日常」に戻る必要はないということです。コロナ以前に戻したところで、監視は益々強化され、スクリーン画面はますます増え、人と人との接触は希薄になります。これでは、人の温もりを失います。
  • 私たちが「日常に戻る」というアクセルを力任せに踏み込むたびにウイルスは勢いを盛り返しています。「もっとスピードを落とせ」と言っているようです。パンデミックが私たちの生活にもたらしたものの一つは「優しさ」です。これまであくせくしていた社会のスピードがゆっくりになれば、色々なことを感じられるようになります。他の人に共感を覚えるようにもなります。
  • パンデミックの今だからこそ、「グリーン・ニューディール」(温暖化対策と格差是正を目的とした経済刺激策)を行うべきです。何故これを支持するかと言えば、不況に強いからです。グリーン・ニューディールの重要な点は、史上最大の経済危機のさなかに生まれた史上最大級の経済刺激策、フランクリン・ルーズベルトニューディール政策をモデルにしていることです。社会が大きな変化を遂げるのはぢ不況下戦争の時ぐらいです。歴史的に見ても大きな変革が起きた瞬間を振り返れば、まさに今のような状況に起こっています。今こそそのチャンスです。

今日は、全16人のうち半数の8人の教え、考えに触れました。残りは後日紹介することにします。

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