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片隅の変人(PD)を真似ることで組織変革につながる

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で822人、そのうち東京187人、神奈川56人、埼玉60人、千葉97人、愛知31人、大阪79人、兵庫23人、福岡15人、北海道50人、宮城42人などとなっています。検査数の少ない休日のデーターで減少しているように見えますが、先週に比べれば増加しています。横ばいからリバウンドしてきていると言っていいように思います。緊急事態宣言解除を受け、各地の人出は増加し花見を行っている人もいます。2週間後、3週間後が心配です。

さて、今日は東洋経済オンラインの「成果を出せない『コマドリ』組織の残念な思考」という記事を取り上げます。

この記事は、組織改革が失敗に終わる原因や探し出したPD(最悪の状況で成果を上げている逸脱者)の行動特性を組織で共有するためのヒントについて、神戸大学大学院の原田勉教授が解説したものです。

1.悪名高い密輸商人は、なぜ捕まらないのか?

 トルコ民話の登場人物、ナスレッディン・ホジャは悪名高い密輸商人。ホジャは藁を詰め込んだ鞍袋を背負ったロバの隊列とともに定期的に国境を行き来し、裕福になっていきます。税関吏は密輸品があると疑い探しますがどうしても見つかりません。密輸品はロバなのです。

 見えるはずなのに見えないもの、私たちの身の回りはこのようなもので満ち溢れています。なぜ見えないかと言えば、私たちは「思い込み」「常識」「暗黙の前提」など、いわゆる「メンタルモデル」と呼ばれるものを持っているからです。このメンタルモデルは、日常では効率的な意思決定を可能にする一方で、新たな問題に直面したした場合、税関吏のように「見えるはずなのに見えないもの」を作り出します。それによって問題の解決を困難になるのです。

 原田教授は、「この『見えるはずなのに見えないもの』が実は組織変革のカギになる」と言います。

 ゼロベースの抜本的な組織変革は、トップダウンで実施されるもので、トップが組織変革に対する正解を持っていることと技術的問題に限定されるという条件で、うまく機能します。しかし、適応課題と呼ばれる人間の行動変容を要する問題の場合、人間の感情が複雑に絡むので、論理的・機械的に因果関係を特定し、原因を特定することはできません。この場合には必然的に多くの関係者の行動変容が必要なため、トップダウンで行おうとすると組織に混乱をもたらし、問題をさらに悪化させることになります。

2.片隅の変人=ポジティブな逸脱者

 この適応課題に有効なアプローチは、ポジティブデビアンス(PⅮ)と呼ばれるものです。PⅮと言えば、「片隅の変人」のことです。片隅というのは、身近なところにいて、置かれた状況や才能、資質の点で他の人たちと何ら変わるところがないという意味です。しかし、ある部分において他者と異なるところがあり、ポジティブな方に逸脱しているのです。ですから、いい意味での変人です。

 原田教授は「この『片隅の変人』の行動に着目して、それを模倣することが組織やコミュニティの変革につながる」と言います。

 ここではボリビアケチュア族の子供たちの成長障害という問題が例として挙げられています。貧しい家庭の中でも、成長障害の子供がいる家庭といない家庭があります。スープに入っている食材や食事の量も変わりません。スープのすくい方に違いがあったのです。鍋の表面しかすくわなければ子供たちは具材を食べることはできません。ケチュア族には、具材は労働に従事する大人が食べるものとの暗黙の前提、メンタルモデルがありました。成長障害の子供がいなかった家庭は、子供にも鍋の底から混ぜてすくっていたので子供も具材を食べることができていたのです。ケチュア族では、片隅の変人と言っていいPⅮ家庭では成長障害は起こっていなかったのです。成長障害を解決するカギは新たな食糧支援による栄養補給ではなく、今ある食事の中でのスープのすくい方を変えるという簡単なことにあったのです。

3.「見えるはずなのに見えないもの」に気づけない。

 先ほどのPⅮ家庭の母親たちは、自分たちが特別のことをしているという自覚もありません。このようなスープの注ぎ方の違いに注目するというのは、保健専門家や栄養士には難しかったと思われます。彼らは栄養や衛生状態に着目するように訓練されており、それがメンタルモデルを形成しているからです。彼らは、「見えるはずなのに見えないもの」に気づくことができず、大規模な栄養補助食の支援という技術的な問題を提案しました。しかし、この方法では、支援がされている期間は上手くいきますが、支援が打ち切られると元に戻ります。

重要なのは、問題があるにもかかわらず、それをうまく回避している片隅の変人がいるということです。このような片隅の変人を特定し、その行動特性を明らかにするのがPⅮあぷろーちで、「見えるはずなのに見えないもの」に気づくことがカギになります。そのためには、問題を顕在化させる構造に着目するのではなく、その構造を生み出す行動やメンタルモデル自体に焦点を当て、それをPⅮ行動と比較することで違いを見出すことが求められています。

4.コマドリカササギ

 PD行動の特性が明らかになったとしても、それを再びトップダウンで普及しようとすれば失敗します。人間は強制されると反発するからです。新たな行動が業績向上につながることが明らかになれば、人は自発的にそれを採用するようになります。

 ここで挙げられているのが、コマドリカササギの行動特性の違いです。

 コマドリは非常に縄張り意識が強く、比較的孤立して生息しています。その鳴き声は、常に自分の縄張りを主張しています。コマドリとは対照的に、カササギは非常に社交的で、知性を活用しています。

 19世紀後半の英国では、酪農家は顧客の玄関先に置かれた容器にミルクを注いで配達していました。しかし、鳥がこのミルクを盗るようになり蓋が付けられました。少数の賢い鳥がくちばしでつつくと蓋を突き通せることを発見します。この方法はカササギの間では大いに広まり、ほとんどのカササギがこの方法でミルクを盗りました。一方、カササギの行動を見て一部のコマドリは真似しましたが、この方法はコマドリ全体には広がることはなかったのです。

 PDの行動特性が発見されても、コマドリのような集団ではそれが普及することはありません。それを普及させ組織改革につなげるには、カササギの叡智が必要になります。それは社会的な協調であり、決してトップダウンによる押し付けではありません。組織改革に必要なのは、より協調的なボトムアップアプローチなのです。