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休日の本棚 蔦重の教え

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で2763人で、そのうち東京440人、神奈川133人、埼玉163人、千葉105人、愛知145人、大阪613人、兵庫174人、京都68人、福岡39人、沖縄103人、北海道57人、宮城116人などとなっています。全国的に感染者が増加し、分科会の尾身会長は「第4波に入りつつある」という見解を示しました。また、関西圏で拡大している変異株と首都圏での変異株とは異なるようで、関西圏ではイギリス由来の変異株で感染力が強いのに対し、首都圏ではイギリス型・南ア型とは異なる種類の変異株でワクチンが効かない可能性があるとのことです。検査体制を強化して正確な状況を把握する必要があると思います。

さて今日は、車浮代著「蔦重の教え」(双葉文庫という小説を紹介します。

蔦重というのは蔦屋重三郎のことです。蔦屋重三郎(以下「蔦重」と言います)は江戸時代の版元で、朋誠堂喜三二、山東京伝らの黄表紙・洒落本、喜多川歌麿東洲斎写楽らの浮世絵を出版したことで知られています。東洲斎写楽と言えば、約10カ月という短い間に150点近い作品を生み出し忽然と姿を消した浮世絵師で、この謎多き浮世絵師の正体についてはミステリーと言ってよく面白いですが、この話は、後日にします。

本日紹介する「蔦重の教え」は、依願退職を迫られた55歳のサラリーマン武村竹夫(タケ)が、酒に酔って稲荷神社の鳥居に放尿しお稲荷さんの怒りに触れて江戸時代にタイムスリップするところから物語が始まります。なぜか20代に若返っているタケを拾ってくれたのは、吉原大門の前に店を構える蔦重でした。タケは、無名時代の喜多川歌麿らを同僚として見も知らない江戸の社会で懸命に働きます。蔦重の叱咤激励はべらんめい口調で口は悪くとも人間の本質をついていて思わずメモと取りたくなるものばかりです。蔦重の言葉がタケを成長させていきます。

この本の中で、蔦重はタケに、まず「あがり」を設定し、「あがり」へ向かう方法を組み立てていくことを説きます。蔦重は、「あがり」へ登る梯子を綿密に設計し、他所と大差ない踏み子の数でより高みに到達するように工夫します。蔦重はより高い「あがり」を目指して妥協しないものの常に費用対効果を考えています。

それではこの本の中で語られている蔦重の教えを見ていきましょう。

  • 物事を逆から考える・・・「人生を逆から考えりゃあ間違いねえ。確実に当たりが分かるってのを喜ぶ野郎もいるだろうが、おれにとっちゃあそんなもん、面白くもなんともねえ。」
  • 人生は知恵比べ。考え抜いた方が勝つ・・・「知恵を絞った奴に騙されたんなら、引っかかった方が負けなんだよ。騙されて悔しけりゃ、知恵を絞って騙し返せばいいし、でなきゃあ二度と騙されないように用心すりゃあいい。」「知恵ってもんはよ。『あがり』に行くためだけじゃなく、騙されて『ふりだし』に戻らねえためにも絞るもんなんだよ」
  • 付加価値を高める・・・吉原細見の超数を半分医師、浮いた紙の仕入代や手間賃を使って、美しい絵柄のついた、細見を入れる外袋を作りました。すると、最初は細見を馬鹿にしていた江戸っ子たちも中身ではなく袋欲しさに細見を買うようになりました。
  • 情報収集を怠らない・・・「商売柄、世間の評判は常に耳に入れておきたいんでな。俺は出かける先々で、できるだけ色んな町の湯屋に行くようにしている」
  • 相手に期待をかけて頑張らせる・・・「つまり蔦重はあなたに『できる』という期待をかけて問いかけたわけですから、あなたは期待に応えるべく、何とかしなければと思わされてしまったのです」
  • 気に合わない人間ほど丁寧に接する・・・「気心が知れないからこそ、用心されているのでございます。相手の意に添わぬことをして、隙や借りを作りたくないというのが一つ。また必要以上に丁寧に接しなければ、敵視されることも、今以上に親密になることもなくて済みます。つまり『他人行儀』という幕を張って相手との距離を保つのです。更にもう一つ、大きな理由があります。接待名人の蔦重と気が合わないというのは、何かしら癖のある相手であることが多うございます。そういう方は、たとえ本人がどうあれ、思わぬ大人物と繋がっている可能性が高いと考えられます」
  • 断る可能性が高い誘いはすぐに断る・・・「回答を引き延ばせば延ばすほど、いざ断った時に、相手は自分が何か後回しにされたと気分を害するものでございます。礼を尽くしたうえですぐに断れば、相手は他意を感じることもなく、本当に都合が悪いのだと思ってくれますから、失礼には当たりません」
  • 進言は素直に聞く・・・あなたのためを思って、根底に”情”があるゆえの行いなのではありませんか?私もそのことに気づくのに遅れたために…最初から素直に蔦重の進言を聞いていれば、私が世に出るのに、五年もかからなかったでしょうに」
  • 世の中のすべての人を悪人だと思え・・・「周りをすべて悪人だと思えば、甘えが消え、人に騙されなくなります。また、善人に会って親切にされたときには、期待していなかった分、感謝の気持ちが何倍も膨れ上がります」
  • わざと厳しく叱る・・・「そこまですることはないというほど叱ったからこそ、あなたに同情し、かばう人が現れたのでございます。それに、使用人を厳しくしつけているという、蔦重の信用にもつながりますからね」
  • 己の天分を知ったうえで仕事に活かす・・・「天分ってのは、お天道さんが与えてくださった才覚だ。俺はそいつを大事に使えねえ奴は嫌えだ」
  • 人は得意なことで失敗する・・・「天分に甘えちゃならねえ。人ってのはたいがい、得意なもんや好きなもんで大きな失敗をするもんだ。好きだとか、得意だからできて当然だと思ってなめてると、足元をすくわれて痛い目を見ることになる」
  • 悪い予感は天からの忠告と心得、なおざりにしない・・・「何かが変だと感じるときや悪い予感がするときがあるだろう?ありゃあお天道さんが”気ぃつけろ”っておしえてくださってるんだよ」
  • 三方向から見る目を持つ・・・「実際にてめえが見ている眼と、相手からてめえがどう映っているかってえ目、最後に、天から全部を見通す鳥の目だ。この三方から物事を見りゃあ、失敗しないし、騙されねえし、新しい考えも湧くってもんだ」
  • 好きな仕事で人の役に立つ・・・「てめえが好きでやっている仕事が人に喜んでもらえるなんてよ、こんな目出てえことはねえと俺は思うぞ。それこそ、天分を活かす、ってやつだ」
  • 「あがり」を定めて人生を逆算し、梯子をかける・・・「てっぺんに行くためにはいつまでに何をしなきゃなんねいかってことを『あがり』から逆に考えてって、支柱に梯子をかけるんだ。あとはほら、よそ見をせずまっすぐ上を見て、下から順に梯子を上って行きゃあ、必ず『あがり』にたどり着くって寸法だ」
  • 根回しをする・・・「世間様が俺の策に乗っかかるかどうかは歌麿の人気次第だ。そのため、歌麿の価値を上げるべく、お歴々や北尾重政の力を借りて、しっかりと根回ししてきたんだ」
  • 目標を持つ・・・「俺はよ。出版の可能性をもっと広げてえんだ。そのためには読んだり見たりする側の人間を増やさなきゃなんねえ。小難しい本ばかりじゃなく、女子供や字が読めねえ奴らにも楽しめるもんを作らねえとな」
  • 時代の流れに気を配る・・・今の美人画の潮流は北尾派から鳥居派に移っている。今歌麿が打って出たところで、鳥居清長を脅かすにゃいたらねえ。世間がもっと、清長の美人画を見飽きてからじゃなきゃ駄目なんだ」
  • 万物と先祖、未来に感謝する・・・『お陰様』に感謝するということは、目の前にいる人だけでなく、その人を形成した親や先祖、八百万の神々に感謝するということで、『今日様』に感謝するということは、この瞬間から始まる未来に感謝するということだ。
  • 知識ではなく経験で語る・・・「やりもしねえで、知ったようなことを抜かすんじゃねえ」は蔦重がよく使う小言の一つだが、まさしくその通りだと思う。人は知識を振りかざされると反発するが、経験で諭されると得心が行くものだ。
  • 約束を守り、相手の信用に報い続ければ信頼される・・・「あの方にあれだけ人望があるのは、約束は必ず守る、というその一点を貫かれているからでございます」
  • 何かを捨てなければ、新しい風は入ってこない・・・「何かを捨てりゃあ、空いた隙間に新しい何かが入ってくるもんだ。そうやって風を起こさなきゃあ、いつまでたっても運は回らねえぜ」

新型コロナ過で未曽有の危機に見舞われ、これまでの日常が奪われ、さまざまな計画が白紙になり、すごろくで言えば「ふいだし」に戻ってしまったように思います。困難な時代を乗り切るためにも、蔦重の教えのように、再び「あがり」設定し「あがり」に向かう梯子を綿密の設計しなければならないように思います。

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