休日の本棚 Personal MBA
おはようございます。
昨日の新規感染者は全国で4684人、そのうち東京698人、神奈川240人、埼玉146人、千葉192人、愛知290人、大阪1043人、兵庫333人、京都126人、福岡305人、沖縄59人、北海道187人などとなっています。検査数の祝日の数字としてはかなり多いと思います。政府は、高齢者への2回目のワクチン接種を終える時期を7月末へ前倒しして計画を作成するように各自治体に通知しましたが、2月からスタートしている医療従事者へのワクチン接種で、2回接種の医療従事者は20%に過ぎず、日本のワクチン接種が遅れていることが鮮明になっています。こうした状況で高齢者への接種計画が順調に進むとは考えられません。元々はワクチン接種を完了して東京オリンピックという流れでしたが、尾身会長が言うように、オリンピック開催の是非について真剣に議論する時期に来ています。私自身は中止しかないと思っていますが、無理やり開催してよいことは何もありません。世界中が新型コロナとの熾烈な戦いを続けている中、いまだに開催できると信じ(?)開催ににこだわり続ける日本政府はまさに裸の大様です。今は早急に中止を決定して新型コロナ対策に全力を注入すべきです。無理にオリンピックを開催して感染拡大が長期化すればそこでの経済損失はオリンピックを開催しないことでの経済損失を大幅に超えてしまいます。政府や組織委員会は勇気をもって「中止」という決断をすべきです。菅首相はオリンピック開催で支持率を上げ秋に解散総選挙と目論んでいますが、逆に中止決定で支持率は上がると思いますが、どうでしょうか。
さて、今日はジョシュ・カウフマン著「Personal MBA」(英治出版)という本を紹介します。以前「10日で学ぶMBA」という本を紹介した時にも書きましたが、MBA不要論やMBA有害論も根強くあります。MBAがブームとなり、多くのビジネススクールが乱立し、十分な教育も行わないままMBA学位を与えるだけのようなところもないわけではありません。また、学費も高額化しています。ビジネススクールが乱立し、毎年多くのMBA学士取得者が生まれるようになると、MBAのありがたみはそれほどありません。むしろ、MBA学位を取得しているかどうかではなく、MBAで教えられるような知識を有しその知識を実務で活かせる能力を有しているかということが重要です。
MBA(Master of Business Administration)は資格ではなく、単なる学位です。経営学の大学院修士課程(ビジネススクール)を修了すればもらえます。大学を卒業した人がすべて優秀かというとそうでないのと同様、MBAを持っている人がすべて優秀というわけではありません。
著者のカウフマンは、何千冊ものビジネス書を数百のビジネスプログを読み、独学で高いビジネス能力を身につけていきますが、MBA学位を取得していません。
カウフマンは、ビジネス書の体系化とP&Gでの実務経験を基に、独学でMBA級の能力を習得することを目的とした「Personal MBA」というウェブサイトを立ち上げます。このウェブサイトはウェブ上で精査された後、書籍化されました。それが本書です。今ではスタンフォード大学やニューヨーク大学をはじめとするビジネススクールでテキストとしても使用されています。
MBA学位が必須の職種に就きたい、MBA学位取得が目的という人はビジネススクールに通ってMBA学位を取得するしかありません。しかし、多くの人にとってはMBA取得は将来の目標・目的達成のための手段にしか過ぎないはずです。MBA取得は戦術であり、それを使ってその先の何か大きな目的を達成したいと考えているだけでしょう。
また、NBAの取得に対して、距離・時間・経済的といった制約がある人も多いと思います。それならば、「パーソナルMBA」も一つの選択肢となります。ここで得られた知識を実務で使いこなせるようになれば、MBA取得者と遜色はありません。
ビジネスの要素は「ヒト」「モノ」「カネ」とそれらを統合する「戦略」に分類できます。ビジネススクールではこれらを基に、マーケティング、アカウンティング、組織的行動、定量分析、ファイナンス、オペレーション、経済学、経営戦略などを学ぶことになります。この本では、栄養科学、生理学、脳科学やシステム思考といった一見するとMBAに無関係と思える分野も扱われています。実際のビジネスにはこうした事柄も重要であるというカウフマンのP&Gでの経験が生かされているのです。
本書の章立ては次のようになっています。
- 第1章 本書を読む理由
- 第2章 価値創造
- 第3章 マーケティング
- 第4章 販売
- 第5章 価値提供
- 第6章 ファイナンス
- 第7章 人の心を理解する
- 第8章 自分とうまく付き合う
- 第9章 他の人々とうまく協業する
- 第10章 システムを意理解する
- 第11章 システムを分析する
- 第12章 システムを改善する
第1章では「本書を読む理由」が語られています。
カウフマンは「『パーソナルMBA』は、物事をやり遂げる時に活用できる、一連の基礎的なビジネスの概念だ。本書を読めば、実用的なビジネス知識の基礎を身につけることができる。基礎知識をしっかりと習得すれば、最も難しいビジネス上の目標さえ驚くほど簡単に達成できる」と言っています。
更に、「ほとんどのビジネス書は答えばかりを教えようとする。これをするためのテクニック、あれをするための方法、というように。この本は違う。この本では答えを与えない。それよりも、より良い質問をするのに役立つはずだ。どのようなビジネスでも、何が極めて重要かを知ることが、ビジネス上の意思決定をうまく行う第一歩となる。現状で行うべき基本的な質問をたくさん知れば知るほど、前進するために欠かせない答えをより早く見つけられるようになる」
「ビジネススキルの向上には、何もかも学ぶ必要はない。基礎を習得すれば、驚くほど広範囲のことが分かるようになる。本書では、ビジネスの基本原則をすぐに学べる形にして、実用的なこと、つまり重要なことを想像し、注意を喚起し、より多くの取引をまとめ、より多くの顧客に対応し、宣伝活動を行い、より多くのお金を儲け、世の中を変えることに、時間とエネルギーを集中できるようにする」
とも言います。
本書は、できるだけ迅速かつ効率的に、ビジネス慣行の基礎を教えることを意図し、大まかに言えば、次のような内容になっています。
1.ビジネスの仕組み
成功しているビジネスは、大概①価値あるもの、つまり②他の人々が欲しがったり必要としたりするものを、③彼らが支払ってもかまわないと思う価格で、④顧客ニーズや期待を満たす方法で提供し、⑤そのビジネスからオーナーが業務を続けることに価値を見出せるだけの収益がもたらされます。第2章から第6章で紹介される概念は、あらゆるビジネスの仕組みと結果を改善するための手段について説明しています。
2.人々の動き方
すべてのビジネスは人々が生み出すもので、それが他の人々に役立つなら存続していきます。ビジネスの仕組みを理解するためには、人々が、どのような意思決定をし、それを実行し、他の人々に伝えるかについて、きちんと理解する必要があります。第7章から第9章までは、心理学の主要な概念を紹介し、人間の心は世の中でどう対応し、どうすればもっと効率的に働くことができ、どのように職務上に人間関係を築き強化していけるかについて解説されています。
3.システムの仕組み
ビジネスは、産業、社会、文化、政府などのさらに複雑なシステムの中に存在する多数の変動要素を含んだ、複雑なシステムです。第10章から第12章では、複雑なシステムの働きについて理解を深めつつ、既存のシステムを分析し、想定外の結果を招くことなく改善する方法を見つけられるようにすることを目的としています。
本書では、⑴マネジメントとリーダーシップに関する詰め込み型の知識、⑵財務と会計の詳細 ⑶定量分析については取り上げられていません。
⑴マネジメントとリーダーシップに関する詰め込み型知識を取り上げない理由として、「マネジメントとリーダーシップはビジネスの実践場面では重要だが、ビジネス教育の究極の目的ではないから」と言います。確かなビジネスの知識なしに、マネジメント魯リーダーシップについて積み込め式に教えても、間違った目的の達成に向けて、チームを組織し導くことにもなりかねません。ビジネスの目的はお金を払ってくれる顧客に価値あるものを提供することで、マネジメントやリーダーシップはそのための手段にしかすぎないのです。第9章で、効果的なマネジメントとリーダーシップの基礎については言及されています。こうした基礎を前提に実務で積み重ねていくものです。
⑵財務と会計については、資金管理の方法が第6章で取り上げられていますが、管理会計と財務分析のノウハウについては他の本で勉強することが求められています。
⑶定量分析についても、統計や定量分析は適切な使い方をすれば有用なスキルですが、解析方法そのものの使い方は状況によることから本書の対象外とされています。
本書の読み方について、カウフマンは「最初から最後まで読み通す必要はない。大まかに目を通せば、より少ない労力でより良い結果が得られる。定期的に本書を読み、気になった項目があれば、2,3日間、その概念を仕事に適用してみるとよい」と言っています。
本書には、ビジネスに必要なことが分かりやすく書かれています。472ページにも及ぶ大書ですが、カウフマンが言うようにすべてを読み通す必要はありません。気になったところに目を通せばいいのです。マネジメントにしろ経営学は実学です。学んだことを使いながら、何がうまくいき、何がうまくいかないかを検証していくことで身についていくものです。「読んで終わり」ではありませんし、それではもったいないです。この本で学んだことを実践することが大切です。