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休日の本棚 1枚のシートで経営を動かす

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で5040人、そのうち東京602人、神奈川269人、埼玉181人、千葉126人、愛知616人、大阪406人、兵庫229人、京都86人、岡山105人、広島168人、福岡310人、沖縄231人、北海道658人などとなっています。また重症患者は1303人と過去最多となっています。東京・大阪などに減少傾向がみられる中、北海道・愛知・沖縄が危機的状況にあります。これはGW中に首都圏などから観光客など人が流入したためだと考えられます。中途半端に緊急事態宣言の地域を限定したために人流を抑制できなかったツケが回ってきたと言わざるを得ません。全国民へのワクチン接種が終了するまでしっかりとした感染防止策を徹底していくよりほかはありません。

さて、今日は宮田矢八郎著「一枚のシートで経営を動かす」(ダイヤモンド社を紹介します。この本の副タイトルは「財務分析で成長エンジンを見つける経営指導の新手法」となっています。

著者の宮田氏は産業能率大学経営学部教授ですが、中小企業金融公庫勤務の後に大学教授となられていて、実務に対する見識も十分に持っておられるので、机上の経営理論で終わらず実務的な内容になっています。

この本では、お金を活かして使うという金融の本質から実務で役立つ具体的な知識や手法、技術が展開されています。そして、この本では、「コンサルティングシート」と銘打たれた一枚のシートによって経営改善計画を策定する方法が書かれています。要は、財務と定性要因を組み合わせて分析することによって、企業の過去、現在、未来を俯瞰するのです。

この本は、読者として企業にお金を融資する金融関係の人々や税理士、コンサルタントを予定しているようですが、経営者としては金融人がどのようなことを考えて融資を行い経営支援を行っているのかを知ることができれば、それに向けての対策を自分で取ることができるようになります。

また、財務知識だけでなく、この本では「経営学」と「人間学」の関係が強調されています。経営が分かるということは財務と経営を結び付けて理解できるということですが、最終的には現場であり、人です。昨日の事業計画策定も経営改善計画も、最後は、危機感、責任感、情熱、工夫、動機付け等人間そのものが関わってきます。根所では「経営」と「人間学」との関係だ独立の章として建てられ、詳細に説明されていることも特徴です。各章の構成は次のようになっています。

序章 企業の成長を促すコンサルティングこそ戦略領域

第1章 企業の成長を支援するコンサルティングの条件

第2章 黒字化支援のための経営理解

第3章 経営と人間学

第4章 原因と結果を結ぶ究極の経営分析

第5章 「コンサルティングシート」で企業の成長を支援する

終章 金融の本道とは何かー経営と金融と財務の視点から

序章と第1章では「黒字化コンサルティング」の概要が説明されています。

第2章では、財務と経営を相互交流しながら経営を理解することが、「経営が分かる」ということだというスタンスのもと、経営理解の実践的な知識や切り口が紹介されています。

第3章では、「人間学」に言及し、経営の成功と失敗の要因が説明されています。ここではマズローの欲求5段階説を使いながら、成功要因としての自己実現欲求に基づく行動を、他方で失敗要因としての驕り、油断、判断のゆがみを乗り越えるための「自己超越欲求」について説明されています。

第4章では、経営分析の手法、とりわけ財務要因と定性要因の結びつきに関する研究が要約されています。財務中心の分析だけでは評価の恣意性を排除できますが、将来判断がつきません。過去(原因としての定性要因)と現在(結果としての財務要因)の結びつきを把握するとともに、現在(原因としての定性要因領域の打ち手)と将来の予測(財務要因)を可能とするのが「コンサルティングシート」なのです。

第5章では、経営改良計画策定という実務に焦点を当てています。一枚の「コンサルティングシート」にまとめることで、立体的・構造的、有機的、実践的な経営理解を可能にし、実践度の高い経営改良計画の策定が可能になります。

終章では、「コンサルティングシート」という新しい提案を、経営と金融と財務という3つの視点から、それぞれに対する期待が語られています。

コンサルティングシート」の具体的内容については、この本に譲ります。

ここでは、第3章の経営と人間学について見てみます。

経営のすべての根底には人間的要因が存在します。人間的要因の劣化がありとあらゆる経営の失敗の原因といっても過言ではありません。人間がまともであればあらゆる営みは成功します。人間が歪んでいる場合、どんなに技術的卓越性、金銭的余裕があってもいずれは失敗します。

この章では、以前紹介した「稲盛経営12か条」が挙げられています。改めて12か条を書いておきます。

  1. 事業の目的・意義を明確にする
  2. 具体的な目標を立てる
  3. 強烈な願望を心に抱く
  4. 誰にも負けない努力をする
  5. 売上を最大限に、経費を最小限に抑える
  6. 値決めは経営
  7. 経営は強い意志で決まる
  8. 燃える闘魂
  9. 勇気をもって事に当たる
  10. 常に創造的な仕事をする
  11. 思いやりの心で誠実に
  12. 常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直は心で

この「稲盛経営12か条」には「売上を最大限に、経費を最小限に抑える」「値決めは経営」といった経営の言葉が並ぶ一方で「経営は強い意志で決まる」「燃える闘魂」「勇気をもって事に当たる」など稲盛氏独自の個性的な言葉があります。稲盛氏が「経営の原点」としている12か条のうち半数以上は経営以前の哲学であり人間学なのです。「強い願望」「努力」「強い意志」「闘魂」「勇気」といった言葉は稲盛氏の経験に裏打ちされた言葉で、成功の要件です。最後の2つ「思いやりの心」「明るく前向き、夢と希望、素直な心」というのは若干趣を異にし、基本的な生きるスタンスのように思えます。「稲盛経営12か条」からも分かるように、人間学が根底にない経営はあり得ません。そして、根底にある人間学が歪んでいる場合には経営も歪んで機能しなくなります。

失敗は成功の母」という言葉がありますが、逆に「成功は失敗の元」です。成功は必ずと言っていいほど失敗に結びつきます。成功は驕りを生み、驕りは油断を生みます。驕りが欲求の誤り、行動の誤りを呼び、油断が判断の誤りを生じさせ、経営においても仕事においても人生一般においても、失敗判断を指せ、とんでもない間違いへと展開します。経営領域でそうならないための工夫と仕掛けが必要で、管理レベルでの失敗を防衛する知恵と、理念レベルでの失敗を防衛する知恵が必要なのです。宮田氏は、それを「永続する経営の三要素」と呼び、①経営戦略 ②経営管理 ③経営理念を挙げています。経営戦略というのは独自領域の構築(マーケティング)と独自ノウハウの開発(イノベーション)のことで、経営管理経営管理によって人・組織と数字・財務データを組み合わせ、どこが優れ、どこに問題があるかを素早く把握して事業の全体像を知ることです。いかに精緻なっ経営管理が行われていたとしても、人間社会である限り空回りすることはありますし、管理の網目をくぐろうとする人が出てきます。そこで必要となるのが経営理念です。経営理念は動機づけの要因であり、それが本物であるためには経営者の人間的な成長に裏打ちされていなければなりません。経営者自身を動機づけできるものでなければ従業員を動機づけることはできません。経営者の人間力、その核心を表すのが経営理念です。

最初に書きましたが、この本は金融人や税理士、コンサルタントを読者として想定され、これらの人たちが企業を支援する方法として一枚の「コンサルティングシート」使って経営を動かすことを提唱しています。そうした本書の意図からすれば、ビジネスパーソンや経営者にとっては役に立たない本にも思えます。しかし、融資を担当する金融機関や経営を支援する税理士やコンサルタントがどのようなことを考えているかを知ることは経営者にとって必要なことですし、少なくとも、経営に人間学を取り入れた第3章は読む価値はあります。

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