中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 Ⅴ字回復の経営

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で3708人、そのうち東京614人、神奈川260人、埼玉105人、千葉119人、愛知383人、大阪290人、兵庫94人、京都42人、岡山59人、広島123人、福岡192人、沖縄313人、北海道423人などとなっています。全国的には減少傾向にあることは確かですが、高止まりや増加している地域もあり予断を許しません。政府は緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の延期を決定しましたが、6月20日の期限に解除できるかどうかは国民一人ひとりの行動にかかっています。しかし、延長するものの、制限が一部緩和されるようなので、どこまで効果があるかは疑問です。中途半端な宣言や対策ばかりで、結局今年に入って宣言等が出されていなかった期間は28日間しかありません。2、3週間程度の徹底的なロックダウンを行っていれば、感染拡大は抑え込めたはずです。いつまで中途半端な対策を続けるつもりでしょうか。このままでは全国民に2回のワクチン接種が終わるまでは、緊急事態宣言発令、解除の繰り返しを続けるしかありません。

さて、今日は、三枝匡著「Ⅴ字回復の経営(増補改訂版)」(日経ビジネス人文庫を紹介します。三枝氏は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の出身で、現在株式会社ミスミグループシニアチェアマン、不振企業に役員として参画するターンアラウンド・スペシャリスト(事業再生専門家)として活躍されています。

本書は、「『2年で黒字化できなければ退任します』、戦略的なアプローチを覚悟(高い志)を武器に、不振事業の再建に挑む主人公黒岩莞太が率いるタスクフォースのメンバーは、社内の甘えを断ち切り、業績を回復できるのか。実際の組織改革を素材に物語形式で書かれた不朽の名作」に対談を加えた増補改訂版です。

コロナ禍で、日本経済が疲弊し多くの企業が業績悪化に苦しんでいる中、生き残りをかけて事業の再建が急務な企業は多数存在します。辛うじて協力金や給付金で息をしているだけのほとんど瀕死の重病人と言える企業もあります。思い切った事業再構築が必要です。政府は、思い切った事業再構築を行った中小企業に対して補助金を給付する(中小企業等再構築促進事業)など積極的な支援を行おうとしています。しかし、政府から補助金を受給するにはかなり高いハードルを越えなければなりません。

Ⅴ字回復の経営」を達成するには何をしなければならないのでしょうか? この答えは本書の物語を読めばわかります。

会社を元気にするには、その会社の「戦略」を大きく組み替える必要があります。あるいは「仕事のやり方」をドラスチックに変えなければなりません。特にコロナ禍のような危機的状況においては、これしか方法はありません。この本でも書かれていますが、未曽有の危機においては、危機感をバネに「心」と「行動」を束ね、皆で一つの方向を目指して走ることです。ところが、経営が苦しくなったときに、経営者やトップは強い危機感を抱きますが、一般の社員が危機感を抱くとは限りません。むしろ社内の危機意識が低く、たるんでいるからこそダメになっているのです。

日本企業特有の社内の甘えが蔓延する中で、経営者、トップ、社員の価値観、行動を短期間で変えていくことは容易なことではありません。三枝氏は「企業戦略の最大の敵は、組織内部の政治性である」と言っています。これは、普通の社員が危機感の欠如と変化への恐れから、新しい変革に背を向け、自らの身の安全を図り、企業を変えようとする努力が社内のあちこちで骨抜きになり結果的に業績回復や体質変化を遅らせるということです。

アメリカでは経営者の行動は極めて単純で短絡的で、社内の抵抗を強権で排除します。しかし、日本の経営者は、時間をかけて会社を変革しようと試み、既存の枠組みを大きく崩さない範囲の改善に励んできました。それは問題の先送りといってよい姿勢です。ドラスチックな組織活性化は必要だと感じながらも、実際やっていることは中途半端と言うより問題の先送り、時間稼ぎにしかすぎません。上がこのようでは普通の社員は目標が見えず頑張る気にもなりません。これでは会社が元気になるはずもありません。

三枝氏は、「日本企業が米国企業のスピードに対抗しつつ、米国企業よりも人を大切にする経営を守ろうというなら、役員も社員も米国人以上に経営的技量を身につけ、熱く燃え、集中的にいい仕事をしない限り、競争に打ち勝つことはできない」と言っています。

この本は、三枝氏が実際に経験した企業改革を題材にしており、経営改革プロジェクトでしばしば登場する困難の問題がかなり網羅的に出ています。物語形式でありながら、ノンフィクションでもあり、企業変革のテキストとしても極めて有用です。

経営改革では、スポンサー役、力のリーダー、智のリーダー、動のリーダーの四人がそろわない限り、成功を収めることはできません。

本書の舞台、太陽産業では、スポンサー役(香川社長)、力のリーダー(黒岩莞太)、智のリーダー(五十嵐直樹)、動のリーダー(川端祐二)の4人です。この中で、特に重要な役割を担うのは、黒岩莞太です。彼は理想の改革者で、この人物に当てはまる者を現実の企業で見つけ出すのはほとんど不可能です。でも、自分の会社に黒岩莞太がいないからと言って改革が不可能なわけではありません。黒岩莞太の役割を複数人に演じさせればいいのです。黒岩莞太のリーダーシップが大幅に欠落している企業では、高リスクの改革を貫徹することは困難です。しかし、黒岩莞太のリーダーシップの一部を持っている人はいるはずです。例えば、社長が3割、専務が2割、事業部長が2割、企画部長が2割、営業部長が1割という風に。それならば、この5人で黒岩莞太の役割を演じさせればいいのです。

この本は成功物語です。しかし、すべてが成功するとは限りません。むしろ失敗の方が多いかもしれません。失敗しても落ち込む必要はありません。失敗は成功の母、失敗すればどこが間違っていたのかを検証し軌道修正しながら前進させていけばいいのです。

組織変革は積み木細工と同じで、成功要因を一つ一つ積み上げていくものです。失敗すれば、そこからまたやり直して成功要因を積み上げていけばいいのです。

この書の構成は次のようになっています。

  • 第1章 見せかけの再建ー覚悟を固める
  • 第2章 組織の中で何が起きているのかー⑴現実を直視する ⑵成り行きのシナリオを描く ⑶切迫感・危機感を抱く
  • 第3章 改革の糸口となるコンセプトを探すー⑴改革先導者を組織化する ⑵原因を分析する ⑶改革コンセプトを共有する
  • 第4章 組織全体のストーリーをどう組み立てるかー⑴改革のシナリオを作る ⑵戦略の意思決定を行う
  • 第5章 熱き心で皆を巻き込むー改革のシナリオを現場は落とし込む
  • 第6章 愚直かつ執拗に実行するー改革を実行する
  • エピローグ 事業変革の成功要因

「エピローグ 事業変革の成功要因」の中で、三枝氏は「組織改革とは『正しい』と思われることを、『愚直』に、必死になってやり通すことである。そこには先頭に立つ人の果てしない情熱の投入が必要である」と言い、「改革とは『魂の伝授』である」「経営者にとって最も重要なのは『高い志』である」と言います。以前紹介した稲盛経営12か条の「燃える闘魂」「経営は強い意志で決まる」と同じことが言われています。

会社を元気にできるかどうかは戦略も大切ですが、最も重要なのは、リーダーの「高い志」「強い意志」「魂の伝授」「燃える闘魂」です。

今一度、稲盛経営12か条をじっくりと読んでみてください。

また、この本の増補改訂版には、「V字回復の経営ー成功への道のり」として、動のリーダーと言える元コマツ専務の鈴木康夫氏との対談が載っています。この対談も面白いです。

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