おはようございます。
昨日の新規感染者は全国で5397人、そのうち東京1979人、神奈川631人、埼玉510人、千葉343人、愛知146人、大阪461人、兵庫139人、京都71人、福岡139人、沖縄153人、北海道140人などとなっています。全国で5000人を超えるのは5月22日以来2カ月ぶり、神奈川では1月22日以来半年ぶりに600人を超え、埼玉も1月16日以来約半年ぶりに500人を超えました。首都圏だけでなく関西圏、さらには大都市と、全国的に感染拡大しもはや第5波突入と言っていいような状況になっています。菅首相や政府はオリンピック開幕にうつつを抜かし、まともな対策を全くとらず、人々もコロナ慣れして、駅や行楽地はヒトであふれています。これでは、この先、コロナが収まるとは到底思えません。ワクチン接種の影響で高齢者の感染者数・重症者数は減少しましたが、コロナに感染した中年層が肺炎を引き起こし重症化し入院するケースが増えています。今後もワクチン接種を終えていない年代の相当数が重症化する可能性があります。感染者数が多い地域を重点的にできるだけ迅速にワクチン接種を全年代に実施すべきではないかと思います。
さて、今日は、クリス・アンダーソン著「ロングテール 『売れない商品』を宝の山に変える戦略」(早川書房)を紹介します。
著者のクリス・アンダーソンは「ロングテール」という言葉を始めて世に知らしめたワイアード誌の編集長です。
ロングテールというのは、簡単に言えば、販売機会の少ない商品でもアイテム数を幅広く取りそろえること、または対象となる顧客数を増やすことによって、総体として売上を大きくするという手法又は概念です。オンラインDVDレンタルの大手ネットフリックスやアマゾンのビジネスモデルを説明するために、アンダーソンが提唱し、世界に広まったものです。
アマゾンを例にとって説明します。
これまで一般のリアル店舗の売上は、売上成績上位20%の商品が全体の売上の80%を占めるという「80対20の法則」が支配しています。これは、従来型の店舗を構えた形態の販売店では、商品棚の容量や物流上の制限など売上成績の良い売れ筋商品を主体に販売するように努め、売れ筋以外の商品は店頭に並べられないことが多いからです。
しかし、アマゾンのようなオンライン小売店では、無店舗による人件費と店舗コストの削減に加えてIT活用による在庫の一元化やドロップシップの導入などによる物流コストの極小化を進めた結果、従来型の小売店の制約に縛られず、普通で考えれば年に1個しか売れないような商品も顧客に提供することで、店舗を構えていた時には実現不可能であった大きな販売機会の取り込みを可能にしたのです。
ロングテールを語る際には、「ヘッド」と「テール」という言葉が使われます。「ヘッド」というのは現存する最も大きな小売店に置いてある商品の集合体を指し、「テール」はそれ以外の商品の集合体を意味します。
オンライン店舗では、売れ行き順に商品を横軸に並べ、販売数を縦軸に取ったグラフを描くと、「ヘッド」部分には売れ筋商品の高いグラフが描かれ、そのあとに非ヒット商品の低いグラフが描かれて長い尻尾のように延々と続きます。これが「ロングテール」です。
この本は、現象としてのロングテールとそれを取り巻く状況を現代の成功企業の実例を交えて詳細に解説し、これからのビジネスのカギを探求しようとしています。
この本は次の14章と結びで構成されています。
- 第1章 ロングテール ―大衆市場から無数のニッチ市場へ
- 第2章 ヒットの興亡 ―融通が利かない文化に縛られて
- 第3章 ロングテール小史 ―通販カタログからショッピングカートまで
- 第4章 ロングテールの3つの追い風 ―つくる。世に送り出す。見つける手助けをする。
- 第5章 新たなる生産者たち ―生産手段を手にしたアマチュア・パワーをあなどるな。
- 第6章 新しい市場 ―ヘッドからテールまで吞み込む集積者
- 第7章 新しい流行発信者 ―蟻がメガホンを手に入れた。
- 第8章 ロングテール経済 ―不足の経済と80対20の法則の終焉
- 第9章 短いヘッドの世界 ―商品スペースですべてが決まる。
- 第10章 何でも手に入る時代 ―選択肢が湾幸あるのはいいことだ
- 第11章 ニッチ文化とは ―ロングテールに生きるということ
- 第12章 無数のスクリーン ―ポスト・テレビ時代の映像とは
- 第13章 エンタテイメント以外のロングテール ―ニッチ革命はどこまで広がるのか
- 第14章 ロングテールの法則 消費者天国を作るには
- 結び テールの未来
リアル店舗では、次のような制約があります。
- 商品を陳列できるスペースが限られているので、販売数の稼げる商品に特化した方が有利
- 人気商品以外のその他大勢の商品に広告費や宣伝費をつぎ込むとコストが膨大になる
- 販売員にその他大勢の商品すべてのせーっるストークを習得させるのは事実上不可能
- 商圏が限られており、潜在的な顧客数が限られる。
しかし、インターネットの進歩によりオンライン店舗になると上記の制約が破壊されました。
- 陳列スペースに制限がなく人気商品だけでなく何万点の商品でも同時に販売できる
- ニッチ商品でも商品の紹介ページさえ作れば、こky宅が見つけてくれ、広告費や宣伝費が安価で済む
- リアル店舗のように労力と人件費をつぎ込んで販売員に莫大な数の商品のレクチャーを行わなくてもいい
- 日本全国・全世界の人間を相手に発信できるので、ニッチ商品でも十分な顧客を獲得できる
これによって、これまで上位20%の人気商品で全体の売上の80%を稼がなければならなかったのが、「80%のその他大勢の『売れない商品』で全体の売上のかなりの部位分を獲得できる」ことになったのです。
あるオンライン音楽配信サービスでは、ダウンロード数で上位2割に入らない残り8割の商品が全体の売上の半分を占め、アマゾンでも『売れない8割』が売り上げの3分の1を占めているのです。
従来のリアル店舗のように、一部の人気商品に売上のほとんどを頼る戦略の場合、ブームの終了や競合商品の登場で、その人気商品の売り上げが落ち込むと、壊滅的なダメージを受けることにもなりかねません。一方、ロングテールの場合には、売上を多数の商品で分散して稼いでいるので、1つの商品の売上が落ち込んでも、全体へのダメージは軽減されます。従来型の人気商品を軸にした販売戦略よりも長期的に安定的な売上を積み上げることができるのです。
また、導入に際しては在庫の仕入れ以外に初期費用がほとんどかかりません。サイトを作るコストのみで始められます。さらに、ロングテールは売れない商品に目を付けたもので、不良在庫という概念がなくなります。サイトや環境を整えて多くの商品を陳列すれば、集客が見込まれて売上も上がるのです。
しかし、半面、次のようなデメリットが考えられます。
1つは即効性がなく短期的な売上が小さいということです。ロングテールの主役である『売れない商品』はニッチなニーズしかないので、爆発的な売上を期待できません。短期的な売上へのインパクトは小さいのです。ロングテールを軸にした戦略は長期的な目標設定が必要で短期目標の達成には困難です。
また、ロングテールの場合は多くの種類の商品を販売できる大企業に有利です。ニッチな商品を販売する場合、ニッチな顧客に見つけてもらわなければ始まりません。ニーズを持っている顧客がグーグルなどの検索エンジンを通して見つけてくれないと販売につながらないのです。そのためにはホームページなどで、商品ごとに頁を作って紹介しないといけません。結果を出すのに手間や労力がかかるのがロングテールの弱点です。
ロングテールで成功した企業は、この本で多く紹介されています。しかし、ロングテールにはリスクもあります。人気商品から売れない商品まで在庫を抱えなければなりませんし、先ほども書いたように長期戦略です。利益を十分に上げる前に、大量の在庫を抱えて倒産という事態になっては元も子もありません。
ロングテールを始めるにあたって欠かせないのがグーグルの検索エンジンです。グーグルでは、今までの履歴や登録している内容からその人に合ったページが表示されます。そのため新しいページが表示されず集客につながらないのです。
長いテールの部分でニッチ商品の販売量を稼ぎその総和で利益を上げようというロングテール戦略ですが、成功例は多いものの、かなりのリスクを抱えており、これからも通用するかどうかは全くの未知数です。しかし、上手くロングテールを使いこなすことができれば、大きな強みとなるでしょう。コロナ禍で混迷した時代に、ニッチな市場でロングテールを生み出し新たなチャレンジができればビジネスチャンスがもたらされるかもしれません。