中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 コア・コンピタンス経営

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で24,200人、そのうち東京4227人、神奈川2662人、埼玉1524人、千葉1489人、愛知2347人、大阪2814人、兵庫1061人、京都524人、福岡996人、沖縄692人、北海道382人などとなっています。重傷者は初めて2000人を超え、自宅療養者は11万人と1週間で1.5倍に跳ね上がっています。それに伴い、各地で自宅療養中の死者も出ています。政治の無為無策・無知無能に憤りを覚えます。我が家の近くの医療法人が経営破綻しました。経営難を乗り越えようやく軌道に乗りかけていた矢先、大阪府の強い要請で軽症・中等症のコロナ患者を受け入れたことで外来患者の数が落ち込み、人件費の増加が重なり、資金繰りがひっ迫したようです。コロナ患者の入院を受け入れている医療法人の経営破綻は全国初ですが、医療体制がひっ迫すればするほど今後もこうした事態は起こり得ます。こういうリスクがあるがゆえに民間病院がコロナ患者受け入れを拒否するのであって、受け入れを拒否する病院を批判できません。多くの医療従事者が不眠不休で頑張ってくれています。国や地方公共団体が、経営面での支援をしっかりと行わなければ、コロナ収束後日本の医療は完全に崩壊してしまいます。

さて、今日は、G・ハメル&C・K・プラハラード著「コア・コンピタンス経営 大競争時代を勝ち抜く戦略」(日本経済新聞社を紹介します。原書は、「Competing for the Future」(未来のための競争)です。なお、「コア・コンピタンス経営 未来への競争戦略」として文庫化もされています。

この本が出版されたのは1995年で、日本企業が圧倒的に強さを発揮し、アメリカ企業は長い低迷期から脱しようやく成長に転じようとしていた時代です。この本には、ソニー、ホンダ、シャープ、東芝などの日本企業が成功例として紹介されていますが、現在これらの企業は低迷に苦しんでいます。一方、アメリカ企業は復活を遂げています。 

競争が激化し、企業の持つ経営資源が相対的に希少化してくると、企業はその戦略として、投資の効果や効率を最大化しようとします。

経営資源を投下する際、競争市場のどこに、どのように自らの存立基盤を築くのかが「ドメイン(市場内生存領域)」の問題です。ドメインを策定するには、市場のニーズを反映し、競争上の差別優位性を発揮できる分野に特定化することです。そのために、①顧客のどのようなニーズに対応するのか(What)②ターゲットとなる顧客層は誰か(Who)③どのような独自技術やノウハウを用いてどのように提供するか(How)の3つが重要になります。そのHowの部分がコア・コンピタンスです。

コア・コンピタンスとは「自社の中核的な技術やノウハウ、自社の最大の強み」「顧客に対して他社にはまねできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な能力」のことです。この本の例でいえば、ソニーの製品を小さくまとめる技術やホンダのエンジン及び駆動系技術、シャープの液晶技術などがそれに当たります。

かつて、ソニーは電子技術とメカニカルな機械技術の組み合わせによって、製品の小型化に成功し、この小型化技術を「コア技術」として、顧客に「携帯性」という価値を提供する、携帯ラジオ、ウォークマン、ハンディカムなどの製品を作りました。

また、ホンダは、徹底的に究めたエンジン技術を「コア技術」としてCVCCというエンジン技術により省エネや排ガス規制に対応した初代シビックを作りました。

シャープは、液晶技術を「コア技術」として。製品の小型化・省エネ化が可能となり、小型電卓、電子手帳ザウルス、液晶テレビなどを作りました。

このように「コアとなる技術」と「顧客の利益」が結びつくことによって競争に打ち勝つ強い製品が生まれています。

しかし、コア技術も、それで成功した企業があると当然それを真似しようとする企業が出てきます。今のコア技術が10年後20年後もコア技術として企業の強みになるとは限らないのです。コア技術の上に胡坐をかくのではなく、時間をかけて常に磨き続けなければなりませんし、常に新しいコア・コンピタンスを見つけ育てていかなければなりません。

かつて勝ち企業であったシャープは、液晶テレビが大きな売り上げを占めると、商品技術である液晶テレビに重点投資し、コア技術への投資を怠り、液晶テレビが衰退しはじめると、次の目玉商品を生み出せず、今では台湾企業の傘下にあります。

 コア・コンピタンス経営は、企業が中核的な能力を徹底的に磨き上げることで、新しい市場を創造し、持続的な成長企業を実現するという競争戦略です。

 コトラーによれば、企業の競争地位は、「リーダー」「チャレンジャー」「フォロアー」「ニッチャー」の4類型に分かれます。

 「リーダー」は、当該市場における最大シェアを保持している業界最大手の企業であり、最大シェアを確保・維持するためにドメインを広く抽象的にするオーソドック戦略をとることになります。「チャレンジャー」は、リーダーの地位を狙って挑戦する企業で、リーダーと同質化戦略をとっても勝ち目はないので、顧客機能や独自能力によってリーダーと徹底的な差別化を図ろうとします。こうしたチャレンジャーにはコア・コンピタンス経営が適していると言えます。「フォロアー」は、リーダーとチャレンジャーが熾烈な争いをしている市場を避け、その他の市場で模倣戦略を取ります。「ニッチャー」は市場内のニッチな部分で、ドメインの範囲を限定し、そこに合うニーズと独自技術・ノウハウを使って差別化を図ります。ニッチャーもコア・コンピタンス経営が適していると言えそうです。

コア・コンピタンス経営には次の3点が重要です。

1 企業が追及すべき顧客の便益を明らかにする

 多くの企業が顧客ニーズを把握することの重要性は理解していますが、十分に顧客ニーズを把握しているとは言えません。漠然と顧客ニーズを把握しているだけでは適切な競争戦略を打ち立てることはできません。顧客ニーズを把握し、それを細分化して、自社が提供すべき便益と細分化された顧客ニーズを明確に結びつけることで、迅速な対応が可能となるのです。

.顧客の便益を提供するのに必要な自社の技術・能力を高める

 自社が保有する経営資源には限りがあります。「選択と集中」の観点から限られた経営資源をどこに投下するのかを決めなければなりません。自社のコア・コンピタンスをどこに設定するのか、ドメインをいかに絞り込んでいくのかという戦略的な意思決定は経営者の重要な役割・任務です。

 常に、顧客のニーズに合った便益を提供し続けるためには、自社の技術や能力に常に磨きをかけ高めていかなければなりません。

3.企業と顧客との接点を重視する。

 自社の持つ技術と顧客ニーズが上手く結びつくと、消費者の支持を受ける製品やサービスが生まれます。しかし、時間の経過とともに、自社のコア技術と顧客ニーズの間にずれが生じるようになります。それは、消費者(顧客)は一旦便益が得られると、それに満足せずより高い便益を求めるようになるからです。企業は、常に市場の動向を把握し、顧客の声を拾い上げデータベース化し、社員全員が共有できるようにして、開発改善に取り組んでいかなければならないのです。

コア・コンピタンス経営は「市場の発見・創出につながら未来の戦略だ」というのは良く分かります。文庫化で「未来への競争戦略」と副題がつけられているのも納得できます。これまでの価格競争を重視した戦略とは一線を画するものです。

かつて日本企業が自社の強みを活かして欧米に打ち勝ってきたコア・コンピタンス経営は、長期的な視野を持って、コア・コンピタンスの発見と保持、その発展に努力するとともに、それを製品やサービスに巧みに生かしていく方法を見つけなければ、日本企業が低迷したようにやがて終焉を迎えることになります。多くの日本企業が低迷しているのは、コア・コンピタンスを発展させることができなかったからです。

企業の力としてのコア・コンピタンスは、最終的には個々の社員のスキルや、ノウハウにまで分解されます。組織内に分散している個々の暗黙知的なスキル、ノウハウを全体で共有し知を創造し、それを企業の力に転換していくことが大切なのです。嘗ての日本企業にはこうした強みがありました。組織の末端のレベルまで巻き込んで独自の企業力を育てなければなりません。その点を忘れて効率化を重視した経営に走った結果、日本企業は衰退していったと言えそうです。

コア・コンピタンスの視点がないまま。効率重視でリストラやダウンサイジングによる省力化や効率化を推し進めるならば、社員のモチベーションやエンゲージメントを低下させ、コア・コンピタンスを支える人材までも失い、ついにはコア・コンピタンスまでも失う危険性があるのです。

コア・コンピタンス経営」も競争戦略の一つにしかすぎません。絶対的に正しい戦略というものはありません。どのような戦略にもメリットとデメリットがあります。この点を頭に入れたうえで、自社の競争地位を考慮し「自社の強み」を活かしていく「コア・コンピタンス経営」を今一度見直してもいいのではないかと思います。

今日は、本の紹介というよりもコア・コンピタンス経営の説明になってしまいました。

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