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休日の本棚 リーダーシップ 胆力と大局観

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で22,750人、そのうち東京3581人、神奈川2378人、埼玉1608人、千葉1630人、愛知1891人、大阪2641人、兵庫1050人、京都540人、福岡953人、沖縄655人、北海道457人などとなっています。5日連続で2万人を超え、重傷者は2060人で16日連続で過去最多となっています。重傷者の大半が若年層・中年層で、デルタ株の恐ろしさを表しています。東京都の予約がいらない若者向けワクチン接種会場は長蛇の列で、若者のワクチン接種の意識が変わりつつあるように思います。しかし、抽選倍率は6倍強、並んでも接種できない人が大半という事態が続けば、若者のワクチン接種に対する熱もすぐに冷めてしまいます。抽選券を得るのに並ばせるというのは密を生むだけです。ネットで申し込み、当選者に通知すれば並ばせる必要はありません。何よりも希望者全員が摂取できるワクチンを確保することが先決です。

毎日新聞による世論調査によれば、菅内閣の支持率は26%で最低を更新し、不支持率は66%でした。26%もの支持がいるというのも驚きですが、菅政権のコロナ対策を「評価する」という人が19%もいることに驚きを隠せません。後手後手の対策で、無為無策・無知無能を露呈している菅政権のコロナ対策のどこを「評価する」のでしょうか? 自民党総裁選をめぐり、各派閥の結束が緩んでいます。党内の若手・中堅を中心に「菅では衆議院選を戦えない」という危機感・不安感が渦巻き、派閥領袖が再選支持を表明しても派閥メンバーに強制できないという事態になりつつあります。派閥の論理や村社会の論理が間違っているのであって、若手や中堅層から、資質も能力もない菅離れが起きていることは喜ばしいことです。

さて、今日は山内昌之著「リーダーシップ 胆力と大局観」(新潮新書を紹介します。この本は、10年前の2011年の発刊で古いですが、リーダーシップのあり方を示してくれています。この本の帯には「為政者の覚悟を問う 時に激しく、時に臆病に 危機にこそ積極策を、人事に情けは無用」と書かれています。今の菅政権にそのままあてはまります。

この本は、東日本大震災後の民主党政権時に書かれており、鳩山由紀夫菅直人といった民主党政権時の首相に対する批判が前面に出ていますが、著者の山内氏は東京大学名誉教授の歴史学者です。歴史や偉人のリーダーシップから本来のリーダーシップを考える視点が明確に示されていて、今も色あせず読める本です。

山内氏は、「強いリーダーシップの不在が叫ばれて久しい。それは目先の議論にばかり惑わされ、リーダーシップの本質を考えることを避けてきたツケに他ならない」と言っていますが、10年経った今でも変わりません。菅義偉という「史上最低最悪」のリーダーをトップに据えなければならない国民は、今こそリーダーシップの本質を真剣に考えるべきです。

この本は、「いまリーダーにとって真に必要な能力とは何か。吉田松陰の歴史的思考法なのか、山口多門のような危機に積極策を取る胆力なのか、リンカーンのような戦略的思考法に基づく大局観なのか・・・。国家と国民を守るために必要な覚悟」を解いています。

本書の構成は、次のようになっています。

第一部 リーダーの責任

 第一章 宰相の責任のあり方は不変

 第二部 危機に直面したリーダーとは

 第三章 変革期のリーダーシップ

 第四章 歴史に学ぶ戦略的思考

第二部 偉人のリーダーシップ

 第五章 歴史的思考法を持つリーダー・吉田松陰

 第六章 危機に積極策をとつ鋭将・山口多門

 第七章 悪のリーダーシップ・織田信長と松永弾正

第三部 民主党リーダーの置き土産

 第八章 アルキメデスの点を求めた鳩山由紀夫

 第九章 黒幕か僭主か、小沢一郎のリーダーシップ

 第一〇章 退却と責任回避の達人、菅直人

山口氏は、「大震災の復旧復興という最大課題を脇に置きながら政争を繰り広げる現代日本の政治模様を見るにつけ、政治家とリーダーシップのあり方、現実のむずかしい政治論点を突破するリーダーの力量とは何かを考える(必要がある)」と言い、日本の政治家に佐藤一斎「言志録」「一物の是非を見て、大体の是非を問わず。一時の利害に拘りて、久遠の利害を察せず。政を為すに此くの如くなれば、国危うし」(ある一つの良し悪しを見て、全体の良し悪しを考えない。一時の利害にこだわって永遠の利害を考えない。もし為政者がこうであったなら国は危機である)という言葉を菅直人をはじめ日本の政治家に読んでもらいたいと言っています。今ならば菅義偉をはじめ二階、安倍その他与党・野党を問わずすべての政治家などに読んでもらいたい言葉です。

第二章では、危機に直面したリーダーとして、明暦大火と保科正之安政地震堀田正睦リスボン地震とカルヴァ―リョの例が挙げられ、大震災などの危機を乗り越えた内外のリーダーには、①心の平静 ②政策的総合力と全体的判断力 ③)理性に叶う公共心(公欲)が共通項としてあったと言っています。

第三章では、変革期のリーダ緒に必要な資質として、①山岡鉄舟の「赤心」(誠意・まごころ) ②西郷隆盛の「正義」と「正道」 ③安藤信正の「平常心」 ④大久保利通の「為政清明などが語られています。

第四章では、①ローマ人の勇気と臆病 ②源義経の「機動力」リンカーンの決断 石原莞爾の見通す力 ④毛沢東の詩的弁証法 ⑤秋山兄弟と「アラビアのロレンス」の柔軟さ などが語られています。

第五章では、歴史的思考法を持つ吉田松陰、第六章では、危機に積極策を取る山口多門、第七章では悪のリーダーとして織田信長と松永弾正が取り上げられています。

第八章では、政治家に求められる資質は歴史家と重なる面があるとし、複雑な事象を解きほぐす現実感覚、政策目標へ単純明瞭に迫る力、人間心理の洞察力などを挙げ、鳩山由紀夫にはこれらの資質が欠けていたと言っていますが、菅義偉にも欠けています。 

この本の結びで、山内氏は、リーダーの資質について語っています。

リーダーは、必ずしもカリスマや天才である必要はありません。リーダーの条件は、行きつくところ総合力、胆力、人心掌握力の3つに尽きると言います。

  • 総合力=全体・全局を見通す力(大局観) 未曽有の危機ではリーダーとしての総合力と大局観が試される。
  • 胆力=何があっても動じない強い平常心 あからさまにいら立ちを見せてはいけない。
  • 人心掌握力=人を上手く使う能力 賢人の存在を知って、その人物を活用し、大事な仕事を任さなくてはならない。

この総合力、胆力、人心掌握力は、政治家だけでなく、企業リーダーである経営者にとっても当然必要な力です。

リーダーとして自らを高めていくためには「歴史に学ぶ」という姿勢が大切です。歴史には、様々な苦難を乗り越えてきた人類の経験が刻まれています。「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ハラリも「歴史を研究するのは、未来を知るためではなく、視野を広げ、現在の私たちの状況は自然なものでも必然的なものでもなく、したがって私たちの前には、想像しているよりもずっと多くの可能性があることを理解するためだ」と言っています。過去の歴史を昔話として聞き、教訓として覚えても、自分の行動に活かさなければ意味がありません。歴史の教訓をいかに未来に活かしていくかで多くの可能性が開けるのです。

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