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休日の本棚 ”イノベーションのジレンマ”への挑戦

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で16,012人、そのうち東京2362人、神奈川1633人、埼玉1075人、千葉1204人、愛知1776人、大阪2353人、兵庫755人、京都406人、福岡643人、沖縄558人、、北海道224人などとなっています。全国的に減少に転じてきているようにも見えますが、まだまだ油断はできません。政府は緊急事態宣言を2週間程度延長するようですが、現在の感染者数を鑑みれば、やむを得ないでしょう。政府分科会が提言を発表し、どの程度のワクチン接種率を達成すれば、どのような制限が緩和されるのかなど、今後の感染対策のあり方のたたき台を示したうえで、国民的な議論を求めたいと呼びかけました。ワクチン接種しても感染するブレークスルー感染もあり、ワクチン接種で集団免疫を獲得するのは困難で、コロナ前の日常生活を取り戻すことは難しいと思われます。コロナを打ち負かすことができないのであれば、いかにコロナウイルスと共存するのか(ウイズコロナ)という道を模索しなければなりません。

自民党総裁選が来週から本格化しそうです。高市早苗氏は安倍前首相の支援を取り付け推薦人の目途が立ち、既に出馬を表明している岸田文雄氏、出馬の意向を固めた河野太郎氏、更に石破茂氏も意欲を見せており、混戦になりそうです。菅首相は権力に酔い、結局は権力に潰されました。菅首相とは異なり、「権力は腐敗する」「権力は究極の媚薬である」という言葉を心にとどめ、国民の声を真摯に聞き、国民に寄り添い、国民にビジョンや理念を丁寧に説明し、国民の共感を得て、国民と共に進んでいけるリーダーが選ばれることを期待します。派閥やムラ社会の論理で選ばれることだけは避けてもらいたいものです。

さて、今日は、本の紹介の日ですが、ハーバード・ビジネス・レビューに載った論文を紹介します。それは、クレイトンM・クリステンセン「『イノベーションのジレンマ』への挑戦」という論文です。

クリステンセンと言えば、ハーバード・ビジネス・スクールの教授で、イノベーション研究の一人者、「イノベーションのジレンマ」「イノベーションの解」「イノベーションのDNA」(いずれも翔泳社)などの著書でも世界的に有名です。

イノベーションのジレンマとは、健全かつ合理的で優れた経営を行っていると思われている企業や業界をリードする優良企業が、技術と市場の破壊的変化に直面して失敗してしまうパラドクスを説明したクリステンセン教授の考え方です。

この考え方によれば、業界をリードする優良企業がその地位を失う最大の原因は、健全で合理的な経営にあるとされます。これは一見矛盾しているように見えますが、失敗した企業には成功している間の意思決定方法に、のちに失敗を招く要因があるのです。

優良企業は、持続的技術に投資を行うことで製品の性能を高めています。持続的技術というのは、その企業の製品を支持している顧客が今まで評価してきた基準に従って従来の製品の成功を高めるものです。一方、破壊的技術は、短期的には製品の性能を引き下げますが、従来とは全く異なる価値基準を市場や顧客にもたらすものです。破壊的技術による製品は持続的技術に比べて低性能・低価格・シンプルで、これまでの製品に慣れ親しんだ顧客は興味を示しません。評価するのは少数の新しい顧客で、市場規模は小さく、当初は期待できる収益も少ないのです。したがって、優良企業は、この新市場への参入は見合わせ、従来の製品に投資を継続するのが合理的で正しい判断です。

ところが、ある一定水準まで性能が高まると、価格や使いやすさなど性能以外の面を評価する顧客が現れ、それがさらに進むと、やがては破壊的技術による製品市場が従来市場を侵食するまで急成長し、持続的技術でリードしていた優良企業が業界のリーダーから転落することになるのです。

また、優良企業が他社よりも優れた製品を供給しようと、より性能の高い製品の開発に努力すると、顧客が求めている性能を追い抜いてしまうことがあります。その中で、当社は低性能だった破壊的技術が、顧客が求める水準と合致すると、顧客は優良企業の製品よりも低価格・シンプルで使いやすい破壊的技術の製品を好むようになるのです。ここでも、最高の顧客の意見に耳を傾けより高い性能を目指す優良企業は、新しい市場への対応が遅れ、失敗するのです。

以上が、クリステンセン氏のイノベーションのジレンマの概要ですが、この論文は、破壊的変化に対応するために、組織が何を達成する能力を備えているかを判断するためのフレームワークを提供しています。

1.組織能力を決める3つに要因

 組織が何ができ、何ができないかを規定するのは、経営資源プロセス価値基準の3つの要素です。

  1. 経営資源 質の高い経営資源が豊富にあれば変化に対応できる可能性は高まります。
  2. プロセス 経営資源を商品やサービスという一段高い価値に変容させるために、相互作用、調整、コミュニケーション及び意思決定のパターンなどのプロセスが重要な意味を持ちます。プロセスの本質は、社員が常に業務を一貫した方法で成し遂げられるように設定されることで、容易に変更してはいけないものですが、ある仕事を成し遂げるために必要なプロセスが、それ以外の仕事を行うことを不可能にするということもあり得ます。多くの企業が変化に対応するうえで欠けている能力のうち最も深刻な課題は、資源をどこに投入すべきか、市場調査をどのように行うのか、分析結果を財務予測にどのように反映させるか、企画と予算をどのように折り合わせるかといった決定プロセスの中に潜んでいるのです。
  3. 価値基準・・・ 企業が大きく複雑になると、組織全体の社員を教育して、戦略方針やビジネスモデルとの整合性を取りながら一人ひとりが重要度を判断できるようにすることが大切になり、組織にとって、一貫性のある明確な価値基準が浸透しているかどうかが、企業経営の優劣を図る重要な尺度となります。しかし、社内に浸透した一貫性のある価値基準は、一方で、組織ができることを限定してしまいます。価値基準には企業のコスト構造やビジネスモデルが反映され、企業・社員の行動を規制するからです。

2.能力の重心はシフトする

 企業が成長の初期段階では、経営資源、特に人材の影響力が大きいと言えます。それが時が経つと、組織の能力はプロセスと価値基準とに重心がシフトします。企業が成熟するにつれ、社員は、これまで行ってきたプロセスや価値基準が正しいものと思い込むようになり、既存のプロセスと価値基準に従って重要度を判断するようになり、これらを中心に組織文化が形成されるようになります。組織文化が出来上がれば、社員に自律的ながらも一貫した行動をとらせることができるのです。

 このように、組織に何ができるか、何ができないかを規定する要素は時とともに変化し、当初は経営資源であったものが、プロセスと価値基準に重心がシフトし、最終的には企業文化へと変容します。組織にある問題に対応するためにプロセスと価値基準を構築し、この種の問題に直面しているうちは、組織運営は比較的簡単ですが、こうした要素は組織にできることを限定してしまうため、企業が直面する問題が根本的に変化すると能力の欠如として現れます。初期段階では能力の入れ替えは比較的容易ですが、企業の能力の重心がプロセスと価値基準に移り、企業文化という形で刻まれると、その能力を変えることは困難になります。

3.「持続的イノベーション」対「破壊的イノベーション

 持続的イノベーションは、メイン事業の顧客が既に価値を認めている技術を活用して商品やサービスの機能・性能を向上させる持続的技術が原動力になっています。

 一方で、破壊的イノベーションは、新しい種類の商品・サービスの導入により全く新しい市場を創造するものです。

 持続的イノベーションを開発し、導入するのは、ほぼ決まって業界のリーダー企業です。こうした企業は決して破壊的イノベーションを起こすことはなく、それにうまく対処することもできないのです。業界のリーダーは、持続的技術を開発し導入するように組織が出来上がっているのです。日々、競合他社に差をつけるため、改良した新商品を開発し、そのために持続的イノベーション、技術的潜在能力を評価し、現在の商品に変わるものに対する顧客ニーズを評価するプロセスを開発します。持続的技術への投資もこうしたリーダー企業が持つ価値基準にも合致するのです。

 破壊的イノベーションは頻繁に起こるものではないので、どんな企業にもこれに対処する決まったプロセスはありません。また、破壊的商品は、利益率が低く、優良顧客にも魅力的な商品ではないため、大企業の価値基準には合致しません。

 しかし、スタートアップ企業は、経営資源が十分でなくても小規模な市場に挑戦できるのです。彼らは、コスト構造から、低利益率であっても採算が合うのです。また、慎重なリサーチを分析が必要な大企業と異なり、直感で動ける余地があり、こうした優位性が積み重なり、破壊的イノベーションに対応したり、作り出したりする能力とさえなるのです。

4.変化への適応能力を創造する

 大企業が、こうした能力を開発するには、持続的なものにしろ破壊的なものにしろ、イノベーションに対応するために組織が新しい能力を求め、プロセスと価値基準を必要とする場合は、その能力を開発できる組織形態を構築しなければなりません。

 クリステンセン教授は、その方法は3つあると言います。

  1. 新たな組織構造を作る・・・企業の内部に新たな組織を創り、そこで新しいプロセスを開発する。
  2. スピンアウトにより、新たな組織能力を開発する・・・既存組織からスピンアウト(分離独立)し、独立組織をつくる。新しい組織の中で、問題解決するのに必要なプロセスを開発し、価値基準を生み出す。
  3. 買収によって組織能力を獲得する・・・直面する課題に相応しいプロセスと価値基準をあわせ持つ別の組織を買収する

 クリステンセン教授は、組織が変化に直面しているのなら、次の2つを自問してみようと言っています。

  • 当社にはこの新たな状況で成功するのに必要な経営資源があるか
  • プロセスと価値基準は変化に対応できるだろうか

2つ目の質問が必要なのは、組織に備わった能力は組織に何ができるかを規定すると同時に、何ができないかも規定しているからです。2つ目の質問を考えるに当たって次の質問を考えるように言っています。

  • あなたの会社で通常進めている仕事のプロセスは、この新たな課題に対応するのにふさわしいものだろうか
  • あなたの会社の価値基準に従うと、この新たな施策は、優先されるのだろうか、それとも尻すぼみに終わるのだろうか

クリステンセン教授は、これらの質問の答えが「ノー」であっても問題ないと言ってくれています。問題を理解することがその解決に欠かせない最も重要なステップだからです。ここで、希望的観測に立って物事を安易に判断してしまうと、イノベーションを担うチームの行く手に障害を作ることにもなりかねません

大企業がイノベーションを起こすことが困難な理由は、すぐに対応すべき課題があり、極めて有能な人材を雇いながらも、その課題とは相いれないプロセスと価値基準とを持つ組織構造内で働かせようとするからです。変転激しい時代、有能な人材を有能な組織に配置することは、経営陣の肩にかかる大きな責任なのです。

クリステンセン教授は、「イノベーションのジレンマ」の冒頭で「60年代、70年代の日本の驚異的な経済成長を支えてきた産業のほとんどが、欧米の競合相手にとって破壊的技術であった。小型車のトヨタ、携帯ラジオや超小型テレビのソニーなど、多くの企業が、欧米市場を下部から破壊した。ここ数年間、日本経済が停滞している理由は、日本の大企業が同様の力に動かされていることにある。市場の最上層まで上り詰めて行き場をなくしている」と言い、また「イノベーションの解」でも「日本の有力企業の多くが、他社の破壊を通じて飛躍的な成長を遂げた。だが破壊が既存の有力企業を脅かす恐れがあることなどから、日本の経済システムは構造的に新たな破壊的成長の波の出現を阻害している」とも言っています。

日本にもまだまだ多くの破壊的技術の種や芽があるはずです。これらを新たな顧客に結び付けることです。破壊的イノベーションを起こすために重要なのは、既存の顧客にとらわれず新たな顧客を創造することであり、そのために組織を変革していくことです。