中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 ブルー・オーシャン戦略

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で3401人、そのうち東京565人、神奈川394人、埼玉224人、千葉213人、愛知277人、大阪467人、兵庫188人、京都73人、福岡133人、沖縄107人、北海道75人などとなっています。検査数の少ない日曜日とはいえ、先週の同曜日よりも大幅に減少しており、悦ばしいことですが、何故これほど急激に減少しているのかが全く分かりません。むしろこのところ人流は増えており、ワクチン接種が進んだことが大きな要因であると思われます。しかし、日本よりもワクチン接種が進んでいる国で再び感染拡大が起きており、ワクチン接種率だけが感染者減少の要因とは考えられません。これまで4度の緊急事態宣言が発令され、5度にわたって大きな波が押し寄せ増減を繰り返したのですから、多くのデータが蓄積されているはずです。遅きに失している感はありますけれど、いまこそ感染増減のメカニズムを検証すべき時期ではないかと思います。

さて、今日は、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビューに掲載された、W.チャン・キム&レネ・モボルニュ教授の「ブルー・オーシャン戦略」を紹介します。

キムとモボルニュは、ともにINSEAD教授で戦略論が専門です。この論文は2005年に掲載されるや大ブームとなり、ブルー・オーシャン、レッド・オーシャンという言葉は一般用語となりました。

レッド・オーシャンとは、ライバル同士が激しく市場を、限られた餌の小魚(顧客)を多数のサメ(企業)が食い合って真っ赤な血で染まる海に譬えたもので、ブルー・オーシャンはライバルのいない市場を静かな真っ青の海に譬えたものです。

この論文はダイヤモンド社から2015年に書物化されています。

この論文の最初に、ブルー・オーシャン戦略の成功例として「シルク・ドゥ・ソレイユ」が挙げられています。大道芸人集団シルクが結成された1984年当時、スポーツイベント、テレビ、テレビゲーム流行のあおりをうけ、サーカス業界は低迷していました。当時サーカスの上得意客は子供たちでしたが、彼らはプレステに嵌り、動物愛護運動の余波を受けて動物使いへの風当たりが強くなりました。さらに観客が減る中で人件費は高騰しコストはかさむ一方でした。こうした環境の中、シルクは創業20年で世界90都市で公演を行い、22倍も売り上げを伸ばしました。(皮肉なことに、現在、シルクは新型コロナウイルスの影響で経営破たんし、会社更生をめざしています)

シルクの興行のうたい文句は「全く新しいサーカスを」です。シルクは業界の既存の枠組みに従って競争したわけでもなく、リングリングなどの先行者たちの客を奪って成長したわけでもありません。むしろ競争とは無縁のマーケット・スペースを創造し、大人や法人顧客など、これまで客層と見なされていなかった全く新しい顧客を掘り起こしたのです。演劇、オペラ、馬齢などに慣れ親しんだ目の肥えた大人の顧客に、全く新しい切り口のサーカスという娯楽を提供し、今までの何倍も高い料金を支払わせることに成功したのです。

1.レッド・オーシャンとブルー・オーシャン

 ビジネス界には「レッド・オーシャン」と「ブルー・オーシャン」の両方が存在しています。

 レッド・オーシャンでは、誰もがライバルを出し抜き、既存の需要の中でより大きなシェアを獲得しようとしていますが、競争相手が増えれば増えるほど収益性や成長性は減少していきます。商品は何の特徴のないコモディティと化し、競争が激化し、市場は血の海と化すのです。

 一方、ブルー・オーシャンは、知られざるマーケット・スペースであり、手あかのついていない市場です。ブルー・オーシャンでは、需要は勝ち取るものではなく、自分で作り出すものです。しかし、成長の機会に事欠かず、収益性も成長性も多く望めるものです。

 ブルー・オーシャンを生み出す方法として、全く新しい事業領域を立ち上げるという方法がありますが、ブルー・オーシャン戦略で成功した企業の多くは、既存市場の境界線を押し広げることでブルー・オーシャンを作っています。シルクもその方法で成功しました。それまでサーカスと劇場を隔てていた境界線を消滅させることで、サーカス業界というレッド・オーシャンの中に、収益性の高いブルー・オーシャンを作り出すことに成功したのです。

 残念なことに、たいていの企業はレッド・オーシャンの中にどっぷりとつかっています。その理由として挙げられるのは企業戦略の中心が競争戦略にあるということです。特に「競争優位」という考え方です。ポーターをはじめとした競争優位の戦略論が経営理論の中心となっています。企業は、競争相手を出し抜き、既存市場でより大きなシェアを獲得することに駆り立てられているのです。

 競争は大切ですが、この論文では競争にばかり気を取られて重要なポイントを2つ見逃していると言っています。それは、

  • 競争がほとんどないブルー・オーシャンが存在すること
  • ブルー・オーシャンを発見し、その市場を開拓し守っていくで成長できること

です。

2.ブルー・オーシャン戦略の特徴

 両教授は、過去100年の事例を分析し、ブルーオーシャン戦略の共通する特徴として次のものを見出しています。

  1. ブルー・オーシャンは技術革新の産物ではない・・・基盤となる技術は既に存在している。ブルー・オーシャンは技術革新ではなく、それを顧客に高い価値をもたらすことへと結実することで創出されるものである。技術の簡素化がカギになることが多い。
  2. ブルー・オーシャンは既存のコア事業から生まれやすい・・・既存企業が創出したブルー・オーシャンは身近にあるコア事業の中から生まれる。新規市場ははるか彼方にあるというのは先入観にすぎない。
  3. 企業や業界を単位に分析してはいけない・・・永遠にエクセレントであり続ける企業も産業もない。ブルー・オーシャンを分析するのに最も適した単位は、市場を創出するような大胆な戦略行動である。
  4. ブルー・オーシャンはブランドを育てる・・・ブルー・オーシャンは大きな力を秘めているため、数十年にわたって輝く続けることのできるブランド・エクィティを築き上げることができる。

3.レッド・オーシャン戦略とブルー・オーシャン戦略

レッドオーシャン戦略

  1. 既存市場内で競争する
  2. 競争相手を打ち負かす
  3. 既存需要を取り込む
  4. バリュー・ポジションとコストは相反する関係にある
  5. 差別化か低コスト化のいずれかを選び、最適な形で事業活動に結び付ける

ブルー・オーシャン戦略

  1. 競争相手のいないマーケットスペースを作り出す
  2. 競争と無縁になる
  3. 新規需要を創出し、これをものにする
  4. バリュー・ポジショニングとコスト削減は両立できる
  5. 差別化と低コスト化の両方を、最適な形で事業活動に結び付ける

 ブルー・オーシャン戦略は、コスト構造とバリュー・ポジショニングが好循環を形成するときにのみ成立するものです。コスト削減は、競合他社が競争している要素を自社の事業活動から取り除くことで実現可能となります。また、バリュー・ポジショニングは、これまで誰も提供していなかったものを提供することによって生まれます。そのような特徴を備えた商品やサービスのおかげで、売り上げが伸びるにしたがってスケール・メリットが生まれ、さらにコストが下がるという好循環が生まれるのです。

 レッド・オーシャンにおける戦略の基本的な考え方は、産業構造は与件であり、企業はその中で競争しなければならないという構造主義的、環境決定論的な考えです。その背景には、「企業経営は自社ではどうすることもできない経済環境に翻弄されるもの」という意識があります。

 一方で、ブルー・オーシャン戦略は、市場の境界線は自ら広げることができる者であり、信念や行動によって業界を再構築することも可能であるという考えに基づいています。言わば再構築主義です。

新型コロナの影響で多くの企業が疲弊し、事業の再構築が求められています。政府も中小企業再構築促進事業を展開し、再構築に取り組む中小企業に補助金を出そうとしています。

この論文は2005年に出されたものでありますが、ブルー・オーシャン戦略は今なお廃れることのない、むしろ混迷する現在においてこそ、取るべき戦略の一つではないかと思い、この論文を紹介しました。