中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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経営人材の育成

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で7万8128人で、東京1万5895人、神奈川6141人、埼玉5315人、千葉4258人、茨城1086人、静岡1390人、愛知4426人、大阪9135人、兵庫4450人、京都2548人、広島1376人、福岡4345人、北海道2782人などとなっています。日曜日としては過去最多で、感染者の急増で、高齢者や基礎疾患を有する人の感染者も増えてきています。オミクロン株は風邪に似た症状とも言われますが、これは29歳以下の若年層に限ったことで、60歳以上の高齢者には肺炎の症状も出て重症者リスクも高く死者も増えてきています。高齢者や家族を守るために、一人ひとりが安易に考えず、気を緩めることなく、これまで通りの感染対策を徹底すべきです。

さて、今日は、日本の人事部の「企業の次代を担う『経営人材』をいかに見いだし、育成していくのか」という記事を取り上げます。

昨日、「『日本の経営』を創る」という本を紹介し、三枝匡氏が考える「経営人材」について見ました。経営人材にはスキルではなくセンスが必要で、センスはスキルのように教えるということはできません。「経営人材」の育成は難しく、自ら「育つ」のを待つしかありません。しかし、企業も現経営者も手をこまねいている必要はなく、「経営人材」が育成する土壌をつくり耕すことはできます。「経営人材」が育つ土壌(環境)をつくることこそ重要なのです。

これまでの日本企業は年功序列で、不可なく世渡り上手な人が経営トップに立つというケースが多く、これでは強い経営者を生み出すことはできません。混迷するビジネス環境に打ち勝ち継続して成長し続けるためには、強いリーダーシップを持った経営人材が不可欠です。それは大局観であり胆力であり、スキルではなくセンスを持ったリーダーです。こうした次世代を担う人材を発掘し、いかに育てているのか(いかに育つ土壌を創るのか)という中長期的な取組みが欠かせない時代になっています。

1.経営人材育成はミドルマネージャー育成そのもの?

 この記事では、立教大学経営学助教の田中聡氏は、「ビジネスの環境が激変し、会社の事業戦略や組織戦略を丸ごと変革しなければいけない局面に突入しています・・・全社レベルの日連続的な組織変革を進めていくことが求められています。そのためには、組織変革の本質的な担い手として経営人材を育成していかなければなりません」と言い、「経営人材候補がミドルマネジャーの企業が多い」と言います。

 三枝氏や楠木建氏の言葉を借りれば、ミドルマネジャーはスキルは身につけていますが必ずしもセンスを身につけているとは言えません。ミドルマネジャーをそのまま経営人材としていいのかという問題が生じます。

 田中氏は、ミドルマネジャーが経営人材へと成長するために必要な5つの挑戦課題を挙げます。これは、リーダーシップ研究の一人者であるシンシア・D・マッコーリーの「発達的挑戦課題」です。

  • トランジション(異動)・・・環境変化への適応力を高めるため「不慣れな経験」を与える(タフアサインメント)
  • 高度な責任・・・タフアサインメントの現場で担う高いレベルの責任
  • 権限がない中での関係性構築・・・特別な権限を持たない中でチームを作り、関係性を構築する
  • 障害・・・非連続の変革を学ぶために、トラブルはできるだけ起きた方がいい
  • 変化の創造・・・変化を作り出せる余地のある領域

 経営人材の育成は、ミドルマネジャー育成とは異なるということです。ここに挙げられているのは、大局観で物事を見通すセンスを磨くためのものといってよく、三枝氏の「創って作って売る」ユニットでセンスを磨かせるのに通じるものがあります。

 田中氏は、上述の「発達的挑戦課題」を基に、3つの論点を提示しています。

  1. 発掘・・・次の経営者になり得る人を、ミドルマネジャーの無調・課長層からいかに見極めるか?
  2. 育成・・・発掘した人に対して、日連続的なトランジションをいかに促進するか?
  3. 風土醸成・・・管理職になりたがらない人が増えている中で、経営リーダーを目指す若手メンバー層をいかに増やすか?

2.KDDIのOff-JTの「経営塾」とOJTの「役員補佐制度」

  KDDIでは「次世代の経営幹部候補が育っていないのではないか」という危機感から、2011年にOJT施策として「役員補佐制度」、2017年に次世代後継者研修である「KDDI経営塾」を立ち上げています。

KDDIの経営人材には7つのコンピテンシー(高い志・諦めない・挑戦と変革・パートナーシップ・お客様第一・戦略思考・誠実)が求められています。経営塾、経営塾ジュニア、役員補佐制度を組合せ、コンピテンシーに基づいた360度評価で候補人材を見極めているのです。

3.テルモの「行動様式を変革して前例のない状況に対処する力を育てる」

 テルモは、北里柴三郎が国産体温計を作るために立ち上げた会社ですが、『衣料を通じて社会へ貢献する』という理念のもとで多角化を進め、現在はグローバル化が進み、海外売上比率が約7割、社員の約8割が日本国籍以外という中で、いかに日本人の経営人材の育成が急務になっています。

 テルモもOff-JTとOJTの組み合わせで、特徴的なのが、新入社員を大和尚に、『将来経営人材になりたい」と手を挙げた者を対象にした「SOUL」という制度です。こうした発掘から始まり、課長や部長などのミドルマネジャー層からの選抜、海外と国内の社員が入り交じって行なう研修など、グローバルに切磋琢磨する経験を提供しています。この取組みの根底にあるのが経営人材に求める10項目のコンピテンシーですが、グローバル共通の価値観を大切に、10項目のうちの半分が「人に関わること」となっています。まさに、KDDIもそうですが、経営人材に必要なのはスキルよりはセンスであるという表れです。

4.優秀な管理職から選抜し、タフアサインメントを通じて見極める

 管理職として優秀な人を経営人材として抜擢しても、経営人材になった途端、成果を上げられないという事例は枚挙に暇がありません。

 管理職では担当する特定の領域のスキルがあればある程度の成果を上げることはできますが、経営者は総合力、大局から全体を見渡す力、センスがなければ成果を上げることは難しいのです。こうしたセンスのある人材を見いだし、そのセンスを磨かせる土壌が必要になるのです。

 KDDIでもテルモでも、Off-JTとOJTの組み合わせで経営人材を選抜する仕組みを作っています。これも、経営人材が育つための土壌作りと言えます。

 経営者としての能力は経営の実務経験から身につけるしかありません。タフアサインメントを通じてさまざまな実務経験をさせるしかありません。こうした実務経験を通じて経営センスは磨かれていくものです。

 昨日の「創って作って売る」ユニットは経営まるごとを小さなユニットにしたもので、ここでの実務経験は経営者としての能力を磨くことに繋がります。

5.経営人材育成の長期的な課題

 これから経営人材を目指す若手を増やしていくことも、経営人材育成の長期的な課題です。若者の中にはワークライフバランスを求め、出世を望まない人も増えていますが、一方で、自らの成長を望む若者を増えています。フィードバックを求める若手も多く、そうした若手の思いを受け止める側のマネジメント層の力量が経営人材を増やすキーポイントの一つになります。

 また、上司自身が楽しく生き生きと働いている姿を見せ、管理職や経営人材がいかに魅力的な仕事かを伝えていくことも重要です。

 経営戦略や事業戦略を実現するための人財戦略を実行することが大切です。変化が激しい時代だからこそ、経営人材の育成についても、経営戦略と人材戦略の連動が不可欠です。

 激動の時代には、人事施策の枠組みを超えた企業変革が重要になりますが、常に取組みをアップデートし続けながら、変革を推し進めるためにも経営人材の発掘・育成・土壌作りは欠かせません。