休日の本棚 Dark Horse 好きなことだけで生きる人が成功する時代
おはようございます。
昨日の新規感染者は全国で1万9271人と、ようやく1万人台にまで下がりました。このまま順調に下がってくれることを祈ります。
さて、今日は、トッド・ローズ&オギ・オーガス著「Dark Horse 好きなことだけで生きる人が成功する時代」(三笠書房)を紹介します。
ハーバード大学の研究チームのローズとオーガス両氏が、何百人もの「ダークホース(型破りな成功をした人)」にインタビューを行ない、「ダークホースの思考法」を科学的な研究をもとにマニュアル化したのが本書です。
彼ら「ダークホース」の最大の共通点は、「本来の自分である事(=充足感)を追い求めていたら、いつの間にか成功していた」というもので、学歴もこれまでの経験も、年齢も全く関係ないということです。
この本が伝えたいことは、簡単に言えば、「成功よりも、小さなモチベーションと充足感を大切にしよう」ということにつきます。
1.ダークホースとは
ダークホースというのは、競馬で「あまり注目されていないけれども、番狂わせを起こす可能性を秘めている馬」のことです。ダークホースたちは、たまたま運がいいから活躍できる可能性を秘めているわけではなく、何がしかの明確な共通点があるのです。「そういったダークホースの共通点は人間にもあるのではないか」というのが研究チームの出発点です。
成功には、決まり切った道があるのではなく、個人軸として成功するためには「個性を重視すること」が必要なのです。これからは個人軸の成功が大事であるので、型破りな成功をした人たちを研究することにしたのです。そういう著者たちも、研究者になる以前は、ある意味型破りです。ローズは17歳で高校を中退し同級生と結婚、2人の子供をもうけ、ワイヤーのフェンスを売って家族を養っていました。一方のオーガスは、4つの大学を中退し、古本を売って生計を立てていました。
彼ら自身、成功者とはほど遠い生活を送っていましたが、「個人軸の成功が求められる時代」という流れが訪れます。偏差値の高い大学には行って高収入の仕事をし、豪華な家で家族と暮らすというのが、これまでの成功者としての一本道でしたが、高学歴オでなくても高収入でなくても「自分自身が成功していると思える道を歩む方が素晴らしい」という価値観が主流になってきたのです。
2.ダークホースの共通点
この本では、ジェニーという女性の型破りな成功体験から話が始まります。
ジェニーは、学校に馴染めない女の子で、高校を中退し、馬小屋掃除の仕事に就きます。その直後母親がジェニーを置いて家を出てしまい、ジェニーはやむなく自立しなければならなくなりました。高校卒業認定試験を受けるも不合格、21歳にはシングルマザーとなり、幼い子供を育てるためにファーストフード店でウェイトレスとして働きます。これまでのジェニーの経歴からは明るい将来を見ることはできません。ところが20歳代半ば、ジェニーに転機が訪れます。田舎の親戚の家に行った際に、「田舎でしか見れないものが見えるよ」と双眼鏡を手渡されます。そのとき、ジェニーは星の美しさに魅了されてしまいます。その後、ジェニーは、独学で天文学を本格的に学び始め、11年後に自宅に大きな天文台を作り、その5年後に、1万5千光年離れた道の太陽系惑星を発見したのです。そして、最終的には、学術誌に論文を発表するような立派な研究者になったのです。
このジェニーだけでなく、ローズとオーガスは、多くのダークホースにインタビューを行なっています。そのダークホースのだれもが「『充足感』を大事にしてきた」と口をそろえて言っています。彼らは普通の人と同じく、子供を育て、ローンに追われ苦労しながら仕事をしています。しかし、彼らはキャリアの向上を求め、朝目覚めると、仕事に向かうのがワクワクするほど楽しみだ、夜は1日の生活に満足して眠りにつくと言っています。
この充足感を大事にするという発想は、一般の施行とは異なります。多くの人は成功した見返りとして充足感が得られるものと考えています。しかし、この本は、「成功を目指し努力を重ねた結果充足感を得る」という考えに否定的です。成功したいのであれば、充足感を後回しにするのではなく、「今充足感を得られているか?」を問い続けることが大切なのです。
これまでのように出世や収入だけが成功ではありません。人それぞれの成功があります。多様性が求められ、価値観も多様化している現在、人々が求める成功にも多様性があるのは当然です。まさに個人軸の成功です。本書が言うように、充足感と成功を獲得するためのカギは「自分の興味や関心、能力に合わせて環境を選ぶ権利を持っていることに気づく」ということです。「やらなければならないこと」でなく「やりたいこと」「ワクワクすること」に取り組んでいくことが成功へのカギとなるのです。
3.標準化時代
この本では、「標準化時代」という言葉が多用されています。これは、どんな目標にも最善の道があって、多様性など考えず標準通りにこなせばいいという発想を持った時代のことです。
標準化の目標は、生産システムの最大効率化であり、その目標を達成するために最も重要なことは多様性の排除です。生産管理における標準化は、単に種類を減らすだけでなく、一定の種類や方法を統一して標準的にするもので、物の標準化と作業の標準化があり、作業の容易化や原価低減に役立つものです。標準化というのは、「個性的であるのは問題」という発想です。物や作業をマニュアル化、標準化することで、製品の生産においては極めて効率的になったのです。標準化によって、低コスト・低価格の製品が生み出され、自動車も普及したのです。そうした標準化は物だけでなく人にも当てはまるというのです。
この標準化時代の問題点が、個人の成功を単純に直線的な思考法で測ってしまうことです。つまり、「どの高さ(地位)まで上ったか」と言う、成功を単純な高さで評価する考え方です。しかし、今の時代、一番上まで上っても本当に幸せになれるとは限らないのです。一番上まで上がれば、周りからは成功者とみられますが、本人が本当に幸せであると喜べなければ、本当の成功と言えないのです。また、高さだけで成功を評価するとなると、当然ピラミッドの頂点に立てるのは1人、あるいはほんの一握りの人だけで、ほとんどの人が成功できないということになります。
価値観が多様化し、個性が重視される現在、標準化は時代遅れです。一人ひとりが自分にとって何が成功かを考えて、個人軸として成功を追い求めていけばいいのです。
そのために必要なのが、「小さなモチベーションを大事にすること」です。
小さなモチベーションというのは、標準化時代には無視されてきたような些細なやる気のことです。ダークホースたちは、「競争心」や「創造性の追求」のような普遍的で漠然とした同機とは対照的に、きめ細かく特定された、自分の好みや興味に突き動かされているのです。自分自身で、自分に合った原動力を見つけなければなりません。自分の興味や関心をもとに、本当に「やりたいこと」「ワクワクすること」は何かを考えることです。
4.目的地を考えず、目の前のことに集中する
この本でチェスの話が出てきます。チェスを知らない人は、グランドマスターはなんても先を読むことに長けていると思います。将棋も同じです。しかし、「大抵の上級チェスプレイヤーは、何手も先を読むような戦い方はしない、彼らは一手に集中する、思い切った一手に」と著者は言います。
ここで言おうとしていることは、「目的地を考えずに、目の前のことに集中しなさい」ということです。
標準化時代には、将来の夢のように明確に目指す場所を最終目的地として、その場所に向かって要領よく突き進むことが望ましいと考えられていましたが、わかりやすい夢を持って努力することに問題があると言います。それは、「時間」という有害な概念に従ってしまうからだと言っています。時間を前提に考えるのは標準化的発想で、ダークホース的な成功には必要ない発想だというのです。個人や個性を無視して時間という誰でも共通の概念を軸に考える発想はナンセンスというわけです。
時間軸にとらわれないために「目的地を忘れろ」というのです。目的地を忘れるのは、充足感を失わないためです。繰り返しになりますが、目的地、つまり成功した暁に充足感が得られるのではなく、今いるところから充足感を味わっていくことが大切なのです。例えば、ワールドカップ優勝というのは完全に標準化されたシステム上の目的地で、そこに至るまでの過程の中では充足感という要素は軽視されます。標準化されたシステムによって生まれた目的地を目指している限り、ダークホース的な成功は収められないのです。本書に上げられているのは、ダークホース的な成功、つまりエリートではない人の成功です。エリートなら目標を設定して、その目標を目指して突き進めばいいのですが、ダークホースでは、常に充足感を抱き続けなければならないので、目的地を忘れて、今に集中する必要があるのです。
ダークホース的な成功を収めるには、今の充足感を大切にしながら、今やれることに全力で取り組むことです。何が充足感に繋がるかは人それぞれです。自分の興味や関心をもとに「やりたいこと」「ワクワクすること」を探し、試行錯誤しながら充足感を大切に一歩ずつ進んでいくことです。