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休日の本棚 Adapt 適応戦略

おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1万8252人、東京では22日連続で前週を下回り1週間平均で前週より30%減少しています。一部地域ではクラスターが発生するなどして増加しているところもありますが、概ね減少傾向が続いています。このまま減少し収束することを願いますが、そのためには、まだ一人ひとりが感染防止策を続けるしかありません。節度を持って行動しましょう。

さて、今日は、ティム・ハーフォード著「Adapt 適応戦略ー優秀な組織ではなく、適応する組織が生き残る」(ディスカヴァー・トゥエンティワンを紹介します。

今は、先行きが見通せず何が正解か分からない時代、いわゆるVUCAの時代です。これまで当たり前であったことが通用しなくなっていますが、これは企業経営においても然りです。従来の企業戦略が行き詰まりとなっています。

 これまでは、洗練された「全体像」、一致団結した「チーム力」、個々の責任が明確で情報が上下方向に適切に流れていく「指揮命令系統」、こうした理想のヒエラルキー構造で多くの企業は順調に成長・発展できてきましたが、先行きが見通せない混迷した現代には、こうした「一枚岩の組織」は失敗してしまいます。

1.適応戦略と進化思考

 明確な戦略が見いだせない現代、大切なのは、試行錯誤とフィードバックを繰り返す戦略をとることです。これは、生物の進化戦略をベースにした考え方で「適応戦略」と呼ばれています。

 以前、「進化思考」について書きました。そのときにも書きましたが、現代は「創造の時代」で、コロナ禍のような危機的状況こそ、創発・創造のチャンスです。過去の従来型の方法や考え方に固執していたのでは、イノベーションを起こすことはできません。頭を柔らかくしてアイデアを生み出し変革しなければ、企業も生き残ることが難しくなっています。しかし、「創造しろ」と言われても何をしていいのか分かりません。生物の進化のプロセスを創造性のメソッドに応用するのが「進化思考」です。

 生物は「変異」と「適応」を繰り返して進化してきました。「変異」とは「エラー」であり、「適応」は「エラーが状況にフィットしていくこと」です。生物は変異と適応を繰り返す中で、思いもよらない姿かたちになり創造的な生物が生まれています。だれもが主筆加奈異様なアイデアや発想も、変化と適応を繰り返すことで生み出せる可能性があると言うことです。これが「進化思考」ですが、「適応戦略」もこの「進化思考」をベースにしているように思います。

 進化というのは、「変異」と「適応」の繰り返しです。変異というのは「失敗」であり、「適応」というのは、「その失敗から学んでいくこと」です。要は試行錯誤のプロセスなのです。

2.適応戦略の3つの方針

 この本では、会社組織が適応していく方法と、個人の生き方や働き方としての戦略について、さまざまな事例を通じて適応戦略が語られます。

  • イラン戦争における米軍は、なぜ破滅寸前から挽回できたのかできたのか
  • ハメド・ユヌスのグラミン銀行はどのように始まったのか
  • Googleはなぜ大きな成長を遂げたのか

ここで重要なことは、「失敗を恐れず、失敗したらそれを認める勇気を持ち、失敗を学びに変えて改善していく。このプロセスの繰り返しが、発展・成長のカギとなる」と言うことです。

 以前、「ダイナミック・ケイパビリティ」について書きました。「変わらなければ何も始まらない」「危機や環境変化を敏感に察知し、組織を再編成して、新たな組織に変容する」「環境や状況が激変する中、企業がその変化に対応して自己を変革する」「環境に対応して柔軟に変革する」というのが「ダイナミック・ケイパビリティ」ですが、ここでも「適応戦略」や「進化思考」と同じく「変異(選択)と適応(適合)」が生きています。

 適応戦略は大きく次の3つを行うことです。

  1. 行動:失敗も出てくることを見越しつつ、新しいことにチャレンジする。
  2. 失敗:失敗をする。失敗が致命傷にならないようにする。
  3. 適応:失敗をきちんと把握する。フィードバックを得て、失敗から学びながら前へ進んでいく。

 変動する社会環境の中でイノベーションを起こせなければ、成長することが難しくなります。生き残ることさえ難しい時代です。イノベーションを起こそうと、新しいアイデアを思いついても失敗する確率は極めて高いのです。そこで、その失敗が大切になってきます。

 以前にも「輝かしい失敗研究所」について書いた際に、「『愚かな失敗』で終わらせずに、『輝かしい失敗』へと高め『成功のもと』にしなければならない」と書きました。また、何度も書いていますが、エジソンは「私は失敗したことがない。ただ1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」「私は決して失望などしない。どんな失敗も新たな一歩となるからだ」と言っています。

 人というのは、失敗を認めるのを拒み、方向転換するのを嫌がる生き物です。それでは、失敗から学んで進化(成長・発展)することなどできません。間違っているのに、それに固執して更に大きな失敗を犯すということはよくあります。「失敗は成功の母」と言われても失敗から学ぶということは難しいものです。だからこそ、「適応戦略」に意味があるのです。

 失敗を見越して新たなことに果敢に挑戦し、致命傷にならないような失敗をし、その失敗から学んで軌道修正・改善していくのです。

 ダーウィンも「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。生き残り進化できるのは、環境に適合し変わることができた者だ」と言っています。環境に適合し、変わり続けることで進化が生まれます。それは生物だけに限らず、組織もビジネスも同じです。

大企業や優秀な企業、優れた製品を製造している企業が生き残れるのではありません。そうした企業も環境の変化に応じて変わることができなければ生き残ることはできないのです。中小、零細企業も環境の変化を的確に捉え、それに合わせて変化することができれば、生き延びるだけでなく成長・発展することができます。それには、失敗を恐れず果敢にチャレンジし、失敗すればそれを認めて軌道修正することです。

低迷する日本企業は、リスクを恐れ、事なかれ主義で変わろうとしていません。それが「失われた30年」に繋がっています。「適応戦略」で失敗から学び続けることができれば、日本企業もこの激変する環境の中で進化することができるはずです。それは個人も同じです。