中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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イノベーションの本質

おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で12万6575人で、前週月曜日の1.7倍となっています。BA.5の感染力の強さがわかります。医療提供体制が逼迫している地域もあり、感染者や濃厚接触者の急増で交通機関や工場にも影響が出て社会インフラが機能不全に陥りつつある地域もあります。行動制限を課さず社会経済を回すことで却って社会インフラが機能不全に陥るという皮肉な状況になろうとしています。アクセルだけ踏み続ければ暴走するのと同じで、アクセルとブレーキをうまくコントロールすることが大切ですが、いまの政府に期待することはムリです。「やってる感」だけの政策・対策では今後も感染者は増え続けるだけです。いみじくも政府分科会の尾身会長がNHKの日曜討論で「一般市民が主体的に自分で判断しろ」という趣旨の発言をしました。更に、感染に伴う犠牲(重症化リスク・死亡、一般医療への影響など)は「国民の許容度」という無責任な発言をしています。これまで6回の波に対して適切な対策をとれず、第7波の襲来に職務放棄ともとれる発言で、これが岸田政権の内情を見事に物語っています。

さて、今日は、ダイヤモンドオンラインの「日本企業を救うシュンペーター理論、イノベーションの本質は『スケール』にある」という記事を取り上げます。

先日、「資本主義の先を予言した史上最高の経済学者 シュンペーター」という本を紹介しましたが、この記事は、その本の著者である名和高司氏にインタビューした内容です。

1.いまなぜ、シュンペーターなのか?

いま、企業経営において、「パーパス(企業の存在意義)」に基軸をおいた「パーパス経営」が注目されています。また、その流れで、マイケル・ポーター教授が提唱した「CSV(経済価値と社会価値、2つの共通価値の創造)」が再び注目を集めています。機構聞きや格差拡大など深刻な課題が山積みする中、社会意識の高い世代が台頭し、経済価値を創造すると同時に、社会課題を解決して社会価値も高めるビジネスとして、このような考え方に基づく経営が共感を得ているのではないかと思えます。社会価値だけでなく、経済価値を創出しないとビジネスは持続可能ではありません。ビジネスは、ゴーイングコンサーンで、連綿と成長・発展しながら続いていかなければならないのです。そこで必要になるのがイノベーションです。そこでいま「イノベーションの父」と称されるシュンペーターに関心が向けられているのです。

2.イノベーションへの誤解

 持続的成長を実現するために、イノベーションが必要だと考え、懸命に努力している経営者やビジネスパーソンはいます。しかし、その多くはイノベーションの本質を誤解し、徒労に終わっています。

 この記事で、名和氏は、日本人にはイノベーションに対する5つの誤謬があると言っています。

  1. イノベーションを外発的なものとしていること・・・イノベーションは内発的なもの。企業が自ら変革していくことで、外部経済を変えられるのです。つまり、イノベーションは自分たちで作り出す者出会って、外部の環境変化に影響されるものではありません。
  2. シュンペーターの説く「新結合」を新しいもの同士の結合と捉えている・・・シュンペーターの「新結合」は、新しいものの結合ではなく異なるもの同士の新しい結合です。異なるものは既存のものでもかまいません。イノベーションはmake(新規)でもRemake(模倣)でもなくRemix(編集)によって起きるのです。
  3. 技術革新と思い込んでいる・・・イノベーションは、「技術革新」ではなく「市場革新」です。技術革新はそのための道具の1つかも知れませんが、必要条件ではありません。新しい技術をいくら生んでも、それが社会実装し、スケールして市場を革新できない限り意味はありません。
  4. イノベーションを起こす方法として「両利きの経営」を盲信していること・・・イノベーションは「創造的破壊」です。既存の構造を「破壊」し、そこに埋められている資産を取り出して、新しく「組み替える」ことによって創造が生まれます。知の深化と知の探索を別々に行う「両利きの経営」がイノベーションを起こすというのは誤解です。いまあるものをそのまま深掘りし、ないものを外に探索する「両利きの経営」では、何も破壊して折らず、新陳代謝は起きないのです。
  5. 無から有を生み出す「0→1」だけをイノベーションと考えている・・・イノベーションは「1→10」「10→100」にすることです。0から1を生み出しても、1のままではゴミと同じです。1を10,更に100にして新しい市場を創造しなければ何の意味もありません。シュンペーターは「アイデアだけではゴミである」と言っています。

3.イノベーションに必要なこと

 日本は、欧米や中国に比べマネタイズとスケールが苦手です。

 「1→10」は「マネタイズ(社会実装)」を表わします。これは顧客がお金を払って事業を回るようにすることで、言い換えれば「市場を作る」ということです。日本企業は「モノを作る」ことばかり考えて、「市場を作る」という認識が低いと言えます。品質のいい良いものを作っても売れなければ意味がありません。モノを作る前に、どうやって市場を作るのか、ターゲットとニーズをはっきりと捉まえて売れるモノを作らなければならないのです。

 「10→100」は「スケール(市場拡大)」を表わします。日本の中で小さな市場を作ってもイノベーションとは言えません。世の中を変えることがイノベーションなので、世界に市場を拡大しなければいけません。優れた商品やサービスであれば、周囲がそれを真似して「群生(エコシステム)」が生まれ、それによって市場が拡大されM「標準化(コモディティー化)起こります。

 真似されることを恐れてはいけません。その中で市場のデファクトスタンダードを握ることが重要です。iPhoneも真似されて類似品だらけの巨大市場の中でデファクトスタンダードを勝ち取っています。誰にも真似されないニッチなものを作ってもイノベーションではないのです。

4.イノベーションと両利きの経営

 先ほども書きましたが、「両利きの経営」では創造的破壊を伴わないため、新陳代謝は起こりません。このことは、「両利きの経営」が間違っているということではありません。「両利きの経営」も正しく行なえばうまくいきます。

 今言われている「両利きの経営」では、「知の深化」は自分の強みをそのまま深掘りすればよく、「知の探索」は新しいものを外から持ってくれば良いと安直に考えているところに問題があります。

 「自分の強み」と「新しいもの」を右手と左手で別々に動かそうとするところに問題があるのです。「自分の強み」と「新しいもの」とをうまく組み合わせなければイノベーションには結びつかないのです。自分の強みを新しいものに応用するということです。

 名和氏は、「いまの強みをまっすぐ深掘りしても市場がないのであれば、安直に新しいものを探してくっつけるのではなく、強みをずらしながらほることで自社ならではの新しい市場を作る」と言っています。

 日本には、こうした「ずらし」によってイノベーションを起こす経営モデルがいくつかあります。

  • 松下電工の丹羽正治氏が実践した「掘り抜き井戸」・・・井戸を掘って地下水脈まで到達すれば水は出続けるように、技術も深く掘り下げることで事業はより続いていく。ただ技術を深化するのではなく、掘り抜くことで他の水脈へと展開できる。
  • 日本電産永守重信氏の「井戸掘り経営」・・・大抵のところは掘れば水が出るが、溜まった井戸水をくみ上げることができなければ新しい水は湧き出てこない。掘って水が出たら終わりではなく、くみ上げ続ける。経営の改革のためのアイデアもくみ上げ続けることが大切。強みをくみ続けることで新しい強みが湧き出てくる。
  • 日東電工の「三新活動」・・・既存の製品から「新製品開発」と「新用途開拓」の2つの方向に同時に取り組み、この2つの組み合わせから、「新需要創造」をする。自分の強みを徹底的に活かしながらイノベーションを起こすモデル。