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休日の本棚 経営戦略論Ⅰ

おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で22万7563人で、土曜日としては過去最多となりました。東京では3万970人で、先週土曜日よりは2000人以上も減少し、減少傾向に転じたのかも知れません。しかし、BA.5に置き換わり感染力が強くこのまま高止まりする可能性も指摘されています。こうした状況でも、国や政府は一向に動かず、何ら対策をとろうとしません。結局は国民任せ、夏休みやお盆の時期となり、行動制限はなく国民の気も緩み、各地は人で溢れています。これでは、感染者数が減るどころか、増えるのではないかと懸念されます。お盆明けには大爆発するのではないかと心配です。

さて、今日は、マイケル・E・ポーター著「競争戦略論Ⅰ」(ダイヤモンド社を紹介します。ポーターの経営論については何度も取り上げていますが、本の紹介は初めてです。ポーターは、本書の日本語版への序文で「1987年、『国の競争優位』を執筆する際には数ヶ月間、日本で暮らしたこともある。私は日本から多くを学び、自信の施策において日本から多大な影響を受けている。今、日本は岐路に立たされている。従来のアプローチはもはや通用せず、国として進むべき新たな方向も明確ではない。本書『競争戦略論』に収められた論文は、日本企業と日本政府が新たな一歩を踏み出す上で必要な手がかりを、多少なりとも提示している」と書いています。日本語版が出版されたのは1999年で今から23年前です。日本は未だに岐路に立ち、日本企業も日本政府も進むべき方向を見つけられていません。ポーターの理論は未だに色あせず、十分に役に立つものと思います。

この「競争戦略論」はポーターの論文を集めたものであり、その論文の大半がハーバード・ビジネス・レビューで発表されたものです。「競争戦略論Ⅰ」では、企業にとって競争と戦略がどのような意味を持つかについて論じた論文が集められています。

第1章 「競争要因が戦略を決める」

 この論文は、ポーターの最も古い論文であり、初めて実務家への働きかけを試みたものです。ある事業における企業の業績は、①その事業のすべての企業の平均的な業績と②その企業の業績が業界の平均を上回っているか下回っているかという2点に分けて考えることができます。この論文では、最初の部分、業界の平均的な収益性に長期的かつ多大な差をもたらす要因は何かという問題が取り上げられています。

 ここでは有名な「ファイブ・フォース」、つまり、買い手の交渉力、供給業者の交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威、競争の激しさからなる5つの力、「ファイブ・フォース・フレームワーク」を使って、産業の長期的な収益性を決定する要因を説明し、企業がどうすればそれらの要因に働きかけられるかを述べています。

第2章 「戦略とは何か」

 この論文では、収益性を決定する第二の部分、つまり競合企業間の収益性の差について論じられています。この論文では、企業が業界平均より優れた収益性を得るには、強豪他社より高井価格か、あるいは低いコストを実現すれば良いと主張されています。

 企業間の価格やコストの差異を生み出し源泉については2つのタイプに分けられます。1つは、オペレーションの効率の差、つまりベスト・プラクティスの実現によるものです。もう1つは、戦略的ポジショニングの違いによるものです。どのような企業でも、活動におけるオペレーション効率を絶えず改善していかなければなりません。しかし、継続的な業績の違いは、他社と異なる戦略的ポジショニングから生まれる場合が多いのです。戦略を支えているのは、受注処理や組立て、製品設計、研修などの活動の違いです。戦略が維持可能となるのはトレードオフがあるからです。トレードオフとは、あるタイプの価値は提供するが、別の価値については犠牲にするという、企業間の選択を意味します。

 この論文の最後に5つのコラムが載っていますが、そのうちの「戦略を持たない日本企業」というコラムはなかなか辛辣です。1970年代からオペレーション効率の分野で革命を起こし、コストと品質面で優位を獲得したのは日本企業でしたが、こうした日本的な競争スタイルは1990年代に行き詰まります。オペレーション効率の差が縮まるにつれ、日本企業はみずから仕掛けた罠に捕らわれることになります。ポーターは、「業績を大きく損なっている足の引っ張り合い的な闘いから抜け出そうとするなら、日本企業は戦略というものを学ばなければならない」と言います。日本には、すべての顧客のニーズを満たそうとし、明確なポジショニングを見失って「すべてのモノを全ての顧客へ」となってしまっているのです。

第3章 「情報をいかに競争優位につなげるか」

 この論文では、競争への影響において、情報技術が果たす役割について触れられています。この中で、ポーターは情報技術は業界構造と競争優位の療法に影響を与えると主張しています。

 業界への影響についてはファイブ・フォース、競争優位に対する影響については活動と価値連鎖(バリュー・チェーンというコンセプトをもとに、分析・検証が進められます。

 この論文は1985年に書かれたものですが、現在の情報技術の進歩、デジタル化を見れば、37年前のポーターの主張が的を射ていることがわかります。

第4章 「衰退業界における終盤戦略」

 この論文では、業界構造と競争優位についての考え方を、優秀な代替製品の登場や顧客ベースの縮小、その他の理由で長期的な衰退に陥っている業界に適用しています。業界における衰退が避けられないとしても、衰退に直面した業界における競争について、戦略的にどう考えるべきかという問題に取り組んでいます。

 業界構造という切り愚痴は、その業界が縮小の買い手においても収益性を維持できるか、またその業界に居残り続けることが望ましいかどうかを予測するのにも役立ちます。競争優位という考え方は、衰退していき業界において収益性を確保するには、どういうポジショニングがあり得るかを考える役に立ちます。

 かなりの数の業界が衰退に向かっています。自社が衰退しつつある業界に属しているとわかると、戦略的な思考を辞めて、失敗する企業が多いのです。衰退している業界においてどのようなポジショニングを取り、どのような戦略を立てるのかを考えることが重要です。

第5章 「競争優位から企業戦略へ」

 この論文では、複数の事業分野に多角化を進めた企業にとっての、全般的な戦略が論じられています。多角化について、競争戦略とは独立した別の問題として取り扱うことがありますが、ポーターは、「こうした誤った二分法こそ、過去30年間に多角化を進めた企業のほとんどが惨めな業績しか残せていない理由である」と言い切ります。

 この論文で、ポーターは企業戦略(多角化)と競争戦略は別物ではあるが互いに密接に関連している」と言います。企業戦略も、競争戦略と同様に、業界と競争優位を巡る問題をはらんでいるのです。

 業界という観点からすれば、その企業が競争の舞台としてどのような業界を選ぶか、またどのような方法で参入すべきかという選択が、企業戦略上の問題となるのです。

 競争優位という観点からすれば、企業レベルで考えねばならないのは、その企業の一部である事が、個々の事業の競争優位にとってどのようなメリットになるかという問題です。この論文では、業界構造とバリュー・チェーンと言うコンセプトを活用して、これらのテーマを解明しています。多角化という戦略的論理を理解する上で、活動という概念がどのように使えるか、また企業戦略が組織や経営の実践とどのように結びつかねばならないかが明らかにされます