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稲盛経営哲学

おはようございます。

昨日、これまで何度も紹介していました稲盛和夫氏が永眠されたというニュースが流れました。ご冥福をお祈りいたします。

そこで、改めて、稲盛氏の業績と稲盛哲学の神髄について触れたいと思います。

1.稲盛氏の経歴

 稲盛氏は1932年に鹿児島県で生まれ、1955年に鹿児島県立大学(現鹿児島大学)工学部を卒業し松風工業に入社しますが、業績が悪化したため退職し、松風工業の社員8人を引き連れ京都セラミック(現京セラ)を創業します。1972年に京セラは東京証券取引所に上場を果たし、一流企業の仲間入りをします。

 1984年、稲盛氏が音頭をとって国に通信事業自由化を要請し、これが実現すると、京セラが資金を投じ民間初となるDDIを設立します。後にケイディディ日本移動通信と合併し、現在のKDDIとなります。

 1998年、複写機メーカーの三田工業が経営に行き詰まり会社更生法の適用を申請したとき、京セラは三田工業を支援し、2000年に更生計画認可を受け「京セラミタ工業株式会社」と社名変更塩ます。京セラの支援を受け、9年の更生計画を2年で達成します。

 2010年、稲盛氏は低迷していた日本航空の政権に乗り出し無報酬で会長に就任し、積極的な社員の意識改革に取組み、全従業員の3分の01に当たる1万6000人のリストラを断行、着任のよく期には営業利益1800億円の高収入企業に生まれ変わらせました。

 稲盛氏の経営管理手法は、以前紹介した「アメーバー経営」と呼ばれています。稲盛氏は全国に支部を持つ盛和塾と、PHP研究所や到知出版社などの出版社から多数の経営指南書。自己啓発書を出版し、アメーバ経営や稲盛氏のP経営哲学の啓蒙・普及に努めています。

2アメーバ経営

 大企業のように複雑化した組織をトータルで管理しようとすれば、組織の末端にある現場まで目が行き届かず、「大企業秒」と呼ばれるさまざまな弊害うぃひきおこすために、企業の収益性は低下します。

 一方、アメーバ経営は、大きな組織を独立採算で運営する小集団にウ分けて、その小さな組織にリーダーを任命して、共同経営のような形で会社を経営するものです。このような経営処方では、会社の隅々にまで目が行き届き、きめ細かな組織運営が行えるようになるため、収益性が低下していた企業でも高収益企業に変身することができるというのです。

 アメーバ経営では、会社の経営方針のもと、アメーバリーダーにその経営が任され、リーダーは小さな組織の経営者として、上司の承認を得ながら自ら経営計画を立て、実行の任に当たります。そのため、アメーバ経営では、経営者意志おきに溢れるリーダーを育成することができます。

 そのリーダーが中心となり、アメーバ構成メンバーは、自ら目標を立てて、それぞれの立場で目標達成に向けて最大限に努力し、全員が目標達成に向けて力を結集する「全員参加経営」が実践できるのです。

 京セラが、多角化を行ない、グローバル化を進めるなかで、高収益経営を続けることができたのは、このアメーバ経営を実践してきたからなのです。

3.稲盛経営12箇条

第1条 事業目的・意義を明確にせよー公明正大で大義名分のある目的を立てる

第2条 具体的目標を立てるー立てた目標は常に社員と共有する

第3条 強烈な願望を心に抱くー潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つ

第4条 誰にも負けない努力をするー地味な仕事を一歩一歩堅実に弛まぬ努力を続ける

第5条 売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑えるー入るを量って、出ずるを制する。利益を追うのではない。利益は後からついてくる

第6条 値決めは経営ー値決めはトップの仕事。お客様も喜び、自分も儲かるポイントは一点である

第7条 経営は強い意志で決まるー経営には岩をも穿つ強い意志が必要

第8条 燃える闘魂ー経営にはいかなる格闘技にもまさる激しい闘争心が必要

第9条 勇気をもって事に当たるー卑怯な振る舞いがあってはならない

第10条 常に創造的な仕事をするー今日よりも明日、明日よりも明後日と、常に改良改善を絶え間なく続ける。創意工夫を重ねる

第11条 思いやりの心で誠実にー商いには相手がある。相手を含めてハッピーであること、皆が喜ぶこと

第12条 常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で―宇宙の意思と調和する

 この稲盛経営12箇条については、以前詳しく説明していますので、それを参考にしてください。

4.自利と利他

 稲盛氏は、「稲盛経営12箇条」を見ても明らかなように、「利他の心」あるいは「無心の心」の大切さを説く一方で「数字は経営の基本」という姿勢を忘れていません。前者はフィロソフィ、後者がアメーバ経営に基づく採算管理です。まさに渋沢栄一の「論語と算盤」そのものです。

 前述したアメーバ経営というのは、稲盛氏が京セラを経営する中で、京セラの経営理念を実現するために作り出した独自の経営管理手法です。組織をアメーバと呼ぶ小集団に分けて、各アメーバのリーダーが中心となって各アメーバの計画を立て、メンバーが知恵を絞って努力することでアメーバの目標を達成していきます。そうすることで、現場のメンバー一人ひとりが主役となって、自主的に経営に参加する「全員参加経営」を実現するものです。

 稲盛経営の基本は、極めてシンプルで「売上最大、経費最少」「値決めは経営」で、これをアメーバに徹底させることにあります。企業を支えるために独自の管理会計の仕組みを作り、各アメーバに採算責任を担わせるのです。

 ただ、これではアメーバ単位の部分最適に陥りやすいという欠点が出てきます。そこで、アメーバのリーダーにはフィロソフィに基づいて行動することが求められます。

 稲盛氏は「リーダーは、同じ会社で働く同士として、会社全体の視野に立ち、『人間として何が正しいのか』という一点をベースに判断しなければならない。自らアメーバを守り、発展させることが前提だが、同時に会社全体のことを優先する利他の心を持たなければアメーバ経営を成功させることは出来ない」と言っています。

 アメーバ経営を単に自立分散型経営、独立採算管理という一面だけで捉えてしまうと、本質を大きく見誤ることになります。アメーバ経営は「利他の心」というフィロソフィが前提としてなければならないのです。

5.経営には哲学が欠かせない

 アメーバー経営の実現には、複雑である組織をどのように切り分けるかという問題があります。ただ細かくすればいいというものではありません。

  1. 明確な収入が存在し、かつその収入を得るために要した費用を算出できること
  2. 最小単位の組織であるアメーバが、ビジネスとして完結する単位となっていること
  3. 会社全体の目的、方針を遂行できるように分割すること

 この3つの条件を満たしたときにアメーバとして独立させることができます。

 アメーバーを切り分けていき、1度作ったら終わりではなく、経営状況・市場・技術革新・競合他社などの急速な変化に対応して、柔軟に組み替え即座に対応しなければなりません。そのため、経営者やリーダーは、今の事業を取り巻く環境や自社の方針と現在の組織が適合しているかを、常にチェックしておく必要があります。

 各アメーバは自分の食い扶持を自分で稼ぎ、自分を守ろうとするエゴを発揮しなければなりません。一方で、会社全体の視点で、トータルの利益を最大にする事が本来の使命です。個の利益と全体の利益の間で対立が起こる場合には、個として自部門を守ると同時に、立場の違いを超えて、より高い次元で物事を考え、判断することができる経営哲学、フィロソフィーを備える必要があります。ここで重要なのは「人間として何が正しいのか」ということを判断基準とした経営哲学です。

 リーダーになるような人間は、もともと自己主張が強く、押しの強いタイプの人間が多く、自己主張が強く、少しケンカするくらいの熱意がなければリーダーは務まらないとも言えます。しかし、社内で対立が生じたとき、声や態度が大きいリーダーは自分の利益を最大限にしたいがために相手の立場を踏みにじります。そのようなことがあっては会社全体の利益やモラルを守ることはできません。自己注視音的な態度を取らないよう、自分を律する高い次元のフィロソフィーを身につけなければなりません。

 アメーバー経営では、一つの部署の採算が悪化しても他の部署の採算が良くてカバーできているからいいという発想はありません。すべての編めばリーダーは、自分の任されちゃ事業を立派に運営し、自ら作成した計画を遂行する責任があり、採算を向上させなければなりません。

 一方で、「会社全体のため」という意識を持つことが重要です。自分が任されたアメーバを守ることだけでなく、会社全体の視野に立ち「人間として何が正しいのか」という一点をベースに判断する必要があるのです。

稲盛氏は言います。

会社というものは、低い目標を立てれば低い結果しか得られない、業績を大きく伸ばしていこうとすれば、どうしても高い目標を立てる必要がある・・・高い目標に向かって、集団を正しく導くために、リーダーは、どのように行動すべきか、判断すべきか、あるべき姿を常に追求していかなければならない。それを繰り返すことにより、リーダーは人間として大きく成長し、メンバーから信頼と尊敬を受けるようになる」 

稲盛和夫氏は永眠されましたが、稲盛経営哲学は今後も生き続けていきます。私たちが稲盛経営哲学から学べることは尽きません。