休日の本棚 リーダーのための仕事論
おはようございます。申し訳ありませんが、今日も過去に紹介した本のブログをそのまま貼り付けさせていただきます。
今日はリーダーはいかににあるべきか、丹羽宇一郎著「リーダーのための仕事論」(朝日新書)を紹介します。丹羽氏は、伊藤忠商事の社長に就任後、約4000億円という不良資産を一括処理し翌年には同社史上最高益を計上するという敏腕を発揮し、また2010年には民間人では初の中国大使に就任しました。
丹羽氏は、リーダーとそれ以外の人の違いは、「自分のことだけを考えていればいいのか、自分以外のことを優先しないといけないのか」の違いであり「その違いは『教育』に帰着する」ので、「経営の要諦は『不可解な人間、人をどう動かすか』に尽きる」と言っています。リーダーは「人とは何か」「人の教育とは何か」ということを謙虚に学び続けないといけないというのです。この学びに欠ける経営者は自己中心的な経営者です。会社の業績が上がれば自分の功績としていたのでは、危機に陥った時に誰も助けてくれません。会社が危機に陥った時に経営者の支えとなるのは社員であり、社員の信頼と力こそすべてです。
経営は一人の人間の力で何とかなるものではなく、幾人ものリーダーが育ち、会社全体がいいチームとして機能した時、初めて会社はうまく回り始めます。
丹羽氏は、「仕事だけに限らず、森羅万象、広く深い教養を求めて自らも学び続けるとともに、部下もしっかりと『心』の教育をしていく。そうしてすそ野が広いリーダー層が育っていかない限り、世界の中でのグローバル企業として、ひいては日本という国自体が立ち行くことは難しくなる」と言います。「リーダーなき国は滅びる。今の日本は安易な自己中的成果主義がはびこり、非正規雇用が3割に達するなど、教育をおざなりにすることで足元から崩れかかっている」と警告しています。
さらに、「これからのリーダーは日本の唯一無二の資産である『人』を教育することの大切さを肝に銘じ、会社と日本を引っ張っていくんだという自負心を持って進んでほしい。自負心は謙虚に学び人のために自分の時間を使う努力を重ねて初めて持てるもの、努力なき自負心はただの傲慢だ」と言っています。
第1章 リーダーになったら、まず心すべきこと
- 人の上に立ったら、まず自分の常識を疑え・・・リーダーにならなければ見えてこないことがある。優しくあるためには強くなければならない。
- 前例主義だけでやってはいけない・・・自分が知っている世界、常識がすべてでないことを肝に銘じ、真っ白いキャンバスから勉強するつもりがちょうどいい。
- 立派な上司より反面教師に学ぶ・・・立派な上司を見習い背伸びしてもボロが出る。けしからんと思う上司を反面教師として自分を戒めるのが現実的。
- 手取り足取り教えるより「認めて、任せて、褒める」・・・1から10まで教えることはしない。
- 人は自分の心の鏡である・・・言葉を尽くせば、なぜ怒られたかをちゃんと理解し反省する。反論したくても、まずは「そうか」と聞く耳を持つ。その姿勢を見せることが部下との信頼関係を築く。
- リーダーとは、世のため人のために尽くす人のこと・・・誰に何を言われようとも、自分がどうなろうとも、できる限り自分の信じる道に従って生きる。
第2章 部下を育てながら、結果を出す
- 成果主義の弊害・・・数字を追いかけることが間違っているわけではないが、目の前の結果を出すことだけに汲々としてしまえば、将来のビジョンもなく展望も開けず、付け焼刃の成長戦略しか描けなくなる。
- 利益の根源に迫る・・・リーダーたるもの目先の結果のみ追わず、利益の根源に迫るべし。あらゆる状況を総合的に判断して長期的視野で物事を見ることのできる人が本当のリーダーである。
- 目標はコンサバティブに・・・目標設定というのは肩の力を抜いた程度がちょうどいい。リーダーにとって結果は常について回る。言い訳せず、それを引き受ける覚悟が必要。
- リーダーは漢方医・・・部下を育てようと思えば、目立った変化がなくても気を配り、小まめに声をかけて状態を確認する。
- 価格と技術だけで仕事をするな・・・長期的ビジネスを成功させるには、自社だけでなく、相手の会社にもプラスになるようにしなければならない。人格と人格のぶつかり合いが大きなビジネスに発展する。リーダーには人間性が問われる。
- 時にはリスクを取る・・・顧客のために自分の知力を傾けろ。顧客が困っていれば一肌脱ぐ。リーダーたるもの本当に相手のためになると思えば時には体を張って勝負するくらいの気概が必要。
- 部下の報告が遅いのは上司の責任・・・自分に報告しやすい環境を作ることが必要。報告しやすい環境づくりとは「おい、あれどうなった」と気軽に声をかけるだけでいい。
- 人間の能力に差はない・・・優秀な人と並みの人の違いは「情熱」と「気力」。リーダーの役割は誰でも必ず持っているどこか良い点を探してあげること。
- 地道な努力を見出し、ゴマすりを退ける・・・自分の持ち場で一所懸命努力する、自分のできることにひたすら打ち込む。一人一人が小さな努力を積み重ねれば、世の中を変える大きな力になる。
- 「失敗事例集」を作っても役立たない・・・大きな失敗の裏には多くの小さな失敗が隠れている。順調と思ったときほど注意が必要。
第3章 リーダーに求められる「伝える力」
- 上司は「背中」で語れ・・・人間は言葉より、見た目の印象や気力・情熱と言ったものの方に注意が向くもの。何かを伝えようと思うなら、まずリーダーたる自分の日常生活をきちんとする。「範を示す」ことが大事。
- 褒めてばかりじゃ「ゴマすり集団」ができる・・・「よくやった」「えらい」という誉め言葉は偶に使うから効果的。リーダーは人を見て、褒めるところと叱るところのバランスを考えることが重要。
- 非日常の言葉を磨く・・・リーダーにとって、簡潔明瞭、ちょっと心に響く非日常の言葉を磨くことが重要。たくさん本を読んで、たくさんのキャッチフレーズを頭に描くこと。
- 「情熱」と「気力」プラス「倫理」・・・リーダーに欠かせないものは「情熱」「気力」「倫理観」 リーダーは率先垂範、背中でそれを示さなければならない。
- その虚栄心に中身はあるか・・・人間は虚栄心があるからこそ、野心や競争心が出てくるもので、否定すべきものではないが、問題は中身があるか実体を伴っているかである。
- 感動、感激を部下と共有する・・・人間はトキメクことが大事、心がトキメク様な仕事に全力を傾ける。上に立つ者は部下のため、社員のため、会社のためと思って働き、そうして得られた仕事の感動や感激を部下とともに味わう。
第4章 リーダーは決断力をどう養うか
- 首切りなら誰でもできる・・・将来のためには人材を育てていかなければならない。人材を育てるには時間と経費が必要になる。人を育てるのは大変、だから雇用を守っていかなければならない。
- 「賛成3割、反対7割」という経験則・・・賛成が3、反対が7くらいであれば、そこそこ儲けの出るビジネスになる。
- 6年でできないことは7年経ってもできない・・・長ければいいということはなく、むしろ弊害が多い、
- 人間は簡単に成長しないから「継続」が欠かせない・・・大事なのは「継続」それを「習慣」にすること。
- 第六感の上を行くナナカン・・・第六感よりさらに人知を超えた「ナナカン」、これは自身の経験と深い教養に裏打ちされたところにある。
- 何でも一流に触れる経験を・・・一流と言われるものや人に触れて経験してみることが大切。
- 決断力を養う方法・・・大きなビジネスを仕掛けて感動や感激を味わい、読書を続け、一流に触れて人間の幅を広げる。
第5章 リーダーは学び続けよ
- 未知なるものへの挑戦で、学者にも負けない専門家になる・・・リーダーになろうとする者は未知への挑戦を続ける気持ちを忘れてはいけない。努力をする、挑戦し続ける、学び続けることが大事。
- 心にも栄養を与えなければ、幼稚園児のまま・・・知的好奇心を感じ、それを満たしてくれるような本を読め。人間が成長するためには読書は不可欠、それを与え続けなければ、そこで成長は止まってしまう。読書は知識を得るためではなく心の栄養を与えるために必要なもの。ただ読むだけなら簡単、自分の心を育てようと思えば、考えながら読まなければならない。論理的な思考を養うということが重要。
- 自分にも他人にも厳しいリーダーの落とし穴・・・何かトラブルが起きたら責任は自分に、花を持たせるときは部下に。本当に仕事ができる人、素晴らしいリーダーは絶えず相手の立場を考えている。
- 本当の賢者が持っているもの・・・賢者は律し自制し、愚者はほしいままに自慢する。自制心、自分の欲望を押さえることが大事。
- 読書の効用=時間と空間を超えた著者との対話
- 自分の目、耳、そして感覚すべてで判断する・・・リーダーは全体像をつかんでおくことは必要だが、すべての業務に精通し秀でた知識を持ち合わせていなければならないものではない。上がってくる案件に「常識と良識で考えて判断する」のが仕事。信頼やきずなで他力本願になってはダメ。過剰な信頼を寄せ合うのは問題。
第6章 今、日本に求められるリーダーシップ
- 日本も、本質的には個人よりチームワークで力を発揮する組織体制で、強固な官僚社会。官僚制が強固になったというより政治家の怠慢が目立つ。政治家が勉強もせず丸投げするから官僚がすべてを支配するようになる。その官僚も現場を知らない、前例主義で何も変えようとしない。このままでは日本はいつまでたっても変わらない。強固な官僚支配だと突出したリーダーが生まれてこない。
- 経済界、経営者は、政治の世界ほど官僚的ではないが、「みんなで渡れば怖くない」という風潮が強く、周囲の顔色を伺って発言する。勇気をもって自分の意見を言う人が少ない。10年後、20年後を考えている人も少ない。真のリーダーは10年後、50年後と言った長期的視野で物事を考えなければならない。
- 教育のないところでは何も起こらない、何もできない。企業経営者も、今の若者がどうとか、政治が悪いとか、文句ばかり言っていないで、20年後、50年後の日本国家のグランドデザインを描かなければならない。労働者の使い捨てはやめ、一から育てて行くことが大事。
- 「日本の品質=安心・安全」を支えてきたのが日本人であり、日本の教育の高さ、その根幹に学校教育があり、企業の社内教育がある。
- トップの言葉は「ファイナル・ワン」、つまり訂正がきかないと思った方がいい。あとで「あれはこういう意味だった」「発言の真意は本当はそうじゃなかった」と言い訳できない。もちろん訂正するのは悪いことではないし、逃げようとするのは過ちを犯すよりももっと悪い。しかし、リーダーはこうと決めたらそれを突き通すくらいの覚悟がなければならない。そういう覚悟がなければ容易に発言すべきではない。
- リーダーたるもの、私心を捨てて努力あるのみ。周りが浮かれているときには気を引き締め。周りが沈んでいるときには、平常心で穏やかな顔で盛り立てる。率先垂範で逆境に耐え安心できる顔を見せなくてはならない。
- 辛くても苦しくても努力をやめず、常に最善を尽くす。そして私心を捨てて、弱者のために立ち上がろうとする、温かく優しい血が身体を流れている。こういう人がエリートであり優れたリーダーになる。
- 愛され怖れられるリーダーをつくる心は「仁」、これは個人的な愛を超えた広くあまねく社会や世界に対する愛、「自分のため」といった自己利益を超えた無私の愛である。理想のリーダーとは何かを突き詰めると「仁」に尽きる。
昨日は、「決断できない、現場を知らない、責任を取らない」日本型リーダーの問題点を見て、今日はリーダーの在り方、リーダーの心構えを見てきました。この本に書かれているような理想的なリーダーが生まれることを期待したいものですし、少しでもそうした考え方・あり方を身につけたいものです。