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休日の本棚 「戦う組織」の作り方

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けます。

今日は、渡邊美樹著「『戦う組織』の作り方」(PHPビジネス新書)を紹介します。渡邊美樹氏と言えば、言わずと知れたワタミの創業者です。

この本は、渡邊氏の経験を基に、厳しくも公正なリーダーになるための「覚悟」と「具体的方法」が語られています。

「褒めて伸ばす」ということが言われ、「叱れない上司」が増えています。最近の若者は打たれ弱く、叱るとすぐに辞めてしまうので、なるべく優しく接しなければならないなどと「厳しく躾ける」ことが嫌われる風潮にあります。それは会社だけでなく、学校や家庭、社会全体がそのような風潮にあるように思えます。

ベネディクトが「菊と刀」で述べたように、日本は「恥の文化」で欧米の「罪の文化」と対比されます。日本の「恥の文化」は他者の内的感情や思惑と自己の対面を重視する行動様式で、恥ずかしいか恥ずかしくないかで判断される価値観を持っています。親が子供を叱るときに「恥ずかしいからやめなさい」と注意するのはこうした「恥の文化」の影響です。「恥」という対面によって良いことと悪いことが区別されるのです。これに対しキリスト教の影響を受ける欧米は内面的な罪の意識を重視する行動様式で、「正と邪」で判断される価値観を持っています。日本では、江戸時代に、恥の文化に儒教朱子学)的な思想が加わり、日本独自の文化を生み出したのですが、戦後になると儒教的な思想の部分が薄れ、恥の文化が際立ってきています。良きにつけ悪しきにつけ日本では厳格なキリスト教的な価値基準が存在しないので正しいことと正しくないことの境界線があいまいとなっています。「正と邪」についての明確な価値基準が存在しないので、邪悪なことに対して厳しく叱るということができないのです。なあなあで済ます(相手と適当に折り合いをつけいい加減に済ませる)風潮が顕著に残っています。

話を戻します。ワタミという会社は、「実力主義の厳しい会社」です。

渡邊氏は、「『厳しい』『優しい』という区別自体、あまり意味がない」と言っています。その人に愛情を持ち、本当に育ってほしいと願っているのなら、ここは厳しく言っておくべきだ、などといった判断が自然と生まれます。ここは優しく接しておいた方がいいという場面もあります。必要な時に必要な接し方をすればいいということです。

渡邊氏は「『叱れない上司』が増えるのは、相手(部下)のことを考えず、自分のことばかりを考えているからではないか。自分が嫌われたくないから叱ることができない」と言います。この見せかけのやさしさは自分を愛するがための狡さであり、相手のことなど何も思っていない薄情さだというのです。

また、ワタミ実力主義は、企業の目的「一人でも多くのお客様に幸せな飲食の機会を提供したい」「高齢者の方に幸せな老後を提供したい」という目的に向かって誰がどの仕事をしたら一番いいかを冷静に考え、役割分担することで、「適材適所」に人員を配置することであり、社員の扱いに差別を設けることではないのです。渡邊氏は「社長も店長も対等で、役割が違うだけ」と言い、最近の給与体系では真ん中よりも下の人の給料を厚くすることで、上下の格差が少なくなっています。

本書の構成は、

第1章 100年続く「強い組織」を作るために

第2章 成長を続ける「戦う組織」の作り方

第3章 組織を引っ張る「戦うリーダー」の条件

第4章 「戦う部下」を育てるリーダー力の磨き方

  • リーダーの資格とは 「俺が育ててやる」というのは大きな自惚れ
  • リーダーに求められる仕事とは? 部下の不出来をなじるのは上司の怠慢にすぎない  
  • 「叱れない」「嫌われたくない」では上司失格 リーダーの褒め方&叱り方
  • 厳しくも公正な部下評価 ○✕をつけるのではなく人を育てる機会として
  • リーダーが身につけておくべき「力」とは? 苦い経験を重ねるからこそ、成長がある
  • 仕事をする上での「幸せ」とは何かを考える 悩み多き時代に「夢」を持つことの重要性

エピローグ ワタミを支えるのは「人」である

となっています。

この中からいくつかのポイントを紹介します。

  • 100年続く「強い組織」を作るためには、⑴未来を見据えた新しい事業を生み出すこと ⑵企業にとって最も重要な「企業理念」を、決して忘れることの内容、すべての社員に徹底させていくこと の3つが必要。
  • お客様の声に耳を傾け、お客様の変化に対応すること、すなわち現場がすべてだ。経営と現場が乖離したら未来はない。
  • もし理念を失ったら、お客様の心もすぐに離れる。しかし理念の継承は、実はとても難しい。立派な理念を掲げてスタートした企業が創業後20年、50年、100年と経つうちに当初の志を忘れ、お客様の信用を失う不祥事を起こしてしまう例は枚挙にいとまがない。頻繁に社員に理念を訴えかけるしかない。理念を訴えかけるとその時は社員のモチベーションは高くなる。しかし日常業務に追われるうちにやがて理念は忘れがちになる。そこでまた理念を訴えかけモチベーションを上げる。また理念を忘れがちになる。その繰り返しである。定着は難しい。思いを相手に伝え続けていくしかない。
  • 社会に対するアンテナを立て「自分たちだからこそできること」や「自分たちだからやるべきこと」を必死になって考え続けるしかない
  • 組織は人を食いながら成長していく。組織はその成長過程に合わせて、必要とする人材をどんどん変えていく。また同じ人間に対しても、要求する水準をどんどん変化させていく。今必要な人間が5年後、10年後にも必要であるかどうかは誰にもわからない。
  • 「戦う組織」とは、厳しい集団でなければならないが、人の可能性を見切る冷たい集団であってはいけない。活きるかもしれない人材を見殺しにしてはいけない。チャンスは常に与え続ける必要がある。
  • 必要な場面で、必要な人材を登用するためには、まずは会社のあるべき姿と現状とのギャップを正確にとらえることが重要になる。「今どんな人材が社内に不足しているのか」をできる限り具体的にイメージする。そして、その求められる人材は、社内で育成することが可能なのか、中途で採用する必要があるのかを客観的に判断する。その上で中途社員を採用するとなった場合は、理念を共有できる人物かどうかを重視して、その採否を判断する。
  • いわば軌道に乗った事業の経営というのは「戦後統治」なのだ。トップは常に戦場の最前線、120%の力を発揮しなくては勝てない場所で戦わなければならない。それは非常に厳しいことだが、それこそが自分の存在対効果を最大限に高めることになる。そうでなければ強い組織、戦う組織など作ることはできない。
  • 硬直化した組織において、メンバーの意識を変えようと思うなら、覚悟を迫るしかない。土壇場まで追い込まれないと、人は変われないものだからだ。
  • 「戦う組織」を作れるかどうかは、リーダーで99%決まると言っても過言ではない。リーダーが先頭に立って戦う組織は部下も戦うし、リーダーが逃げてばかりの組織は部下も逃げてばかりになる。戦うリーダー育成のポイントは、「追い込むこと」である。追い込まれたときに逃げてしまうようだとリーダー失格だ。逃げずに立ち向かえる人間は、それだけでリーダーになる資質を備えている。自分のキャパシティを超える課題に立ち向かううちに、100しかなかった力が120になっていく。すると今度は140の課題に直面する。それをクリアすることで、140の力をつけていく。そうやってリーダーは成長していく。
  • リーダーになれる人間のもう一つの条件は「変わらないこと」だ。どんな時でも平常心で、ブレない判断ができる人が、組織を引っ張るだけの器を持っている人間である。心の奥底に熱さを持ちながらも、感情の浮き沈みが少ない。それがリーダーの条件であり、一流の条件でもある。
  • 120%ということは、自分のキャパシティを超えているわけだから、当然判断を誤ることもある。それでいい。もちろんお客様に迷惑をかけたり、経営が傾いたりするような決定的な失敗は避けなくてはならないが、それ以外の小さな失敗はどんどんすればいい。失敗を回避することよりも、逃げずに戦い続けることの方がリーダーの成長には大切だ。組織の将来を安心して任せられるリーダーを育てるためには、ときには敢えて突き放すことも必要だ。
  • リーダーに求められるのは、部下を育てながらチーム力を高めていくことだ。しかし、人は勝手に育つもの。伸びる人間は自分で考え、挑戦して失敗し、また挑戦して壁を乗り越えながら、自分で成長していくものだ。上司が『俺がいつを育ててやった』というのは大きな自惚れだ。リーダ-ができるのは環境を整えてきっかけを提供することだけだ。部下に対する愛情がないリーダーの下では部下は育たない。夢やビジョンを示せないリーダーの下では、部下も夢やビジョンを持てない。夢やビジョンがなければ、仕事に対する意欲を保てず、成長も止まってしまう。
  • 組織は愛情を注げる同じ志を持った仲間で支えられている。逆に言えば、社員の志を一つに纏め上げるビジョンやミッションが示されていない会社や部署は、社員がてんでんバラバラの意見や考え方で動くことになる。問われるのは、「リーダーがしっかりと夢や志を持っているか」どうかだ。そして「チームとしてどんな仕事を成し遂げたいのか、その思いをきちんと部下に伝えられているか」どうかだ。
  • 物事を深く考えないといけない場面では、「思考の3原則」を大切にしている。①目先に囚われないで、できるだけ長い目で見ること ②物事の一面に囚われないで、できるだけ多面的に、でき得れば全面的に見ること ③物事によらず枝葉末節に囚われず、根本的に考えること の3つだ。
  • 育つ環境を整えるうえでまず最初にやるべきことは、ビジネスや会社のルールをしっかりと教えること。スポーツと同じで、基本的な規則やマナーを知らない人間は仕事に参加する資格がない。仕事に参加できなければ、そもそも成長する機会自体が得られないから、有無を言わさず習得させなければならない。
  • 仕事で求められる本当の力、特に役員や経営者を目指すべき人が身につけるべき力は、「今、世の中で何が起きているのか、アンテナを立てて鋭くキャッチすること」や「状況を的確に把握し、自分や組織が進むべき道を判断できる」といった状況把握力と判断力である。これは上司が部下に教えたり育てたりすることができない力である。部下自身が試行錯誤を重ねながら身につけていくしかない。
  • リーダーに求められるのは、部下の資質や能力をシビアに見極めることだ。リーダ-は自らの努力で壁を乗り越えた人間を正当に評価する姿勢を持つことが大切だ。また、まだ壁を乗り越えられていないが、乗り越えようと努力している人間にチャンスを与え続けられることも大切だ。組織として成長を標榜するなら、部下が持っている能力や、今後伸びていく可能性をシビアに判断しながら、人事を遂行しなくてはいけない。
  • 人を見るときの判断基準はすでに自分の中に身につけている。しかし欲や焦りがあるとその判断基準がブレてしまう。リーダーとして透徹した目を獲得するには、いかに欲や焦りから離れられるかが条件になる。また、部下の資質や能力を、多面的に評価する視点を持つことも大切である。上に立つ人間に必要なのは、その人の適所がどこか、とことん考え抜くことだ。そのためにも日ごろから愛情と関心を持って部下のことを見守っていないといけない。適材適所の配置ができたとき、部下は一気に飛躍する。
  • 「揉める」「叱る」は上司と部下のコミュニケーションに欠かせないものである。100人いれば100通りの性格や資質、考え方がある。どんな場面でも、誰に対しても絶対的な効果を発揮する褒め言葉や叱り方など存在しない。同じ言葉でも、それが生きたものになるか死んだものになるかは、場面や相手によって変わる。一番大切なのは、部下と真剣に向き合い、相手の心に届く言葉を自分で見つけて発することである。
  • 褒めたり叱ったりというのは「機」を捉えることだ。部下を褒めたり叱ったりするときには、まず叱られることに耐えたり、褒められることで慢心したりしない気力や根性が、相手にあるかを見極めなければならない。部下の心の細かな働きにも意識を向けなければならない。叱る相手のことを事前に知ったうえで叱るのが基本だ。相手のことを理解していないのにしかりつけるのは、絶対にやってはいけない。
  • 人間同士だから、時には意思の疎通がうまくいかないこともある。ボタンの掛け違いが起きていることに気づいたら、すぐに誤解を解くために動かなくてはいけない。叱り方の失敗したら、その失敗を素直に認めることもリーダーには大切なことだ。部下が間違った方向に進んでいる時には、叱ることで正しい方向性を示す。部下が成長を遂げたときには、褒めてあげることで自信を持たせる。これができれば部下は迷うことなく伸びるべき方向に延びていく。叱ることとほめることは、上司が絶対に避けてはならない責務である。
  • リーダーには部下を評価するという役割がある。しかしそれは感情や損得で評価していいということではなく、理念と目標に沿って行われるべきものだ。そして同じ原則は、リーダー自身にも課せられるものである。こうした公正さが保たれたとき、リーダーが下す評価は周囲にとっても、そして評価された本人にとっても、必ず納得のいくものになる。評価とはその人の能力に〇✕をつけることではない。もっとも能力を発揮する役割は何かを判断するために行うものだ。評価はリーダーの役割であり、部下に適材適所で働いてもらうために必要なものである。
  • 部下への評価は公平でシビアなものでなくてはならない。しかしそれは、低い評価を下した部下を見放すことではない。何度でもチャンスを与えながら、部下の成長をじっと待つ。時には優しく寄り添う。リーダ-は部下に対してそこまで責任を持つ必要がある。
  • 「腹をくくれること」もリーダーにとって非常に重要な資質の一つである。腹をくくれないリーダーが多い。物事を判断するときは自分で決める。自分の責任として背負い込まなくてはいけないことは、自分で判断すべきだ。その際、じっくりと時間をかけ、様々な観点から問題を根本的に分析したうえで、結論を出す。
  • 会社が従業員を雇うということは、従業員やその家族の生活を預かり、命を預かるということである。会社とは理念集団であり、理念を持った人の集まりである。人は経営資源ではない。人は会社そのものである。会社と従業員は同体である。カネ。モノ、情報のように、売上や利益を獲得する手段として、買ったり売ったり、捨てたり拾ったりするものではない。会社が苦しい時でも、できる限り従業員の雇用は守らなければならない。

この本は、組織の作り方から人材の育成、リーダーのあり方について参考になるように思います。リーダーに求められるのは覚悟です。いかに覚悟のないリーダーが多いことかと嘆かわしく思います。