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休日の本棚 戦略課長

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けます。

今日は、竹内謙礼・青木寿幸著「戦略課長」(PHP文庫)を紹介します。これはベストセラー「会計天国」「猿の部長」の著者による投資戦略ノベルです。「会計天国」は会計ノベル、「猿野部長」は営業戦略ノベルで、いずれも笑いと涙の中で、経営戦略や会計の基本が学べます。

この小説の舞台は、事なかれ主義で経営が悪化した上場企業ホリディ産業、経営悪化を立て直すためにメインバンクから取締役として送り込まれてきたのはロボットです。

予算5000万円の新規事業を任された新米課長・道明美穂は、ロボット取締役から作ったばかりの事業計画書の作り直しを命ぜられます。道明はこの事業を成功させ、ホリディ産業の業績を上げることができるのか、さらに恋人・吾郎との恋の行方は? 経営戦略の立て方から株や不動産投資まで、道明がロボット取締役から教えを乞う形で分かりやすく書かれている投資戦略ノベルです。面白く読みながら基本的な知識を身につけることができます。

小説なので、ネタバレにならない範囲で、紹介します。

各章は次のような構成です。

序章 「新しい上司の名前はロボット」

第1章 自分の夢をビジネスで実現しようとするなー新規事業を成功させる3つの戦略

第2章 寝ていても儲かる、株の投資話ーポートフォリオを使えば、事業リスクは減らせる

第3章 ハイリスクでもハイリターンとは限らないー事業を拡大するお金を上手に調達する方法

第4章 売上が上がらないものには、価値がないー賃料を上げて不動産投資を成功させる方法

第5章 運に任せた人生は、努力の効率が悪いー戦略を理解できれば、人生の勝者に慣れる

各章から、いくつか役立つポイントを列挙します。

  • 現実の成果が、事業計画書通りに進むことの方が珍しい。でも、その事業計画書をよく練って作り、途中で修正しているのに、ことごとく事業が失敗している場合には、何かしら「事業計画書の作り方」に大きな問題があると考えるべきだろう。そのような事業計画書は根本的に間違っているから、新しく作り直すしかない。
  • 複数の新規事業を比べるための事業計画書では、過去に投資したことで発生している、本社と工場の固定費を配分する必要はない。過去に投資した、本社と工場の固定費が、将来のキャッシュフローを生み出すわけではないから、「営業利益」を比較して、新規事業への投資の判断をするということはそもそも間違いだ。
  • まず、経営戦略を作って、それを数字に落とし込んでいくのが、事業計画書の正しい作り方だ。経営戦略とは、他社に勝つための競争戦略から、マーケティング戦略、財務戦略、IT戦略、人事戦略まで、すべてを総称する言葉になる。ただ、決められた予算の中で事業計画を作ることだけに絞れば競争戦略だけ分かればいい。競争戦略には、コストリーダーシップ戦略差別化戦略集中戦略の3つの方法がある。2つ以上の戦略をやろうとすると、絶対に中途半端に終わる。ビジネスでは「選択と集中」によって「やることを決める」のではなく、「やらないことを決める」のが重要だ。すべての企業が競合会社に勝つために、この戦略のうち、どれを選択すべきかを真剣に日々考えている。もし、戦略を間違えれば、競合会社に勝てないし、一度始めた戦略をすぐに変えるのも失敗の原因になる。
  • 事業計画書は目の前の目標だけでなく、遠い将来の目標を達成するための道のりも考えなくてはいけない。1店舗のとき、5店舗のとき、20店舗のとき、100店舗のときの経営戦略は変わっていくはずだ。それを今から決めておけば、行き当たりばったりの運に任せた経営になったり、何をやるべきか迷ったりすることがなくなる。もちろん、現実は計画とは違ってくるから、随時、修正していくことにはなる。
  • 必ず儲かる株なんてない。プロが薦める儲かる株の話は、参考にするのはいいが鵜呑みにしてはいけない。ポートフォリオを使って分散投資すれば、リターンは変わらず、リスクだけを減らすことができる。
  • どの株が儲かるかではなく、投資の理論を学ぶことは悪いことではない。ただ、その理論に全面的に従うのではなく、自分だけの投資術を編み出さなければならない。ビジネスでも、プロの経営コンサルタントの話を聞いて自分なりに工夫しなければ儲からない。その工夫が、さらに競争を激しくして、すぐには儲からないぐらい市場が効率的になっているからこそ、お客にとっては便利なものになる。それで、さらに新しいお客を取り込むことができれば、市場が拡がる。競争することで新しいチャンスが生まれ、みんなの生活も良くなる。
  • 戦略なき投資は失敗する。株式投資のポイントは、①個別の株であっても同じ動きをしない業種を選んで分散投資する。②証券会社の手数料など無駄なコストはできるだけ小さくする。③株価の短期的な動きに反応せず、会社の実力が反映される長期間で予想する。
  • どんなに思い入れがる商品でも、それと距離を置いて、客観的に売れない理由を考えなくてはいけない。その結果、商品のデザインや機能を大幅に作り変える必要があるかもしれない。情熱をもって仕事をすることと、熱くなってしまうことは違う。これは部下との関係でも同じだ。上司としての経験が少ないと、部下の態度に向かっとして、すぐに感情的に怒ってしまうことがある。ただ、大きな声を出しても部下はロボットじゃないから、思い通りに動くはずがない。それよりも、自分が変わらなくてはいけない部分もあるのではと、上司は冷静に反省すべきなんだ。
  • いつでも、自分が取っているリスクは「リターンに結びついているのか」ということを考えなくてはいけない。リターンに反映するリスクであれば、怖がらずにとることが、新しいチャンスを生むことになる。
  • 不動産投資のポイントは、①不動産の投資では税金を無視することはできない。②不動産のリスクは、それ自体だけではなく、仕組みにもある。③不動産には、リターンに見合わない固有のリスクがある。
  • 経済成長しない今の日本では、過去の考え方に囚われない企画力で、新しい商品とサービスを作って、お客に自分が欲しいものを気づかせてあげる能力が必要なのだ。お客の心を揺らす企画によって、新しい需要を生み出すことができる。しかし、いきなり新しい企画が湧いてくるはずはない。過去の知識と経験の積み重ねから生まれる。しかし、経験が豊富なプロは冷静な判断をすることができる反面、自信過剰になり人の意見を聞き入れない態度や新しい情報を受け付けなくなる。過去の成功経験が邪魔をすることもある。経験がどれほど豊富でも謙虚さは必要だ。
  • 経済がずっと成長している時代であれば、会社の売上も伸び続けるので、年功序列の給与制度でもよかったが、今の時代に年功序列の給与制度は合わない。企画力は年齢とは関係ないからだ。もちろん、完全な成果主義がよいというわけではない。会社は組織であり、分業体制であるから、社員一人ですべての仕事を完結させて成果を上げることはできない。みんなと協力して、自分の役割を果たすことが利益につながっている。どこの企業も、両方をうまく融合させて、基本の給料は低額で、賞与だけを成果主義にしたり、社内ベンチャー制度を作ったり、子会社化したりして、試行錯誤しながら、給与制度を決めている。
  • 人間は、①一部の意見を代表的な考え方だと勘違いしてしまう。②自分の意見と同じものは過大評価して正しいと判断してしまう。③最初に聞いた意見が強い影響力を持ち、他の意見を素直に聞けない。という3つに引っ張られて、結論を急いでしまう傾向にある。そして、急いだことが原因で不合理な結論を導いてしまうことがある。いつでも自分の頭で考える癖をつけることが重要である。いつでも突っ込んで考えることで、本当に必要な情報を絞り込み、時間がかかってもそれを収集し、自分で実践してみて一番良いと思う方法を選ばなければならない。
  • ほとんど使わないものに経営資源を投入してはいけない。例えば、新しい機能をつけて売れたとする。その機能を付けたことで売れた印象が強いと、その先も削る必要がないと自動的に思い込んでしまう。しかし、新たな機能をつけるときにお客にとって価値が小さくなった古い機能は削るべきだ。それによって製造コストを下げたり、代わりに新しいサービスを増やしたりする方がいい。いつでも、今まで取ってきた戦略が正しかったかを見直さなければならない。戦略がうまくいっている時こそ、やるべきだ。戦略を見直す戦略も必要ということだ。

この小説のエピローグの次のような言葉が載っています。

 ビジネスでも、出世争いでも、株や不動産でも、恋愛でも、投資を成功させるためには、自分の頭で考えて作った戦略が必要となる。ロボットは最後に、いつでも、その戦略を見直さなければならないことを教えてくれた。「戦略を見直す」とは、過去にとらわれずに、環境の変化に合わせて、「自分の考え方を変えろ」ということなのだ。それにはリスクがあるし、絶対に成功するとは限らない。それでも自分が変わらなければ、お客だって、上司だって、部下だって、恋人だって、変わってくれないのだ。