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休日の本棚 猿の部長

おはようございます。

今日は昨日の「戦略課長」に続いて、竹内謙礼・青木寿幸著「猿の部長」(PHP文庫)を紹介します。昨日も書きましたが、この「猿の部長」は営業戦略ノベル、マーケティング戦略を主題とするビジネス小説です。

アメリカでMBAを取得した滝川は、中堅商社への入社直前、猿ヶ島での祭礼中に気を失ってしまいます。目覚めると、そこは経済の中枢を猿が牛耳るパラレルワールド、まるで「猿の惑星」の世界です。部長以上は全員が猿、猿が部下の人間をこき使う世界です。滝川は、ライフ商事の5つの事業部で、猿の部長たちにマーケティング戦略を提案し、年間利益10億円を目指します。果たして目標は達成できるのでしょうか? さらに滝川は元の世界に戻ることができるのでしょうか? 最後まで目が離せない笑いと恐怖の営業戦略ノベルです。面白く読みながらマーケティングの基本を学べます。

小説なので、ネタバレにならない範囲で紹介します。

まずは、各章は次のような構成になっています。

第1章 一戸建てを「即完売」させることが、なぜいけないのか?

     ー儲かる市場規模を探し、そこで儲かるポジショニングを取る

第2章 商品が売れない理由は、お客との付き合い方に問題がある

     ー「自分で考える」強い組織に作り変える

第3章 競合も多く、価格競争も激しい業界で生き残る方法

     ー商品点数を絞り、スピードを上げて、売れる機会を逃さない

第4章 新しい市場を自分たちで作る

     ー競争のない次の市場を探し、意図的に拡大させる

第5章 マーケティングを実行するときに必要となるもの

     ー「売れ筋」を予測し、成功するまで戦略を修正する

各章から、いくつか役に立つポイントを列挙します。

  • 値下げせずに一戸建てをどうやって売ればいい?値上げして売れなければ意味がない。だから、儲かる市場規模を見つけて、そこで儲かるポジショニングを取ることが大事なんだ。儲かる市場を探すときにやるべきことは、まずは市場をセグメンテーションすることが必要なんだ。理解して営業しているのと、やみくもに営業するのとでは意味が違う。マーケティングの戦略が失敗した場合、最初にセグメンテーションしておかなければ、次にどこを攻めればよいかが分からなくなってしまう。世の中、失敗することの方が多いから、その理由を知ることは、次の成功するマーケティングの戦略を作るうえで、絶対に必要なことなんだ。
  • 儲かる市場規模を探すところまででは、マーケティングの戦略は半分までしか完成していない、次にマイケル・ポーター教授の競争戦略を使って考えることで初めて「価格を下げない戦略」は完成する。会社というのは「コストリーダー」「差別化」「集中化」の、どれかを選択しなくては競合会社に勝てない。大手企業と価格競争をしても勝てない。安売り競争が激化すれば、体力のある大手企業だけがコストリーダーとして生き残り、他はすべて潰される。「コストリーダー」ではなく「差別化」で売る戦略をとるのがいい。しかし、そんなに簡単に「差別化」のコンテンツが思いつけば誰も苦労はしない。考え抜くしかない。そしてその苦労を乗り越えて、本当の意味での差別化のポジショニングを探し出すことができた会社は成功する。
  • 競合会社の戦略は常に監視しておく必要がある。3C分析は一度やればよいわけではない。売れなければ、競合会社も常にマーケティングの戦略を変えてくるはずだ。気が付いたら、自分たちの差別化が強みを失っていることも十分に考えられる。そうならないためにも、競合会社に攻め込まれないように、常に自分たちが差別化のポジショニングを探し続ける必要がある。
  • 希少性とか模倣困難性というのは、珍しいとか、他にないという意味ではない。お客にとって希少価値があるかどうかが大切であって、自分たちで決めるものではない。そもそもⅤRIO分析(会社が持つ経営資源を、value=経済価値、Rereness=希少性、Inimitability=模倣困難性、Organization=組織 の4つのポイントから分析し、会社の競争優位性を判断する)は分析というだけなので、それによって新しい戦略が発見できるものではない。
  • 事業には、水平展開しやすいものと垂直展開しやすいものがある。水平展開しやすい事業では「店舗を増やす」という戦略は間違っていない。フランチャイズという組織なビジネスモデルとしては最適だが、競合会社にとっても簡単なビジネスモデルということになる。フランチャイズではオーナーに任せる部分が大きくマーケティング戦略を考えてもオーナーがそれを取り入れるとは限らない。直営店で強い組織を作ることが大事だ。
  • 強い組織を作るための5つの条件 ①今までの考えを捨てる ②一緒に働く社員同士がオープンになって情報を交換する ③会社だけでなく、自分たちの社会的な役割も理解する ④事業部と店で働くすべての社員が納得できる目標を作る ⑤その目標を達成するために、社員で協力し合う心を持つ。
  • 現状を分析することは大切だが、それを起点に考えてしまうと、現在の手法を改善することしか思いつかなくなる。SWOT分析TOWS分析ではでは改善点は列挙されるが、マーケティングの戦略を大転換するような、常識をぶち壊す画期的なアイデアは生まれない。
  • 工場との連携という組織力が内部の「違い」で、ポジショニングというのはお客から見た違いで外部の「違い」ということだ。外部の違いと内部の違いのどちらが重要かと言えば、業種やその会社の市場でのシェアによっても変わってくる。ポジショニングは外から見えるのでマネされやすいが、次のアイデアがあればすぐに方向転換できて修正しやすい。一方組織力は外から見えないのでマネしにくいが、作るまで時間も労力もかかり、変更も困難である。
  • 新しいことをやっても失敗しそうだから何もしないというのでは一歩も前に進まない。新しいことをやって成功させてやるんだという前抜きな気持ちが大事である。しかし、ビジネスには失敗はつきものだ。その時には、もう一度マーケティングの戦略を見直し、ポジショニングも組織も作り変えるという勇気をもって前に進むことが大切である。
  • PLC理論の成長期から成熟期に競合会社より早く駆け上がるという考え方・戦略は間違っていない。成長期の最後の方から、商品の価格が安くなることで、お客の数が一気に増えて、一方でシェアが高い会社名は市場で知れ渡るようになり、港北費もかからなくなる。しかも、新規の競合会社が参入してくることもなく、その時こそ、急激に儲かる。本来は、ここで儲かったお金を、差別化戦略のために新商品を開発するか、新しい事業を始めるか何かに投資すべきである。競合会社がいない、新しい市場を作り出す戦略、ブルーオーシャン戦略では、新しい市場を見つけるができれば、競争そのものが亡くなり、儲かる市場規模になるように拡大させることに専念すればいい。
  • これまでBtoCであったものをBtoBにすることで新しい市場を作り出すことができる。BtoB成功の秘訣は ①お客の目的を達成するお手伝いをして、利益を増やしてあげる ②お客の知識は豊富なので、ノウハウの提案を惜しまない ③意思決定に時間がかかるのでタイミングを外さない。
  • お客は、突然現れた新しい商品で、なおかつシンプルなビジネスモデルの方に心を奪われていまう。まして、同じ商品に比べて価格も安く、サービスも充実していれば、お客の心を取り戻すことっ不可能に近い。予想もしないところから競合他社が突然現れても、目の前のお客への対応に追われている会社ほどその参入に気づかないものだ。だから、どんな会社でもイノベーションのジレンマを回避することはできない。
  • 最初から完璧な商品を作ろうとしないことだ。そこに時間とコストをかけてはいけない。しかも完璧な商品を作ってしまうとそれにかけた時間とコストを回収しようとして、その商品を売ることに固執してしまう。先ずは完璧じゃない商品でもよいので売ってみること、それで売れなければすぐに捨てて、次の新しい商品を開発することだ。新商品を作るときには、過去のデータから何が売れ筋化を予測し、さらに新商品の売れ行きから、その予測を修正していく。

マーケティング戦略にとって重要なことは、3C分析の3つのC、市場(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)をバランスよくとらえなおしたうえで、「私たちの商品やサービスを本当に喜んでくれるお客様は誰か?」「商品やサービスの特徴をどのように表現すれば、お客様に響くのか?」「そのためには、どんな方法をとるのがいいのか?」について考えを深めていくことです。こうしたことが、この本を読めばおもしろおかしく笑いながら身につくように思います。