中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 企業再生プロフェッショナル

おはようございます。

今日も過去に紹介した本ののブログを貼り付けます。

今日は、西浦裕二編著・アリックスパートナーズ・アジア・エルエンシー監修「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞社という本を紹介します。

本書は、GM日本航空ライブドアなど多くの企業再生に取り組んできた世界的なプロフェッショナル集団であるアリックスパートナーズが、企業再生のノウハウを物語形式で分かりやすく解説していて面白く読める本です。

西浦氏は、本書「はじめに」で「企業再生とは何を守り、何をよみがえらせることだろうか?例えば、『守る』対象は、その企業の株主なのか、経営者なのか、はたまた従業員や取引先なのか。また、どんな手を打てば、表面的ではない、本質的かつ持続的な再生につながるのか、とうとう疑問は尽きない。本書は、こうした自問自答に関する『現時点での総括』である」と言っています。

企業再生プロフェッショナル(ターンアラウンド・スペシャリスト)は、経営の行き詰った会社に乗り込み、実際に経営に参加して経営を中から立て直す再生人、決して「コンサルタント」ではなく、外部から雇われた暫定的な大将として、他のチームメンバーとともに難しい局面を乗り越えるべく実際に「闘う」ことが使命なのです。厳しい戦局を読み、戦い方(解決策)を考えるだけでなく、クライアントチームと一体となって、「実際に作り上げていくこと、実際に変えていくこと」が、企業再生の鍵となります。本書は、「企業再生」というプロセスが、実際にどのように進んでいくのか、そうしたプロセスに「企業再生プロフェッショナル」がどのようにかかわっていくのかについて具体的に物語形式で紹介されています。物語形式、一種の経営小説と言えるので、ネタバレになるので、内容については控えます。

この物語の中で、企業再生プロフェッショナル(物語では「北岡パートナーズ」)が企業再生の現場でどのような役割を果たしているのかについて見ます。

企業再生を行おうとする企業の多くは、資金面、時間面で追い詰められて状況にあります。このような状況では、限られた時間内に、その企業が持っている課題を洗い出し、優先順位をつけて、それらを同時並行的に実行していくことが、企業再生プロフェッショナルに求められるのです。具体的には、人員削減、コスト削減、売上挽回、事業売却、銀行からの支援などの課題が同時並行で進み、それらすべての施策が実行されて初めて、再生が成功するのです。各取り組みに失敗や遅滞は許されません。個別の課題を解決するだけならば戦略コンサルタント投資銀行、法律家といった専門家にもできますが、企業再生の場面では企業内部に入り込み、複雑に絡み合う課題をつなげ、全体のバランスを図りながら進めていく司令塔の役割が必要になります。その司令塔を担うのが企業再生プロフェッショナルが果たす第1の役割です。

企業再生プロフェッショナルにとって重要なことは顧客である再生企業の横にいて寄り添うことです。会社側の目線で、社外プロフェッショナルを選定し、顧客のために正しく動くように誘導することです。例えば、企業買収に携わる投資銀行は、買収が成立することで高額の成功報酬を獲得します。「できるだけ大きな金額で売りたい」「是が非でも成功させたい」というバイアスがかかります。しかし、企業買収において重要なのは金額だけではありません。事業売却を検討する企業にとって金額以上に重要のことは、「雇用は守られるのか」「売却先の企業文化、カルチャーは合うのか」「買い手が将来競合として当社事業を脅かすことはないか」などと言った多彩な観点で考えなければならないのです。そこで、会社目線で働く企業再生プロフェッショナルが必要になります。これが企業再生プロフェッショナルの第2の役割です。

再生が必要になった企業において共通してみられる病状が「決められない」病です。経営者、経営層が痛みを伴う課題から目を背け、決断しなかったために手遅れの状況にまで追い詰められたのです。「決める」ためには、客観的な数値、データが必要ですが、当然あるべき数字が存在していなかったり、経営者がそれを観ていないということが多いのです。企業再生プロフェッショナルの第3の仕事(役割)は、経営者の相談に乗るとともに、判断に必要な情報やデータを提供し、決断そのものを促すことです。

経営者にとって企業再生を選択することは大きな決断ですが、企業再生は倒産ではなく、事業継続を前提とした法的整理であり、従業員を含む関係者にとっては大きなメリットがあります。経営者がそのことを十分に理解し、企業再生に向けて正しい方向にかじ取りすることが企業再生プロフェッショナルの最も重要な役目かもしれません。

本書の最終章には、これまでの物語を前提として、「これからの企業再生」に必要な3つの視点が述べられています。

1.有事に備える経営の必要性

 企業再生は、倒産ではなく「死の宣告」ではありません。しかし、日本において多くの経営者は、いまだにネガティブな印象が強く、企業再生すれば、「倒産企業」のレッテルを貼られてしまうのではないかと、否定的な意識を抱いています。それが、決断を遅らせ、結局は倒産という憂き目を見ることになってしまいます。

 現在のコロナ禍において、多くの企業が、不本意ながら倒産、廃業といった方法を取らざるを得なくなりました。中には企業再生という道を選べば生き残ることができたケースもありそうです。

 私的整理や法的整理と言った企業再生の方法があること、そしてそれはネガティブなものではなく、会社や従業員を守るポジティブな方法であることなどを頭の片隅に置いておくことも「有事に備える」ためには重要なことだと思います。

2.経営の土台(基礎)を検証する必要性

 建築において、「基礎」や「土台」に手抜きがあると大変のことになってしまいます。これは企業、ビジネスにおいても同様です。企業経営にいても、建物と同じように「土台」「基礎」が大切です。

 どの企業にも経営計画や事業計画はあり、その中に目標が掲げられています。しかし、「具体的にどのような施策によって、そうした目標を達成していくのか」がきちんと説明されていない企業が意外と多いのです。こうした企業に限って、計画の進捗状況も十分に検証されておらず、結果として、毎年、計画と実績が乖離し、その原因を明らかにすることも誰も責任を問われることもなく、終わっています。

 こうした、経営を遂行していくために「当たり前にやらなければならない」ことをやらずに長年放置していると、会社という建物自体が根元から腐り倒壊してしまう事態にもつながりかねません。

 日本の製造業は「世界の中で群を抜いている」と言われていましたが、最近では翳りが見え、「ものづくり力」が危機に瀕してきています。その原因として考えられるのは、生産現場に安易に「効率優先」「成果優先」の考え方を持ち込む、これまで生産現場を支えてきた高いモチベーション、工夫する余裕、蓄積された現場の暗黙知といった「ものづくり」の基盤が崩壊してしまったことです。

 製造業だけでなく、あらゆる企業にとって、こうした「経営の土台(基盤)」を点検し補強することが、企業再生への第一歩、出発点となるのです。

3.産業再生の視点を持つ

 企業が抱える本質的な問題は、業界構造ないし産業構造に根差している場合があります。こうした場合には「産業再生」の視点を持たなければ、持続的な企業再生にはつながりません。実際、2008年のリーマンショック以降、いくつもの業界で業界構造ないし産業構造の問題が一気に顕在化してきています。

 産業再生の視点を持ちながら企業再生を行う場合、「産業構造の地殻変動を引き起こす要因」の見極めが肝要です。

 小売業の再生第一幕では、業界を代表するような企業が何社もが開始、現在単独でかつてのポジションを維持できている企業はほとんどありません。多少の紆余曲折はあるものの、最後は業界再編に至っています。業界王手の倒産劇は、その企業だけの問題にとどまらず、業界全体が抱えている構造課題を露呈しています。

 リーマンショック後の第二幕においては、業界再編の波がさらに大波として押し寄せてきています。業界再編の問題は、企業再生の流れだけにとどまらず、平時においてもダイナミックな事業再構築の手法として、経営の重要な戦略として語られるべきテーマとなっています。防衛的な企業再生から、産業再生を視野に入れた能動的な企業再生へと流れが変わりつつあるようです。

 「産業再生の視点」がないと「木を見て森を見ず」という結果になりかねません。時に自社の問題を根本的に解決するために、他社、時には競争相手の会社に、提携や統合を働きかけることも効果的な再生手法となり得ます。

現在のコロナ禍のように、どのように健全な企業であっても、大きな転換点を迎えたり、想像もしなかった危機に遭遇することが必ずあります。その時に、経営者が狼狽えたり、判断を誤れば、会社の存続が危うくなってしまいます。有事の時こそ、経営者、トップリーダーの力量が問われます。「有事の備え」「有事について頭の中でシミュレーションしておく」ことは、経営者、リーダーにとって必要不可欠なことなのです。