中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 戦略と会計のマネジメント

おはようございます。

今日は鳥居正直著「本当の儲けを生み出す 戦略と会計のマネジメント」(日本経済新聞社を紹介します。著者は米国公認会計士の資格を持ち、ヤマハ発電機で内部監査、経理等を経験した後、自動車関連の外資系企業で取引ディーラーの経営指導、営業企画部長、情報システム部長、財務管理部長などを歴任し、その経験を活かし、戦略と会計を融合させた「戦略メカニズム」を提唱しています。本書の帯に、「儲けの構造と事業活動との関係を理解した全従業員の有機的つながりが、『本当に儲かる=企業価値を高める』しくみをつくる。事業戦略と会計の融合による『お客様を喜ばせて、しっかり儲ける』経営のメカニズムを実践的に解説」とあるように、学者や税理士・会計士といった実務経験の乏しい専門家が書いた本とは一線を画し、極めて実務的です。

本書は、3部の分けられ、さらに細かく12章で構成されています。

第1部 組織力(競争優位の源泉)を高める

  • 第1章 戦略メカニズムと会計素養
  • 第2章 戦略メカニズムと有機的な(生き物のような)組織力

第2部 会計ルールの本質と全体像 ― 利益計算の限界

  • 第3章 懐具合(財務状態)の便利な診方
  • 第4章 会計ルールの理解はルーツを知るのが早道
  • 第5章 継続中の事業の利益はどう計算したらいいのか
  • 第6章 利益計算に不向きなキャッシュフローがなぜ必要か

第3部 経営の舵取り ― 儲けの測り方と戦略メカニズム

  • 第7章 儲けの尺度
  • 第8章 もう1つの儲けの尺度 ― 経済利益
  • 第9章 戦略メカニズムを使う
  • 第10章 投資の経済性計算
  • 第11章 売上変動に対する短期的対応の意思決定
  • 第12章 過去の戦略的イノベーションから学ぶ

企業が生き残るためには戦略が必要であり、経営学マイケル・ポーターも「日本企業は戦略を学ばなければならない」と言っています。しかし、戦略は、企業が社会に貢献し続けるのに必要な儲けをもたらすものでなければならないはずですが、戦略論において「儲けとは何か」について触れているものはなく、優れた戦略をとりながら「儲けとは何か」を蔑ろにした結果、経営悪化や倒産に追い込まれる企業が後を絶ちません。

一般に、利益とは損益計算書上の利益ととらえられますが、この会計上の利益は、継続している事業を中断することなく、一定期間を区切って計算したもので、中長期的に生き残りをかけた戦略を考えるうえでは、尺度としては不十分です。そこで、この利益に代わる儲けの尺度が必要になります。

本書が提唱する「戦略メカニズム」(第1部)は「お客様を喜ばせて、しっかり儲ける」という企業目的の達成メカニズムで、「お客様を喜ばせるメカニズム」と「儲けのメカニズム」という2つのメカニズムから成り立っています。

企業は、分業によって「お客様を喜ばせて、しっかり儲ける」という普遍的な企業目的を達成するために集まった人々の組織です。戦略メカニズムを組織のメンタルモデル(既成概念)として共有できれば、分業の色々な部門や個人の行動が、どのような因果関係で企業目的に結びついているかを共通認識でき、分業間の自律的な調整が可能となり、1つの生き物のような(有機的な)組織ができると言っています。そのような組織では、分業の各個人・各部門の自由な発想が1つのベクトルの下に融合し、優れた戦略を生み出すというわけです。

「戦略メカニズム」における儲けの尺度や儲けのメカニズムを理解するには、一定の会計素養が必要なことは言うまでもありません。一定期間を区切って利益計算するという会計ルールによる利益計算の目的は株主への配当可能利益を計算することで、経営の舵取りに必要な儲けの計算ではありません。先日(2/1)「現場で使える会計力」の所でも書いたように、株主や投資家などの外部のステークホルダー向けの決算書が読めるだけでは経営にとっては意味がありません。経営の舵取りに必要なのは決算書上の利益を含めそこに挙げられている数字ではないのです。しかし、儲けの測り方や儲けのメカニズムを理解する必要はあります。そこで求められるのは、細かな会計ルールではなく、会計ルールの目的や限界についての本質的なこと及びその全体像です。第2部では、これらの点について、歴史的背景とともに説明されています。

会計上の利益に代わる新しい儲けの尺度が企業価値評価の中で説明されています。これは、投下資本利益率のことです。少し難しいですが数式化します。

  投下資本利益率=営業利益/投下資本=営業利益/売上高 × 売上高/投下資本

投下資本利益率は、売上営業利益率投下資本回転率に分解されます。売上営業利益率を良くして運転資金や固定資産の回転率を挙げれば投下資本利益率は高まります。儲からないのは、これらの中のどこかに問題があるわけで、それを見つけて改善すればいいのです。第3部では、この新しい儲けの尺度と「儲けのメカニズム」を日常感覚に即し分かりやすい例に基づき説明されています。その上で、「戦略メカニズム」の使い方が具体例・行動例とともに説明されています。

企業の存在目的は「優れた顧客価値(製品やサービス)を提供して、お客様を喜ばせる」ことにあります。そして、それを継続していくために新しい製品やサービスを開発していかなければなりません。そのためには「しっかりと儲け」なければならないのです。前述のように、「戦略メカニズム」は「お客様を喜ばせるメカニズム」と「儲けのメカニズム」で構成されています。

本書では、「3つの戦略領域から行動シナリオ(戦略)を考える」ことが提唱されています。戦略では「顧客への優れた顧客価値」「低コスト化」「資産有効活用」で優位性を築かなければなりません。これらを3つの戦略領域と呼んでいます。行動シナリオ(戦略)では、1つひとつの行動が3つの戦略領域の複数において優位性構築に貢献しなければなりません。

「ターゲット顧客への優れた顧客価値」の創造は、「お客様を喜ばせるメカニズム」であるとともに売上の増加につながります。しかし、ここで重要なのは投下資本利益率を落としてはいけません。売上は増加したが投下資本利益率が低下したというのでは、「儲けのメカニズム」に反することにもなりかねません。

「低コスト化」は、変動費・固定費といったコストを低減させることで売上利益率を上げることです。低コストが実現してもそれ以上に売上高が低下すれば売上利益率は下がるどころか上がってしまいます。

「資産有効活用」は、「売掛金回収機関」「在庫期間」「買掛金支払機関」などにより「運転資金回収率」を高めることと「固定資産回転率」を高めることです。

「顧客への優れた顧客価値」は「お客様を喜ばせるメカニズム」に、「低コスト化」と「資産有効活用」は「儲けのメカニズム」に関係しますが、それらが有機的に影響を与えています。これは、1つの戦略領域の優位性は、1つの優れた行動で築くというよりは複数の行動の組み合わせで考えるべきだということを表しています。

企業経営には、「お客様の満足」と「企業の儲け」の両方が必要だということは当然ですが、それらを意識して戦略論を展開するというのは新しい試みです。

このように、本書は戦略と会計を融合させた新しい試みですが、若い夫婦(アッちゃん・かなちゃん)との対話を通じ、家計と比較しながら、分かりやすく説明されているので、会計や数字にアレルギーのある人にも読みやすく分かりやすい内容になっています。