中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 サイレント・ニーズ

おはようございます。

今日は、過去に紹介した本のブログを貼り付けます。ヤン・チップチェイス&サイモン・スタインハルト著「サイレント・ニーズ」(EIJI PRESS)す。

著者のヤン・チップチェイス氏は世界的なデザインコンサルティングファームfrog(フロッグ)のグローバル市場調査・分析部門のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターです。

この本は、「世界中を駆け巡り、ビジネスに役立つ洞察を導き出す著者が、ありふれた風景の中に潜んでいる豊かな意味とチャンスを見出すための『新しいものの見方』という武器を提供してくれる一冊」と行動観察の一人者である松波春人氏が絶賛しています。

著者は、「日本語版に向けて」の中で、「ときに日本の企業は市場に小細工を弄していると批判されることがある・・・機能が充実した携帯電話は日本国内ではよく売れたがグローバル市場では失敗したし、途上国で展開される電化製品は先進国で出したものの品質を落とした商品に過ぎないというのがいい例だ・・・しかし、グローバル化が進み、経済面でますますつながり合う世界では、顧客はあっという間に業界に精通するようになるため、すぐさま危険な戦略になり果ててしまう。お金で市場のシェアを買うことはできるが、それでは商品やブランドと顧客とのつながりは表面だけの浅いものになってしまうだろう」と手厳しい指摘をしています。

この本では、人々の行動や慣習を読み解き、今まで長い間当然と思ってきた思い込みを直す方法が紹介され、さらにそれらの根源的な本質まで足を踏み入れ、明日の世界で愛される製品やサービスを生み出すために必要な着想を得る方法が紹介されています。

著者は、「この本を通じて、人々が何をして、そしてなぜそうするのか、といった観点からものごとが持つ真の価値を読者が理解していけるように導いていきたい」と言っています。

この本はビジネス書・経営本の類ですが、世界各地を旅行した気分にさせてくれる本でもあります。世界各地で行動観察を行うことによって、どのような状況でもビジネスチャンスがあることを示唆してくれています。行動観察といっても、ほかの人と同じように見てはいけません。独自の問題意識を持って物事を観察すれば、そこに何かを生み出す視点が生まれ、特に顧客のニーズに結びつけることができるのです。顧客のニーズというのは、必ずしも目に見えたものだけではありません。サイレント・ニーズをつかむこと、それには、漠然と見ていたのではだめなのです。

この本は次の8章で構成されています。

第1章 心の一線を越える

  • 24時間365日製品を使い続ける人など存在しない。自分たちがデザインする商品やサービスと顧客がいつ、どこで接触するのか、そしてその時どんなことが顧客の行動を決めるのか、「タッチポイント(接触機会)」と「トリガー(きっかけ)」の2つを考えることで、今まで満たされていなかったニーズを明るみに出したり、顧客が使う状況にあった商品やサービスを仕立てたりできる。
  • タッチポイントとトリガーについて理解を深めるためには、顧客が商品を使う時と使わないときの間にある境界線の存在に気づかなければならない。人間の行動や考えが変わるのは、ほとんどの場合、その一線に近づいたか、その一線を超えたときに何かを感じるからだ。
  • 人間の行動を調べるためには人々が置かれた日常に足を踏み入れていく必要がある。境界線の内側と外側に何があるかを知るには、その人が置かれた状況がどういう者で、それを変化させるものは何かを知る必要がある。

第2章 日常品による社会生活

  • 需要と供給だけで経済が動くという考えも幻想だ。値段が上がるほど逆説的に欲しがる人も増えるという「ヴェブレン効果」を利用した商品も溢れている。「流行」に乗りたいという欲求や人より目立ちたいという欲求に基づく「顕示的消費」がある。
  • ここでは、バンコクにある偽物の歯列矯正器具を販売している店の例が挙げられている。バンコク歯列矯正を受けることができるのは金持ちの子女のみだ。偽物の歯列矯正器具をすることで自分の親は歯列矯正樋贅沢をするだけの経済力を持っていると誇示できる。偽物の歯列矯正ワイヤーがステータスシンボルになり、これを売る店が成り立つというわけだ。

第3章 過去、現在、未来の波をつかむ

  • 新しいものに日飛び地や社会がどのように反応するか、そしてその波がどのようにやってくるか、私たちがイノベーションを意識するようになった時、誰が、いつ、どのように新しいものを取り入れるか、ということに興奮して目を向け、宿命的に捨てられるものがあることを忘れがちだ。すべてのものに採用曲線があるように、廃棄曲線も存在する。新しいものに移行するには理由があるし、どんな場合でもそれを使い続ける理由よりも新しいものを使う魅力がいつ、どのように上回るかという問題もある。潮が満ちれば波がやってくるし、どんな潮もいつかは引く。
  • すべてのテクノロジーは、ヤドカリの殻のようなもので、利用者はちょうど自分に合ったものを選ぶ。ヤドカリが自分に合った殻を求めて引っ越すように、欲求が変わったり、よりふさわしいものが見つかった時に、人々はこれまでのテクノロジーを捨て去っていくものだ。

第4章 持ち物はすべて人を表す

  • 何を持ち歩くか、何が自分にとって欠かせないものか、そして何より、なぜそれを持ち歩くのかを考えれば、日々の行動から始まり、将来の希望、価値観、信念や怖れ、周囲に広がる世界とお互いにどう影響し合っているかということに至るまで、非常に多くのことを知ることができる。
  • 人が何を持ち歩くか、ということの根本には、自分の持ち物がどこにあるかを把握できるかどうか、必要な時にいつでも手を伸ばせるか、帆感情安心できるかどうかが関わっている。
  • アフガニスタンは爆弾や誘拐だけでなく盗難も多い。盗難というのは手持ちの者が盗まれるというだけでなく上司に給料が抜き取られて全額入ってこないということもある。そこで、上司からの現金支給から振り込みに切り替えたところ、全員が給料が入ってすぐに全額引き下ろしたという。銀行口座に会っても手元になければ持っていないのも同様という者で、手元にものを持っていないと安心できないということのあらわれだ。

第5章 文化的コンパスの微調整

  • 街を観察するのによい時間は、世界中どこでも夜明け頃から数時間の間である。一日の初めの方がいつでも一貫しており、厳格に動きが決まっていることが多い。朝の通勤時間が始まり、街が脈動しだすこの時間帯には、短い時間で多くの人を観察しやすい。
  • 看板や標識は無視されがちだが、都市の環境を理解しようとすれば、標識がそのモノとそれがそこに置かれた背景を理解すれば、社会的な振る舞いと公共の場での価値観のせめぎあいについて多くのことを知ることができる。
  • 起こりうる将来を想像する能力は、知識から生まれ経験によって増幅されるものであり、究極的には、経験したことの中で何が自分の仕事に応用できるかを理解する能力に根差したものである。新しいビジネスを始めるにしても、独特な何かをデザインするにしても、自分じぃんの将来のキャリア像を模索するにしても、即席文化調整の敵にっくとありふれた光景に埋もれたことを見つけ出す能力は役に立つ。

第6章 信頼の問題

  • 私たちの人付き合い、ビジネスの取引、選挙の公約、約束、イエス・ノーまですべてのことにおいて信頼は欠かすことのできない要素である。しかし、信頼できなければ生きていけないが、ある程度疑わないとやはり生き延びられない。何が信頼できるか、信頼できないかという感覚は、個人や文化のアイデンティティーの一部を支えるものである。
  • 信頼というものの評価には、真正さ・約束の履行・価値・一貫性・安全性・保障という6つの物差しがある。これらすべては消費者保護法などの法律で成文化できるし、個人の主観的側面も過去の経験や持っている情報によって変化する。
  • 信頼の生態系においてブランドは際立った役割を果たす。
  • どこで取引されるか、商品のブランド、商品そのもののデザインや見せ方など、消費者の環境のあらゆる面において信頼が影響を与え、また影響を受ける。

第7章 本質を見出す

  • 物事を最低限必要なものにまで削り落としていけば、サービスを根底から理解する、あるいは理解し直していくことができる。その本質を起点にして、先進国にしろ途上国にしろ異なる市場向けにサービスのバリエーションをデザインすることもできる。表では、現実の顧客に対して、現地の日常生活におけるそれぞれの市場の微妙な要求に訴えかけ、その裏では、核となる共通のプロセスやインフラを活用できるようになる。
  • 手掛かりを探し、追い求めるのに路上は打ってつけの場所である。ここではベトナムのガソリン販売が挙げられている。レンガに置かれた3,4リットルほどの液体が入った大きなボトル、ガソリンを移すプラスチック製の管、車が止まれば管を使ってガソリンを入れる、それだけだ。ガソリンスタンドからあらゆるものを削り落としてみると、残るのはレンガの上のボトルということになる。
  • 自分が何を探し求めているかがわかっていたら、そのもっとも純粋な形を目にすればひらめきが生まれるはずだ。
  • 商品やサービスの本質を見出し、新しい可能性を現実に打ち立てるとなると、新規参入者の方が有利になる。物事の門室を可能な限り純粋な極限まで突き詰めて新しいビジネスを始めようとしたが、削りすぎて狙い通りにいかないということもあるので注意が必要だ。一つ一つ取り除いて、亡くなった者が恋しくなるか、ただの無dなお荷物だったかを想像してみることは大いに価値がある。

第8章 大いなるトレードオフ

  • 収入が少ない消費者こそ、世界のなかでも厳しい目を持つ消費者である。収入の少ない消費者は裕福な消費者よりも合理的な選択を強いられる。日々の意思決定がお金を慎重に使い無駄遣いをしないことを中心に動いているからだ。どの製品が自分の需要を満たすか、または満たさないかを厳しく判断している。世界中の貧しい人々など考慮に値しないというのは思い上がりにしかすぎない。

この本の最後に、デザインリサーチの8大原則というのが挙げられています。

  1. リサーチの表面を整える。
  2. 仕事の質は現地のスタッフ次第
  3. すべては滞在する場所から
  4. 人集めには何通りもの方法を
  5. クライアントよりも参加者優先
  6. データに命を
  7. いつものルールは通用しない
  8. 息抜きする余裕を持つ

コロナ禍において生き残るためにイノベーションや新たのデザインや製品開発が必要になってきています。イノベーションに取り組もうとしている人や新しいビジネスを考えるうえで役に立つ本ではないかと思います。