中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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イノベーションが困難な理由

おはようございます。

以前にも書きましたが、既存企業にとってスタートアップ企業のようにイノベーションを起こすのが難しい理由について書きます。
大企業の多くも、イノベーションの必要性やトランスフォーメーションの重要性は認識し、社員に伝えていますが、現実にはスタートアップ企業のような成果は見られていません。何故、大企業では変革を起こすことが難しいのでしょうか? 変革を起こすことが難しいのは大企業に限りません。中小企業においても変革は難しいのです。
スタートアップ企業は、まだ世に出ていない、新たなビジネスモデルを開発する企業で、変革それ自身を目的としていると言っていい企業ですから、ある意味、イノベーションは十八番です。それに引き換え、大企業も中小企業も、これまでの事業に行き詰りを感じ、イノベーションの必要性や重要性を認識し、これから変わろうとしています。もともと変革が目的に組み込まれていないので、何をしたらよいのか、何から手を付けてよいのかがわからないのです。
1.製品にはライフサイクルがある
 製品にも、生物に寿命があるように、市場に導入されてから最終的に市場から消えるまでの周期・寿命があります。製品ライフサイクルは、導入期成長期成熟期衰退期という周期をたどります。
 ここでは人間の一生に例えて説明します。子供のうちは、収入がなく、食費や教育費など出ていく一方ですが、「将来への投資」と考えられます。大人になれば出費もかさみますが一方で収入も上がり、壮年から老年期に入るに従い「将来への投資」は減少し、それまでの貯蓄を意識しながら、いかに出費をコントロールするかといった方向に重要性が移ってくるものです。
 ビジネスにおいても同じです。導入期に少なかった競合は、成長期で一気に増え、成熟から衰退期になるとその数が淘汰によって減少していき、やがては買収や合併という形で数社に絞られていくというのがどの業界でも見られるところです。
2.ライフサイクルのステージによって、マネジメントスタイルは異なる
 スタートアップ企業が展開する製品は導入期から成長期にあり、大企業・既存の中小企業が展開する製品の多くは成熟期から衰退期にあります。
 導入期から成長期の投資を成熟期に回収することで事業は成り立っているのです。成熟期の製品を多く抱えることで、企業は成長を生み出し、キャッシュを新たな製品を生み出すために投資することで企業は事業を継続します。
 導入期から成長期は、新たな顧客ニーズや社会課題に目を付けて、ビジョンを明確に打ち出し必要があります。
 成熟期には形成された市場でいかに安定して利益を生み出すかが重要になるので、調整型のマネジメントが求められます。
 衰退期には衰退する市場に残るのか撤退するのか、ファクトに基づいたトップダウンでの意思決定が求められます。
3.組織の老化は避けられない
 どんな企業も、創業当初は顧客の問題解決をするために邁進しますが、成長期に差しかかると、途端に競合を意識し始めます。そして、競合に勝つために様々な施策を講じ、優秀な社員を採用してリテンションのために様々な制度を導入し始めます。こうして、経営陣や社員の目は社内に向いていくようになり、外部からの刺激に鈍感となった組織では一気に加齢が進みます。
 企業の寿命について30年説がありますが、何ら変革を行なわなけれ衰退します。衰退します。
 老化が不可逆的変化であるため、多少スピードを遅らせることができても、いつまでも若々しくいることはできません。人と同じく組織も年と共に老化していくものなのです。組織の老化は避けることはできません。
4.大企業・中小企業のイノベーション
 大企業や中小企業も、スタートアップ企業と同じようなイノベーションやトランスフォーメーションを起こすことは難しいのです。むしろ、スタートアップ企業と同じようにイノベーションを起こそうと考える必要はないのかもしれません。自社が抱える課題は何なのかを明確にすることとその解決方法を真剣に考えることが重要です。その課題から描いた問題解決の全体構造が現場と共有できていないならば、いくらイノベーションと言っても何ひとつ解決できません。小手先だけの改善を試みても組織全体の改革はできないのです。
 コロナ禍でイノベーションが脚光を浴びていますが、「これからはイノベーションである」などと華々しく宣言しながら、その後の施策が凡庸なために尻すぼみに終わるケースが後を絶ちません。その後は、コスト削減でイノベーションチームは解散に追いやられます。また、経営者が変わると、新しいイノベーション志向が掲げられますが、同じことの繰り返しです。
 環境も変わりイノベーションの種類も様々ですが、同じジレンマに陥っています。それは目先の成功に欠かせない既存事業の売上と、将来の成功に欠かせない新コンセプトの開発を両立することの難しさです。
 クリステンセン教授が「イノベーションのジレンマ」で指摘したように、業界トップの企業が顧客の声に耳を傾けすぎ、更に高品質の製品やサービスを提供することでイノベーションに立ち遅れ、新興企業に後れを取ってしまうという事態が生まれます。これは業界トップだけではなく、中小企業にも見られます。
 イノベーションのジレンマについて多くの知見が示されていますが、経営者の多くは無知や弱気のままです。「更なるイノベーションはあるのか」と言いながら「前例はあるのか」と問い、「新しいアイデアを求めている」と言いながら、出てきた新しいアイデアを却下してしまうというのが現実なのです。
 既存企業がイノベーションをとん挫させてしまう罠に陥るのを回避する方法は次の通りです。
 Ⅰ:新しいアイデアを探す範囲を広げる
 Ⅱ:厳しすぎる管理と硬直した組織構造を緩める
 Ⅲ:イノベーションの推進責任者と既存企業の連携を改善する
 Ⅳ:コミュニケーションとコラボレーションのスキルを磨く
 ロザベス・モス・カンター教授は、その論文「イノベーションの罠」の中で「経営陣が真摯に過去に学ばない限りイノベーションを求める旅は徒労に終わる」と言っています。
 イノベーションは企業の将来を創造するアイデアをもたらします。
 既存企業がイノベーションを起こすには、既存事業から得られる利益の最大化と新規事業の探索のバランスを図ることが重要です。そのためには、組織の柔軟性と人間関係への配慮は欠かせません。このことは、昔も今も、そして将来においても不変の事実なのです。