人間重視の経営
部下のモチベーションを上げようと頑張っているのに、部下はやる気になってくれないという経験は誰にもあるでしょう。「数字重視のマネジメントモデル」から「人間的でクリエイティブな経営モデル」への転換が必要です。
1.「数字」重視から「人」重視へ
そのなかで、「とんでもなく時代遅れナマネジメントモデル」とされたのが、どの経営学の教科書にも載っている、20世紀初頭にフレデリック・テーラーが開発した「科学的管理法」です。これは、業務を標準化し、管理部門の人財を置き、仕事を計画・統制するもので、科学的管理法は経営学の原点と呼ばれ、戦後の復興期における大量生産を支えた考え方です。
この会議で批判された「古い経営モデル」は、人の心を無視した「数字重視の経営手法」といってよく、嘗ては「手続きが決まった作業」や「正解がある問題」では極めて効果的に作用しました。
しかし、今は先行きが見通せず、何が正解か分からない時代です。こうした時代では、この「古い経営モデル」では立ちゆかなくなってきています。ここで重要なのが「数字」ではなく「人」、つまり「人間的でクリエイティブな経営モデル」です。
この会議を主催した経営学の権威ゲイリー・ハメルはこの会議で出された提言を6つの視点でサマリーしています。
1:志を改める・・・富の最大化から脱却し、価値創造を目的とし、市民参画の自覚を持つ
2:能力を解き放つ・・・管理手法を刷新し、多様性を高め、信頼を高め、創造性を解き放つ
4:権限を分散させる・・・意思決定から政治を排除し、自然発生で柔軟な仕組みをつくる
5:調和を追求する・・・大局観の下、長期的なビジョンを見据えてマネジメントを行う
6:発想を変える・・・論理に偏らず、イノベーション手法を学び、社内外の叡智を集める
2.時代遅れなマネジメントの例
ほとんどの企業で見られる「とんでもなく時代遅れナマネジメントモデル」はどのようなものでしょうか?
➀:営業会議で出てくるのは予算の未達に対する議論ばかり
②:簡単なクレームなのに、複数部署が関わるため改善できない
③:広告を出しても新規顧客獲得も先細り。それなのに予算達成のみを重視する会社方針。数字さえ作ればあとはどうでもいい。
④:戦略・予算・KPIと数値達成に縛られている企業にはありがちな光景です。
上の6つの視点に当てはめれば、次の通りです。
Ⅰ:志を改める・・・志や価値観が共有されていないため、現場の優先事項は数字づくりになっている。
Ⅱ:能力を解き放つ・・・短気の成果が評価基準になっており、メンバーの創造性や部門間の信頼をそいでいる
Ⅲ:再生を促す・・・現場には改善すべき点が足す言うあるのに、顧客よりも社内マターが優先されている
Ⅳ:権限を分散させる・・・縦割り組織や複雑な手続きが、意思決定の柔軟さやスピードを著しく劣化させている
Ⅴ:調和を追求する・・・部門は成果で評価され、全社利益よりも部門利益が優先される
Ⅵ:発想を変える・・・数字を挙げることに精一杯で、新しい発想やイノベーションを考える余裕がない
3.過去の成功体験を捨てよ
この問題の原点について、「『計画し、計測・分析し、数値改善を図ることが経営である』という工業社会のパラダイムがあったからだ」といわれています。かつてのように機械的な仕事が大半を占めていた企業においては非常に効果的な考え方でしたが、斬新なアイデアが価値を生む今の知識社会では、創造性や生産性を落としてしまいます。しかし、多くの企業、経営者はそのことに気づいていないのです。過去の成功体験から、現代の知識社会でも「工業社会の管理方法」で成果が上がると考えてしまうのです。
なぜ、このような現象が起きてしまうのでしょうか。
組織は人の思考から生まれますが。いつしか人の手を離れ、組織が一人歩きし、逆に人を縛り付けてしまうのです。
たとえば、経営者の方針に従って経営企画室が予算を作ったとします。すると、経営者の思考を離れ、予算が一人歩きを始めます。そうなると、すべての人が予算に縛られてしまいます。予算を作成した時点と経営環境は大きく変わったのに、変化よりも予算達成が優先され、数字だけを追い求める「思考停止」に陥るのです。
4.本当に大切なものは目に見えない
人の思考は、あらゆるものを「断片化」し、理解しやすい「断片」に注目する癖を持っています。その結果、「物質と精神」で言えば、目に見える「物資」を優先させます。つまり、お金や数字が、人の心よりも優先されてしまうのです。
ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。
一番大切なことは、目に見えない。
「見えないもの」を深く理解できないと人の心は動きません。人の心が動かないと組織は機能しません。
今こそ、マネジメントは人間性に回帰すべきです。それが「人間的でクリエイティブな経営モデル」なのです。