中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

心理的安定性を実感できる環境を整える

 
どのような職場では「問題解決」や「アイデア」「新たな取り組み」が求められます。そういうときにチームメンバーの創造力を最大限に引き出すにはどうしたらいいか、優れたアイデアをたくさん生み出す組織の特性は何かについて考えてみます。
数年前、グーグルは成果の低いチームと優れた成果を上げるチームの調査に乗り出しました。その結果、分かったことは、「スター選手だけを集めても、優れたチームになるとは限らない」ということだったのです。つまり、グーグルのチームの特性は個々の才能ではなく、とりわけ重要なのは心理的安全性の状態だというのです。
ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授によれば、チームにおける心理的安全性とは「チームメンバー間による、このチームでは対人リスクをとっても安全であるという確信の共有」を指すものです。
エドモンドソンの研究によれば、指導力の高い上長や良好な関係性をもたらす上長のいるチームほど、ミスの報告が多いことが分かっています。
リーダーシップの高いチームほどミスが多いとはどういうことでしょうか? リーダーシップが高いチームが決してミスが多いわけではありません。リーダーが有能で良好な関係性を維持できているチームでは、安心してミスの話題を持ち出すことができるのです。それに引き換え、指導力が低く良好な関係性が築けていないチームではミスをしてもそれを隠してしまうのです。
優れたチームは、ミスについて話し合い、そこから学ぼうという意欲が高く、ミスの報告も増えるのです。
チーム内で意見やアイデアを出す、ミスを認める、疑問を投げかけるといったことを安心してできるとメンバーが感じているとき、学習は積極的になり、チームとしてもパフォーマンスが向上するのです。
想像力を働かせるうえで、心理的な安全性が確保されていると、常識にとらわれない策を提示できるようになり、周囲から少々おかしいと思われるようなアイデアであっても安心して口にできるようになり、バカにされる心配がなければ、さまざまな選択肢を提示できるようになるのです。
創造的なことを生み出そうとする過程においては、ミスを素直に話すことが絶対に不可欠です。試作と実験にはある程度の失敗はつきものです。実際にやってみて、失敗と成功を繰り返し、試行錯誤しながら学習する効果を高めていくことが重要です。
チームで作業をするとき、メンバーが失敗を恐れていたのでは、満足度の低い結果しか生まれません。皆無難に乗り切ることだけを考え、限界に挑戦しようと考えないからです。このようなチームでは、上司や役員の顔色ばかり伺い、顧客に目を向けなくなってしまいます。これでは新しい優れたアイデアが生まれるはずはありません。
社員が心理的な安全性を強く実感できる環境を整えるにはどうすればいいのでしょうか? 
その答えは、「リーダーが新しいアイデアや厳しい現実を歓迎する姿勢を示す必要がある」ということです。つまり、
Ⅰ:反対意見を歓迎する。
 Ⅱ:上司が自分自身の失敗について話す。
 Ⅲ:悪い知らせや正直な意見を伝えてくれた誠実さに感謝する。
ということです。そして、形になっていなくてもいいから提案や意見を挙げてほしいと伝えるとともに、否定的なことを口にしても出世や進退に影響しないと明言することです。
経営者やリーダー(上司)の中には、「答えがすべてそろっていないなら持ってくるな」「解決策を示せ」という人がいます。しかし、たとえ答えが分かっていなくても問題を口にしていいという安心感が大事です。「早く、頻繁に、見苦しく。完璧である必要はありません。その方が、格段に速く修正に取り掛かれます。どれだけ事実が見苦しくても、所詮は決断を下すための情報にすぎない」のです。
部下を持つ人は、自分が心理的安全性を脅かす存在であると自覚する必要があります。上の立場の人は、多少弱さを見せた方がいいのです。そうすれば、部下は大胆に思えるアイデアイノベーションにつながる過ちを口にしやすくなります。そこに新たなアイデアイノベーションの芽があるかもしれないのです。やってみて学ぶという姿勢は話しやすい環境の中で育ちます。
リーダーの一番の仕事は、「周囲が素晴らしい仕事ができる経営環境を生み出すこと」なのです。そこに必要なのは、「安心できる環境」「明確なグラウンドルール」「適切に設定された業務」です。
現状打破が求められると組織を変えようとするリーダーは少なくありません。しかし、創造力に関して言えば、組織編成をしても創造力が生み出されるものではありません。必要なのは、誰でも失敗を恐れず、失敗を口にしてそこから学べる心理的安全性という状況です。周囲が素晴らしい仕事ができる環境を創ることが重要です。そのためには経営者やリーダーが意識を変えて変わらなければなりません。