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休日の本棚 戦略思考

おはようございます。
今日は、牧野知弘著「戦略思考」(SBクリエイティブ)という本を紹介します。「ボストン流どんな時代も食っていける」「先送りできない状況で人は真に考え始める」「そうか、その打ち手があったか!」と帯などに記載されています。
著者は世界的コンサルティング・ファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の出身者です。この本はBCGで学んだ「戦略思考」を紹介してくれています。的確な戦略思考を持てば、どんな業種、業界でも頭角を現すことが出来るというのですが、ここでいう「戦略思考」はスマートなものではなく、実際は泥臭く深く考え抜くことから始まります。
大学卒業後一旦銀行に就職した著者は、先輩の勧めでBCGの門をたたきます。当時の日本BCG代表の堀紘一氏の面接を受けます。堀氏は著者に「今、僕トイレに入ってたんだ。それで考えたんよ。牧野さん、日本でトイレットペーパーって1日でどれくらい消費されるものなんだろう」と質問します。机の上に、レポート用紙と鉛筆、電卓が置いてあります。これが面接なのです。
あなたならどのように考え、どのように答えますか?時間は3分です。
BCGではこのように考える力が要求されます。それも普通に考えるだけでなく柔軟な思考が要求されるのです。
牧野氏は・・・「日本の人口は1億2000人で…赤ん坊や入院しているお年寄りは使わないとして…男女で使う長さも違い…トイレに行く回数は…」と計算して答えを出します。堀氏は「いや、僕も知らないんだけど。どう考えたの?」答えは必要ないのです。考えるということが重要なのです。
それは、マイクロソフト以前にも紹介した以前にも紹介した「ビル・ゲイツの入試問題」と有名になったようにマイクロソフト社の入試問題はまるでパズルです。これも考える能力、柔軟な思考が求められているのでしょう。
この本ではコンサルティング・ファームやコンサルタントの仕事の仕方などが詳細に紹介されていますが、一般のビジネスマンや経営者にとって特に必要ないことです。要は仕事の仕方や考え方で役に立つエッセンスは何かということです。そこで、ビジネスマンや経営者に直接役立つことを紹介します。
・BCGで教わったことの多くは個々の解析ツールというよりも、問題の本質を考えようとあくなき追及をするその姿勢にある。
・スライドとは「読ませるもの」ではなく「見せるもの」⇒タイトルを見て「何が言いたいか」理解させる。理由はあとから。先ず結論ありき。
・議論が好きというよりも議論を戦わせることで自らのロジックを組み立てていく。時には苦手な人とも議論を交わす。
・会議に出席しても何もしゃべらない人は「能無し」。いても意味がない。
・ビジネスに必要なのは「評論」ではなく「意見」。可能性をいくら積み上げたところで「結論」を出して「行動」しない限り、ビジネスは動かない。
・自分の意見だけを主張し続けても駄目。反対意見にも耳を傾け、なぜ反対なのか理解することが大事。相手の意見をただ論破するだけを目的としたのでは、いらぬ対立を招き、結局自分の意見が通ったとしても、期待する社内の協力が得られずプロジェクトが失敗してしまうことにつながる。
・意見を述べるにはまず相手の意見、あるいは自分を取り巻く環境について考える深い意識がなければ、自分の意見は「薄っぺら」なものになってしまう。
・調べたことは正しい。間違っていない。だが、調べた話を延々としても意味がない。世の中に出回っているデータをお行儀よく分析してもそんなものに付加価値は生まれない。クライアントでも「知っていそうで知らないこと、気づいていないこと」に気づいて提示できることが重要。そのためには多くの知見と膨大なデータの分析を通じて問題の本質に迫ること、切口を常に磨き上げて問題をとらえることが重要。
・一生懸命やったから報われる、世の中はそんな「甘ちゃん」の世界ではない。一生懸命なんて当たり前。付加価値を創出するような業種では、一生懸命だけではほとんど全く評価の対象にならない。付加価値を創出して「なんぼ」の世界。
・ほかの業界で、同じようなパターンの事例がないか、そのパターンは自分の業界や会社にも応用できるのか、できるとすれば具体的にどのようなアクションプランを描けばよいのか
・会社の一員として長く勤めていると、自分たちの会社の歩き方が不格好でも、それが「常態」と思ってしまう。だが往々に「会社の常識は世界の非常識」になっている。会社の経営はゴルフのスウィングに似ている。自分では上手にスウィングしているつもりでも自己流になっている。それで勝てる時もあるが、それではいつも勝てない。自分が正しいスウイングをしているか見てもらうことも大事。
・数値は「魔物」である。「シロ」にも「クロ」にも使える「魔法の杖」になる。データを見る時に一番気を付けないといけないのが「いきなりデータを見ない」ということ。次々と押し寄せてくるデータを片っ端から見始めると全体像が見えなくなる。
・トレンドで見ると相撲を取る土俵がなくなる、あるいは相撲のルールが変わることが明確にわかっているのなら、土俵から降りる=事業の領域を変える、あるいは土俵での相撲の仕方を変える=「改革」を実行する、ことが必要になる。
・人間だれしも「うまくいかなかったらどうしよう」「売れなかったらどうしよう」「マーケットが予想と違ったらどうしよう」などと考えるのは嫌なこと。しかし、戦略を立案する際、実は最も重要なポイントは「失敗に耐えられるか」ということ。思い切り「悲観論」から考えてみる。思い切り悲観論から出発するというのはもはや「この下はない」ということ=その事態に陥っても耐えられるなら「失敗に耐えられる」
・どんなプロジェクトでも、決済日前日には難癖をつけて「ちゃぶ台返し」をしてみる。最後のゴールテープを着るとき人間はどうしても甘くなり、ちょっとした間違いや面倒くさいことに目をつぶってしまいがちになる。そこにリスクが潜んでいる。戦略の立案やその実行において、成就する前に一度思い切って「ちゃぶ台返し」をして、今一度「慎重さ」と「緻密さ」で見返してみることが大事。
・車内に転がっている問題でも、意外なことにそれを問題として認識できていない会社が多く存在する。目の前の事象に集中していると「大局」が見えなくなってしまう。自分の周囲だけ知っていればよいという発想はセクショナリズムを招き組織の硬直化につながる。問題は明確に見えるものではなく「藪の中」にある。その問題を明確にするには「藪漕ぎ」が必要になる。
・「実践」と言えばすべて経験に基づくものだと誤解している人がいる。確かに「実践」には経験値が非常に役に立つ場合があるが、その一方で、この経験値が「実践」するにあたって大いなる妨げになるケースもある。「成功の方程式」と言われるものがあるが、「疑う」ことからスタートする。
・失敗の本質を理解することが「戦略」を立案するにあたって非常に大切な要素になる。失敗は時として「もう絶対やらない」というものではなく、バージョンアップして作り直すと、実は「宝の山」に化けたりする。戦略立案には過去の失敗の抉り出しが必要であり、ときとしてこの「失敗」のリメイクが新たな戦略を生み出すことがある。失敗しても、そこに果実がると思えば「手を替え、品を替え」手でも取りに行く、こうした発想が会社を強くする。
・「なぜ?どうして?」が問題解決の近道である。物事の本質を深く考えない場合「当たり前」「ルール」と言うことになるが、世深く考えれば、「当たり前」でもなく、もともと「ルール」なんか存在していないことが多い。
・企業内で重要な事業案件の戦略を立案する場合「高揚感」「使命感」が判断を鈍らせる。「誰もやっていないからチャンス」なのか「誰もやっていないには理由がある」のか、どちらに考えるかで企業の取りうる行動は右にも左にも変わる。常に冷静な判断が必要。両極端に触れてしまうことはないのか、決断を行うにあたってはよく比較検討したうえで決断を行うことが重要。
・会社が今あるのは過去の「成功の方程式」によるのであって、このことは今後の成功を約束するものではない。現在があるうちに未来の「成功の方程式」を常に考えて行ける企業が勝者となる。
・多数決をとることに重きを置きすぎると、どうしても誰しもが反対しない無難な決定ばかりするようになる。これは大企業によくみられる意思決定。会社の大きな発展は「リスクをどのように取るか」に対する判断、決断の連続によって生まれる。良い経営者ほど好奇心旺盛で、リスクに対しる臭覚は鋭敏であり、どこまでリスクをテイクすることが出来るかについて正しい判断をする。
・会社として決めたのなら、そのことに対して悪口は言わない。全員が心を一つにして課題を突破していく。成功か失敗かはこれからは自分たちが決めて行く。
・仕事も、プロジェクトも、ある意味どこまで「冷静な目」で見られるかにかかっている。ロードマップという言葉を思い出してほしい。一つの道の途中でたとえ行く手を阻まれても、あるいは道に迷っても冷静に自分の立ち位置を把握して違うルートを、障害を乗り越えるルートを開拓していく。そんな冷静な心を常に持つことだ。
・今日思っただけで明日実現などしない。仕事とはずいぶんと時間のかかる根気の必要な作業だ。でも毎日無駄にせず、努力する人や会社に対して成功はその扉を開けてくれる。
・良い日もあれば悪い日もある。いちいちその日の結果で一喜一憂していては身が持たない。「切り替え」が大事だ。ビジネスはただ「辛抱強い」とか「反省する」とかだけでなく、悪かった時のことはあっさりと忘れて、次の行動にうつらなければ、とてもでないが継続できない。
・「言い訳」だけでは問題の先送りは出来ても問題の根本的な解決にはつながらない。環境の変化が起こったならその変化にどのように対処するのか、常に考えておく。一番大切なのは犯人を見つけることではなく、まずは問題が発生している原因を突き止めることだ。
・大企業の社員は分析は非常に得意だ。しかし、分析するだけでは問題の解決にはつながらない。アフターフォローの大切さは、商品やサービスの提供が顧客にどのように評価されているかを知り、問題点を発見し、その問題に対するメンテナンスと商品やサービスに対する「改善」「改良」のヒントを見つけることだ。
色々書きましたが他にもあります。それらは本書を読んでみてください。
コンサルタントだけでなく経営者、ビジネスマンにとって役立つ内容です。
最後に牧野氏は「ビジネスという厳しい社会では結果がすべてです。評論する暇があったら、問題解決のための時間を作る方がよほど大事だ」と言っています。自分の頭で考え抜き問題の本質に迫る、そしてそれを実践する、これこそが戦略思考です。