中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 BCG戦略コンセプト

おはようございます。
今日は、水越豊著「BCG戦略コンセプト」(ダイヤモンド社という本を紹介します。
BCGはボストンコンサルティンググループの略称で経営戦略に特化した世界最初のコンサルティングファームです。
新型コロナの影響で、経済の不況が長期化し、経営環境の厳しさが増している昨今、企業の経営者には巡り合わせの悪さや不運を嘆くよりも独創的な施策を講じた事態を打開すべく行動を起こすことが必要です。現代のように変化が激しく何が正解か分からない時代には、先行企業に追随し真似ようとしても、それが正しいとは限りません。自分の頭で考えて自分なりの独自の切り口を見つけそこから切り込んでいくしかありません。そのための深い示唆や多角的な視点などを与えてくれるのが戦略コンセプトです。
BCGは経営戦略コンサルティングを主業務としながら、ユニバーサルに通じる普遍的理念の追求も行い、「経験曲線」「PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)」など経営学をかじったことのある人なら聞いたことのある多くのコンセプトを生み出しました。
この本は、こうしたBCGが打ち出した戦略コンセプトの中から、戦略経営の全体像を描き、最終的には3つの視点から、6つのコンセプトを取り上げ紹介しています。
1.競争優位の6つの視点
 これまでの日本の経営戦略は「それなり」戦略、つまり戦略はそれなりに他社並みのものを作って、後は現場改善の積み重ねでうまくいっていました。しかし市場の成長は何十年も前に止まり「それなり」経営では生き残ることはできなくなっています。そこで「ならでは」戦略、つまりわが社ならではの強みを打ち出していかなければならなくなっています。
 「それなり」経営を脱し「ならでは」経営に転換するためには、差別化を追求した方向性を打ち出すことが必須です。自社「ならでは」の経営を行うためには、自社の強みがどこにあるのかが分かっていなければなりません。自社の「ならでは」の強み考え抜くフレームワークが戦略コンセプトです。先日、フレームワーク思考について書きましたが、フレームワークを使ったからといって絶対的な正解が出てくるものではありません。フレームワークは思考の枠組みを与えてくれるだけで、それをどう使うかによって出てくる答えは千差万別です。
 この本でも「戦略とは選択することであるといっても、戦略的フレームワークから、これは絶対にうまくいくという答えが必ず出てくるかというと、こうした打ち出の小槌的な答えは決して出てこない。また、このやり方でやると何%は成功するといった予言師的な答えも出てこない。そこから導き出されるものは、こういうやり方だと成功する確率が極めて高い、あるいは失敗する確率が高いという要件である。もう1つはフレームワークを通じて考えると、どうやったらより成功する確率が上がるかが分かる。しかし、どちらも絶対的な唯一の正解というわけではない」と言っています。
 企業が競争優位を築くために突き付けられている問いは大きく3つあります。
Ⅰ:誰に対してどのような価値を提供して勝つのか(価値創造)
 Ⅱ:どのような儲けの仕組みを構築するのか(事業構造)
 Ⅲ:どのような勝ちパターンを永続されるのか(競争要因)
 価値創造についてですが、「誰に対して価値創造するのか」という考え方を追求していくと、この価値創造の優位性こそが他者に対しての優位性となります。ここでは①株主価値と②顧客価値という2つの視点が重要です。
 次に、他社と同じようなことをしていても競争優位は生まれません。これまでのビジネスの仕組みを変え、新たな事業構造を構築することこそ戦略経営の中心課題です。ここでは、③競争優位を築き持続させるためのバリューチェーンと④事業構造についてのポートフォリオ・マネジメントの視点が重要です。
 企業の競争要因には品質、コスト、時間、ブランドなど様々なものがあります。見失いがちな競争余蘊を再定義することで、競争優位の持続を盤石なものにすることができます。ここでは⑤コスト優位と⑥時間優位という視点が重要です。
この本の第2章からは、上述の6つの視点で戦略コンセプトが説明されています。
第2章 株主価値 ― バリューマネジメント
 バリューマネジメントの本質は「経済合理性の観点から事業のポートフォリオを見直し、各事業の競争力を強化していく。その結果として企業収益が上がり、株価も上がる。企業はその実現を通じて顧客、従業員との新しい関係を構築していく。その意味で株主価値は日本企業再生のための新しいドライバーとなり得るコンセプトである」ということです。ここでは、バリュー・ポートフォリオマトリックスによる事業分析やバリュー・マネジメントによる現場改革の手法が紹介されています。
第3章 顧客価値 ― セグメント・ワン
 効率的・効果的な企業活動を行うには個別バラバラの消費者を、その属性、ニーズ、行動様式をベースにある程度の塊にグルーピングし、どのグループにどんな製品・サービスをどのように提供していくかを考える必要があります。このセグメントをとことん突き詰めていくと「あなた1人のためのサービス・商品」というところまでカスタマイズするのが「セグメント・ワン」戦略です。これまでは、個別ニーズを充足するためには多くにコストがかかってきました。しかし、IT技術の進歩による生産高コストや個別DMの費用も掛からなくなってきています。このように大きな追加費用を掛けずに顧客1人ひとりに個別の製品やサービスを提供することで競争優位を確立しようとするのがセグメント・ワン戦略です。
  バリューチェーンというのは、企業の事業活動全体を機能ごとに、どの機能で付加価値が生み出されているか、どの機能に強み、弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探るものです。これによって、企業活動のどの部分で付加価値が生み出されているかが分析できます。特に経営分析における内部分析に活用でき、自社がどの機能に強みを持ち、また弱みを持っているかがわかります。この自社の強みをどのように活かすかが戦略として重要であり、バリューチェーンは、経営戦略の向t陸に活用できます。さらに、企業がコスト競争あるいは差別化競争をするときの事業戦略を検討するためにも利用できます。
 デコンストラクションと言うのは、もともとは哲学用語で「文章を吟味して定説となっている従来の解釈とは異なる意味を見出すこと」を言います。無事ネスにおいても、これまで当たり前と思っていた常識が根底から覆され、既存のビジネスモデルは役に立たず事業崩壊が起こり、一方で次々と新しい事業が生まれるという事業創造が起きました。「今まで当たり前と思っていた事業の定義や競争のルールが従来と異なる視点でとらえなおすことで、新しい定義や新しいルールに生まれ変わること」がデコンストラクションです。レイヤーマスター(専門特化型企業)、オーケストレーター(外部機能活用型企業)、マーケットメーカー、パーソナルエージェントなどといった斬新なビジネスモデルが生まれています。
第5章 事業構造 ― プロダクトポートフォリオ(PPM)
 PPMは自社内の事業を市場成長率と相対マーケットシェアの2軸で評価し、事業を4つの領域に分類し、各事業の規模を表す円を描くことで、事業状況を俯瞰します。事業は以下の4つに大別できます。
Ⅰ:花形事業(スター):高成長率・高シェア=市場が成熟すれば「金のなる木」になる。
 Ⅱ:金のなる木:低成長率・高シェア=市場はやがて小さくなるので、それまでのキャッシュを稼ぐ。
 Ⅲ:問題児:高成長率・低シェア=成長は期待できるので、「金のなる木」の稼ぎを元手に、シェアを高めて「花形事業」に
 Ⅳ:負け犬・低成長率・低シェア=撤退を検討すべき。
第6章 コスト優位 ― エクスペリアンス・カーブ
 エクスペリアンス・カーブ(経験曲線)は、ある製品の累積生産量が増加するほど、単位当たりのトータルコストが低下していくという傾向を示した曲線です。ヨコ軸に累積生産量、縦軸に単位当たりのコストをとったグラフで、たいていの場合に右下に」カーブした曲線になります。現象のメカニズムや因果関係は明確ではありませんが、学習、専門化、規模、投資など位の総合的な影響と考えられています。経験曲線に従えば、累積生産量を増やすことで、コスト競争力を維持することができるようになります。
第7章 時間優位 ― タイムベース競争
 コスト、品質の次なる競争軸として、注目されたのが「時間」すなわちスピードです。企業のマネジメント能力がこれから問われるのは、柔軟性と迅速性です。時間短縮は、①生産性の向上 ②価値向上とそれに応じた価格設定 ③リスクの軽減 ④シェアの拡大と言う4点で企業戦略の上で意味を持ちます。
 タイムベース競争の基本原理は、時間こそが顧客と企業の相補プにとって最も重要な資源であるという考え方です。事実、多くの事業において、消費者の需要には高い時間弾力性があります。同等の価格、品質、性能やサービスであれば、それを届けるまでの時間が短いほど顧客満足度は高く需要は大きくなります。
 この本では、タイムベース競争による戦略立案に当たり次の4点が重要であると言っています。
Ⅰ:ビジネスチャンスは何か?
 Ⅱ:ボトルネックはどこか?
 Ⅲ:時間短縮のオプションは何か?
 Ⅳ:どんなトレードオフがあるか?
 タイムベース戦略にはOODAループ(観察→状況判断→意思決定→行動)を上手く回していくことが重要です。OODAループについてはPDCAサイクルについて書いたときに説明しましたが、OODAは瞬時の判断が必要となる軍事行動における意思決定を対象として考案されたもので、機動性が重視されます。そのためにタイムベース戦略には有用です。
環境変化のスピードが一段と進む現代において、過去の競争優位が将来に通用しなくなってきています。成功したビジネスモデルでさえ、陳腐化するスピードが速くなってきています。BCGの戦略コンセプトが万能なわけではありません。自分の頭で考えて自社なりの独自の戦略を打ち立てなければなりませんが、その際の考え方のフレームワークとしてはBCG戦略コンセプトは有用だと思います。