中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 企業変革力

おはようございます。久しぶりの投稿です。申し訳ありません。
今日は日曜なので本の紹介をします。以前紹介した本ですが、役に立つと思われるので再度紹介します。ジョン・P・コッター著「企業変革力」(日経BP社)という本です。この本は、タイムズ紙で「企業経営に最も影響を与えた25冊」に選ばれています。
コッターは、「企業変革の落とし穴」という論文の執筆者で、弱冠33歳でハーバード・ビジネススクールの教授に就任したリーダーシップ論・企業変革マネジメントの第一人者です。
コッター教授は、「変革の進め方には間違いが多い。しかし、変革には定石がある」といい、この本でその定石を説明してくれています。
コッター教授が、より競争力の強い企業に生まれ変わろうとする100を超える企業に注目し、その企業の変革事例から得られた教訓を元にしています。この100を超える企業には、大企業もあれば中小企業もあり、アメリカ企業だけでなく他国の企業もあり、倒産寸前の企業もあれば高収益を上げている企業もあります。
ところが、コッター教授の分析によれば、企業変革に成功した企業はほとんどなく、また失敗した企業もほとんどないということです。ほとんどのケースが成功と失敗の中間にあり、どちらかと言えば、失敗に近いところに位置付けられているというのです。
これらの事例から得られる教訓が2つあると言います。
Ⅰ:変革プロセスは、いくつかの段階を踏まなければならない。通常、最後まで辿り着くには相当長い時間が必要である。途中にスピードアップを図り一部省略すると、満足いく成果を上げることはできない。
Ⅱ:どの段階であれ、致命的なミスを犯すと、変動運動はその勢いをそがれる。これまでの成果は台無しとなり、決定的なダメージを被りかねない。
今後、競争が激化するビジネス環境において、この教訓は極めて有益です。
ウイズコロナ・アフターコロナ時代の激動のビジネス環境においては、変革は必要不可欠です。厳しさを増す新しい競争環境に対応するために、ビジネスのやり方を抜本的に改革していかなければなりません。変革を成功させるためには、まずは個人あるいは社内グループが自社の競争状態、市場シェア、技術トレンド、財務状態などを徹底的に検討することから始めなければなりません。そして次に、これらの情報、特に直面する危機、潜在的な危機、あるいはタイムリーで大規模なビジネスチャンスなどについて、広範かつ効果的に社内に浸透させる方法を考えなければなりません。変革プロセスを立ち上げるだけでも、多くの社員の積極的な協力が必要不可欠です。モチベーションのないところに協力は生まれません。
企業変革には段階があり、その段階を着実に踏んでいかなければなりません。
企業変革には、次の8つの段階があります。
Ⅰ:緊急課題であるという認識の徹底・・・①市場分析を実施し、競合状態を把握する。②現在の危機的状況、今後表面化しうる問題、大きなチャンスを認識し議論する。
Ⅱ:強力な推進チームの結成・・・①変革プログラムを率いる力のあるグループを結成する。②1つのチームをして活動するように促す。
Ⅲ:ビジョンの策定・・・①変革プログラムの方向性を示すビジョンや戦略を策定する。②策定したビジョン実現のための戦略を立てる。
Ⅳ:ビジョンの伝達・・・①あらゆる手段を利用し、新しいビジョンや戦略を伝達する。②推進チームが手本となり新しい行動様式を伝授する。
Ⅴ:社員のビジョン実現へのサポート・・・①変革に立ちふさがる障害物を排除する。②ビジョンの根本を揺るがす制度や組織を変更する。③リスクを恐れず、伝統にとらわれない考え方や行動を推奨する
Ⅵ:短期的成果を上げるための計画策定・実行・・・①目に見える業務改善計画を策定する。②改善を実現する。③改善に貢献した社員を表彰し、報奨を支給する。
Ⅶ:改善成果の定着と更なる変革の実現・・・①勝ち得た信頼を利用して、ビジョンに沿わない制度、組織、政策を改める。②ビジョンを実現できる社員を採用し、昇進させ、育成する。
Ⅷ:新しいアプローチを根付かせる・・・①新しい行動様式と企業全体の成功の因果関係を明確にする。②新しいリーダーシップの育成と引き継ぎの方法を確立する。
企業変革を成し遂げるには、上記の8つの段階を順次進めていけばいいのですが、それぞれの段階に落とし穴が待っています。
1.第1ステップの落とし穴:「変革は緊急課題である」ことが全社に徹底されない
 人間は、悪いニュースを避けようとするバイアスが働きます。成功事例では、変革推進チームのメンバーが不愉快な事実、すなわち新たなライバルの出現、利益率の低下、市場シェアの縮小、売り上げの伸び悩みなどといった不利益な事実を受け入れ、忌憚のない議論ができる環境が構築されていたのです。危機意識が十分に浸透していなければ、変革は不可能です。この記事では、経営幹部の75%程度が「このままビジネスを進めていては絶対だめだ」と本気で考えている必要があると言います。そして、変革を推し進めるには強力なリーダーシップが必要です。変革を成功に導くには、まずは経営幹部が危機意識を持ち、それを全社的に共有し、強力なリーダーが率先して推し進めていく必要があるのです。
2.第2ステップの落とし穴:変革推進チームのリーダーシップが不十分
 大がかりな変革プログラムでも少人数でスタートすることが多いのです。しかし、トップが積極的なサポートしない限り、大規模な変革は実現できません。
 経営陣が変革の緊急性を十分に認識していれば、変革推進チームの結成は容易ですが、誰かが音頭を取って、チームメンバーをまとめ、自社の問題点やビジネスチャンスに関する認識を共有させ、必要最低限の信頼関係とコミュニケーションを築き上げなければなりません。ここで失敗する企業の多くは、強力な変革推進チームの重要性を侮っていることにあります。
3.第3ステップの落とし穴:ビジョンが見えない
 変革に成功した企業は、例外なく変革推進チームに、顧客や株主、社員に説明しやすくかつアピールしやすい未来図を持っています。ビジョンは、単に5年計画のような数字を羅列したものではなく、自社が進むべき方向性を明確に指し示したものでなければなりません。熟考に熟考を重ねた分析と理想が反映され、素晴らしい出来栄えのものとなってはじめてビジョンを実現できる戦略も策定できるのです。
4.第4ステップの落とし穴:社内コミュニケーションが絶対的に不足
 企業内部の多くの人たちが進んで協力してくれない限り変革は不可能です。信頼に足るコミュニケーションなくして、社員の心や関心を集めることなど不可能なのです。
 変革に成功した事例では、ビジョンを広く知らしめるために、経営幹部がありとあらゆるコミュニケーション手段を駆使し、説明し、社員からの質問を受けてこれに応えることを行っています。コミュニケーションは言葉と行動の両方が必要であり、特に行動はもっとも説得力のある手段です。
5.第5ステップの落とし穴:ビジョンの障害を放置してしまう
 変革推進チームが新たな方針を効果的に伝えられれば、ある程度は社員に新しい行動を起こさせることができます。しかし、それだけでは不十分で、イノベーションを実現させるには障害を取り除くことが必要です。
 新たなことを起こそうとすれな、当然多くの障害が立ちふさがります。最も厄介なのが、変革を拒み、全社の動きとはそぐわない要求を突き付けてくる管理職です。
 どんな組織でも、変革プロセスの前半では、すべての障害を取り除くだけの力も勢いもありません。それでも重大な障害と対峙し、場合によっては、それが人間でも、泣いてでも斬らなければならないときがあるのです。 
6.第6ステップの落とし穴:計画的な短期的成果の欠如
 変革はそんなにたやすいことではなく、時間がかかります。その際、短期的な目標を設定しておかないと、変革の勢いを失速させることにもなりかねません。短期的に何らかの成果が上げられなければ、多くの人は投げ出してしまいます。
 短期的に成果を上げることと、短期的に成果を上げたいということとは別物です。後者は受動的であり、前者は能動的です。順調に進んだ変革の成功例を見ると、経営陣が業績が明らかに改善しうる手段を積極的に模索し、年度計画に目標を設定し、目標達成に貢献した社員を積極的に表彰したり昇格させたりしています。
 「変革には時間がかかる」という意識が社員に広がると、「変革は喫緊の課題である」という事実がなおざりにされてしまいます。短期的な成果を出すという責務を課すことで、緊急性を意識しつつもビジョンに磨きをかける努力が後押しされるのです。
7.第7ステップの落とし穴:早すぎる勝利宣言
 経営者としては、変革の勝利宣言を早く出したいと焦るのも無理はありません。個々の成果を祝うのは結構ですが、この段階で勝利宣言をすると、誰もの気が緩み、今までの努力が台無しになることにもつながります。少なくとも5年、10年かかります。変革の道のりは険しく、途中で気が緩んでしまえは脆くも崩れ去り、後退の可能性が生まれます。しっかりと、一歩ずつ段階的に進めていくことです。勝利宣言を焦るべきではありません。
8.第8ステップの落とし穴:変革推進チームのリーダーシップが不十分
 会社を人間に例えると、変革という血液が身体の隅々にまでいきわたってはじめて「変化個の成果」が定着したといえます。新しい行動様式が社内の規範や価値観として根を下ろさない限り、変革の圧力が弱まるや否や廃れてしまいます。
変革を企業文化として制度的に根付かせるには2つの要素が必要だと言います。
新しいアプローチや行動様式、考え方など業務改善にどれくらい貢献しえたのか、社員に意図的にアピールしていくこと
次世代の経営陣に新しい考え方がしっかり身につくよう、十分な時間をかけること
企業変革は、どのようなものであれ、時間がかかるものですし、経営トップが中心となり全社を巻き込んで行わなければ成功することはできません。だからと言って、この激動の時代、VUCAの時代において、変革を行っていかなければ、企業も持続的成長を遂げることも生き残ることもできません。
「変革で最大の障害は古い企業文化だ」と言われることがあります。古い企業文化を変えなければ変革は不可能だということです。しかし、コッターは「それは間違っている」と言います。企業文化は長年にわたって培われてきたものなので、簡単に変えることはできませんし、操作もできません。企業文化を変えようとするよりは、まずは人々の行動を変えることです。行動を変えることで成果が出ることを認識して貰うことです。人々の行動が変われば、少しずつ企業文化も変わっていきます。企業文化を変えるのは変革の最初ではなく、最終段階です。
企業変革を行なう人にはマネジメント能力だけでなく、リーダーシップも必要です。変革にはマネジメント力とリーダーシップ力がバランス良くあることが大切です。どちらかに偏っていてはダメです。変革が進まない企業では、マネジメント力を持つ人材はたくさんいても、リーダーシップを持つ人材がいません。これでは「船頭多くして船山に登る」になり、明後日の方向に行ってしまいます。変革が進むはずはありません。
そして、変革を成功させるには人々を借りた立てる単純明快なビジョンが必要で、そうしたビジョンを掲げることができれば、ミスを起こす確率を減らすことができ、変革の可能性は高まるはずです。この単純明快はビジョンを立て、実現に向けて人々を駆り立てることができる能力がリーダーシップなのです。