休日の本棚 ゼロベース思考
休日の本棚 戦略論の名著 「孫子」
おはようございます。
「『戦略』とは何か?勝ち抜き生き残るために、いかなり戦略をとるべきなのか?」古今東西の戦略思想家たちが頭を悩ませ、その英叡智を結集した多くの名著があります。その一つが孫武の「孫子」です。「孫子」は春秋時代(紀元前770~403年)の兵法家・孫武によって書かれたとされていますが、孫武の生没年・出生地も不詳で、「孫子」の原本も今のところ発見されていません。1972年に、山東省銀雀山で紀元前317年から134年頃と思われる漢墓から「竹簡孫子」が発掘されて、孫武が実在の人物だということは決着しているようです。
「孫子」の冒頭に、「兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察すべからざるなり」とあります。戦争とは、国家にとって回避できない喫緊の課題です。戦争は国民の生死に関わり、国家存亡の分かれ道でもあります。だから、戦争を徹底的に研究しなければならないというのです。
ビジネスも戦争に例えられることがあります。元々「戦略論」は、戦争で勝つために何を行うべきかというところで使われた言葉ですが、その後ビジネスにおいて戦略論が展開されるようになりました。当然、ビジネスにおいても戦略は必要で、生き残る為に徹底的に研究しなければなりません。
1.「連戦」してはならない。
- 百戦百勝は善なるものに非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するのは善の善なる者なり
戦いにおいては、自分も相手も傷つかないように勝つことを考えなければなりません。どちらが勝っても負けても、傷つけば疲弊し、回復に大変な時間と労力がかかります。一番いい勝ち方は戦わずに勝つことです。本来ならば、「百戦百勝」は素晴らしいことのはずですが、孫子は「そんなことは褒められたことではない。むしろ危うい。現実に戦ってしまったのだから」と言うのです。
ビジネスにおいても日常の争いごとにおいても、たたかつっしまえば無傷というわけにはいきません。たとえ勝ったとしても、何らかの傷を負います。相手の恨みを買い、新たな火種を植え付けることにもなりかねません。新たな火種を消そうとすれば、相手の傷を癒してあげるとか、金銭的・経済的の手当をするなど、労力やお金のかかるサポートが必要になります。
だから、孫子は「戦ってはいけない」というのです。もちろん、ビジネスにしろ人生にしろ戦いであることは否めません。しかし、実際に戦う前に、自分も相手も傷つかない勝ち方、つまり戦わずに交渉で勝敗を決するような方法を考える必要があるのです。
2.戦う前に相手の戦闘心をくじく
- 上兵は謀(ぼう)を伐(う)つ
戦う前に確かめるべきことは、相手に戦う気があるかどうかです。戦う気があるのなら、相手が戦う気をなくすように仕向けるのがいいというのです。また、戦いの芽が小さいならば、小さいうちに摘み取ってしまうのです。
- 天下の難事必ず易きより起こり、天下の大事は必ず細(ちいさ)きより作(お)こる。
天下の難事・大事といえども、事の起こりは簡単に解決できる些細なことです。
相手の闘争心の芽を早めに摘み取っておけば戦いを未然に防ぐことができますし、早めに摘み取るのなら比較的簡単にできます。
ライバル会社が自社と同じクライアントを狙っていると分かった場合、どのように対処すればいいでしょうか。
- 相手会社の社長や担当者にあって、うちと戦う気があるか確かめる。
- 「戦意あり」と分かったら、態度を豹変させ、可能な限りの方法と回数で歴戦の強者としての実力を示す。相手の弱みを研究していることも示す。
- この戦いが「労多くして益少なし」と思わせるような要素を繰り出していく。
このような方法が採れるのは、自社が圧倒的に他社よりも有利な地位にいる場合(本気で戦っても勝つ場合)だけで、力が拮抗している通常の場合には難しいところです。
3.戦略の基本は、「非戦・非攻・非久」
- 善く兵を用うる者は、人の兵を屈するも戦うに非ざるなり
- 人の城を抜くも、攻むるに非ざるなり
- 人の城を毀(やぶ)るも、久しきに非ざるなり
これらは、「自分にしかできないオンリーワンの分野を持ちなさいということ」と理解できます。そうすれば戦う必要はなくなりますし、よしんば争いが生じても、長引かせないことが重要です。
- 非戦・・・戦わずに勝つ方法を考えることです。ビジネスでも人生でも、誰にもまねのできないオンリーワンの分野を持てば、勝てないと分かっている相手に戦いを挑む者は出てきません。
- 非攻・・・自分から相手をねじ伏せるようなことをしてはいけません。相手が追い詰められて自分から崩れていくのを待てばいいのです。ビジネスにおいても自分が圧倒的な力を持つことで、ライバルを不利な状態にすれば自然と崩れていきます。
- 非久・・・戦わなければならなくなっても長引かせてはいけません。ビジネスでも戦いが長引くと双方ともに疲弊するだけです。緒戦に全力投入し、勝って主導権を握り、早いうちに切り上げることが肝要です。
他に、「負けるが勝ち」ということもあり得ます。当面は価値を譲ることで、将来の大勝利に賭けるという戦略ですが、そのためには中長期的な戦略が必要になります。
このように「孫子」には、ビジネスにおいても役立つ名言がいろいろと載っています。古典というべき有名な戦略論を読み解くことも必要です。
部下に対する質問方法
失敗を活かす
休日の本棚 コア・コンピタンス経営 大競争時代を勝ち抜く戦略
おはようございます。
今日は、G・ハメル&C・K・プラハラード著「コア・コンピタンス経営 大競争時代を勝ち抜く戦略」(日本経済新聞社)を紹介します。原書は、「Competing for the Future」(未来のための競争)です。なお、「コア・コンピタンス経営 未来への競争戦略」として文庫化もされています。
この本が出版されたのは1995年で、日本企業が圧倒的に強さを発揮し、アメリカ企業は長い低迷期から脱しようやく成長に転じようとしていた時代です。この本には、ソニー、ホンダ、シャープ、東芝などの日本企業が成功例として紹介されていますが、現在これらの企業は低迷に苦しんでいます。一方、アメリカ企業は復活を遂げています。
競争が激化し、企業の持つ経営資源が相対的に希少化してくると、企業はその戦略として、投資の効果や効率を最大化しようとします。
経営資源を投下する際、競争市場のどこに、どのように自らの存立基盤を築くのかが「ドメイン(市場内生存領域)」の問題です。ドメインを策定するには、市場のニーズを反映し、競争上の差別優位性を発揮できる分野に特定化することです。そのために、①顧客のどのようなニーズに対応するのか(What)②ターゲットとなる顧客層は誰か(Who)③どのような独自技術やノウハウを用いてどのように提供するか(How)の3つが重要になります。そのHowの部分がコア・コンピタンスです。
コア・コンピタンスとは「自社の中核的な技術やノウハウ、自社の最大の強み」「顧客に対して他社にはまねできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な能力」のことです。この本の例でいえば、ソニーの製品を小さくまとめる技術やホンダのエンジン及び駆動系技術、シャープの液晶技術などがそれに当たります。
かつて、ソニーは電子技術とメカニカルな機械技術の組み合わせによって、製品の小型化に成功し、この小型化技術を「コア技術」として、顧客に「携帯性」という価値を提供する、携帯ラジオ、ウォークマン、ハンディカムなどの製品を作りました。
また、ホンダは、徹底的に究めたエンジン技術を「コア技術」としてCVCCというエンジン技術により省エネや排ガス規制に対応した初代シビックを作りました。
シャープは、液晶技術を「コア技術」として。製品の小型化・省エネ化が可能となり、小型電卓、電子手帳ザウルス、液晶テレビなどを作りました。
このように「コアとなる技術」と「顧客の利益」が結びつくことによって競争に打ち勝つ強い製品が生まれています。
しかし、コア技術も、それで成功した企業があると当然それを真似しようとする企業が出てきます。今のコア技術が10年後20年後もコア技術として企業の強みになるとは限らないのです。コア技術の上に胡坐をかくのではなく、時間をかけて常に磨き続けなければなりませんし、常に新しいコア・コンピタンスを見つけ育てていかなければなりません。
かつて勝ち企業であったシャープは、液晶テレビが大きな売り上げを占めると、商品技術である液晶テレビに重点投資し、コア技術への投資を怠り、液晶テレビが衰退しはじめると、次の目玉商品を生み出せず、今では台湾企業の傘下にあります。
コア・コンピタンス経営は、企業が中核的な能力を徹底的に磨き上げることで、新しい市場を創造し、持続的な成長企業を実現するという競争戦略です。
コトラーによれば、企業の競争地位は、「リーダー」「チャレンジャー」「フォロアー」「ニッチャー」の4類型に分かれます。
「リーダー」は、当該市場における最大シェアを保持している業界最大手の企業であり、最大シェアを確保・維持するためにドメインを広く抽象的にするオーソドック戦略をとることになります。「チャレンジャー」は、リーダーの地位を狙って挑戦する企業で、リーダーと同質化戦略をとっても勝ち目はないので、顧客機能や独自能力によってリーダーと徹底的な差別化を図ろうとします。こうしたチャレンジャーにはコア・コンピタンス経営が適していると言えます。「フォロアー」は、リーダーとチャレンジャーが熾烈な争いをしている市場を避け、その他の市場で模倣戦略を取ります。「ニッチャー」は市場内のニッチな部分で、ドメインの範囲を限定し、そこに合うニーズと独自技術・ノウハウを使って差別化を図ります。ニッチャーもコア・コンピタンス経営が適していると言えそうです。
コア・コンピタンス経営には次の3点が重要です。
1 企業が追及すべき顧客の便益を明らかにする
多くの企業が顧客ニーズを把握することの重要性は理解していますが、十分に顧客ニーズを把握しているとは言えません。漠然と顧客ニーズを把握しているだけでは適切な競争戦略を打ち立てることはできません。顧客ニーズを把握し、それを細分化して、自社が提供すべき便益と細分化された顧客ニーズを明確に結びつけることで、迅速な対応が可能となるのです。
2.顧客の便益を提供するのに必要な自社の技術・能力を高める
自社が保有する経営資源には限りがあります。「選択と集中」の観点から限られた経営資源をどこに投下するのかを決めなければなりません。自社のコア・コンピタンスをどこに設定するのか、ドメインをいかに絞り込んでいくのかという戦略的な意思決定は経営者の重要な役割・任務です。
常に、顧客のニーズに合った便益を提供し続けるためには、自社の技術や能力に常に磨きをかけ高めていかなければなりません。
3.企業と顧客との接点を重視する。
自社の持つ技術と顧客ニーズが上手く結びつくと、消費者の支持を受ける製品やサービスが生まれます。しかし、時間の経過とともに、自社のコア技術と顧客ニーズの間にずれが生じるようになります。それは、消費者(顧客)は一旦便益が得られると、それに満足せずより高い便益を求めるようになるからです。企業は、常に市場の動向を把握し、顧客の声を拾い上げデータベース化し、社員全員が共有できるようにして、開発改善に取り組んでいかなければならないのです。
コア・コンピタンス経営は「市場の発見・創出につながら未来の戦略だ」というのは良く分かります。文庫化で「未来への競争戦略」と副題がつけられているのも納得できます。これまでの価格競争を重視した戦略とは一線を画するものです。
かつて日本企業が自社の強みを活かして欧米に打ち勝ってきたコア・コンピタンス経営は、長期的な視野を持って、コア・コンピタンスの発見と保持、その発展に努力するとともに、それを製品やサービスに巧みに生かしていく方法を見つけなければ、日本企業が低迷したようにやがて終焉を迎えることになります。多くの日本企業が低迷しているのは、コア・コンピタンスを発展させることができなかったからです。
企業の力としてのコア・コンピタンスは、最終的には個々の社員のスキルや、ノウハウにまで分解されます。組織内に分散している個々の暗黙知的なスキル、ノウハウを全体で共有し知を創造し、それを企業の力に転換していくことが大切なのです。嘗ての日本企業にはこうした強みがありました。組織の末端のレベルまで巻き込んで独自の企業力を育てなければなりません。その点を忘れて効率化を重視した経営に走った結果、日本企業は衰退していったと言えそうです。
コア・コンピタンスの視点がないまま。効率重視でリストラやダウンサイジングによる省力化や効率化を推し進めるならば、社員のモチベーションやエンゲージメントを低下させ、コア・コンピタンスを支える人材までも失い、ついにはコア・コンピタンスまでも失う危険性があるのです。
「コア・コンピタンス経営」も競争戦略の一つにしかすぎません。絶対的に正しい戦略というものはありません。どのような戦略にもメリットとデメリットがあります。この点を頭に入れたうえで、自社の競争地位を考慮し「自社の強み」を活かしていく「コア・コンピタンス経営」を今一度見直してもいいのではないかと思います。
今日は、本の紹介というよりもコア・コンピタンス経営の説明になってしまいました。
休日の本棚 成果主義と人事評価
休日の本棚 死生観
できるリーダーの褒め方
おはようございます。
これまでも、何度か部下の褒め方・叱り方、部下の育成方法については書いてきました。そこでも書きましたが、基本は、「認めて、任せて、褒める」ですが、ミスをした時などには「叱る」ことも重要です。もちろん叱った後には常にフォローが必要です。
リーダーにとって、オフラインでもオンラインでも、短い時間の中で何を伝えるかということが重要です。これは「褒める」場合でも「叱る」場合でも同じです。短い時間の中で、端的に伝えることです。そして、「この一言で、部下が持つ 素晴らしい可能性を開花させ成長してくれる」ような思いを込めて真剣にその言葉を部下の心に響かせることです。褒める場合も叱る場合も、相手を思いやる心が大切なのです。
1.できるリーダーは、気持ちにゆとりがある
あなたは、部下のことを思い心から「叱る」ことができているでしょうか? 怒りや苛立ちの感情から部下を非難しているだけではないでしょうか? 一度考えてみてください。
「褒める」場合も同様です。単にうわべだけ、口先だけの褒め言葉など、相手の心に響きません。
部下が成果を上げた時、部下の成果を素直に認め心の底から素直に喜べていますか?
リーダーは部下の成果を素直に喜べるかどうかで器の大きさが問われるのです。人を押しのけて立ち上がってきたリーダーの中には、出る杭を叩きつぶそうとするリーダーもいます。その出る杭が部下であろうと容赦なく叩き潰そうとします。こうしたリーダーは、自分の力に自信がないので人を蹴落とすことでしか今の自分の地位を守れないのです。まさにダメなリーダーです。
できるリーダーは気持ちにゆとりがあり、器が大きいのです。部下が成果を出すことを応援し、部下が出した成果を一緒に喜びます。
リーダーの役割は、部下を素直に「認めて、任せて、褒める」こと、そして部下と共感することです。
2.褒めたつもりが、嫌みに取られてしまうこともある
部下を褒めたつもりでも、部下が「褒められた」と思わず「嫌みを言われた」と受け取ってしまうケースもあります。「本当によくできている。流石に〇〇大学卒のことはある」「この仕事をしてまる3年、できて当然と思うがよくできている」など、余計な一言を付け加えたために「褒められた」とうれしい気持ちにならず、逆に「嫌みを言われた」と受け取られるようになるのです。余計な一言などいりません。
端的に褒める言葉だけでいいのです。そして、その褒める言葉に、部下に対する温かい思いと愛情を込めることです。「思い」を言葉に込めて、部下の心に響かせること、そのためには上司と部下との人間関係、信頼関係を築き上げることが大事になります。
3.褒めるときには、「中身の具体性」より、まず「タイミング」
褒めるために一番大事なのは、どのような「思い」を込めて褒めるかということですが、次に大切なのは、言葉の中身よりは「タイミング」です。
「叱る」にしろ「褒める」にしろ、そのタイミングがあります。タイミングを逃してしまうと効果が半減します。タイミングを失すると、逆に部下も白けてしまいます。また、どう褒めていいのか分からずに思い悩んでいるうちにタイミングを逃い、「まあいいか」と褒めることをあきらめることにもなります。これでは部下のモチベーションは上がらず、逆に下がることにもなりかねません。
難しく考えることではないのです。先ほども言ったように、「褒める」ということは部下に対する思いや愛情を込めることです。素直に感じたことを言葉にすればいいだけです。それも、長々と話す必要はありません。短い言葉に思いや愛情をこめればいいだけです。長々と話すと、余計な一言が加わり、部下は「裏があるのでは」「嫌みでは」と勘繰るようになってしまいます。
部下の中には、褒められて「具体的にどこがどう良かったのか」と思う人もいるかもしれません。しかし、こちらから、敢て「何が良かったのか」「どこが良かったのか」を言う必要はありません。部下が聞いてきたときに答えればいいのです。
「褒め言葉」は、部下が「良くできた」と感じたときにすぐの発することです。部下が成果を上げたとき、部下が褒めてほしいと思っているとき、思いを伝えたいと思ったそのときにすかさず褒めてこそインパクトがあるのです。
これは「褒める」に限らず「叱る」場合も同様です。
いずれにせよ、「褒める」ことも「叱る」ことも相手を思いやる心が備わっていなければなりません。そのためには、普段からより良い人間関係、信頼関係を築いていくことが大切です。普段方対話や雑談を通じて共感していくことが重要なのです。
行動する秘訣
おはようございます。
「このままではまずい」と思いながらも、動けない・動こうとしない人がいる一方で、素早く行動を起こし、成果を上げている人もいます。その差はどこにあるのか、どうすれば「動ける人」になれるのでしょうか。
「行動する秘訣」は、ずば抜けた精神力やモチベーションにあるのではなく、すぐの行動を起こせる人も、悩んだり不安になったり、時にはやる気が出なく戸惑ったりしています。ただ1つだけ違っていたのは「「仮決め・仮行動」と「軌道修正」の習慣があるかどうか」です。少し、詳しく見てみます。
1.「すぐに動けない人」が多い
誰しも、
- 考えてばかり、愚痴ってばかり、言い訳ばかり
- 解決策を知っているだけで満足して、何も行動しない
- 行動不足が原因で、ずっと同じ問題や課題に悩んでいる
ということがあるはずです。やらなければという焦りや不安はあるのに、なかなか動けない、どうでもいいことはできるのに、重要な課題や問題には正面切って向き合えず逃げてばかりいる、仮に行動したとしてもその場限りでごまかしている、というだけでは行動が積み上がっていかずに、それでは何の成果も出ません。
2.「一発逆転」は狙わない
変わりたいのに変われない、行動したいのに動けない人の多くは「一発逆転」「起死回生」を狙っています。すぐに行動できる人や行動力のある人に対し、憧れを抱くとともに、時に焦りを感じます。行動力のある人や優秀な人と自分を比べ、劣っている・出遅れていると感じます。だから、大きなことをしないと駄目だ、何か凄いアイデアを思いついて何か凄いことをしないと追いつけない、置いていかれる、取り残されると思い込んでしまうのです。
しかし、行動力のある人やすぐに行動できる人、優れた人というのは「一発逆転」を狙わないのです。現在のような激動の時代にはイノベーションが不可欠ですが、それは一発逆転を狙った奇抜なものである必要はありません。社員一人ひとりが、顧客・取引先や市場の小さな変化に気づき、その小さな変化を芽として育て、事業に有効に活かしていけばいいのです。
これは、小さなことからコツコツと取り込んでいけばいいということです。
3.本当にやりたいことにたどり着く最短の方法
「大きなことをしないといけない」と一発逆転を狙えば狙うほど、思考も行動も硬直化していきます。ちょっとしたアイデアを思いついても「こんな小さなことでは一発逆転できないから、やっても意味がない、無駄だ」とあきらめ、行動しようとしません。実際は、そうした状況から抜け出すためには、先ほども言ったように大きなことをする必要はなく、小さなことをコツコツと積み上げていけばいいのです。
「今はやっていないけれど、自分にとって大事なこと」を仮に決めて行動してみる。仮決めした行動が、しっくり来ればそれを毎日繰り返し、しっくりこなければ、別の行動をまた仮決めして行動する」という方法がよいのです。先ほど「小さなことからコツコツと」と書きましたが、その「小さなこと」をどのように見つけるのか、その探し方として、「仮決め・仮行動」は有用なように思います。
変化の時代に、自分が本当にやりたいことにたどり着くには、正解や近道、抜け道、一発逆転を狙わない方がいいのです。確かに当たれば大きいですが、外れる確率が格段に高く、外れればゴールからさらに遠ざかります。人生やビジネスはギャンブルではありません。地道で理にかなった行動こそが成功への近道です。
「自分がやりたい方向に近づくために小さな行動を仮決めして仮に動いてみる、動いたことで得た反応や反響と言ったものを大切にしながら軌道修正していくことが、本当にやりたいことにたどり着く最短の方法」だと思います。
休日の本棚 水平思考の世界
今日は、エドワード・デボノ著「水平思考の世界」(きこ書房)を紹介します。この本の副題には「固定観念がはずれる創造的思考法」とあり、帯には、「ロジカルシンキングの限界を軽々と超える!不可能を可能にする発明家の視点」とあります。また「絶体絶命と思われる状況でさえ、極めて自分に好都合な状況へと転換できる。水平思考は、時代の転換期にいるわたしたちの最強の武器になる思考法である」ともあります。そうであるならば、水平思考を身につけて損はありません。
「水平思考」という言葉は著者のデボノが作った造語で、「垂直思考」とは異質かつ正反対の思考法です。従来の論理的思考や分析的思考である「垂直思考」は、論理を深めるには有効ですが、斬新なアイデア・発想は生まれにくいのです。これに対して「水平思考」は多様な視点から物事を見ることで直感的な発想を生み出すことが特徴で、一つひとつ段階を踏まない思考プロセスを通して、あるいは異なる角度から状況を捉えることによって、問題の答えを得たり新しいアイデアを生み出したりすることを可能とする思考法です。
ビジネスにおいても、創造性とイノベーションは進歩や発展のための最も重要な手段ですが、常識的な思考法からいったん離れて様々な難題に取り組み、正解に至るもう一つ別のルートを開拓しようという心構えがなければ、創造性を発揮してイノベーションを起こすことはできません。目まぐるしく変わる社会環境や競争の激しい時代において、革新的な戦略を思いつくことができる能力が不可欠となります。その方法が水平思考であり、誰でもが習得できる技能・スキルだというのです。
第1章 人生には水平思考でしか解決できない問題がある。
驚くほど単純な解決策が突如として明らかになるまでは、とても解決不能と思われるような問題に遭遇したことは誰でもあるはずです。一旦思いついてしまえば当たり前すぎて、思いつくのにそれほど苦労したのか理解できないほどです。こうした問題は垂直思考を用いているうちは、解決策を見つけるのは難しく、ちょっと視点をずらす・別の角度から見るという水平思考であっさり解決できるのです。
垂直思考が通常用いる一歩ずつステップを踏んで進めるという手法では、いったん止まってしまうとそこが限界になり前へ進めません。水平思考では全く任意の新しい場所まで一挙に思考を持っていくので、限界を超え、それが強みとなります。
第2章 誰にでも入手可能な既成の情報を新しいやり方で見つめなおす
新しいアイデアは、それを探し求めたり論理的に考えたりして手に入るものではありませんし、専門的知識を身につけたからといって思いつくものではありません。また、テクノロジー自体が新しいアイデアを生むものでもありません。
だからと言って、新しいアイデアは運の問題でも天才的な才能の問題でもありません。この能力は知力にのみ関係があるのではなく、ある特定の頭の習慣すなわち特定の考え方により大きくかかわっているのです。それが水平思考です。
アイデアに対しての唯一の当てにできる報酬は、達成の喜びであり、大きな興奮がそこにあります。ひとたび新しいアイデアが生まれると、それについて考えるのを辞めるのは不可能で、新しいアイデアには永遠性があるのです。
水平思考が必要なのは、垂直思考には限界があるからです。一つの穴をどんどん深く掘り進めても、別の場所に穴を掘ることはできません。論理というのは穴をより深く大きく掘って確実な穴にするための道具のようなものです。垂直思考というのは同じ穴をより深く掘ることであり、水平思考はほかの場所でやり直すことです。一つの方向だけに目を向けていれば、別の方向は見えなくなります。
既成のアイデアに支配されると新しいアイデアの出現を妨げることになります。既成の支配的なアイデアの影響から逃れることは難しいものです。その方法として ①その場面で支配的と思われるアイデアを極めて慎重に選び出し、明確にして書き留めるという方法 ②支配的なアイデアを認識したうえで、それが最終的にアイデンティティーを失って崩壊するまで徐々に歪めていくという方法が紹介されています。
第4章 水平思考の視覚トレーニング
私たちが直に接している外界を形作っている世界(状況)には、私たちの注意を直接的に引き付けることができるすべての物が含まれています。しかし私たち人間は、いかなる瞬間にも一つの状況の中のほんの一部分にしか注意力を向けることができません。人間というものは、見慣れない状況は常に見慣れた・見覚えのある状況に置き換えてしまいます。
既に適切な説明がなされたものについて、新しい情報に照らして慎重に考え直してみようとする人はほとんどいません。
ここでは、多くの図形を用いて人間の視覚の問題点が指摘されています。
遊びの中で偶然生まれたような図形によって、それまで説明できなかったものを説明できるようになることがあります。遊びの偶然性が別のやり方では思い浮かばないような配列を生み出すのです。
見慣れた図形の組み合わせ方ではなく、見慣れた図形そのものを疑問視しなければならなくなるときがやがてきます。
第5章 言葉の硬直性が、物の見方の硬直性につながる
垂直思考の原則は次の4つに分けて考察できます。
- 支配的なアイデアを認識すること
- さまざまなものの見方を探し求めること
- 垂直思考の強い支配から抜け出すこと
- 偶然の機会を利用すること
ある一つの方法を選んだ時点では、その選択が任意だったことを承知していながら、時間が経つにつれ、任意で選択したことを忘れて、これしか選択肢はなかったと思い込んでしまいます。当初は、最善のものの見方を見つけようとして吟味を重ねて選んだわけではなく、つまり偶然で選んだにすぎないのです。
人間の頭は、自分を取り巻く世界の連続的な移り変わりを別々の単位に分解しています。移り変わりの連続的なプロセスがある都合のいい時点で便宜的に切断されると、原因と結果という見慣れた関係によって切断前と切断後がつながってしまいます。
一定の決まりきった方法で分断された情報には、名前が付けられます。ひとたび名前が付けられると、それは固定し不変のものになります。ある種のレッテルが貼られてしまうのです。名前が付けられ言葉が硬直化すると、物の見方まで硬直してしまいます。
言葉の硬直性を避けるためには言葉を使わない視覚的イメージでものを考えるということが有用です。視覚的思考というのは、線、図、色、グラフなどを用いて、普通の言葉では表現することが極めて難しい関係を説明することです。視覚的イメージには言葉では決して得られない流動性と柔軟性があるのです。
第6章 新しいアイデアを生む最大の障害
垂直思考は新しいアイデアを生み出すのに役に立たないばかりま、それを積極的に妨げます。垂直思考では、既成のアイデアに修正を加えることができても、まったく新しいアイデアを生み出すことはできません。
新しいアイデアを生み出す際に最大の障害となるのは、すべての段階で常に正しくなければならないという考え方です。
垂直思考の弱点は、①結論に至る道を1本でも見つけ出したら他のもっと良い近道を探す必要がなくなるということと ②新しいアイデアを探す際に論理を用いて間違った方向に突き進んでしまうことです。
水平思考では、固定した方向というモノがないので、問題を解決するためなら一旦問題から遠ざかるということも可能になります。
アイデアというモノは初期の段階では、論理的に受け入れがたいような矛盾した形で存在することがあります。垂直思考では、こうしたアイデアは否定されます。しかし、そのアイデアが有益な新しいアイデアに発展する可能性がないということにはなりません。
第7章 偶然を味方につけた発明家たち
ここでは偶然を味方につけて新しいアイデアを生み出した発明家たちが紹介されています。
新しいアイデアを生み出すことにおいて偶然が考えてもみなかったであろうことに目を向けるきっかけを与える働きを持っているとすれば、それを後押しする方法として「遊び」が理想的な方法になります。「遊び」は偶然の働きを引き出そうとする実験でもあります。遊んでいるうちにアイデアが生まれ、そこからまた別のアイデアが生まれます。アイデアは論理の展開通りに生まれてくるものではありません。頭で管理しようとせず、好奇心を失わずに追い求めれば、次々と沸き起こってきます。気になる者は何でも試してみるという姿勢が重要です。脳が行き当たりばったりにあらゆる情報源から情報を受け取れるようにしておくことが理想的です。
第8章 水平思考の活用例
ここでは、水平思考の活用例が挙げられています。
- 「~が不可欠」という考え方から抜け出す
- それまでに得た成果のすべてを捨てる
- 何かを意識的に取り上げて待つ
- 1つの物をただ眺めてアイデアを発展させてみる
- 身の回りのものからヒントを得る
第9章 垂直思考をする人は、他人に利用されやすい
垂直思考は論理的に物事を考える思考方法ですが、垂直思考をする人が頭の中で考えることは予測がつきやすく、他人に利用されやすいのです。また、騙されやすいのも垂直思考の人です。
水平思考が理想とするのは極端に洗練された単純性、すなわち実践的で非常に役に立つと同時に、携帯としては基本的な、アイデアの単純性です。それは豊かな単純性であって、空虚で不毛な単純性ではありません。
本当の水平思考は、より単純でより有効な新しいアイデアを探し求めるためのものであるだけでなく、1つのアイデアからより良いアイデアを生み、そこからまた更に良いアイデアを次々に生み出すための流動性を持つものです。
第10章 水平思考の可能性は無限
水平思考は、他の誰もがしないようなものの見方です。それは問題が起きたときにどのように対処するかに関わります。水平思考は新しいアイデアを生み出すためだけに有効なのではありません。研究開発から経費削減まであらゆる分野で役に立つ思考法です。水平思考の持つ創造性や柔軟性はビジネスだけでなく、あらゆる場面で役に立ちます。