中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

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休日の本棚 ビジネスプランニングのリアル・ノウハウ

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で5253人、そのうち東京649人、神奈川327人、埼玉182人、千葉168人、愛知597人、大阪415人、兵庫162人、京都110人、岡山111人、広島219人、福岡387人、沖縄207人、北海道727人などとなっています。東京、大阪は減少傾向にある一方で、北海道と沖縄は過去最多を更新しています。全国の重症者も1294人と過去最多になりました。IOCのコーツ委員長が「緊急事態宣言下でもオリンピック開催は可能」との見解を示しました。是が非でも開催を強行したいIOCですが、万が一強行して感染者が拡がればIOCは責任を取ってくれるのでしょうか。日本国民の8割が開催に反対し、海外でも多くのメディアは反対の意向を示しています。こうした中オリンピックを強行すれば、海外からの批判は日本に向いてきます。変異株が蔓延し緊急事態宣言の再延長、緊急事態宣言の沖縄追加という中で、アホの一つ覚えのように「安心安全な開催」と連呼する菅、橋本では日本は終わります。埼玉県坂戸市石川市長は「国は(オリンピックを)やる方向だと思うが、もしやったら日本は滅亡するんじゃないかな、と思うくらい危機感を抱いている」と語ったうえで、「政治家は嫌われても、決断するときはするべきだ」と開催中止の考えを述べました。楽天の三木谷氏も「開催は自殺行為だ」と言い、ソフトバンクの孫会長も開催に懸念を表明し、トヨタは「スポンサーとして思い悩んでいる」と、財界においてもオリンピック開催は歓迎されていません。ロサンゼルス・タイムズ紙は「東日本大震災からの復興を祝う『復興大会』と呼ばれた東京五輪だが、皮肉なことに今は東京五輪そのものが放射線になっている」と辛らつに論評しています。分科会の尾身会長は「オリンピックが7月中旬に始まるのに、6月末に決めるのでは遅いのではないか」と直前の判断にならないように釘を刺し、「医療の負荷が実際に大会期間中の負荷がどういうことであるかということは当然評価してやってください、やるやらないも含めてこれは当然の責任だ」と述べています。もはやいつまでも引き延ばす時期ではありません。政治家なら、国のリーダーなら、専門家の意見を聞いて、利権ではなく国民の生命に重きを置いて速やかに決断すべきです。それがリーダーとしての責務です。

さて、今日は冨山和彦著「ビジネスプランニングのリアル・ノウハウ」(PHPビジネス新書)を紹介します。冨山氏は先週紹介した「会社は頭から腐る」の著者です。

この本は、現実経営における実行を前提としたビジネスプランニング(事業計画)のノウハウのエッセンスを教えてくれています。

企業において、多くの場面で事業計画の策定が必要になり、事業計画の策定をコンサルに依頼している企業も多いのです。しかし、本当に役に立つ事業計画が作られているかと言えば、ほとんどの場合(言い過ぎかもしれませんが)、役に立たない事業計画が作られています。また、事業計画を作ったとしても、その事業計画を実際に実行している企業がどれくらいあるでしょうか。事業計画を策定するということはそれを実行してこそ意味があるのです。

この本では、「リアルな事業計画」について次のように言っています。

  1. 事業という無形物をリアリティのある「物語」として有形化する手段である・・事業というのは、ヒト・モノ・カネが有機的に結合しながら営々と継続するゴーイング・コンサーンであり、有形物とは違いはっきりとは目に見えないものです。すべてのステーク・ホルダーにできる限り分かってもらうためには、リアル感のある「物語」として有形化することが、事業計画の基本的かつ本質的な役割です。楠木建氏の「ストーリーとしての競争戦略」に通じます。
  2. リアルな「稼ぐ力」のメカニズムの説明書である・・・事業計画には事業からどのような経済的な稼ぎが生まれるのか、それも長期持続的に生まれるのか、そのメカニズムが言語と数値と数式で表現されていなければならないのです。
  3. 説得のツールである・・・いろいろな状況に合わせて。色々な相手の立場に立って説得的な(頭と心に刺さる)計画を作成することが求められます。
  4. 事業を遂行するための行動計画である・・・事業計画は、色々な立場の人が共通の目的に向かって整合的、継続的に行動するために必要なもので、「今、自分に求められているものは何か」がリアルの想像できるものでなくてはなりません。
  5. PDCAを回すための仮説である・・・事業計画を策定しても、リアルな経営の世界においてその通りに進むことはありません。やみくもに打って出るのではなく、仮説を立てて実行に移すことで、その後の試行錯誤を効率よく行えるようになります。
  6. 自らの人生の計画書の一部である・・・計画者は、この事業計画に自分の人生計画のかなりの部分をかけることになります。事業計画は冷静に客観的に状況を分析し、論理的に考えて組み立てる必要がありますが、最後の最後、計画策定にかかわる人々の切実さ、真摯さ、さらに熱さを共有できるか否かがリアルな事業計画の質を大きく規定することになります。

それでは、リアルな事業計画はどのように策定されるのでしょうか。

まず、よくある残念なパターンの事業計画の例を紹介します。

  1. 想いのアピールはあるが、想いが数字になっていない・・「戦略」や「方針」には多くの資料があるものの、数値部分については「前年比10%増」「前年より10%削減」などと根拠の見えない数値が並んでいるケース
  2. 実行責任者が関与しておらず、無責任な計画になっている・・事業部門を巻き込まず企画部門だけで作成しているため。実行現場の納得感を得られないケース
  3. 作ることだけが恒例事業として定着している・・作ること自体が目的化しているケース

事業計画策定の流れは次のようなステップを踏むことになります。

  1. 目的(何のため・誰のため)を明確にする
  2. 作成すべき資料を明確にする
  3. 納期(作成可能期間)を明確にする。
  4. 収集すべき情報(何を前提にするか)を検討し、入手する
  5. 入手した情報に基づいて前提条件の将来数値を考え、エクセルモデルを作成する
  6. 出来上がったエクセルモデルの違和感を検証し、必要なシミュレーションを行う
  7. エクセルモデルを完成させる(暫定版)
  8. プロジェクトオーナー(社長・部門長・部長など)に報告する
  9. 見直し指示があった場合、4又は5に戻ってモデルを見直し再度報告する
  10. エクセルモデルを最終化する
  11. 実績に基づいてエクセルモデルをアップデートさせる

事業計画は、作ることが目的ではありません。現実にその計画が実行されて計画通りの成果を上げてこそ意味があるのです。

この本では、なぜ計画が実行されないのかについて説明されています。

事業計画は、①会社の基本哲学であるビジョンやミッションやバリュー ②会社全体が今後進んでいく道を記した事業戦略 ③戦略という大方針を具体化するための個別のうち手と推進体制 ④多様な打ち手を時間軸に展開しているアクション ⑤アクション全体と期待効果・目標値を結び付けている将来の数値計画 といった構成要素でできています。

しかし、本当に使える事業計画、社員に広く認知され日ごろの事業活動の羅針盤となっている事業計画は実際にはほとんどなく、形式だけを整え、銀行からの融資が出た段階で役目を終えて机の引き出しの奥に眠らされているだけになっています。作る段階から「腹落ちする計画」「実行される計画」でなければなりません。

そうした「実行できる計画」「腹落ちする計画」というのは、目指すゴールが明確に決められていなければなりません。会社の将来像を描き、その将来像をもとに会社の進むべき道を決めるのは結局のところ経営者でしかできません。骨太の事業計画策定の第一歩はトップからの大方針・ゴールを定義するところからスタートしなければならないのです。「実行されない計画」や「腹落ちしない計画」はこの部分がおろそかになっています。

しかし、ゴールを決めただけでは簡単に結果はでませんし、社員のモチベーションも上がりません。現場は、比較的事業計画というものに関心が薄く懐疑的ですらあります。事業計画の実効性や腹落ち感を高めるためには、目標・ゴールに向けた道筋をきっちり見せ、現場を巻き込みながら積み上げていくしかないのです。

ゴールまでの道筋がしっかりと示されていないと、「なぜ、ゴールに到達できなかったのか」「どこで道を誤ったのか」といった問いに対し、真の原因が分からず、「残念でした」で終わってしまいます。ゴールに向けた歩みの進捗を確認しながらPDCAを回して軌道修正していくしかないのです。

このように、「目指すゴールを決める→ゴールに至る道筋を考える→ゴールに向けた進捗を確認する」といった検討の流れが出来ていないことが「腹落ちする計画」「実行される計画」になっていない原因なのです。

この本に挙げられているいくつかのポイントを挙げておきます。

  1. 「目からウロコ」の新規事業が夢のように浮かび上がることはない。カッコよさを求め時、地道かつ本気で作業する覚悟を決めたうえで、納期期限を設けたりリアリティチェックをチーム一丸となって行うことが必要である。
  2. 簿記の世界から得られるアウトプットを侮るなかれ。財務三表を使って多くの気付きを得るべし。
  3. 「目的・ミッションが中途半端」「的を得ない前提条件」「シミュレーション不能(事前・事後の検証に耐えられない)」は事業計画作成の三大悲劇である。悲劇を引き起こさないように常に意識すべし。
  4. 議論すべきは事業計画を作る・作らないではなく、どのように事業計画を作るかである。「食わず嫌い」を卒業して、まずは作ってみよう。
  5. 計画は「綺麗なロジック」と「計算式」が成り立っているだけでは不十分だ。実際に実行する幹部や社員を巻き込める者、腹落ちするもの、彼らが明日からどういうアクションを取るべきかイメージがつくものでなくてはならない。
  6. 成功する計画と、そうでない計画の分かれ目はどこまで細部にこだわっているかだ。神は細部に宿るというが、その言葉は計画策定にも当てはまる。
  7. 計画実行の際に、一番大事なことは「ぶれないこと」だ。環境、状況の変化等により枝葉を変えていく必要はあるが、計画の幹の部分(コア・ノンコア・リストラの方針等)はぶれてはいけない。
  8. 会社経営と事業計画に関わる関係者は内部の人間だけではない。外部ステークホルダーは、ディスカッションパートナー。彼らの視点や考えを理解することで、効率的なコミュニケーションを図り、自社の味方につけ、うまく成長に取り込むことが求められる。
  9. 事業計画とは、自社の置かれた状況とビジネスの構造を理解するツール。事業計画策定を通じて、自社の戦略上および財務上の打ち手の自由度を見極めるべし。
  10. 成長の速い企業こそ、シミュレーション機能を持った事業計画を活用する意義がある。変わる姿を頭で想像するだけでなく、リアルに見ることが継栄判断力と機動性の向上につながる。
  11. われわれも事業構想の策定に行き詰まることがある。振り返ると、過去からの経緯や組織内部の事情、時間軸や領域の当初想定が邪魔しているケースが多かったのに気づかされる。エンドゲームを見極めることは、そのような思考の束縛から自由になるためにも有効である。
  12. 不確実性がますます高まる環境では、適時適切な軌道修正が求められる。そのためには、「自社の事業活動のどこに不整合が起きており、どの程度の修正を加えるべきか」の俯瞰的視点からのチェックが不可欠。インダストリー特有の勝ちパターンを見極め、「自らを映す鏡」として活用せよ。
  13. 従来までの勝ちパターンが大きく変質している兆候は、絶対に見逃してはならない。自社が、将来、生き残り、勝ち抜いていくためには、どの時間軸で、どこで、どこまでの変化が起きるのか?その問いに解を持っていないといけない。勝ち抜きのしなりをを描いたときに確認してほしいことがある。それは、変革始動のセンターピンは何か、そして、そのセンターピンからスタートする道筋は、エンドゲームでの勝ち組の姿につながっているか、だ。

事業計画の策定は企業戦略にとって重要なものです。しっかりとした事業計画を策定する必要があります。コンサル会社に丸投げしていたのでは無意味な事業計画が出来上がるだけです。仮にコンサル会社に依頼するとしても経営者としてしっかりとその策定に参画し、コンサル会社とともに作り上げるという姿勢が大事です。経営者が事業計画策定に参画する際に本書で語られている事柄は大いに役に立つと思います。 

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