中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

組織の多様性を高める3つのステップ

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けます。

あらゆるところで多様性が求められるようになり、組織においても、外国人を採用したり女性を登用したりと、取り組まれるようになってきました。しかし、多様性を高めようと外国人や女性を採用しても何も変わらないという声を聞きます。それは、多様性の本質を理解せず、女性や外国人を採用することが多様性だと考えているからです。多様性は目的ではありません。これも手段です。世の中が「多様性、多様性」と言うのでとりあえず採用したが、何のために採用したのか、多様性によって解決したい課題が何なのかが明確ではないからです。

この記事では、「どのようにして多様性を高めれば変化を生み出すことができるか」について書かれています。

1.解決したい課題を明確にする

 多様性を高めるために外国人や女性を採用したとして、そもそもなんのために多様性を高める必要があるのでしょうか。このことを考えることなく外国人や女性を採用しても変化が起こるはずはありません。

 日本人の中年男性だけで阿吽の呼吸で行っていた仕事を、日本語が理解できない外国人に説明するのは大変ですし、多くのコミュニケーションミスが起こり、多様化した組織の方が生産性が低下する恐れもはらんでいます。

 一方で、長期的に物事をとらえて自由に将来を構想するという活動においては、多様な意見や多様な考え方が有効に働きます。

 盲目的に社会全体の流れだからと言って多様性を高めるのではなく、解決する課題は何なのかを明確にして、その課題解決のため多様性が役立つのかを考えたうえで多様性を高めることが重要なのです。

2.抽象レベルで多様性をとらえる

 多様性が言われる場合、国籍や性別、年齢といった枠組みで捉えられますが、わかりやすい軸ではあるものの一律にとらえることで間違った方向に行くかも知れません。

 例えば、日本で生まれ育った外国人は日本人と同じ考え方をするかもしれませんし、女性に囲まれて育った男性は女性的な発想をするかもしれません。

むしろ「外国人はこう、女性はこう」といったバイアスにとらわれずに観察し、それぞれの組織に合った軸を選択する方が多様性を高めることができます。

 具体的な個別事象から軸を抽出するには

  1. サンプルの抽出
  2. サンプルからの属性の抽出
  3. そこからの抽象化による軸の選択

という3つのステップを踏むことです。

 この3つのステップを踏む作業を通して、目指す「多様性」という言葉が示す軸が明確になるはずです。

 難しいかもしれませんが、具象と抽象を行き来することによって問題を発見し、その解決方法を見つけることができます。

3.二強対立モデルの設計をする

 組織の多様性を高めるには、二者が対立する構図があってはじめてその少数者も多様性に貢献できるようになります。こうした構図がなければ新しい属性を増やしても、新しい属性は強力な元からの属性に飲み込まれて、その存在すら消えてしまいます。

 例えば多様性を高めるために外国人を採用したとして、日本人の考え方を押し付けていたのでは、外国人を採用した意味がありません。外国人が自由に意見を言えて、その意見が採用されることがあるような構図を創らなければいけないのです。圧倒的に日本人が多い組織の中で自然とそういう構図ができることはありません。意図的に作るしかないのです。

 確かに組織全体で二強対立モデルを作ることは難しいでしょう。しかし、多様性が最も必要なのは川上です。長期的な視点で将来を見据えて多様な意見・考えを取り入れ設計するというのが求められるのは経営陣です。経営陣が多様化できていれば、組織は大きく変化できます。経営陣でなくても研究開発や新規事業開発のようなところでは多様性は必要です。

 全ての階層・部門において多様性を実現することは困難ですが、解決すべき課題を明確にすれば、おのずからどの部門を多様化すべきかが見えてくるはずです。

 ところが多くの企業は多様化する場合、川下の現場から多様化しようとしているように見えます。定型的な仕事がメインで多様な考え方がそれほど必要ないところに多様化という名目で外国人を採用してもミスコミュニケーションが発生し結果的に生産性が低下することになり、更には組織としてのまとまりがなくなったりします。

 まずは川上である経営陣から多様化し抱える課題を解決しつつ、課題に合わせて多様化を川下へと広げていくのがいいのです。

目標設定の極意

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けます。昨日は「ぶっ飛んだ目標」について書きました。今日はそれとの関係で「目標設定の極意」についてのブログを載せておきます。

これまでも何度か「目標設定」について書いてきました。「目標設定」はチームを活性化する上で極めて重要です。経営者やリーダーが目標を設定し、それを明確な言葉で社員やメンバーに伝え、社員やメンバーが腹落ちして共感すれば、企業やチームは活性化します。

職場やチームが沈滞しているというのは、目標設定が不十分だからだと言ってもいいのかも知れません。

多くの企業やチームでは目標が設定されています。それにもかかわらず、職場やチームが停滞しているのは、経営者やリーダーが決めた目標が社員やメンバーに小原落ちしていない、つまり彼らの共感を得ていないからです。社員やメンバーが目標を自らのものと理解し、共感して目標に向かわなければ、その目標設定には意味がありません。

ゴールに向かって走るのは社員やメンバーです。彼らが自走してゴールに向かう、それを手助けするのが経営者やリーダーの役割です。つまりマラソンのペースメーカー・伴走者です。部下やチームメンバーを鼓舞しながらゴールを達成できるように陰で支えることが役割です。

1.淀んだ空気の正体は「目標がない」こと

 淀んだ空気が漂っている職場があります。メンバーの誰もがやる気や覇気がなく、ただ机に向かって与えられた仕事をこなしているだけです。与えられた仕事の目的すら分からず、考えることなく、就業時間が過ぎるのを待つだけでは、活気が生まれるはずはありません。そして、こうした空気は伝染します。

 組織の目的も分からず、目標もなければ、やる気を失うのは当然です。

 目標を設定すれば、向かう先が決まります。目的地が決まれば、その方向に進めるようになりますし、計画を立てて必要な準備をすることもできます。やるべきことも明らかになり、時間やエネルギー、知識やスキルなど自分の持つリソースを、何にどれだけ費やすかを決めることもできます。誰でも具体的な目標があればやる気を持てるようになりますし、目標を達成できたときの達成感も得られます。

2.「良い目標」を作るためのフレームワーク

 まず、目標を立てるためには、「良い目標」を理解しておく必要があります。

 「良い目標」というのは、メンバーで共有・共感して、プロジェクトを製鋼させる可能性が高いものでなければなりません。端的に言えば、「明確である」ことが重要です。以前紹介した「SMARTの法則」です。

 「SMARTの法則」というのは「Specific(具体性)」「Measurable(測定可能性)」「Achievable(達成可能性)」「Relevant(関連性)」「Time-bound(期限)」の頭文字をとったものです。この法則に則って目標設定することで、より実現に近づくことができるとされています。

  • Specific(具体性)・・・目標を達成するためにすべきことを具体的にする。実行すべき内容とその方法、必要なリソースや情報を明らかにして、進捗を確認すべき時期を設定した段階的なアクションプランを明示する。
  • Measurable(測定可能性)・・・目標に置ける成功とは何かを定量的に表わすために、期待される結果の量とレベルを数値で示す。
  • Achievable(達成可能性)・・・目標が達成できないほどに高すぎず、現実的かどうかを見極める。非現実的な目標はフラストレーションがたまりモチベーションの低下を引き起こす。
  • Relevant(関連性)・・・目標は所属する組織のプランに整合させるとともに、自身のエネルギーが湧き起こるような興味・関心を反映させる。

 ここで最も大切なの「Relevant(関連性)」です。目標達成の先にどのようなワクワクがあるのかということです。つまり、永守氏の「やがて自家用ドローンが普及し、ロボットが人口を超える」「これにより精密小型モーターの受注が大幅に増える」という「ぶっ飛んだ目標」です。こうしたぶっ飛んだ目標や夢があれば、その実現に向けて情熱を燃やし、やる気が出てきます。

 しかし、情熱だけでは目標は達成できません。人間は「熱しやすく冷めやすいもの」で、何時までも情熱を燃やし続けることは困難なのです。自分が心から達成したいと思える目標であるとともに、その達成のために戦略を立てることが重要になるのです。

3.目標を実行させるために必要なもの

 どんなに具体的で明確な目標を立てても、本人が心から「達成したい」と思えなければ意味がありません。逆に、だれもが無謀だと思えるような目標でも「絶対に達成してみせる」と思えるなら、それは「良い目標」になります。何度も書いています「ぶっ飛んだ目標」です。

 「ぶっ飛んだ目標」というのは、すぐに手が届くようなものではなく、実現可能性や勘定のブレーキにとらわれない「心底、実現したい目標」のことです。ストーリーがあり、聞く者がワクワクして「面白い、やってやろう」とやる気にさせてくれるものです。「ぶっ飛んだ目標」を立てるコツは、「実現可能か」どうかではなく、「実現したい」かどうかです。やりたいという思いです。いまは、先が見通せず、何が正解か分からない時代です。「実現可能か」どうかは誰にも分かりません。こんな時代だからこそ、「ぶっ飛んだ目標」が必要なように思います。

ぶっ飛んだ目標

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けておきます。

これまで何度も書いている「ぶっ飛んだ目標」についての記事です。

1.「ぶっ飛んだ目標」を明確にする

 これまでも、目標の重要性を指摘し、「ぶっ飛んだ目標」がいかに大切かについて書いてきました。「ぶっ飛んだ目標」というのは、自分だけでなく聞いた人たちもワクワクさせるような目標です。「実現できる目標」と言うよりも「実現したい目標」です。

 心底実現したい「ぶっ飛んだ目標」を明確にすると、その目標に引き込まれ、積極的に行動するようになります。どこからともなく助けてくれる人も現れます。そうして、「ぶっ飛んだ目標」は達成へと向かうのです。

 先ほども書きましたが、「ぶっ飛んだ目標」というのは「実現したい目標」です。突拍子もない目標かもしれません。しかし、何が正解か分からない今、目標についても正解はありません。ぶっ飛んだ目標でいいのです。

 未来は不確かです。しかし、未来の自分を知ることが全く不可能だとはいえません。自分の行きたい未来を知ることが「未来の自分を知る」ことです。「自分はこうなりたい」「こういう人生を送りたい」「こういう人生を送りたい」「こういう人間になりたい」という目標が明確になれば、未来の自分が見えてきます。これは会社についても同じです。「こういう会社を作りたい」「こういう会社にしたい」という目標が明確になれば、会社の未来も見えてきます。

 「行きたい未来」を明確にするためにも「ぶっ飛んだ目標」を立てることが重要なのです。

2.「ぶっ飛んだ目標」が未来を変える

 繰り返しになりますが、「ぶっ飛んだ目標」というのは、心底実現したいと思える目標のことです。会社から与えられる数値目標ではありません。すぐに実現できるような目標では、ワクワクして引き込まれることはありません。

 ぶっ飛んだ目標を明確にするメリットは2つあります。

 1つは、ぶっ飛んだ目標を立てるとその気になり、行動力が上がることです。やる気が上がれば、周囲から反対されても、邪魔が入っても、困難な状況に陥っても、頑張れます。それだけで毎日が充実して、日々見えるものや考え方・感じ方も変ります。

 以前にも紹介しましたが、優れた経営者と言われる人は、永守重信氏、孫正義氏、豊田章男氏など、いつも「ぶっ飛んだ目標」を語っています。

 経営者が「ぶっ飛んだ目標」をワクワクと夢を語る少年のように目を輝かせて語れば、これを聞く社員もワクワクと心躍らせ、引き込まれていきます。

 彼らのようにはいきませんが、リーダーは「ぶっ飛んだ目標」と立てて部下に語り、部下をその目標に引きずり込み踊らせることです。

 もう1つのメリットは、過去よりも未来に勝てるようになることです。人間は過去から多くの影響を受けています。人間というのは、どうしても過去に縛られてしまうのです。過去の成功体験に縛られるのならまでいいのですが、過去の失敗体験に引きずられるようでは最悪です。

 そうすると、過去からの延長線上にある未来がつまらないものになります。過去に縛られていると予定調和の未来しか描けないのです。その結果過去を繰り返すだけ、心底やりたいことを実現することなど不可能になります。

 「ぶっ飛んだ目標」を設定することで、過去の呪縛を断ち切ることができるのです。

 「ぶっ飛んだ目標」を立てると、過去に引きずられるのではなく未来から引っ張られるようになるのです。

確かに、「ぶっ飛んだ目標」を立てることは重要で、優れた効果がありますが、注意しないといけないことがあります。

それは、「ぶっ飛んだ目標」「実現したい目標」というのは、容易に実現できないということです。人間の熱意というのはそう長く続きません。いかにワクワクする「ぶっ飛んだ目標」でも、熱意を持ち続けることが難しいのです。熱意を持ち続けるためには達成感や進捗度が把握できなければなりません。

「ぶっ飛んだ目標」とともに重要になるのは、「ぶっ飛んだ目標」に向けて、それを細分化した中短期目標です。この中短期目標を積み重ねていった未来に「ぶっ飛んだ目標」というゴールが待っているのです。 

イノベーションの本質

おはようございます。

申し訳ありませんが、今日も過去のブログを貼り付けておきます。

ダイヤモンドオンラインの「日本企業を救うシュンペーター理論、イノベーションの本質は『スケール』にある」という記事についてのブログです。

先日、「資本主義の先を予言した史上最高の経済学者 シュンペーター」という本を紹介しましたが、この記事は、その本の著者である名和高司氏にインタビューした内容です。

1.いまなぜ、シュンペーターなのか?

いま、企業経営において、「パーパス(企業の存在意義)」に基軸をおいた「パーパス経営」が注目されています。また、その流れで、マイケル・ポーター教授が提唱した「CSV(経済価値と社会価値、2つの共通価値の創造)」が再び注目を集めています。機構聞きや格差拡大など深刻な課題が山積みする中、社会意識の高い世代が台頭し、経済価値を創造すると同時に、社会課題を解決して社会価値も高めるビジネスとして、このような考え方に基づく経営が共感を得ているのではないかと思えます。社会価値だけでなく、経済価値を創出しないとビジネスは持続可能ではありません。ビジネスは、ゴーイングコンサーンで、連綿と成長・発展しながら続いていかなければならないのです。そこで必要になるのがイノベーションです。そこでいま「イノベーションの父」と称されるシュンペーターに関心が向けられているのです。

2.イノベーションへの誤解

 持続的成長を実現するために、イノベーションが必要だと考え、懸命に努力している経営者やビジネスパーソンはいます。しかし、その多くはイノベーションの本質を誤解し、徒労に終わっています。

 この記事で、名和氏は、日本人にはイノベーションに対する5つの誤謬があると言っています。

  1. イノベーションを外発的なものとしていること・・・イノベーションは内発的なもの。企業が自ら変革していくことで、外部経済を変えられるのです。つまり、イノベーションは自分たちで作り出す者出会って、外部の環境変化に影響されるものではありません。
  2. シュンペーターの説く「新結合」を新しいもの同士の結合と捉えている・・・シュンペーターの「新結合」は、新しいものの結合ではなく異なるもの同士の新しい結合です。異なるものは既存のものでもかまいません。イノベーションはmake(新規)でもRemake(模倣)でもなくRemix(編集)によって起きるのです。
  3. 技術革新と思い込んでいる・・・イノベーションは、「技術革新」ではなく「市場革新」です。技術革新はそのための道具の1つかも知れませんが、必要条件ではありません。新しい技術をいくら生んでも、それが社会実装し、スケールして市場を革新できない限り意味はありません。
  4. イノベーションを起こす方法として「両利きの経営」を盲信していること・・・イノベーションは「創造的破壊」です。既存の構造を「破壊」し、そこに埋められている資産を取り出して、新しく「組み替える」ことによって創造が生まれます。知の深化と知の探索を別々に行う「両利きの経営」がイノベーションを起こすというのは誤解です。いまあるものをそのまま深掘りし、ないものを外に探索する「両利きの経営」では、何も破壊して折らず、新陳代謝は起きないのです。
  5. 無から有を生み出す「0→1」だけをイノベーションと考えている・・・イノベーションは「1→10」「10→100」にすることです。0から1を生み出しても、1のままではゴミと同じです。1を10,更に100にして新しい市場を創造しなければ何の意味もありません。シュンペーターは「アイデアだけではゴミである」と言っています。

3.イノベーションに必要なこと

 日本は、欧米や中国に比べマネタイズとスケールが苦手です。

 「1→10」は「マネタイズ(社会実装)」を表わします。これは顧客がお金を払って事業を回るようにすることで、言い換えれば「市場を作る」ということです。日本企業は「モノを作る」ことばかり考えて、「市場を作る」という認識が低いと言えます。品質のいい良いものを作っても売れなければ意味がありません。モノを作る前に、どうやって市場を作るのか、ターゲットとニーズをはっきりと捉まえて売れるモノを作らなければならないのです。

 「10→100」は「スケール(市場拡大)」を表わします。日本の中で小さな市場を作ってもイノベーションとは言えません。世の中を変えることがイノベーションなので、世界に市場を拡大しなければいけません。優れた商品やサービスであれば、周囲がそれを真似して「群生(エコシステム)」が生まれ、それによって市場が拡大されM「標準化(コモディティー化)起こります。

 真似されることを恐れてはいけません。その中で市場のデファクトスタンダードを握ることが重要です。iPhoneも真似されて類似品だらけの巨大市場の中でデファクトスタンダードを勝ち取っています。誰にも真似されないニッチなものを作ってもイノベーションではないのです。

4.イノベーションと両利きの経営

 先ほども書きましたが、「両利きの経営」では創造的破壊を伴わないため、新陳代謝は起こりません。このことは、「両利きの経営」が間違っているということではありません。「両利きの経営」も正しく行なえばうまくいきます。

 今言われている「両利きの経営」では、「知の深化」は自分の強みをそのまま深掘りすればよく、「知の探索」は新しいものを外から持ってくれば良いと安直に考えているところに問題があります。

 「自分の強み」と「新しいもの」を右手と左手で別々に動かそうとするところに問題があるのです。「自分の強み」と「新しいもの」とをうまく組み合わせなければイノベーションには結びつかないのです。自分の強みを新しいものに応用するということです。

 名和氏は、「いまの強みをまっすぐ深掘りしても市場がないのであれば、安直に新しいものを探してくっつけるのではなく、強みをずらしながらほることで自社ならではの新しい市場を作る」と言っています。

 日本には、こうした「ずらし」によってイノベーションを起こす経営モデルがいくつかあります。

  • 松下電工の丹羽正治氏が実践した「掘り抜き井戸」・・・井戸を掘って地下水脈まで到達すれば水は出続けるように、技術も深く掘り下げることで事業はより続いていく。ただ技術を深化するのではなく、掘り抜くことで他の水脈へと展開できる。
  • 日本電産永守重信氏の「井戸掘り経営」・・・大抵のところは掘れば水が出るが、溜まった井戸水をくみ上げることができなければ新しい水は湧き出てこない。掘って水が出たら終わりではなく、くみ上げ続ける。経営の改革のためのアイデアもくみ上げ続けることが大切。強みをくみ続けることで新しい強みが湧き出てくる。
  • 日東電工の「三新活動」・・・既存の製品から「新製品開発」と「新用途開拓」の2つの方向に同時に取り組み、この2つの組み合わせから、「新需要創造」をする。自分の強みを徹底的に活かしながらイノベーションを起こすモデル。

休日の本棚 「戦う組織」の作り方

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けます。

今日は、渡邊美樹著「『戦う組織』の作り方」(PHPビジネス新書)を紹介します。渡邊美樹氏と言えば、言わずと知れたワタミの創業者です。

この本は、渡邊氏の経験を基に、厳しくも公正なリーダーになるための「覚悟」と「具体的方法」が語られています。

「褒めて伸ばす」ということが言われ、「叱れない上司」が増えています。最近の若者は打たれ弱く、叱るとすぐに辞めてしまうので、なるべく優しく接しなければならないなどと「厳しく躾ける」ことが嫌われる風潮にあります。それは会社だけでなく、学校や家庭、社会全体がそのような風潮にあるように思えます。

ベネディクトが「菊と刀」で述べたように、日本は「恥の文化」で欧米の「罪の文化」と対比されます。日本の「恥の文化」は他者の内的感情や思惑と自己の対面を重視する行動様式で、恥ずかしいか恥ずかしくないかで判断される価値観を持っています。親が子供を叱るときに「恥ずかしいからやめなさい」と注意するのはこうした「恥の文化」の影響です。「恥」という対面によって良いことと悪いことが区別されるのです。これに対しキリスト教の影響を受ける欧米は内面的な罪の意識を重視する行動様式で、「正と邪」で判断される価値観を持っています。日本では、江戸時代に、恥の文化に儒教朱子学)的な思想が加わり、日本独自の文化を生み出したのですが、戦後になると儒教的な思想の部分が薄れ、恥の文化が際立ってきています。良きにつけ悪しきにつけ日本では厳格なキリスト教的な価値基準が存在しないので正しいことと正しくないことの境界線があいまいとなっています。「正と邪」についての明確な価値基準が存在しないので、邪悪なことに対して厳しく叱るということができないのです。なあなあで済ます(相手と適当に折り合いをつけいい加減に済ませる)風潮が顕著に残っています。

話を戻します。ワタミという会社は、「実力主義の厳しい会社」です。

渡邊氏は、「『厳しい』『優しい』という区別自体、あまり意味がない」と言っています。その人に愛情を持ち、本当に育ってほしいと願っているのなら、ここは厳しく言っておくべきだ、などといった判断が自然と生まれます。ここは優しく接しておいた方がいいという場面もあります。必要な時に必要な接し方をすればいいということです。

渡邊氏は「『叱れない上司』が増えるのは、相手(部下)のことを考えず、自分のことばかりを考えているからではないか。自分が嫌われたくないから叱ることができない」と言います。この見せかけのやさしさは自分を愛するがための狡さであり、相手のことなど何も思っていない薄情さだというのです。

また、ワタミ実力主義は、企業の目的「一人でも多くのお客様に幸せな飲食の機会を提供したい」「高齢者の方に幸せな老後を提供したい」という目的に向かって誰がどの仕事をしたら一番いいかを冷静に考え、役割分担することで、「適材適所」に人員を配置することであり、社員の扱いに差別を設けることではないのです。渡邊氏は「社長も店長も対等で、役割が違うだけ」と言い、最近の給与体系では真ん中よりも下の人の給料を厚くすることで、上下の格差が少なくなっています。

本書の構成は、

第1章 100年続く「強い組織」を作るために

第2章 成長を続ける「戦う組織」の作り方

第3章 組織を引っ張る「戦うリーダー」の条件

第4章 「戦う部下」を育てるリーダー力の磨き方

  • リーダーの資格とは 「俺が育ててやる」というのは大きな自惚れ
  • リーダーに求められる仕事とは? 部下の不出来をなじるのは上司の怠慢にすぎない  
  • 「叱れない」「嫌われたくない」では上司失格 リーダーの褒め方&叱り方
  • 厳しくも公正な部下評価 ○✕をつけるのではなく人を育てる機会として
  • リーダーが身につけておくべき「力」とは? 苦い経験を重ねるからこそ、成長がある
  • 仕事をする上での「幸せ」とは何かを考える 悩み多き時代に「夢」を持つことの重要性

エピローグ ワタミを支えるのは「人」である

となっています。

この中からいくつかのポイントを紹介します。

  • 100年続く「強い組織」を作るためには、⑴未来を見据えた新しい事業を生み出すこと ⑵企業にとって最も重要な「企業理念」を、決して忘れることの内容、すべての社員に徹底させていくこと の3つが必要。
  • お客様の声に耳を傾け、お客様の変化に対応すること、すなわち現場がすべてだ。経営と現場が乖離したら未来はない。
  • もし理念を失ったら、お客様の心もすぐに離れる。しかし理念の継承は、実はとても難しい。立派な理念を掲げてスタートした企業が創業後20年、50年、100年と経つうちに当初の志を忘れ、お客様の信用を失う不祥事を起こしてしまう例は枚挙にいとまがない。頻繁に社員に理念を訴えかけるしかない。理念を訴えかけるとその時は社員のモチベーションは高くなる。しかし日常業務に追われるうちにやがて理念は忘れがちになる。そこでまた理念を訴えかけモチベーションを上げる。また理念を忘れがちになる。その繰り返しである。定着は難しい。思いを相手に伝え続けていくしかない。
  • 社会に対するアンテナを立て「自分たちだからこそできること」や「自分たちだからやるべきこと」を必死になって考え続けるしかない
  • 組織は人を食いながら成長していく。組織はその成長過程に合わせて、必要とする人材をどんどん変えていく。また同じ人間に対しても、要求する水準をどんどん変化させていく。今必要な人間が5年後、10年後にも必要であるかどうかは誰にもわからない。
  • 「戦う組織」とは、厳しい集団でなければならないが、人の可能性を見切る冷たい集団であってはいけない。活きるかもしれない人材を見殺しにしてはいけない。チャンスは常に与え続ける必要がある。
  • 必要な場面で、必要な人材を登用するためには、まずは会社のあるべき姿と現状とのギャップを正確にとらえることが重要になる。「今どんな人材が社内に不足しているのか」をできる限り具体的にイメージする。そして、その求められる人材は、社内で育成することが可能なのか、中途で採用する必要があるのかを客観的に判断する。その上で中途社員を採用するとなった場合は、理念を共有できる人物かどうかを重視して、その採否を判断する。
  • いわば軌道に乗った事業の経営というのは「戦後統治」なのだ。トップは常に戦場の最前線、120%の力を発揮しなくては勝てない場所で戦わなければならない。それは非常に厳しいことだが、それこそが自分の存在対効果を最大限に高めることになる。そうでなければ強い組織、戦う組織など作ることはできない。
  • 硬直化した組織において、メンバーの意識を変えようと思うなら、覚悟を迫るしかない。土壇場まで追い込まれないと、人は変われないものだからだ。
  • 「戦う組織」を作れるかどうかは、リーダーで99%決まると言っても過言ではない。リーダーが先頭に立って戦う組織は部下も戦うし、リーダーが逃げてばかりの組織は部下も逃げてばかりになる。戦うリーダー育成のポイントは、「追い込むこと」である。追い込まれたときに逃げてしまうようだとリーダー失格だ。逃げずに立ち向かえる人間は、それだけでリーダーになる資質を備えている。自分のキャパシティを超える課題に立ち向かううちに、100しかなかった力が120になっていく。すると今度は140の課題に直面する。それをクリアすることで、140の力をつけていく。そうやってリーダーは成長していく。
  • リーダーになれる人間のもう一つの条件は「変わらないこと」だ。どんな時でも平常心で、ブレない判断ができる人が、組織を引っ張るだけの器を持っている人間である。心の奥底に熱さを持ちながらも、感情の浮き沈みが少ない。それがリーダーの条件であり、一流の条件でもある。
  • 120%ということは、自分のキャパシティを超えているわけだから、当然判断を誤ることもある。それでいい。もちろんお客様に迷惑をかけたり、経営が傾いたりするような決定的な失敗は避けなくてはならないが、それ以外の小さな失敗はどんどんすればいい。失敗を回避することよりも、逃げずに戦い続けることの方がリーダーの成長には大切だ。組織の将来を安心して任せられるリーダーを育てるためには、ときには敢えて突き放すことも必要だ。
  • リーダーに求められるのは、部下を育てながらチーム力を高めていくことだ。しかし、人は勝手に育つもの。伸びる人間は自分で考え、挑戦して失敗し、また挑戦して壁を乗り越えながら、自分で成長していくものだ。上司が『俺がいつを育ててやった』というのは大きな自惚れだ。リーダ-ができるのは環境を整えてきっかけを提供することだけだ。部下に対する愛情がないリーダーの下では部下は育たない。夢やビジョンを示せないリーダーの下では、部下も夢やビジョンを持てない。夢やビジョンがなければ、仕事に対する意欲を保てず、成長も止まってしまう。
  • 組織は愛情を注げる同じ志を持った仲間で支えられている。逆に言えば、社員の志を一つに纏め上げるビジョンやミッションが示されていない会社や部署は、社員がてんでんバラバラの意見や考え方で動くことになる。問われるのは、「リーダーがしっかりと夢や志を持っているか」どうかだ。そして「チームとしてどんな仕事を成し遂げたいのか、その思いをきちんと部下に伝えられているか」どうかだ。
  • 物事を深く考えないといけない場面では、「思考の3原則」を大切にしている。①目先に囚われないで、できるだけ長い目で見ること ②物事の一面に囚われないで、できるだけ多面的に、でき得れば全面的に見ること ③物事によらず枝葉末節に囚われず、根本的に考えること の3つだ。
  • 育つ環境を整えるうえでまず最初にやるべきことは、ビジネスや会社のルールをしっかりと教えること。スポーツと同じで、基本的な規則やマナーを知らない人間は仕事に参加する資格がない。仕事に参加できなければ、そもそも成長する機会自体が得られないから、有無を言わさず習得させなければならない。
  • 仕事で求められる本当の力、特に役員や経営者を目指すべき人が身につけるべき力は、「今、世の中で何が起きているのか、アンテナを立てて鋭くキャッチすること」や「状況を的確に把握し、自分や組織が進むべき道を判断できる」といった状況把握力と判断力である。これは上司が部下に教えたり育てたりすることができない力である。部下自身が試行錯誤を重ねながら身につけていくしかない。
  • リーダーに求められるのは、部下の資質や能力をシビアに見極めることだ。リーダ-は自らの努力で壁を乗り越えた人間を正当に評価する姿勢を持つことが大切だ。また、まだ壁を乗り越えられていないが、乗り越えようと努力している人間にチャンスを与え続けられることも大切だ。組織として成長を標榜するなら、部下が持っている能力や、今後伸びていく可能性をシビアに判断しながら、人事を遂行しなくてはいけない。
  • 人を見るときの判断基準はすでに自分の中に身につけている。しかし欲や焦りがあるとその判断基準がブレてしまう。リーダーとして透徹した目を獲得するには、いかに欲や焦りから離れられるかが条件になる。また、部下の資質や能力を、多面的に評価する視点を持つことも大切である。上に立つ人間に必要なのは、その人の適所がどこか、とことん考え抜くことだ。そのためにも日ごろから愛情と関心を持って部下のことを見守っていないといけない。適材適所の配置ができたとき、部下は一気に飛躍する。
  • 「揉める」「叱る」は上司と部下のコミュニケーションに欠かせないものである。100人いれば100通りの性格や資質、考え方がある。どんな場面でも、誰に対しても絶対的な効果を発揮する褒め言葉や叱り方など存在しない。同じ言葉でも、それが生きたものになるか死んだものになるかは、場面や相手によって変わる。一番大切なのは、部下と真剣に向き合い、相手の心に届く言葉を自分で見つけて発することである。
  • 褒めたり叱ったりというのは「機」を捉えることだ。部下を褒めたり叱ったりするときには、まず叱られることに耐えたり、褒められることで慢心したりしない気力や根性が、相手にあるかを見極めなければならない。部下の心の細かな働きにも意識を向けなければならない。叱る相手のことを事前に知ったうえで叱るのが基本だ。相手のことを理解していないのにしかりつけるのは、絶対にやってはいけない。
  • 人間同士だから、時には意思の疎通がうまくいかないこともある。ボタンの掛け違いが起きていることに気づいたら、すぐに誤解を解くために動かなくてはいけない。叱り方の失敗したら、その失敗を素直に認めることもリーダーには大切なことだ。部下が間違った方向に進んでいる時には、叱ることで正しい方向性を示す。部下が成長を遂げたときには、褒めてあげることで自信を持たせる。これができれば部下は迷うことなく伸びるべき方向に延びていく。叱ることとほめることは、上司が絶対に避けてはならない責務である。
  • リーダーには部下を評価するという役割がある。しかしそれは感情や損得で評価していいということではなく、理念と目標に沿って行われるべきものだ。そして同じ原則は、リーダー自身にも課せられるものである。こうした公正さが保たれたとき、リーダーが下す評価は周囲にとっても、そして評価された本人にとっても、必ず納得のいくものになる。評価とはその人の能力に〇✕をつけることではない。もっとも能力を発揮する役割は何かを判断するために行うものだ。評価はリーダーの役割であり、部下に適材適所で働いてもらうために必要なものである。
  • 部下への評価は公平でシビアなものでなくてはならない。しかしそれは、低い評価を下した部下を見放すことではない。何度でもチャンスを与えながら、部下の成長をじっと待つ。時には優しく寄り添う。リーダ-は部下に対してそこまで責任を持つ必要がある。
  • 「腹をくくれること」もリーダーにとって非常に重要な資質の一つである。腹をくくれないリーダーが多い。物事を判断するときは自分で決める。自分の責任として背負い込まなくてはいけないことは、自分で判断すべきだ。その際、じっくりと時間をかけ、様々な観点から問題を根本的に分析したうえで、結論を出す。
  • 会社が従業員を雇うということは、従業員やその家族の生活を預かり、命を預かるということである。会社とは理念集団であり、理念を持った人の集まりである。人は経営資源ではない。人は会社そのものである。会社と従業員は同体である。カネ。モノ、情報のように、売上や利益を獲得する手段として、買ったり売ったり、捨てたり拾ったりするものではない。会社が苦しい時でも、できる限り従業員の雇用は守らなければならない。

この本は、組織の作り方から人材の育成、リーダーのあり方について参考になるように思います。リーダーに求められるのは覚悟です。いかに覚悟のないリーダーが多いことかと嘆かわしく思います。

休日の本棚 データドリブン経営

おはようございます。

今日も過去に紹介した本(論文)のブログを貼り付けます。

ハーバード・ビジネスレビュー2019年6月号に掲載された「データドリブン経営」を紹介します。

グーグル、アマゾン、フェイスブック(メタに改名)、アップルのいわゆるGAFAなどのテクノロジー企業が、名門企業や大企業を淘汰する事態が起きています。そうした中、企業が生き残るための必須条件は何か? それは「データドリブン経営」であるとここでは指摘されています。

1.データドリブンとは?

 データドリブンとは、経験や勘ではなく、様々な種類と膨大な量の情報を蓄積するビッグデータアルゴリズムによって処理された分析結果をもとに、ビジネスの意思決定や課題解決などを行う次世代型の業務プロセスです。

 データドリブン経営について、「これまでにない大きなインパクトを創出するための全社変革であり、デジタル技術や人工知能(AI)などの技術を活用し、ビジネスのあらゆる局面においてデータ主導での意思決定をする経営」と定義されています。

 現在、デジタル技術やAIの指数関数的発展によって、ビジネス、産業、経済、働き方、更には日常生活まで大きく変わってきています。世界の先進的な経営者、企業は、その重要性とインパクトの大きさにいち早く気づき、データドリブン経営に舵を切り、全社改革を急ピッチで進めています。

 一方、日本では、データドリブン経営を実現できている企業はほとんどありません。データ主導の意思決定は広がりを見せているものの、その本質が全従業員の働き方や意思決定の方法を変えるという「全社改革である」と認識している経営者はまだまだ少ないのです。

 データドリブンな組織に変革できれば、全従業員自らがデータを活用し、競争で先手を打てるようになりますし、大きな果実を継続的に手に入れることができるようになるのです。

 ここでは「『座して死を待つ』か『自身が変革の覇者になる』か、企業の命運は経営者の双肩にかかっている」と言っています。

 私自身、日本型の経営の良さを否定するつもりはありませんし、データがすべてだとも思っていません。データーに基づきつつも長年の経験や勘も加味しつつ意思決定していくことが重要ではないかと考えます。

2.データドリブンの注目が高まっている理由

 IT技術の向上により、様々な情報が行き交うようになりスピード感のある世の中に変わってきています。膨大な情報の氾濫、錯綜はビジネスの顧客ターゲットに様々な選択肢を与え、複雑な社会を構築しています。これまでの経験や勘を頼りにしていた従来のプロセスでは対処しきれなくなり、ビックデータで複雑化された状況を的確に分析し、意思決定に必要な判断材料や分析結果を提示してくれるデータドリブンが必要になってきているのです。

  • 顧客行動の複雑化・・・ネット検索で得た情報を精査したうえで捕るべき行動を選択する顧客が増えている
  • 現場業務の複雑さ・・・企業としても多様化する顧客ニーズに対応するため、様様なラインナップをそろえなければならない
  • 問題・課題の早期解決の必要性・・・変化が激しい社会ではより早く精度の高い業務プロセスの実践が必要不可欠である

3.データドリブンの4つの柱

 データドリブンは、大きく分けると次の4つの柱で成り立っています。

  1. データの収集・・・ビジネスの意思決定に必要なデータをクラウド上のデータサーバーにビックデータとして蓄積する。データは、各部門の業務システム、Webサーバー、IoT、外部サービスなどから取得する。
  2. データの分析・・・ビックデータに蓄積した定量的なデータの時間的変化と他のデータとの関連性などをアルゴリズムにて計算する。ランキング、最大値、最小値といった定量的なデータ、視覚的に理解できるグラフや図といった定性的なデータを分析結果として導き出す。
  3. データの可視化・・・ビジュアル・可視化を駆使し、一目瞭然な分析結果をつくる。数値、グラフ、図をバランスよくシンプルに再加工、構成することで、分析結果の価値が高まり、企業の意思決定で合意を得るエビデンスになりうる。
  4. 意思決定・アクション・・・データ分析結果をもとに具体的な施策や対策、結論などを決定する。データドリブンでは行動対象の現状・実情もデータとして加味され、解決・改善に向けて前に行動を進める。

4.組織を変革する際に立ちふさがる4つの壁

 データドリブン経営を目指す場合、日本企業特有の大きな壁があると言われています。

  1. データの壁:成功の定義とデータの特定・・・データが爆発的に増加しており、データの質が向上し、より網羅的になっている。多くの企業で「データ活用による費用対効果が分からない」「データ活用してもデータ定義・形式がそろっておらず部門をまたいだ分析に使えない」「データが紙などで保存され、データのクレンジング(整理・加工)が必要」「分析するのも外注せざるを得ず、費用がかかり、分析結果が出るまでのリードタイムが長い」といった課題がある。これらの課題の克服には優先順位を付けること、「成功の姿」を定義し、「どのように成功を測定・評価するのか」が重要になる。
  2. リリースの壁:脱アウトソース・・・開発会社(ベンダー)にアウトソーシングし続け、自社にノウハウが蓄積されないというのが大きな課題である。ベンダーの活用は初期段階には有効だが、①アウトソースのベンダーでは社内の調整ができない ②基本的にユーザーの指示通りに動くため、改善の提案やサポートに動こうとしない ③ケイパビリティが社内に残らない。自社の主導権を取り戻すことが重要である。ベンダーの選択が重要である。
  3. 組織の壁:機能横断的なデザインを・・・AIを構築する技術側と活用する側の事業部側が殻に閉じこもって、連携しないことにある。10年、20年先を見据えて、各部門の様々な活動を洗い出して整理することが重要である。前者のデジタルプロジェクトを「見える化」して管理する仕組みを構築し、機能横断的にデザインする。
  4. マインドの壁:アカデミーと組んだ人材育成・・・多くの企業では、データサイエンティストとデータエンジニアなどの人材と機械学習や深層学習などのAI技術ばかりに目が向いている。本当に組織にインパクトを生むためには、組織内の現場から幹部まで、非技術系の認識を変え、行動を変えなければならない。意識変革の実現には、トップから現場の人材に至るまで継続的な教育が重要である。

5.全社改革を実現するための4つのステップ

  1. 明確なビジョンを打ち立てる・・・経営トップが明確なビジョンを立て組織改革を引っ張ることが不可欠である。変革には「ストーリー」が必要であり、従業員全員の力を結束すべく、明確で誰もが賛同できるビジョンを作る必要がある。
  2. ロードマップを描き、大きく舵を取る・・・データドリブン経営に舵を切ると、総額いくらの効果があるかを明確にすることである。最も大切なのは、全社の事業・機能すべてを対象とすることである。部門横断的なチームだけで検討することに加え、各チームにやりたいことを提案させ、経営会議で検討する。経営会議で合意を得ることで、巨船の舵は切られたことになる。
  3. 最初のパイロットを絶対に成功させる・・・従業員の注目を浴びる1つ目のパイロットプロジェクトは失敗できない。パイロットプロジェクトのメンバーは社内でも精鋭メンバーを集めフルタイムでコミットさせる。パイロットプロジェクトで成功したら、それを一気に全社に展開する。
  4. 従業員に投資して全社に拡大する・・・データドリブン経営の価値を全社に展開するには、これまでの組織をぶち壊し、顧客中心に変革目標を立て、その達成のために多くのエネルギーを割く必要がある、組織の再設計、コミュニケーション、従業員トレーニング、従業員の採用などに変革予算の田尾範を費やす。外部ベンダーではなく自社の従業員に対して大きな投資を為すべきである。

データドリブン経営に舵を切るということは、会社が市場の変化に速やかに対応し、想像すらできない新しい技術に素早く順応すると同時に、全く新しいビジネスモデルを構築できる最強の組織に生まれ変わることができるということです。

 今、データドリブン経営に舵を切る意味はここにあるのです。

DXを推進するための経営者の役割

おはようございます。

今日も過去もブログを貼り付けます。

このところDXやデジタル化が求められ一種ブームのような感はありますが、DXの本質は「デジタルが高度に浸透する社会に適合した企業に丸ごと生まれ変わらせる」ことで、DXを円滑に推進するためには、組織や制度の改革に加えて、組織カルチャーや全従業員の意識変革が必要になります。そして、そのためには経営者のメッセージや行動が重要な役割をはたします。

DXはIT業界やネット企業だけの話ではなく、あらゆる業界にも影響を与えます。自社には無関係と傍観することもできません。DXを今すぐ取り入れるかどうかは別として、先ずは経営者が、今起こっていること、これから起ころうとしていることに正面から向き合い、DXの本質的な意味を理解しなければなりません。先ほども書きましたが、DXを推進するには組織カルチャーや全従業員の意識改革が必要です。そのためには経営者自身が率先して意識を変え行動変革を行わなければなりません。

DXに求められる経営者の行動様式を5つに分けて説明します。

1.トップの思いを込めた宣言と行動を起こす。

 DXによって、企業がどこに向かうのかを示さ子ければなりません。そのためには、ビジョンが必要で、「5年後10年後に自分たちがどういうことを実現したいのか」ということを明確な簡潔な言葉で示すことが必要です。しかし、経営者はビジョンを言葉で宣言しただけではいけません。自ら動く、試す、使うという行動を起こすことが必要です。

2.異質なものを受け入れる器量を持つ。

 デジタル時代の企業には、既存事業の強みを維持・強化しつつも、新規の価値を創造する「両利きの経営」が必要です。既存事業にとっては新規事業は異質で相容れない組織特性を必要とします。経営者自らが殻を打ち破り、新規の価値を探求し、異質な差犬を最大限活用することが必要です。経営者には同質性を抑制し、異質性、つまり異質な考え方や見方を積極的に取り入れる姿勢が求められます。

3.自前主義や脱自前主義のメリハリをつける。

 これまでの企業では、自社で生産設備や販売網を持つなど、自前で強みを構築してきました。しかし、デジタルビジネスの世界では、自社だけでやるのではなく協調戦略やプラットフォーム戦略をとります。企業やビジネスシステムが互いにつながることでより大きな価値を生み出すのです。

 経営者は、捨てるべきものと残すものとを明確に示すことが求められ、そのために自社のコアとなる領域をゼロベースで見つめなおすことが必要です。これまで強みであった能力が、本当に本質的なコアなのかを問い直すことが重要です。こうした判断は現場スタッフや中間管理職が下せるものではありません。経営者自身が判断すべき事柄です。

4.挑戦者の後ろ盾となり、後押しする。

 DXの推進は、従来の業務改革やシステム導入とは異なり、組織、制度、権限、人材、文化・風土など企業の根幹にかかわる変革が不可欠です。

 特に、新規事業の立ち上げには、経営者の役割は重要で、既存事業と新規事業の2つの組織の間のバランスを考慮し両方の橋渡し役が重要になります。新規事業が既存企業の抵抗にあって潰されないように、経営者の後ろ盾が必要です。経営者は旗を振るだけでなく、自ら変革が進む環境を整えるための行動を起こすことが求められます。

5.組織の自律性を高め、権限を移譲する。

 DXの推進には、組織、制度、権限、人材、文化・風土の変革が必要ですが、そのためには、経営者がこれまで正しいと思って実践してきたマネジメントやリーダーシップのあり方を大きく変えなければなりません。

 従来のピラミット型組織では、上位層が戦略を考え、指揮命令に忠実に従う社員に実行させることを目指し、それを支えるための仕組み、つまり、階層組織・稟議承認ルール、業務評価、社内規定や業務慣行などをうまく回していくのが経営者の仕事でした。それに対し、フラットでオープンな組織では、経営者を含め全員が自分のなすべきことを自分で決め熱意をもって取り組み最大の成果を上げることが重要になります。経営者の仕事は、内発的な動機付けを湧き立たせる環境を整えることにつきます。

DXの導入自体は簡単ですが、それが有効に機能するためには組織・制度の変革だけでなく、全社員の意識改革が必要であり、まずは経営者自身の意識変革・行動変革が重要になります。単なる流行りで導入すべきことではありません。以前から何度も言っていますが、DXやデジタル化は目的ではなく手段です。経営者自身が明確な目的、ビジョンをもってそれを実現するためにどうしてもDXが必要だという意識を持つことが重要なのです。そういう強い決意がなければ今は導入すべき時期ではありません。

仕事の成果を左右する雑談力

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けておきます。

昨日は「質問力」について取り上げました。その際、「雑談力は質問力」と書きましたし、以前にも「雑談力は質問力」という表題で書いたこともあります。

雑談と言えば、天気や趣味の話をするものと思われがちですが、「何を話そうか」を考えるよりも「何を問い、何を聞くか」に主眼を置いた方が会話はスムーズに流れます。誰でも興味のないつまらない話を延々と聞かされるよりも、自分が主役になって話を聞いてもらう方が気分的にも良いものです。だから雑談力は質問力なのです。

昨日書いたように、質問力を高めるには、5W1Hの質問を繰り返していけばよいのです。自分が無理やり話そうとしなくても自然と会話は弾みます。その際、質問の回答を聞いてそれを掘り下げて更に深堀して聞くことが重要です。

1.雑談力を向上させれば、周囲に差を付けられる

 雑談は難しいものですが、雑談力は仕事に直結します。単なる雑談と侮れないものです。雑談と言われますが、雑に行っていいものではありません。

 「雑談とは、微妙な関係性の人と適当に話をしながら何となく仲良くなるという繊細で難しい会話の形式」なのです。

 企業に勤めるすべてのビジネスパーソンは、社内外で多くの人と関わり合いながら仕事をしています。ビジネスにおいて最も大切なことは、これらの人たちとより良い人間関係・信頼関係を築き上げることです。より良い人間関係の構築こそ仕事の成果を左右するものといってもいいでしょう。このより良い人間関係の構築に雑談が大いなる力を発揮します。

雑談力のメリットとして次のものが挙げられています。

  • 人づきあいが楽になり、疲れにくくなる
  • 気楽に話が続けられ、スムーズに仲良くなれる
  • 上司や取引先から気に入られ、信頼される
  • チャンスを生み、成果を上げられる

このように、雑談力の効能は仕事に直結するものばかりです。いまだに「雑談は単なる雑談にしかすぎない」と一般に雑談力は軽視されていますので、雑談力を向上させるだけで周囲に差をつけることができます。

2.褒めて、教わって、お礼を言う「HOO」

 「褒めて、教わって、お礼を言う」の頭文字をとった「HOO」という方法が紹介されています。例えば、「今日のネクタイ、とても素敵ですね」と褒め、「いつもどこで買われているのですか」と教わり、「ありがとうございます」とお礼を言う、といった流れです。聞かれたことに腹を立てる人は余程のへそ曲がりでない限りません。みな聞かれれば喜んで教えてくれます。教えてもらってお礼を言って、これで気分を害する人もいません。

 雑談のポイントは話の内容にあるわけではないのです。どんなことでもいいのです。ちょっとした会話を交わしたという事実が、2人の間にある「心理的距離」を縮めてくれるのです。

3.コロナ禍で遠ざかる「心理的距離」

 コロナ以前では、休憩時間や飲み会などでの雑談によって上司や先輩、同僚、部下らとの心理的距離を縮めるチャンスは色々ありました。ところが、コロナ禍でテレワークが導入され、在宅勤務が主流になると、その日の天気やランチのこと、近況報告といった雑談をする機会がほとんどなくなってしまいました。出社して雑談をする機会が減った分、チームメンバー同士の心理的距離がどんどん遠ざかり、それに比例してチーム力が低下してきています。

 こうした状況を危惧して、パナソニックのようにオンライン会議の前に時間を割いて雑談に充てるという取り組みを行っている企業もあります。また、オンラインでメンバー同士が雑談をかわしながらランチをとるという取り組みをしている企業もあります。

 コロナ禍で「雑談をする機会が減った」と感じている人は多いと思います。紹介したオンライン会議の前の雑談タイムオンライン昼食会などを取り入れて雑談の機会を積極的に増やす取り組みを行うべきだと思います。経営者や上司が雑談の重要性を感じていなければ、全社的にあるいは部署で行うことも難しくなりますが、気が合った者同士、同期などでオンライン飲み会を行うことは出来そうです。

 心理的距離の近さというものが、相手に対する共感を生み、仕事に対するモチベーションやその先にある成果へとつながります。

 雑談の機会をどんどん作り、「5W1H」を駆使しながら雑談力を磨き、心理的距離を縮めて、より良い人間関係を築きましょう。

最も重要なビジネススキルは『質問力』

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けるだけになります。申し訳ありません。

ビジネスパーソンにとって重要とされるスキルには、創造力、発想力、判断力、問題発見力、問題解決力、コミュニケーション力など、様々な力が挙げられます。その中で、「最も重要なものは?」という質問に答えるのはなかなか難しいものですが、「質問力」も最も重要なビジネススキルの一つです。。

経営者、中間管理職を含めあらゆるビジネスパーソンにとって、大切なのはより良い人間関係・信頼関係を構築することで、そのためにはコミュニケーション力が重要です。コミュニケーションは相手との言葉のキャッチボールで成り立つもので、より良い人間関係・信頼関係を築くためには、相手の持っている情報を引き出すことが重要になってきます。

1.質問とは、「相手が持っている情報を引き出す」こと

 以前にも書きましたが、コロナ禍でテレワークや在宅勤務がニューノーマルとなると、これまでの対面では意味を持っていた「空気を読む」「阿吽の呼吸」といったものが難しくなります。そうなると、適切な言葉に落とし込む力(言語化力)パワフルな言葉で問いかける力(質問力)がますます重要になってきます。

 部下の育成においても、上司が正解を教えるのではなく、考える道筋を与えるということが重要になります。そのためには部下の話を聞き、適切な質問を繰り出してその回答を考える中で部下自身が成長できる環境を作ることが大切です。

 質問というのは、単に自分が知らないことを尋ねることではないのです。相手が持っている情報を引き出し、相手のことをより知ることなのです。相手のことを知らずしてより良い人間関係や信頼関係を築くことはできませんし、相手に適切なアドバイスを与えることも、相手の成長を促すこともできません。

 顧客との会話の中で、自分が8割話し顧客が2割しか話さないようでは、相手から重要な情報を引き出すことはできず、本当に顧客が求めているニーズをつかむことはできません。

 創造力、発想力、判断力、問題発見力、問題解決力といったスキルについても、重要なのはそれ以前の情報収集力、情報編集力です。これらの力の下地となるのは、情報を引き出す力、つまり質問力なのです。質問力はあらゆるスキルの前提なのです。

2.日常的に「5W1H」を使って、質問体質になる

 「5W1H」は、言わずと知れた「Who(誰が)」「When(いつ)」「Where(どこで)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の頭文字をとったもので、疑問詞の基本で意識的に使う流れの中で質問力のベースを作ってくれるものです。5W1Hを効果的に使うためには、1つ1つの意味をしっかりと理解することです。

  • Who(人物・関係軸)・・・明確な「ターゲット」の視点を問う
  • When(時間・過程軸)・・・「時間的インパクト(変化)」を問う
  • Where(空間 場所軸)・・・事象の「全体像・重要箇所」を問う
  • What(事象・内容軸)・・・「だから何?違いは何?」を問う
  • Why(目的・理由軸)・・・より上位の「目的・未来の姿」を問う
  • How(手段・程度軸)・・・「施策の判断基準・実行の難所」を問う

 ビジネスだけでなく、日常生活においても質問力は大切で、5W1Hで返す癖をつけることで、どんどん質問体質になっていきます。

 部下とのやり取りも「どう思う?」ではなく、上の6つの軸に則った質問を繰り返すことで、部下自身が自分の頭で考えることができるようになります。5W1Hは部下に様々な思考を促す問いかけになるのです。

 しかし、質問をするというのは難しいものです。それは、質問が質問ではなく詰問・尋問になってしまうからです。それはWhy(なぜ)の使い方に問題があるのです。いきなり「why?(なぜ?どうして?)」と問いかけられても、聞かれた側は問い詰められているように感じるからです。

「なぜミスが起こったのか?」を問う前に「ミスの発生場所はどこか?」、「どうして売上げが落ちたのか?」を問う前に「売上げのどの部分が特に落ちたのか?」を問うこと、つまり「原因探し」の前に「場所探し」から入るべきなのです。

3.深いところにある情報を引き出す「縦型ドリル」

 ここで紹介されているのが「縦型ドリル」と呼ばれる方法です。質問をして相手の情報を引き出すというのは、相手のことを深く掘り下げることです。ドリルを横に進めていても浅い情報しか得ることはできず、相手の深いところにある重要な情報を引き出すことはできません。自分の興味本位で聞きたいことをぶつけていっても、会話は弾みませんし、単なるアンケートのような会話で終わってしまいます。これでは相手の深いところにある情報はつかめません。相手の回答に対してさらに掘り下げて次の質問を投げかけていくのです。縦に掘り進んでいくドリルです。

 闇雲に質問を繰り返すだけでは意味はありません。相手の話をよく聞いて理解し、相手の回答をさらに掘り下げて質問していくことで、深いところにある情報に辿り着くことができるのであって、それで初めて質問に意味があったことになるのです。

質問力はコミュニケーションの真髄ですが、これまで過小評価されてきました。しかし質問力には次のようなメリットがあります。

  • 自分の知らないことを学べる
  • より良い人間関係が構築できる
  • イデアイノベーション創発する
  • パフォーマンスを上げる
  • チーム間の強化や信頼を上げる
  • 落とし穴や危険を察知し、リスクを軽減する

質問することで「共感力」が高まり、さらに良い質問をすることができるようになるといった良いサイクルが生まれます。

    質問 ⇒ 聞く ⇒ 質問 ⇒ 聞く ⇒ 時々自分の話をする

このサイクルを回していけばいいのです。これは雑談においても当てはまります。

無理に「何を話そうか」を考える必要はありません。相手の話をよく聞いて質問を繰り返していけばいいのです。「質問ばかりされて嫌」と思う人は、逆に質問を返して立場を逆転させればいいのです。

以前「雑談力は質問力」と書きましたが、その通りです。

5W1Hを上手く使って質問力・雑談力を磨いていきましょう。 

休日の本棚 ドラッカー・スクールで学んだマネジメント

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けておきます。

さて、今日は藤田勝利著「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社を紹介します。著者の藤田氏は、外資コンサルティング会社を辞め、30歳でマネジメント・スクール『ドラッカー・スクール』に留学した経験を持つ経営コンサルタントです。

本書は、著者が「ドラッカー・スクールでマネジメントについて何を学び、どのように考えを整理し、実践で活かしてきたか」という視点で書かれています。本書は著者の留学体験記ではありませんし、ビジネスノウハウ本でもドラッカー教授の理論を紹介する本でもありません。マネジメントの大切な原理と、日々の実務で実践できることを目指して書かれています。

マネジメントという言葉が何を意味するのか、あまり明確ではありません。

日本では、「マネジメントできる人財が必要だ」「マネジメント能力を高めてもらいたい」「業績悪化はマネジメントの問題だ」「マネジメント力の強化が喫緊の課題だ」などと言われることがありますが、言っている本人も明確に意味を理解しているとはいいがたいと言ってよいのです。一般に「マネジメント=菅理」と捉えられています。

しかし、著者が、ドラッカー・スクールで学んだことは、「マネジメントとは人間と創造に関わるものである」というのです。人と組織の強みや創造性を最大限に引き出して経済的・社会的に価値ある成果をあげることがマネジメントなのです。もちろんその一要素として、「管理」「統制」も必要ですが、会社や組織はつまるところ人間の集団であり、その集団を創造的で生産的にするため必要なのがマネジメントなのです。

マネジメントを「管理」ととらえれば、機械的に「方法」「ツール」を導入すればよいはずですが、「創造」ととらえなおすと、社会、政治、人間、組織、心理、歴史、文化、統計などの素養も必要になります。

本書の目次には、「マーケティング」「イノベーション」「会計」「情報技術」など、経営において重要と考えられるテーマが並んでいますが、これらの個別テーマとマネジメント現底の繋がりが重視されています。

また、「セルフ・マネジメント」というテーマが最初にあります。何故、経営の本でありながら「自分自身のマネジメント」が必要なのか、これについて、本書では次のように書かれています。

  •  ドラッカー教授は、「組織のマネージャー」である前に「個」のビジョンや価値観を明確にし、自分自身という希少な資源を最大限に生かすことが大事だと考えていました。どんなに大きな事業ビジョンを掲げても、それが自分自身の軸とズレていると、結果として組織を率いるうえでもブレが出てしまうからです。「会社が」という言い方が強まり、「私が」という一人称の言葉が出てこなければ、メンバーの心は徐々に離れていくでしょう。

1.「セルフ・マネジメント」から始まる。

 多くのマネージャーが自分自身の「外」のことに意識を奪われ、自分の「内面」をマネジメントできていません。自分自身の内なる感情や情熱が閉じ込められ、自分の強みが活かせていない場合、「その人の想い」が感じられません。話の内容に感心することはあっても、「感動」することはありません。それでは組織を動かすエネルギーは生まれてきません。感動によってこそ、人は自発的に動くのです。「自分自身の価値観や強み」を認識することが大事です。自分の内面にある価値観や強み、考え方、感情を知り、まず自分自身という資源を活かすことが、組織と人をマネジメントしたり、幾多の困難な悩みを乗り越えていくうえで極めて重要です。

2.マネージャーは何を目指すのか

 業務スキルの「集合体」がマネジメントではありません。個としての技能や知識の延長線上にマネジメント力があるわけではありません。

 ドラッカー教授は、マネジメントが根本的に目的とするものを次のように明確に表現しています。

  1. まず、その組織に特有の使命を果たすこと
  2. 働く人たちを、仕事を通じて活かし、生産的にすること
  3. 事業を通じて社会の問題解決に貢献すること

つまり、マネジメントは、「社会、組織、人の3点をつながったものとして捉える」ことです。マネージャーとしての能力は、メンバーという生身の人間を活かし、チームとして成果を上げることです。マネジメントとは、人と組織を活かして社会的な成果を上げる、そして、結果として多くの人の人生を、より良くすることができる仕事です。このマネジメントの本当の目的を知ることで、事務作業が多く負荷の高い「管理」としてではなく、やりがいのとても大きな使命としての「マネジメント」へと大きく人の意識が変化していくはずです。マネジメントの個々の技法や手法をバラバラに身につけるよりも大切なのは「目的」の方を先に明確にすることです。

3.マーケティングの本質ー顧客創造的な会社とは

 顧客を創造することがマネジメントの最大の目的です。フレームワークを使った分析に頼りすぎるのではなく、「本当のところ顧客が何を購入しようとしているのか、その本質を掴まえる努力」が大事なのです。いかなる組織にも「顧客」が存在します。「その顧客をいかに創造するか?」というマーケティングの議論を通じて、組織内部の問題も健全に解決されます。個々の組織の問題を逐一解決しようとするよりも、マーケティングの観点から解決した方がはるかに建設的です。組織運営と顧客創造のマーケティングは密接につながっています。ドラッカー教授が「顧客と顧客価値」に軸足を置いたマネジメント理論を展開しているのも、それが人と社会を幸福にするもっとも本質的な考え方だからです。

 「顧客がどのような人で、顧客は何を価値として、わが社からどのようなサービスや製品を購入したいのだろうか?」この問いに全員が真摯に向き合い、すべての仕事とこの問いが連動している組織こそが、本当にマネジメントを実践している組織と言えるのではないでしょうか。

4.イノベーションという最強の戦略

 組織はイノベーションなくして生き残れませんし、組織がイノベーションできないと組織の集合体である社会も成り立ちません。人間は生まれながらにして創造的な存在です。この「創造性」という人間本来の、無限の可能性を組織のマネジメントや経営に活かすことで、人間本来の強みが活かされ、高業績を生み出す組織が作られます。

 ドラッカー教授は次のように言います。

 顧客の本当の満足要因や価値と感じていることを知る「マーケティング」と新たな満足や価値を生み出すために自己変革していく「イノベーション」、これら基本機能について徹底的に話し合い、見直すことが企業にとっての生命線です。

 現在の変化の激しい事業環境においては、企業は絶えずイノベーションしていくことが不可欠です。しかしそれは、一発逆転を狙った大規模な投資や商材でなくてもいいのです。一部の人間のひらめきに依存するものでもありません。むしろ懸命に現場で顧客や製品と向き合っている「多くの普通の社員」の意識や見方が少しずつ変わることこそが条件です。社員が、お客様の、取引先の、市場の小さな変化を発見し、その変化を事業に有効に活かすことで、昨日よりも明日の生産性が高まるのです。地味でも理にかなったイノベーションの連続が組織の、事業の明日を創ります。

5.会計とマネジメントの「つながり」

 組織がそのミッションを達成し、社会や人間を幸福にしていくための成功の「バロメーター」である利益や収益性、それらが何によって生み出されているのか、その生み出され方はマネジメントの視点から見て適正なのか、会社の数字の見方に、マネジメントの哲学と戦略を融合することが重要です。これは、以前「会計と戦略のマネジメント」という本を紹介した時にも書きました。数字の背景にある事業の本質、経営陣の考え方、戦略の方向性が的確かどうかという、マネジメントの視点が必要です。

 日本の多くの企業では、経営管理・会計・財務を担当する部門の責任者と事業の責任者の間に溝があるケースが少なくありません。両方ともマネジメントをする上で不可欠な機能であり、ゴールは1つのはずです。両者が同じ「マネジメント」の視点で、共通の言語で、知恵を融合させていけば、どのような会社もさらに強い事業体質に生まれ変われるはずです。

6.成果を上げる組織とチーム

 組織論がもてはやされています。企業経営にとって組織は重要な中心的な存在ですから当然と言えば当然です。しかし、理論が精緻化されて本質を見誤っているきらいがあります。そもそも組織とは何を目的に創られるか、どうすれば最高の組織として成果が生まれやすいか、という本質こそが重要です。

 各論に入りがちな視点を「自分たちの事業はそもそも何だろうか」「顧客は誰か。顧客は何を買ってくれるだろうか」「その事業で卓越した成果を上げるために、どういった方法と手段を選ぶことが有効か」「その方法論を、全体目的のためにどう活用することができるか」と言った全体的な視座に戻すことで、真の成果や貢献の方向に、人間のエネルギーを統合し、大きな力に変えていくことができます。

 「組織とチームが成果を上げるため」に大切なマネジメント原則では、

  • 何を目的、使命としてどのような事業をしていきたいと強く願っているか
  • その目的のために仕事を通じて人の資質や強みをどう引き出し、最大化できるか
  • 自律的・自発的に考え、話し合い、協力し合う環境や風土をどのように築くか

という根本的な問いが重要です。いわゆる組織論的な方法論や理論に依拠しすぎるのではなく、シンプルかつ重要なこの問いに明確に答えを出すことが重要です。

「目的と使命によって組織をリードしていく」という考え方と「現場の人々の考え方、行動の仕方、それを生み出している組織風土」の見方の両方が大事です。ワクワクとするような事業目的と、個々人の仕事、行動の仕方、考え方を一致させていくところに、組織の真の成功があるのです。

7.情報技術とコミュニケーションについて本当に大事なこと

 どのような高機能で優れた情報システムであっても「マネジメント」や「戦略」の観点から評価・活用しなければ、まったく意味がありません。システム自体が経営やマネジメントの主体者になることはなく、それはあくまでも経営を強力に支援するツールにすぎません。

 マネジメントの考えの中で、情報システムという有効なツールをどう活かしていくかがポイントです。「このシステムを導入することで、このように顧客価値、顧客満足を高めたい」「このシステムにより、社員の自律性をこのように高めたい」という意図の共有こそが大切です。

情報技術において重要なのは「技術」ではなく「情報」です。情報技術の「テクノロジー」からどのような「情報」を抽出して、コミュニケーションを通じてそれらをいかに有効な知恵に変換していくか、これこそがマネージャーが創造的に考えるべき大切なテーマです。「事業目的と顧客にとっての価値を定義し、組織と人の働きを生産的にし、成果につながる」というマネジメントの役割は情報技術の開発・導入に際してもブレてはいけない基本原則です。

ドラッカー教授は、マネージャーに不可欠な資質は知性ではなく、「真摯さ」と言っています。事業でも個人でも、本来抱いていた目的、情熱、想いはシンプルで、各論に惑わされることなく、一貫して「良い仕事」「ワクワクするような商品やサービス」に意識を向ければいいはずです。こうした「真摯さ」が重要なのです。

本書では、最後に、ドラッカーの言葉で締めくくっています。

マネジメントとは、事業に生命を吹き込むダイナミックな存在でる。そのリーダーシップなくして、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない