中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 戦略がすべて

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けます。

今日は瀧本哲史著「戦略がすべて」(新潮新書を紹介します。

著者の瀧本氏は、京都大学産官学連携センターの客員准教授でしたが、惜しくも2019年に47歳の若さでお亡くなりになりました。東京大学法学部卒業後に助手となりましたが、助手の任期終了後は学界に残らず、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、コンサルタントとして日本交通の再建に取り組むなど実務で活躍されていました。著書には「武器としての決断思考」「の句は君たちに武器を配りたい」「武器としての交渉思考」などがあります。

本書「戦略がすべて」は「ビジネス市場、芸能界、労働市場、教育現場、国家事業、ネット社会・・・どの世界にも各々の「ルール」と成功の「方程式」が存在する。無駄な努力を重ねる前に、「戦略」を手に入れて世界を支配する側に立て」と、AKB48からオリンピック、就職活動、地方創生まで社会の諸問題をち密に分析し、戦略の重要性を示唆してくれている一冊です。

本書の最初に「AKB48成功の方程式」が語られています。面白いので紹介します。

資本主義社会で成功するには「戦略」が必要です。それは芸能界でも同じです。タレントや芸能人が成功するのは難しく、その理由は、①どの人材が売れるか分からない ②生身の人間なので稼働率に限界がある ③売れるとタレント側に主導権が移る という3つの理由があるからです。これらを克服したのがAKB48だというのです。タレント一人ひとりを個別に売り出すのではなく、複数のタレントを包摂するプラットフォームを創ることで、グループ自体に価値がありその名のもとに大勢のタレントを揃えれば消費者の好みを反映しやすく、稼働率も上げられて、主導権が移るというリスクも回避できるというわけです。これは昔から宝塚歌劇団などでも採用されている仕組だということです。

さて、本書の構成は次のようになっています。

Ⅰ ヒットコンテンツには「仕掛けがある」

  1. コケるリスクを排除する ― AKB48の方程式
  2. すべてをプラットフォームとして考える ― 鉄道会社の方程式
  3. ブランド価値を再構築する ― 五輪誘致の方程式

Ⅱ 労働市場でバカは「評価」されない

  1. 「儲ける仕組み」を手に入れる ― スター俳優の方程式
  2. 資本主義社会の歩き方を学ぶ ― RPGの方程式
  3. コンピューターにできる仕事はやめる ― 編集者の方程式
  4. 人の流れで企業を読む ― 人材市場の方程式
  5. 二束三文の人材とならないために ― 2030年の方程式

Ⅲ 「革新」なきプロジェクトは報われない

  1. 勝てる土俵を創り出す ― オリンピックの方程式
  2. 多数決は不毛である ― iPS細胞の方程式
  3. 人脈とは「外部の脳」である ― トップマネジメントの方程式
  4. アナロジーから予測を立てる ― 北海道の方程式

Ⅳ 情報に潜む「企み」を見抜け

  1. ネットの炎上は必然である ー ネットビジネスの方程式
  2. 不都合な情報を重視する ― 新聞誤報の方程式
  3. 若者とは仲間になる ― デジタルデバイスの方程式
  4. 教養とはパスポートである ― リベラルアーツの方程式

Ⅴ 人間の「価値」は教育で決まる

  1. 優秀な人材を大学で作る ― 就活の方程式
  2. エリート教育で差別化を図る ― 東京大学の方程式
  3. コミュニティの文化を意識する ― 部活動の方程式
  4. 頭の良さをスクリーニングする ― 英語入試の方程式
  5. 入試で人間力を養う ― AO入試の方程式

Ⅵ 政治は社会を動かす「ゲーム」だ

  1. 勝ち組の街を「足」が運ぶ ― 地方創生の方程式
  2. マーケティングで政治を捉える ― 選挙戦の方程式
  3. 身近な代理人を利用する ― 地方政治の方程式

Ⅶ 「戦略」を持てない日本人のために

各章のポイントを列挙します

1.コケるリスクを排除する ― AKB48の方程式

  • 「人」を売るビジネスには「成功の不確実性」「稼働率の限界」「交渉主導権の逆転」の壁がある
  • プラットフォームを創れば「リスク軽減」と「持続可能性の向上」が期待できる
  • 「才能勝負」の世界ほど才能は事後的にしかわからないので「AKB48方式」で選ぶべき
  • 「見える仕事」には顔をなる人材を、「見えない仕事」にはコモディティ化された人材を使う
  • 選抜を生き抜く厳しい競争に参加することが、コモディティ化した人材から抜け出す道である

2.すべてをプラットフォームとして考える ― 鉄道会社の方程式

  • プラットフォームビジネスの関係者は「顧客」「プラットフォームのプレイヤー(運営者)」「プラットフォームの参加者」
  • プレイヤーの仕事は「集客」「ビジネスモデルの提供」「プラットフォームの管理」
  • ヒト、モノ、カネ、情報をネットワーク化し、そのハブとして利益を上げる
  • 強いプラットフォームは、利益を独占し、リスクを回避できる
  • リアル空間においても、プラットフォームビジネスを構築することは可能である
  • ブランドの打ち出し、スタイルやクオリティの提案が成功の鍵
  • 国家や個人も自分の所に人を集めるプラットフォームとして戦略を練ることができる

3.ブランド価値を再構築する ― 五輪誘致の方程式

  • プレゼンテーションは「聴衆が何を求めているか」で見せ方が決まる
  • 固定観念や過去の経験にとられず、時代や状況の変化からメリットを導き出す
  • オリンピックは千載一遇の日本ブランド再構築の機会である
  • 日本独自のポジショニングは東西を超えた、技術と伝統、発展と環境の調和、融合である
  • 時間とともに成長する「ブランド価値」こそ日本再生のカギを握る

4.「儲ける仕組み」を手に入れる ― スター俳優の方程式

  • 給与の差は所属企業が社員に与える資源量で決まる
  • 「儲ける仕組み」の外にいるコモディティは高い報酬を与えられない
  • 「儲ける仕組み」に参画し、ビジネスの利益と損失を帰属された資本家に報酬は集まる
  • 希少なスキルを持っていても、より大掛かりな「儲ける仕組み」との関係ではコモディティになってしまう

5.資本主義社会の歩き方を学ぶ ― RPGロールプレイングゲーム)の方程式

  • RPGには、「職業システム」や「ショートカット」など資本主義社会の世界観、働き方がひそかに組み込まれている
  • 「不確実な状況下で、効率よく解を見つけ、自分の能力を差別化し、組織目標に貢献する」というのは資本主義のルールと一致する
  • ゲームのルールを内面化させている人は、実際のビジネスでも良いパフォーマンスを上げられる可能性が高い
  • スマホの課金で決まるゲームをやるよりも、勝ち方が多様な麻雀をやるべき

6.コンピュータにできる仕事はやめる ― 編集者の方程式

  • 既存メディアとネットメディアとの戦いは、人の知恵とコンピューターアルゴリズムの戦いだ
  • 無から有を生み出せるのは「人間の知恵」だけ
  • コンピューターにできる仕事しかできない人間は淘汰される
  • 人の知恵とコンピューターの計算を融合させたハイブリッドモデルが勝利する
  • 粗製乱造のネットメディアと、少数精鋭のクオリティメディアに二分される

7.人の流れで企業を読む ―人材市場の方程式

  • 企業は、商品市場、資本市場、そして人材市場で評価される
  • 人材市場とは、内部情報を基にした「インサイダー取引」なので内情が分かる
  • 優秀な人材が次々と辞めていく企業は傾きかけている可能性がある
  • 人の移動は定期的にモニターし、指標となる人物には定期的に会う

8.二束三文の人材とならない ―2030年の方程式

  • 安易に起業を考えるよりも、社内の評価と会社の変革を考える
  • 熟知している業界で足りないビジネスを始めることで、企業の成功性が高まる
  • 上司を取り込んで仕事の主導権を握る「技」を身につける

9.勝てる土俵を作り出す ― オリンピックの方程式

  • 「楽勝できる土俵」を見極め、徹底的にそこに資源を投資する
  • 「場」を作ることで、人間が刺激し合い、ネットワークを作り、能力を高める
  • 舞台裏の「ヒト」への投資が、表舞台の「ヒト」の成果につながる
  • リソースの投入には「カネ」が必要。成果のためには「カネ」を集めてうまく使う
  • 資金援助を切実に必要としている人に直接投資することが、「カネ」の最も効率的な使い方
  • 「個人の才能と努力」を最大化するには、組織による戦略的マネジメントが重要

10.多数決は不毛である ― iPS細胞の方程式

  • 合議制、効率性からイノベーションは生まれない
  • 選択と集中」は、ハイリスク・ハイリターンのチャレンジ案件を潰してしまう
  • 社会も企業も個人も、一見非効率でみんなが賛成しない戦略的な投資を一定の比率で行う必要がある
  • リスクを軽減するためにも、新しい産官学の連携モデルを模索する必要がる

11.人脈とも「外部の脳」である ― トップマネジメントの方程式

  • 組織の方向性はトップではなく、トップが外部から招く人材で占うことができる
  • トップマネジメントにとって、異見を持つ多様な人材との関りが優れた意思決定を生む
  • 個人にいても、「教養としての人脈」の重要性は増している
  • 付き合っている人間が同じような人間ばかりでは新しいものは生まれない

12.アナロジーから予測を立てる ― 北海道の方程式

  • アナロジー(類推)から未来を予測することで、ビッグデータには導けない仮説を導き出せる
  • 北海道のように、未来を読むための縮図や実験場を見つけるー「土地改良」のノウハウだけを海外に輸出、「知恵」の部分だけを輸出するというビジネスモデル
  • ドラスティックな変化は新らしいビジネスのチャンスになる
  • 「日本人の知恵」の部分を輸出するというビジネスモデルには勝機がある

13.ネットの炎上は必然である ― ネットビジネスの方程式

  • ネットメディアはスクリーニングの機能がないものが多く、情報の精度は低い
  • ネットには炎上するような情報の方が収益を生みやすい構造がある
  • 怪しげな情報に引っかかる少数の「信者」を見つけることが、ネットビジネスの重要な戦略となる
  • 危険な思想でもごく一部の共感者が現れる恐れがある

14.不都合な情報を重視する ― 新聞誤報の方程式

  • 新聞などメディアの取材は、結論ありきのものが多い
  • 誤報」事態が増えたのではなく、発覚する機会が多くなった
  • ネット媒体との競争で、質の低い記事や噂レベルの情報に振り回されることが増えた
  • 読み手側は自説と「反対の考え方」を検証するという自衛策を取ろう
  • より破綻のない主張を支持するという意思決定も一つの手だ

15.若者とは仲間になる ― デジタルデバイスの方程式

  • 変化は日常の些細なところから始まっている
  • 環境の変化に応じてコミュニケーションやビジネスのやり方は自然に変化する
  • 昔を知らない若い世代の方が、新しい環境を構築しやすい
  • 古い世代は未来の変化に敏感になり、若者とのコラボレーションを図るべき

16.教養とはパスポートである ― リベラルアーツの方程式

  • 現在は情報をなるべき制限し、自分に都合のいい情報だけを吸収する風潮にある
  • 「自分とは違う立場の考えがありうる」と知ることで狭い社会認識から脱却できる
  • 社会の繋がりを再構築するには、普遍的な価値、教養を手に入れる必要がある
  • イノベーションを生むには「異なる複数の考え方」を組み合わせることだ
  • 教養とは、情報消費社会のカウンターとして「異なる思想」に触れることだ

17.優秀な人材を大学で作る ― 就活の方程式

  • 企業の採用には、「育成」型のシステムAと「競争」型のシステムBがある
  • 優秀で才能のなる人材は、システムBに集中する
  • 企業が大学教育に求めているのは、「思考力」「多様な視点」「コミュニケーション能力」である

18.エリート教育で差別化を図る ― 東京大学の方程式

  • 大学は社会の状況に合わせて戦略的に差別化し、競争していくべき
  • イノベーションを生むには「実学」だけでは不十分であり、多様な分野の「独自性」と「ネットワーク」を両立させなければならない
  • 大学のプロジェクトにも、適切な戦略目標と説明責任を持つべき
  • 大学のトップには、広い知識、ネットワーク化能力、コミュニケーション能力が必要

19.コミュニティの文化を意識化する ― 部活動の方程式

  • 「部活」が当人が意識しないままにその後の人生を左右することは意外と多い
  • 人は社会に出てから所属した会社、業界、組織の暗黙のルールを知らないうちに身につけている
  • 自らの属している「部活」の特徴、ルールを意識し、その変化に敏感であるべき

20.頭の良さをスクリーニングする ― 英語入試の方程式

  • 東大入試は記憶力やある種の地頭力だけでなく、高速な論理操作や判断推理の力が求められる
  • 現在の大学入試は、大学教育を受ける前提能力をはかれない
  • 英語入試を廃止すると、知的スクリーニングの役割が失われる
  • 英語入試によって、論理的思考力や判断推理力がある程度測定できる

21.入試で人間力を養う ― AO入試の方程式

  • 大学入試改革は高校教育を変えるという意味で意味がある
  • 「多面的な人物評価」は難しいが、高校生活を組み替えるように誘導する効果はある
  • 大学入試には問題設定能力、仮説を立てる能力、説明能力など、大学校郁の前段階の学習を促すという価値を持たせることができる

22.勝ち組の街を「足」が選ぶ ― 地方創生の方程式

  • 資本主義は常に「勝ち組」と「負け組」を作る
  • 救済すべきは「負け組」の「個人」であって「企業」ではない
  • 東京と地方の格差だけではなく、地方の間にも格差が生じている
  • 地方自治体も提供するサービスを巡る競争によって淘汰されるべき
  • 移転費用を援助して、住民の「足による投票」を行わせ、自治体の競争を促すべき

23.マーケティングで政治を捉える ― 選挙戦の方程式

  • 現代の日本において政策で差別化するのは困難である
  • 各党は「ニッチな政策」か「ブランドイメージ」で差別化を図るしかない
  • 選挙を消費財マーケティングととらえると全体の構図、問題点が分かりやすい
  • 細かい政策より、ワンフレーズのインパクトや感情的なストーリー性の方が強い
  • 候補者の宣伝文句より、実際に支持している人の信用性で選ぶ
  • 「抱き合わせ販売」「イメージ広告」は国民に不利に働く場合が多い

24.身近な代理人を利用する ― 地方政治の方程式

  • コモディティ化、万年化によって、組織は構造的に無能な人であふれている
  • 地方議員は構造的にも権限が少なく、能力が身につきづらい
  • 先進的な政策に通じていて、国政の政治家にネットワークを持つ地方議員を、市民のため野呂日にストとして活用することができる

25.「戦略」を持てない日本人のために

  • 「戦略」で勝つとは、横一列の競争をせず、他とは違うアプローチを模索すること
  • 日本の組織の多くは、意思決定能力の低い人が上に立つ構造になっている
  • 理論や手法を学ぶだけでなく、「実践」の場を何度も経験することが重要
  • 日常的に身の回りのことを「戦略的思考」で分析する習慣を身につけよう

この本では、AKB48から、オリンピック、政治まで幅広く取り上げられていますが、そこで語られているのは「戦略」の立て方、使い方です。これはそのままビジネスに応用できます。面白く読めて役に立つ本です。

 

休日の本棚 V字回復の経営

おはようございます。今日も過去に紹介した本のブログを載せておきます。

今日は、三枝匡著「Ⅴ字回復の経営(増補改訂版)」(日経ビジネス人文庫を紹介します。三枝氏は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の出身で、現在株式会社ミスミグループシニアチェアマン、不振企業に役員として参画するターンアラウンド・スペシャリスト(事業再生専門家)として活躍されています。

本書は、「『2年で黒字化できなければ退任します』、戦略的なアプローチを覚悟(高い志)を武器に、不振事業の再建に挑む主人公黒岩莞太が率いるタスクフォースのメンバーは、社内の甘えを断ち切り、業績を回復できるのか。実際の組織改革を素材に物語形式で書かれた不朽の名作」に対談を加えた増補改訂版です。

コロナ禍で、日本経済が疲弊し多くの企業が業績悪化に苦しんでいる中、生き残りをかけて事業の再建が急務な企業は多数存在します。辛うじて協力金や給付金で息をしているだけのほとんど瀕死の重病人と言える企業もあります。思い切った事業再構築が必要です。政府は、思い切った事業再構築を行った中小企業に対して補助金を給付する(中小企業等再構築促進事業)など積極的な支援を行おうとしています。しかし、政府から補助金を受給するにはかなり高いハードルを越えなければなりません。

Ⅴ字回復の経営」を達成するには何をしなければならないのでしょうか? この答えは本書の物語を読めばわかります。

会社を元気にするには、その会社の「戦略」を大きく組み替える必要があります。あるいは「仕事のやり方」をドラスチックに変えなければなりません。特にコロナ禍のような危機的状況においては、これしか方法はありません。この本でも書かれていますが、未曽有の危機においては、危機感をバネに「心」と「行動」を束ね、皆で一つの方向を目指して走ることです。ところが、経営が苦しくなったときに、経営者やトップは強い危機感を抱きますが、一般の社員が危機感を抱くとは限りません。むしろ社内の危機意識が低く、たるんでいるからこそダメになっているのです。

日本企業特有の社内の甘えが蔓延する中で、経営者、トップ、社員の価値観、行動を短期間で変えていくことは容易なことではありません。三枝氏は「企業戦略の最大の敵は、組織内部の政治性である」と言っています。これは、普通の社員が危機感の欠如と変化への恐れから、新しい変革に背を向け、自らの身の安全を図り、企業を変えようとする努力が社内のあちこちで骨抜きになり結果的に業績回復や体質変化を遅らせるということです。

アメリカでは経営者の行動は極めて単純で短絡的で、社内の抵抗を強権で排除します。しかし、日本の経営者は、時間をかけて会社を変革しようと試み、既存の枠組みを大きく崩さない範囲の改善に励んできました。それは問題の先送りといってよい姿勢です。ドラスチックな組織活性化は必要だと感じながらも、実際やっていることは中途半端と言うより問題の先送り、時間稼ぎにしかすぎません。上がこのようでは普通の社員は目標が見えず頑張る気にもなりません。これでは会社が元気になるはずもありません。

三枝氏は、「日本企業が米国企業のスピードに対抗しつつ、米国企業よりも人を大切にする経営を守ろうというなら、役員も社員も米国人以上に経営的技量を身につけ、熱く燃え、集中的にいい仕事をしない限り、競争に打ち勝つことはできない」と言っています。

この本は、三枝氏が実際に経験した企業改革を題材にしており、経営改革プロジェクトでしばしば登場する困難の問題がかなり網羅的に出ています。物語形式でありながら、ノンフィクションでもあり、企業変革のテキストとしても極めて有用です。

経営改革では、スポンサー役、力のリーダー、智のリーダー、動のリーダーの四人がそろわない限り、成功を収めることはできません。

本書の舞台、太陽産業では、スポンサー役(香川社長)、力のリーダー(黒岩莞太)、智のリーダー(五十嵐直樹)、動のリーダー(川端祐二)の4人です。この中で、特に重要な役割を担うのは、黒岩莞太です。彼は理想の改革者で、この人物に当てはまる者を現実の企業で見つけ出すのはほとんど不可能です。でも、自分の会社に黒岩莞太がいないからと言って改革が不可能なわけではありません。黒岩莞太の役割を複数人に演じさせればいいのです。黒岩莞太のリーダーシップが大幅に欠落している企業では、高リスクの改革を貫徹することは困難です。しかし、黒岩莞太のリーダーシップの一部を持っている人はいるはずです。例えば、社長が3割、専務が2割、事業部長が2割、企画部長が2割、営業部長が1割という風に。それならば、この5人で黒岩莞太の役割を演じさせればいいのです。

この本は成功物語です。しかし、すべてが成功するとは限りません。むしろ失敗の方が多いかもしれません。失敗しても落ち込む必要はありません。失敗は成功の母、失敗すればどこが間違っていたのかを検証し軌道修正しながら前進させていけばいいのです。

組織変革は積み木細工と同じで、成功要因を一つ一つ積み上げていくものです。失敗すれば、そこからまたやり直して成功要因を積み上げていけばいいのです。

この書の構成は次のようになっています。

  • 第1章 見せかけの再建ー覚悟を固める
  • 第2章 組織の中で何が起きているのかー⑴現実を直視する ⑵成り行きのシナリオを描く ⑶切迫感・危機感を抱く
  • 第3章 改革の糸口となるコンセプトを探すー⑴改革先導者を組織化する ⑵原因を分析する ⑶改革コンセプトを共有する
  • 第4章 組織全体のストーリーをどう組み立てるかー⑴改革のシナリオを作る ⑵戦略の意思決定を行う
  • 第5章 熱き心で皆を巻き込むー改革のシナリオを現場は落とし込む
  • 第6章 愚直かつ執拗に実行するー改革を実行する
  • エピローグ 事業変革の成功要因

「エピローグ 事業変革の成功要因」の中で、三枝氏は「組織改革とは『正しい』と思われることを、『愚直』に、必死になってやり通すことである。そこには先頭に立つ人の果てしない情熱の投入が必要である」と言い、「改革とは『魂の伝授』である」「経営者にとって最も重要なのは『高い志』である」と言います。以前紹介した稲盛経営12か条の「燃える闘魂」「経営は強い意志で決まる」と同じことが言われています。

会社を元気にできるかどうかは戦略も大切ですが、最も重要なのは、リーダーの「高い志」「強い意志」「魂の伝授」「燃える闘魂」です。

今一度、稲盛経営12か条をじっくりと読んでみてください。

また、この本の増補改訂版には、「V字回復の経営ー成功への道のり」として、動のリーダーと言える元コマツ専務の鈴木康夫氏との対談が載っています。この対談も面白いです。

   

事業活性化のためのシナリオ策定

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けます。

アベノミクスのまやかしの成長戦略でコロナ前から低迷状態を続けている中小企業は多く、さらに新型コロナの感染拡大がそれに追い打ちをかけ、瀕死の状態にある企業も多いのです。

こうした企業が、事業活性化のためのシナリオ策定に向けて行うことは、次の3つです。

  1. 市場との乖離が起きているのはなぜか。まず現状の実態と過去の経緯を「見える化」するための「現状把握」
  2. それがなぜ起きたのか、因果を解明し「意味合い」を抽出する。
  3. 「解の方向性」を明らかにして「具体的施策」と「実行計画」を展開する。

この一連のセットが事業活性化のための「戦略」と呼ばれるものです。「Ⅽから始まるP(プランニング)」つまり、C(チェック)からスタートさせるPDCA(PLAN→DO→CHECK→ACT)です。

PDCAは、業務改善を図るためのフレームワークです。PLAN(計画)→DO(実行)→CHECK(点検)→ACT(改善)という4つのプロセスを循環させ続けることでさらに効果を発揮するのでPDCAサイクルとも呼ばれています。「計画して実行」で終わりではなく、計画通りに実行されたかを確認し、問題があれば見直し、津語のサイクルの計画に反映して、再び実行につなげます。このサイクルを循環させ続けることで、更なる業務効率の改善他製品・サービスの品質向上が望めるというわけです。

日々の事業運営のPDCAの精度が落ちているためか、怠慢によるものか、市場の実態との乖離を起こしている状態で、改めて「現状把握」からやり直すのが「戦略」の立案作業です。

しかし、戦略も含めて、どのようなプランも読みを外した部分が大なり小なり存在します。特に新規事業や海外などの新規市場への挑戦のように新たな試みが挑戦的であればあるほど、読み外しの幅は大きくなると見込んでおくべきです。

この読み外しの際の修正行動のスピードと精度を上げるために必要なのが、理にかなった戦略立案、「Cから始まるプラニングP」の作法で描かれたプランです。

  • 数字が間違っていたのか
  • 把握しておくべき事実が取れていなかったのか
  • 数字を含めた事実を見る「見える化」の角度が適切ではなかったのか
  • 抽出した「意味合い」が間違っていたのか
  • 具体的な施策の選択が適切ではなかったのか 

など、「現状把握」「意味合い」「解の方向性の定義」「具体的施策」のどこに、読み間違いや読み外しがあったのかを、当初立案したプランに戻って確認することで、修正行動の精度が上がります。

確かにPDCAのCは後からでもできないことはありませんが、後からのCには様々な人の思惑が働きやすくなり、下手をすると責任の押し付け合いで終わります。

そうならないために事実の「見える化」と言語化を行い、組織で共有できる状態にすることが必須です。

世の中、プラン通りに物事が進むということは人んどありません。どんなに精度が高くすぐれたプランでも。想定していなかった出来事が起こります。今回の新型コロナ感染拡大もそのひとつでしょう。PDCAにおいて重要なことは、決めたことは決めたとおりにきっちりと行うということです。

小さな企業では暗黙の了解で物事を進めることは可能でしょうが、その場合でも、想定外のことが起きた場合にはうまくいかなかった理由を解きほぐし、原因を追究し、成功への因果を考えなければなりません。失敗を次への成功につなげるためにも、「見える化」と言語化は必要なのです。事実を「見える化」し言語化し、資料に落とし込んだりしながら、的確に情報を伝達し、組織で共有できているということが、組織を成長させ発展させていくのです。

休日の本棚 リーダーは対話から学べ

おはようございます。

今日も過去に紹介した本(論文)のブログを貼り付けておきます。

今日は、ハーバード・ビジネスレビューから「リーダーは対話から学べ」という論文を紹介します。この論文はリード・ホフマン、クリス・イェ、ベン・カスノーカの共同執筆です。

これまで、何度もリーダーシップや対話の重要性について書いてきました。今日の論文は、それらとは若干趣が違います。

時代に即したリーダーシップが求められるのは当然で、アメリカでは、教育のパーソナル化・ソーシャル化が進み、リーダーシップ開発も大きく変わってきています。リーダーシップ育成に、個別学習クラウド(PLC:オンライン講座やソーシャルで双方向的なプラットフォームなど)と呼ばれる学習インフラがあります。PLCは個人やチームのニーズに柔軟に合わせて構成でき、アクセスも簡単で、21世紀型のOJT(On-tha-Job Training)と評価されています。

確かに、PLCは新しい時代のリーダー教育に欠かせないものになってきています。しかし、激動の時代に経営幹部が新しいスキルを修得し続けることは重要ですが、この論文は「ビジネスリーダーの学びにはもっと大切なものがある」と言っています。それが、人的ネットワークの知見、「ネットワークインテリジェンス」です。人的ネットワークを築き、そこで問いかけ、対話から学ぶということなのです。

1.優れた経営者や起業家は「ネットワークインテリジェンス」で学ぶ

 ビジネスリーダーが変化と創造的破壊の波に飲み込まれないようにするには、「永遠の学習者」にならなければなりません。そのためにPLCは有用といえますが、正式な養成講座やプログラムを使ってこうした学習法を実践している人はほとんどいません。講座がオンライン化していても、企業を取り巻く環境が絶えず変化していく中で、養成講座やプログラムを絶えず時代に合わせることも難しいのです。

 大成しているリーダーはPLCではなく違う方法で学んでいます。それが、人的ネットワークの知見、つまり「ネットワークインテリジェンス」です。

 学習ネットワークを築くのは難しいかもしれません。有名企業に勤めていたり、既に広範なネットワークを築いていたり、人が依頼に応えたくなる経歴上の特別な何かがあったりすれば、ネットワーク作りは容易になりますが、多くの人にはそれほど容易ではありません。しかし、誰かと一対一で言葉を交わすことによって学べる可能性を考えれば、たとえ苦労したとしても、ネットワークを築くメリットは大きいのです。

 大勢が列席する席やオンライン上、文書上では自分の意見を披露しなくとも、一対一では見解を示す人は多いですし、会話を通じた学習は質問によって進行するため、自分のレベルに適した内容となります。しかも、一対一では、後ろに隠れたり居眠りもできないので、しっかりと準備しなければなりません。

 自ら学ぶことは重要ですが、文献を手あたり次第読み漁るということは不可能ですし、無駄な労力や時間を消費します。人的ネットワークを構築し、その中から、あるいは人的ネットワークの伝手を頼って、うってつけの情報源を見つければ、一対一の会話を通じて必要な知識を得ることができます。重要なのは、その道のプロを見出す術であり、質問を通じた対話の仕方なのです。

2.情報をどのように収集し管理し使うかが成否を分けるポイントになる

 有名人でなくてもその道のプロは大勢います。著名人にこだわる必要はなく、「自分より1年か2年先、もしくは5年先を行っている人物を探すこと」そうすれば「思ってもみなかった重要なことが学べる」はずです。コロナ禍で自宅にいながら好きな時間に学習できるオンライン講座も、一般化していてカスタマイズの必要がない経営手法など分野によっては役に立ちます。しかし、こうした講座は学ぶための一つの方法にしかすぎません。唯一の方法と見なさないことが大切です。

 ビル・ゲイツは、「競合企業と差別化する最も有効な方法は、情報を使って並外れた仕事をすることだ。情報をどのように収集し管理し使うかが、成否を分けるポイントになる」と言っています。

 世紀の教育制度では、人生の特定の時期に修得した知識はずっと通用する「固定資産」のように見なされていますが、実際には、必要とされる知識は絶えず変化しています。だからこそ、優れたリーダーは知識の習得や吸収をけっして止めようとしません。

 ネットワーク時代には、これまでに存在しなかったり予想だにしなかった課題があふれ、日々力量が試されます。こうした課題への対処法は、どこにも書かれていません。たいていの場合、似たような状況に直面した人々に話を聞く以外に方法はないのです。

 人的ネットワークを築き、同じような体験をした人を見つけ、問うのです。これしかないのです。

リーダーに必要なEQ

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けます。

ビジネスにおいても、リーダーにはアタマの良さが求められます。ここで必要な知能指数ⅠQだけではありません。重要なのはEQです。EQとは「心の知能指数」と言われるものです。EQ(Emotinal intelligence Quotient)は心の知能指数EIを測定する指標のことで、「心の知能」というのは「自己や他者の感情を理解することや、自分の感情をコントロールする能力」のことです。以前にも書きましたが、優れたリーダーというのは自分の感情をうまくコントロールできる人です。その意味で、リーダーにはIQのみならずEQも必要なのです。

EQが取り上げられるようになったのは、IQだけで人の知能を判断するのは不適切だと考えられるようになったからで、心理学者ハーワード・ガードナーが提唱しました。

ビジネスの分野においては、ピーター・サロン博士やジョン・メイヤー博士によって、心理学の立場からビジネス社会における成功要因は何かが研究されました。

修士や学士といった学歴など知能指数(IQ)が高い人材がビジネスでも成功すると一般に考えられてきましたが、実際にはIQが高い人が必ずしもビジネスで成功するわけではありません。ビジネスにおける能力でIQがある程度重要であることは認められていますが、両博士は「IQ以外の別の能力が必要である」とし、調査研究の結果、ビジネスに成功した人が備えていた能力は対人関係能力だったのです。対人関係能力が備わっている人材は、社内外との関係をうまく調整することができます。こうしたことから、両博士は「自己の感情をうまく管理・利用できるということは、重要な1つの能力である」という「EQ理論」を提唱したのです。

1.EQの構成要素

EQの構成要素には次の4つがあると言われています。

  1. 自分を理解する「自己認識」・・・自分を深く理解すること。自分の感情を常に俯瞰できることは、自分を理解するうえで絶対に必要なものです。自分の感情に敏感な人は、自分の気持ちに忠実な選択を行うことができます。自己認識は、自分を正しく評価でき、自分に自信を持つうえでも重要な要素です。
  2. 自分をコントロールする「自己管理」・・・感情は行動を起こす原動力ですが、暴走すれば自分や他人を傷つけます。感情は適切にコントロールしないといけないもので、反対にうまくコントロールして動機づければ大きな力になります。
  3. 他人を理解し適切な人間関係を築く「社会認識」・・・他人を理解するためには相手のニーズに適切に反応して対処することが大事です。相手の気持ちを慮る「共感」や、相手の話を聞きその視点を理解する「メンタライジング」は重要な要素です。個人や集団のニーズを読み取り、ニーズを満たすことで良好な人間関係を築き保つことが重要なポイントになります。
  4. 組織・集団を正しい方向へ導く「人間関係の管理」・・・EQの最終的な目標は、社会で影響力を発揮することができる人間になることです。影響力というのは、他人の能力を育てる育成力、チームワークや協調関係を築くリーダーシップはもちろん交渉などで「WIN-WIN」関係を築くことです。人間関係をうまく管理することで、個人では実現できないことを、組織の力によって実現させることが可能になります。

2.EQが高い人の特徴

 EQが高い人の特徴には次のものが挙げられています。

  1. 変化を受け入れる柔軟性がある・・・自分の回りの変化を常に受け入れ、柔軟に対処し、新しいことにもチャレンジします。
  2. 完璧を目指さない・・・世の中に完璧なものなどありません。仮に間違ったとしても、調整して結果的に何とかし、過ちから必要なことを学びます。
  3. 仕事とプライベートのバランスをとるのが上手・・・集中して仕事をするときとプライベートのオンオフをはっきりと区別します。
  4. 共感力がある・・・他人への思いやりの心を常に持っています。
  5. 集中力がある・・・目の前の作業にだけ集中することができます。
  6. 自分の強みと弱みを知っている・・・自分の得手・不得手をしっかりとわかっています。
  7. 自分自身のやる気を引き出すことができる・・・「自発的に」モチベーションを高く保つことができます。
  8. 過去のことで思い悩まない・・・過去の失敗やいやなことを思い出して落ち込んだりしません。そのような時間は、未来への可能性をじっくりと考えることに費やします。
  9. ポジティブなことに意識を集中させる・・・ネガティブなことを切り捨て、ポジティブなことや自分がコントロールできることに意識を切り替えて集中します。
  10. 境界線をしっかり定める・・・境界線を決めて、自分ができないことやネガティブなことははっきりとNOと言います。

EQは感情面や情緒面において健康で、人間関係を適切にこなせる人格的能力であり、リーダーには必要不可欠な能力です。IQに偏らず、EQを磨くようににしましょう。 

プロジェクト失敗の原因は要因稼働不足

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けておきます。

多くの企業で、プロジェクトを行うにあたり、プロジェクトを成功させるために必要な要員リソースの質・量ともに不足している状態で戦いに突入し、不完全な成果に終わるか、玉砕して何も成果を挙げないまま時間と予算を使い切って解散するというケースが見られます。このような状態でプロジェクトを遂行しようとしても成功するはずはありません。

1.明らかに要員が不足している状態で強行し「戦力の分散投入、各個撃破」になっている。

 プロジェクト遂行に当たり、⑴目的・目標を明確に定め ⑵的確な状況整理を行い、⑶成功の見込みが高い計画概要を作成したとしても、必要な戦力を投入しなければ、成功が覚束ないのは当たり前です。しかし、それができていないのが現状でしょう。

「プロジェクト開始前に必要な要員リソースの質・量のチェックを行っていない」「プロジェクトメンバーにはいつも同じ名前がある」「兼務で工程のやりくりができていない」など、多くの企業で見られるところです。

2.プロジェクトに必要な要員リソースの割り当てができない理由

 プロジェクトには、ヒト・カネ・モノといったリソース(経営資源)が必要なことは言うまでもありません。このリソースを分配する意思決定を行うのは経営陣の仕事です。カネやモノについては必要十分かのチェックを行ったとしても、ヒトに関してはそのチェックが十分に行われていないのです。カネやモノについてはある程度数値化できますが、人については量・質ともに数値化が困難なからです。

 またそれだけではなく、組織横断的なプロジェクトの要員リソースの兼業稼働率を把握する手段を持っていないというのも原因です。プロジェクトを独立した組織にしない限り、一般的に既存組織横断、兼務で参画するメンバーの稼働負荷の実態を把握する仕組みがありません。また、他部門のプロジェクトに兼務で参画する場合、本務部門の都合を優先しプロジェクトワークを後回しにしがちです。これは人事評価が本務の組織で行われることが多いことが影響しています。

 しかし、人事。労務の仕組みを変える必要はありません。プロジェクトに参画しているメンバーは全従業員のうちの一握りに過ぎないからです。「本務で目標達成できなくても、プロジェクトでなすべきことをしていれば、その努力に見合った評価を行う」という特別ルールを作ればいいのです。

3.次につながらない失敗は、単なる経営資源の浪費である

 「失敗は成功の母」と言われますが、これは「良い失敗」に限った話で、「悪い失敗」は次の成功に結びつかず、企業組織において何の学びももたらしません。

 多くのプロジェクトは「プロジェクト開始前のプロセス」が軽視されています。「勝算が立っていないプロジェクト」は成功率が低いだけでなく、うまくいかなかった場合、その理由を特定することができず、次に成功するための示唆が得られず、同じような失敗を繰り返すことになります。これは「悪い失敗」の例です。

 「良い失敗」というのは、やるべきことを明確にして、できる範囲でやりつくして、それでも期待に沿った成果を挙げられなかったものです。この場合、その原因をたどることができ、解決方法を見出すことができます。

 「良い失敗」は組織に経験や暗黙知を蓄積することに役立ちますが、「悪い失敗」は投資したコストや要員の工数、時間などすべてが無駄になってしまいます。そのために、企業は「良い失敗」を許容し社員にチャレンジできる機会を与える反面、「悪い失敗」を徹底的に回避しなければなりません。

 プロジェクト開始前の「悪い失敗」を引き起こしている原因は、企画段階での検討不足とともに、要員の質と量の不足があると言えるのです。

 プロジェクトを成功に導くためには、プロジェクト開始前にしっかりとした計画を立て、それに、ヒト・カネ・モノといったリソースを必要十分に投入していくことです。中途半端に始めたプロジェクトは失敗します。それは「悪い失敗」です。

最後に、稲盛和夫氏の言葉を挙げておきます。

  • そのプロジェクトが、本当に価値のあると心底納得しない限り、着手しません。だからこそ、いったん着手したら、たとえ障害に遭遇してもあきらめないのです。もしある方法で成功しなければ、成功するための別の方法を追い求め続けるのです。
  • 計画の段階では、悲観的に構想を見つめなおす必要があります。悲観的とは、どのくらい難しいのかを慎重に、小心に考えつくすことです。
  • 「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」ことが物事を成就させ、思いを現実に変えるのに必要なのです。

組織の徹底力

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けます。

以前にマネジャーとリーダーの違いについて触れたことがあります。厳密にいえば両者は異なりますが、組織運営と顧客創造のマネジメントは密接につながっているので、リーダーにもマネジメントのスキルや能力は必要です。その意味では、マネジャーとリーダーはに近づいていきます。この記事のマネジャーをリーダーと読み替えても問題はありません。

1.リモートワーク下でより重要になる組織の「徹底力」とは何か

 新型コロナの感染拡大の影響によって、マネジャーの役割はより複雑化し、より重要になっています。単なる部署、部門の管理に留まらず、チームをまとめ、みんなの気持ちを奮い立たせ成果を生み出していくマネジャーの仕事には高度のスキルが要求されます。オフィス内での勤務であれば、場の雰囲気や暗黙のやり取りによって言葉によらないコミュニケーション(「非言語的情報」によるコミュニケーション)がたくさん行われ、おのずと自社のミッションやビジョン、組織カルチャー、行動規範などが共有されたり、部下の顔色を見て「元気がなさそうだなあ」と気づいてフォローしたりすることができました。

 しかし、テレワークやサテライトオフィスなど時間と場所を共有しない働き方が増えると、言葉によらないコミュニケーションがなかなか成立しづらくなります。マネジャーは、オンライン会議などで部下の顔色や表情など非言語的情報を読み取ることが必要になりますし、これまで非言語的に行われていたコミュニケーションをきちんと言葉にしてみんなに伝えていくということが重要になってきます。特に、自社のミッションやビジョンを理解し、自分たちの現場に合わせた言葉にチューニングし、チームで共有する取り組みは欠かせません。これがなければ、離れた場所で働いている一人ひとりの判断がブレる上に組織の強さを生み出すことができにくくなります。

 組織の強さといっても色々ありますが、この記事では成果を生み出すためには「徹底力」が重要と言っています。ミッションやビジョンの文言の上っ面をなぞるだけの組織と、一人ひとりに腹落ちしている組織では、何かを決めて実行するときの徹底力に違いが出ます。マネジャーがビジョンやミッションを理解しメンバーにきちんと伝え、全体で共有できている組織では「これをやろう」と決めた瞬間から全員が一つの方向に向かって動き出し、徹底して実行されます。

 非言語的なコミュニケーションが難しいテレワークにおいては、マネジャーが中心となり、意識して組織の徹底力を醸成する必要があるのです。

2.強い組織はミッション、ビジョンが日常会話の中で頻出する

 マネジャーがミッションやビジョンの共有を行うためには、まずマネジャー自身が深い水準でそれらを理解しなければなりません。そのためにはミッションやビジョンを制定した経営者の思考を理解する必要があります。

 ミッションとビジョン、それらが作られた背景にある経営者の思考や考え方を知り、腹落ちしたら、次はそれを自分の現場に応じた言葉で表現し、部下に伝え、みんなで話題にすることです。「ビジョンやミッションから考えると、このアクションはどうなるのか?」「この取り組みはビジョンの実現にどのように貢献するのか?」というような会話が日常的に出るようになればしめたものです。そうしたやり取りの中から、自分たちにとって何が大切で、何がどうでもよいのかの価値基準が共有されて行くからです。

 何が大切で何がどうでもよいのかが共有され、自由に議論できる風土があれば、「こんな意味ないことに手間と費用をかけるのはおかしい」と本質的な議論ができ、それに基づいて適切な対応が取れるようになるのです。

 マネジャーやリーダーの仕事というのは本当に大変な仕事です。現在、マネージャーやリーダーであっても部下の管理だけを行っているという人はほとんどいません。部下の管理だけでなく、自分自身もプレーヤーとして動き回っています。特にリモートワークが日常化すると、部下の管理は更に困難になります。

しかし、マネジャーやリーダーがビジョンやミッションを理解し腹落ちして自分の言葉で部下に伝え、全員がそれを共有できるようになれば、部下のモチベーションを高め自発的に動くようになります。そうなれば、マネジャーやリーダーによる部下の管理は軽減されます。そのためにも組織の徹底力の醸成が必要不可欠です。 

休日の本棚 コンサルタントが使っているフレームワーク思考法

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けます。

さて、今日は、高橋健三著「コンサルタントが使っているフレームワーク思考法」(中経出版という本を紹介します。「今日から即、使える!25の厳選知的生産ツール」とあります。

フレームワークというのは「枠組み」「骨組み」「構造」といった意味で、ビジネスフレームワークと言えば、経営戦略や業務改善、問題解決などに役立つ分析ツールや思考の枠組みのことです。簡単に言えば、ビジネスの課題を解決に導き成果を生み出す、思考の「型」です。

多くのビジネスパーソンは、「情報が多すぎてどう整理したらいいか分からない」「課題やクレームに振り回されどう対処したらいいか分からない」「いいアイデアが思い浮かばない」「上司や他部門をうまく説得できない」「顧客へのプレゼンがうまくいかない」などの悩みを抱えています。

フレームワークは幅広い情報をうまく整理して、活用するための「型」のようなものです。日頃から当たり前に行っている情報収集や課題の発見、または新しいアイデアの発想などにフレームワークは活用できます。この本では、コンサルタントである著者が厳選した特に活用頻度の高い25のフレームワークが紹介されています。また。単にフレームワークの内容の紹介だけにとどまらず、「あるメーカーの営業担当者」という主人公を想定し、具体的な活用性が示されているので大いに役立ちます。

フレームワークには次の3つのメリットがあるとされています。

  1. あるテーマについて考える際に「見落としを防ぐ」・・・フレームワークを用いれば、あらかじめ「枠組み」が示されているので枠組みに沿って順番に考えればいいので検討漏れが防げる。
  2. 効率的に考えられる・・・フレームワークでは検討すべき点が整理されているので何から検討すればいいか分からないというムダがない。
  3. コミュニケーションが容易になる・・・フレームワークはビジネスパーションの共通言語。フレームワークを使って整理した場合、社内外を問わずに相手に理解されやすい。

本書ではフレームワークを使うことで、①情報収集力 ②課題発見力 ③アイデア発想力 ④社内交渉力 ⑤顧客交渉力の5つの力が身につくと言っています。そして、この5つの力から、フレームワークを分類しています。

1.情報収集力を鍛える5つのフレームワーク

  • 5W2H・・・「場面」(いつ・どこで・誰が)「出来事」(何を・いくらで・どうした)「背景」(なぜ)の情報を整理する。情報共有の中で最も重要なのが「背景」(なぜ?)。「なぜその商品化」「なぜその価格なのか」「なぜその売り場なのか」と言った背景を洞察することで、戦略的な狙いが見えてくる。社内外への報告・連絡・相談、プレスリリースの原稿作成などに活用できる。
  • 経営資源の5視点・・・「ヒト・モノ・カネ・情報・時間」をチェックする。小さな会社の場合、「ヒト・カネ・モノ」では大企業に劣るので、「情報・時間」という応用リリースに着目するのがいい。競合企業の資源配分確認、業界の資源配分動向、自社の資源配分見直しなどに活用できる。
  • イノベーター理論・・・「誰を」タ-ゲットにしているかを確認する。イノベーターとアーリーアダプターを合わせた16%を超えると一気に普及すると言われているので、キャズムを乗り越える公告・宣伝活用が重要になる。自社の商品別ターゲット分析、自社商品の普及度確認、今日後y企業のターゲット設定確認などに活用できる。
  • 4C・・・顧客にとっての価値・顧客コスト・利便性・顧客とのコミュニケーションという4つの顧客視点で商品・サービスをチェックする。競合商品のチェック、自社商品の課題発見、他業種の4Cモデルからのヒント発見などに活用できる。
  • 五感・・・印象に残った感覚を記憶し、ビジネスに活かす。競業企業の店頭調査、イベントの魅力評価、自分の購買行動振り返りなどに活用できる。  

2.課題発見力を高める5つのフレームワーク

  • PEST・・・事業の推進に大きな影響を与えるマクロ環境の変化について、政治(Politics)・経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの要因から分析する。税制や規制の変革期、新技術の創出期、消費動向の変革期などに活用できる。
  • 5フォース・・・自社を取り巻く環境を「見える化」する。業界の収益性を決定づける5つの競争要因(①売り手の交渉力 ②買い手の交渉力 ③業界内の競合④新規参入の脅威 ⑤代替品の脅威)を分析する。仕入れ先との交渉、販売先との交渉、同業他社の動向確認などに活用できる。
  • 3C・・・顧客(Customer)・競合(Competitor)に対する自社(Company)の能力を知る。既存商品の販売促進、新商品の開発、新サービスの提供などに活用できる。
  • PLC(プロダクト・ライフ・サイクル)・・・自社商品の鮮度を知り、効率的に稼ぐ。導入期→成長期→成熟期→衰退期というサイクルに応じて顧客層とマーケティング戦略は異なる。既存商品の販売促進、長期販売商品のリニューアルなどに活用できる。
  • SWOT・・・内部環境(強み(S)と弱み(W))と外部環境(機会(O)と脅威(T))の変化を同時に分析し、それらを組み合わせることで、自社の強みを生かした施策を見つける。新たなビジネスチャンスの発見、自社の強み活用方法の検討などの活用できる。

3.アイデア発想力が身につく5つのフレームワーク

  • MECE(Mutually Exclusive Collectivery)・・・モレなくダブりなく発想する。MECEで検証することで、課題を見逃すことが亡くなり、その解決策を検討する際にもMECEでアイデアを整理することでなすべき施策がモレることが防げる。販売結果の要因分析、既存商品の販売促進間、新商品の開発アイデアなどに活用できる。
  • アンゾフ成長マトリクス・・・売り上げを拡大させるための施策を①市場浸透 ②商品開発 ③市場開拓 ④多角化 の4つに分類する。市場浸透→商品開発→市場開拓→多角化という順番で検討することが重要。事業計画の立案、営業計画の策定などに活用できる。
  • STP・・・セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つを順に検証し、効果的に売上を上げる。新商品の開発、既存商品の販売促進、新たな販売チャネル開拓などの活用できる。
  • 4P・・・「製品・価格・流通・仕掛け(プロモーション)」の施策をあぶりだす。顧客に提供する価値をどのように構築するかという視点が重要になる。4Pは規模に関わらず、すべてのビジネスに活用できる。新商品の開発、既存商品のリニューアル、商品の販路開拓及び販促企画などに活用できる。
  • AISAS・・・インターネットを積極的に活用する消費者ん購買行動プロセスを説明するモデル。Attention(注目)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(購買)→Share(情報共有)というプロセスを表す。「検索→購入→情報共有」というグッドサークルを作ることができれば、継続的な売り上げを見込むことができる。新商品の年間販促計画、既存企業のキャンペーン企画などに活用できる。

4.社内交渉力が向上する5つのフレームワーク

  • VC(バリューチェーン・・・事業活動を機能ごとに分類し「どのプロセスで付加価値を生み出しているか」を分析する。ビジネスモデルの見直し、製造段階の施策発見、販売段階の施策発見、サービス段階の施策発見などに活用できる。
  • PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)・・・問題児→花形→金のなる木→負け犬という4つのステージに分けて自社の製品を分析する。商品ラインナップの評価、商品別マーケットシェア、商品のヒット率の確認などに活用できる。
  • KBFとKSF・・・「買う理由」と「売れる理由」を明らかにする。絞り込んだターゲットのニーズを、「品質」「価格」「場所(時間)」の何に優先順位をつけて購入を決めているかを把握し、そのニーズの合せて売れる理由を定義す実践する。顧客ニーズの把握、自社業績の要因分析、競業他者の競争力分析などに活用できる。
  • 7S・・・組織を思い通りに機能させるために必要な要素、①戦略 ②組織構造 ③組織運営 ④人材 ⑤能力 ⑥社風 ⑦共通の価値観 の相互関係を明らかにする。部分から全体へと視点を広げることが大切。販売施策の現場への浸透、新年度の組織体制、評価制度の見直しなどに活用できる。
  • PUSHとPULL・・・メーカーから卸売業者→小売店へと順に仕掛けるのがプッシュ戦略、メーカーが直接消費者に商品情報を伝え購買意欲w喚起するのがプル戦略。「営業力」と「集客力」のバランスを図ることが重要。新商品の導入時、既存商品の販売促進計画、取扱店対策などに活用できる。

5.顧客提案力が身につく5つのフレームワーク

  • Why・What・How・・・「なぜ・何を・どのように」は顧客提案の基本。「なぜ」で課題の本質を絞り込み、「何を」で解決のテーマを明確にして、「どのように」で具体的な解決方法を提示する。相手の立場に立って、「なぜ・何を・どのように」で質問進ければ分からない点は内かを事前にチェックする。社内での稟議・企画提案、社外での企画提案・新商品提案などに活用できる。
  • DMU(Decision Making Unit)・・・誰が意思決定しているかを特定する。提案活動がうまくいかない背景にはDMUを正しく分析・理解できていないことがある。窓口担当者を取り巻く関係者の同行は常にチェックする。法人顧客の情報整理、新規取引先の開拓などに活用できる。
  • 起承転結・・・起(前提情報の整理)→承(課題の本質を共有)→転(解決策を提示)→結(諸条件を確認)。プレゼンの目的は「伝えること」ではなく「共感し、行動してもらう」こと。1つの段落の中にも起承転結を組み込み、段落ごとの結論を相手と共有することが大事。社内外での企画提案・商談時の見積もり、新規顧客への会社案内などに活用できる。
  • 価値の三層構造・・・企業が製品を通じて顧客に提供する価値は、下から「機能価値」「付加価値」「心理価値」の3層に分類できる。「機能価値」d家では価格競争に巻き込まれやすく、「心理価値」が高い商品は利益率の高いビジネスができる。「心理価値」をどのように構築できるかが課題。新商品企画、既存商品のリニューアル、店頭キャッチコピーの見直しなどに活用できる。
  • PDCA・・・「計画→実施→点検→改善」というサイクルを回しながらスパイラルアップすることが狙い。顧客に提案する商品や企画も、常にPDCAサイクルを意識して継続的に改善することで、着実にファンを増やすことができる。開発、営業、管理すべての部門における日常業務、事業計画の策定と見直しなどに活用できる。

フレームワークの効果と活用方法を理解したら、後は実践あるのみです。

フレームワークを使うことで、最短で最適な答えを導き出すことができます。

しかし、フレームワークは万全ではありません。フレームワークの当てはめたからと言ってそのまま正しい答えが出てくるというものではありません。フレームワークは枠組みにしかすぎないので、それを自社や自分の業務に合わせて使いこなしていく必要があるのです。既存のフレームワークを適用して、自社や自分の仕事に合わなければそれを修正していくことが大切です。フレームワークは思考を整理するための道具・ツールにしかすぎません。フレームワークは役立ちますが、単なる手段と考えてうまく利用しましょう。

「仕事ができる」とはどういうことか?

おはようございます。

今日も過去に紹介した本のブログを貼り付けておきます。

楠木建&山口周著「『仕事ができる』とはどういうことか?」(宝島社新書)を紹介します。

楠木建氏は、これまでも何度も紹介していますが、「ストーリーとしての競争戦略」などの著者で一橋大学ビジネススクール教授です。また、山口周氏は、ライプニッツの代表で一橋大学大学院経営管理研究科非常勤講師、「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」などの著書があります。

この本は、楠木氏と山口氏が対談形式で、「仕事ができるとはどういうことか?」について語られています。ここで語られているのは「仕事ができるためにどうすればいいか?」ではありません。楠木氏が言われるように、「仕事ができるための方法」、つまりHOWについては答えがありません。それは一人ひとりの置かれた状況、性格、仕事の内容によって違ってくるでしょう。確たる答えはないのです。ここで語られているのはWHATです。WHATが明らかになればWHYについての理解も深まります。また「仕事ができる人とはどういう人か?」、つまりWHOについても語られています。WHOを知ることで、WHATの正体に近づくことができるからです。

楠木氏は、「仕事ができる」ということは「成果を出せる」ことだと言います。「頼りになる」「安心して任せられる」「この人なら何とかしてくれる」もっと言えば「この人じゃないと駄目だ」と思わせる人が「仕事ができる人」です。

これまでの多くの本は、「仕事ができる」ための方法についてスキルを重視してきました。それでハウツー本として人気を博したものもあります。しかし、果たして「仕事ができる」というのは単にスキルの問題でしょうか。スキルが役に立たないというつもりはありません。私も、スキルが仕事ができるために重要な要素であることは否定しません。しかし、いかに優秀なスキルを持っていてもセンスがなければ成果を上げることはできません。仕事能力の本質はスキルを超えたセンスにあるのです。と言っても、スキルは育てることができますが、センスを育てるこれと言った方法はありません。だから、人はスキルに飛びつくのです。しかし、センスを磨かなくして成果を上げること、つまり仕事ができる人にはなることはできません。

この本は、そのセンスの正体を明らかにして、センスを磨くにはどうすればいいのかについて語ってくれています。

この本は、4つの章で構成されています。 その要点を列挙しておきます。

第1章 スキル優先、センス劣後の理由

  • アートとかセンスには、アカウンタビリティ(示せる・測れる)がない。スキルは、「できる・できない」「資格を持っている」など他者に容易に示せる。これに対してセンスというのは一例で言うと「女性にモテる」。特定の尺度で測れないし、すぐにモテるという状況を見せられるわけでもない。スキルはエビデンスとして言語化・数値化して示すことができるが、センスのエビデンス言語化・数値化が難しい。スキルと違って「定型的・標準的な方法」がない。
  • スキルは正しい方法の選択と努力、時間の継続的投入さえ間違わなければ、間違いなく、以前よりは「できる」ようになる。一方、センスは、ない人が頑張ると、ますますヘンなことになってしまう。要するに努力と得られる成果の因果関係が極めて不明確である。
  • 昨今では「役に立つ」というものがそもそも求められなくなっている。「役に立つ」から「意味がある」にシフトしてきている。日本の企業の多くは「役に立つ」ことで世の中に価値を生み出してきた。相変わらず「役に立つ」という軸での価値創造からシフトできないでいると、そのうち逆に「役に立たないもの」を生み出すことになる。「役に立つ」という軸から離れられないのは、「役に立つ」はスキルとサイエンスで何とかなるけれど、「意味がある」にはセンスとアートが必要になるからだ。
  • 商売というのは本質的に問題解決である。一つひとつ問題が解決されれば、いずれはすべての問題が解決され、商売もネタが尽きるように思える。ところが、商売には終わりがない。問題解決自体が新たな問題を生み出すからだ。新たな問題設定というのはセンス・アートの領域に入ってくる。
  • 論理と直観はそれぞれ異なった性質を持っているが、論理(スキル)は直観(センス)を必要とする。つまり、出発点においては問題を発見・設定するためには必然的に直観が求められる。先ず直観がなければ論理というものはあり得ない。起点委はスキルではなくセンスがある。
  • スキルとかサイエンスというのは、常に価値基準が外在的にはっきりしているので、いいこともあるが、それゆえ限界もある。「個性の時代」とか「多様性の時代」とか言われるが、多様性や個性はスキルとは折り合いが悪い。弱い人ほど「法則」を求めたがる。
  • 自分自身で形成された価値基準があること、それに自覚的であること、これが「教養がある」ということ。どんなに多くのことを知っていても、世の中の出来合いの価値基準に乗っかっているだけでは教養があるとは言えない。教養形成の本質はアートでありセンスにある。

第2章 「仕事ができる」とはどういうことか?

  • スキルは必要だが、スキルだけだとその人に固有の価値とはなりにくい。スキルを高めれば仕事ができるようになるが、それは特定のスキルセットが対応した領域にはまった時に「できる」という話で「仕事ができる」というわけではない。
  • 仕事ができるというのは、この人だったら大丈夫、どうしても必要とされている状態のこと。これは、スキルの単純延長線上に必ずしもあるわけではない。スキルのある人は掃いて捨てるほどいる。代わりになる人はいっぱいいる。このレベルだとマイナスがないだけでゼロの状態。ゼロの状態からプラスを作っていくのはその人のセンスにかかっている。これが仕事ができるということ。
  • スキル的な競争は「希少資源の取り合い」である。センスは千差万別なので、そもそも競争にも乗らない。強いて言えば、過去の自分との比較競争である。自分で練り上げていくしかない。試行錯誤しながら自分の身の置き所を定めてそこで自分に独自のセンスを深堀りするしかない。
  • スキルの場合は事前に自ら意図して「こういうスキルを身につけよう。だからこういう方法をとって」となるのに、センスとか才能は「自分にはこんな才能があったんだ」とある瞬間に気づくという面がある。事前の計画どころか自己認識や自己評価もできないという面がセンスにはある。
  • 全方位的にセンスがあるという人はいない。本当にセンスがある人は単にセンスがあるだけでなく、自分のセンスの「土俵」がよく分かっている。これが自分の仕事なのか、そうじゃないのかという直観的な見極めが実にうまい。しかし、スキルならば自分の土俵化は先験的に分かるが、センスの場合その仕事が自分の土俵かどうかの見極めは難しい。そこを見極める力というか五感が大事。

第3章 何がセンスを殺すのか

  • 若いうちは運動エネルギーでガンガン走っていても、それが徐々に位置エネルギーに転換していき、社長になると位置エネルギーが100%、運動エネルギーがゼロになる。これがビジネスパーソンの「エネルギー保存の法則」。実力主義の社会では人は能力を発揮できなくなるまでは出世するので、組織の上層部はやがて必ず無能な人によって占められ、下層部にいるまだ能力発揮の余地のある人によって駆逐されるというのが「ピーターの法則
  • 自分の地位や経歴に固執して位置エネルギーを求めるのは人間の性である。仕事ができない人は、エネルギー保存の法則にはまって、行動ではなく位置(状態)を求めて、本来持っているはずのセンスを殺してしまう。状態ばかりを指向する人は、生き残る為の「状態」がゴールになっていて「生き残って何がしたいのか」という「行動」が無視されている。リーダーは「何をしたいんだ」という「行動」を表明すなければならず、この意思の表明が本来の経営である。
  • 「仕事は仕事」と割り切りというのもセンスがある人の一つの特徴である。仕事ができる人というのは、もちろん仕事は情熱を持ってやるが、一方で仕事をしている自分を客観視し、ちょっと醒めたところがある。仕事ができる人は、仕事人たる以前に一人の人間、生活者であるという意識が伝わってくる人が多い。
  • 仕事ができない人は箇条書きが好き。To Doリストが好き。並列的な思考を持っている。並列的な思考の問題点は、時間的な奥行きがなくなることである。並列的な思考がセンスを殺す。「So What?」が捨象されてしまう。並列的な思考だと成果への繋がりという論理展開がなくなってしまう。論理というのはあることと別のこととの間の因果関係だから、そこには必ず時間がある。論理は常に時間を背負っている。
  • 「初めからシナジーなんかない。それは自分で作るんだ。」結果的にシナジーを手に入れたとしても、それは自分がいろいろな物事をある時間配列の中で組み立てていった結果としてできるものだ。
  • 思考や構想には時間的な奥行きがあり、論理でつながっている。順列で考える優れたリーダーには人がついてくる。そこにストーリーがあるからだ。数字や目標では人はついてこない。
  • 戦略はすべて特殊解であって、すべてが文脈に依存していて一般的な解はない。逆に言えば、論理を積み重ねていきついた解が他者と同じであれば、それは論理的に正しくても最適解ではない。「独自のストーリー」があるから、同じものでも違って見える。
  • ビジネス書でも「必殺技伝授の書」が実に多い。ストーリーやシークエンス抜きにひたすらワンフレーズ理解とかキーワード理解になっている。なぜ、飛び道具や必殺技のようなものを求めるかと言うと、仕事のできない人は、だいたい「アウトサイド・イン」の思考様式だからだ。最適な解がどこかに落ちているはずだからと幅広く外部にある者にサーチして、そこからいいものをピックアップして問題を解決しようとする。こうしたアウトサイド・インにセンスを殺す要因がある。
  • 仕事ができる人の思考の軸足はインサイド・アウトにある。完全な未来予測はできない。情報は不完全でも、自分なりのロジックやストーリー、自分なりのハッピーエンドみたいなものが見えている。もちろん知らないことはいっぱいあるけれど、「分からなかったら後で取りに行けばいい」というのがインサイド・アウトの考え方である。
  • 競争優位を左右する要因としてはヒト、モノ、カネの中でも、やっぱり人が大事である。それも人の能力やスキルよりもモチベーションが大事になる。アウトサイド・インではなくインサイド・アウトのベクトルの熱量の強さである。

第4章 センスを磨く

  • センスはフィードバックがかからないので、ない人はないままいくことになる。これがセンスの怖いところである。センスのない人はそもそも自分のセンスがないということをわかっていない。フィードバックに気づくということもセンスである。
  • センスというものの本来の性質に戻ると、極めて相対的だったり、全体だったり、綜合的なものである。裏を返すと、センスというものはその人の一挙手一投足に表れている。センスのある人の一挙手一投足、メモの取り方、商談相手への質問の仕方、会議の回し方、デスク配置、食事の食べ方、鞄の中身などすべてにセンスが含まれている。一緒にいれば何でも学びになる。センスのある人が身近にいればその人をよく視る、これが一番手っ取り早いセンスの錬成法である。大切なのは「全部視る」こと。その人と一緒にいたい、好きになることができれば、全部視ることは苦にならない。
  • センスというのは生得的、先天的なように思われがちだが、実際には事後的、後天的なものである。それぞれに試行錯誤をかけて練り上げていったものである。
  • 大きな人こそ自分を小さく考えている。だからこそ他者に対して注意が向く。相手の立場に立ってものを考えることができる。自分に都合がいいように考えない。自己中心的に考えない。これが人間洞察の基本にある。器が小さい人は自分が大きい。自分のことが頭いっぱいで、自己を客観視できない。自分が小さい人は頼りにされても安易に人に頼らない。貸しが多いのに回収しない。
  • センスというものの中身は「具象と抽象の往復運動」である。ビジネスというのは、結局のところ具体じゃないと意味がない。具体じゃないと指示できないし、結果は絶対に具体的で、どんな問題も具体的に表れる。しかし、超具体を見ても「要するにこういうことだな」という抽象化が頭の中にあって、そこで得られた論理を頭の中の引き出しに入れている。この引き出しがやたらに充実しているのがセンスのある人である。
  • センスのある人は、すごく具体的な問題があっても、まず自分の頭の中の引き出しを開ける。「これってこういうことじゃないか」と該当する論理を取り出してくる。「どうもこの問題の本質はここにありそうなので、こうやったら解決する」となって最後に具体的な指示が出る。これが「具象と抽象の往復運動」である。優れた経営者は日常の仕事の中でこの往復運動を呼吸するようにやっている。超具体の問題が「要するに」という一言ですごく高いところまでいく。この揺れ幅の大きさと頻度、スピードがセンスである。
  • ビジネスにおいては未知の新しい減少が響出てくる。ところがそれを一度自分なりの論理というか抽象の方に上げている人にとっては、「いつか来た道」「いつかどこかで見た風景」になっている。だから新しい事象についても確信をもって素早く判断できる。「ブレない」「意思決定が早い」ということ。

この本は、スキルよりもセンスが重要と言っているわけではありません。スキルとセンスのどちらが重要かは、その時々の状況によります。両者はともに重要ですが、その重要性は文脈や立ち位置によって変化するということです。

今流行りの「スキル」の獲得だけに注力するのではなく、「センス」も磨きましょうということです。

働きがいとビジネスセンス

おはようございます。

今日も過去のブログを貼り付けます。

プレジデントオンラインの「ビジネスセンスのない人ほど『働きがい』『利益が出る』という言葉を使う根本理由」という記事に関するブログです。

1.「働きがい」という言葉

 昨今、「働きがい」という言葉が多くの企業で使われています。「働きがい」という言葉は、「モチベーション」とは異なり、言語化できません。「働きがい」という言葉を説明できない経営幹部も多くいます。経営幹部が責任ある場所で発する言葉の、その定義を正確にとらえられていないというのが問題なのです。

 「働きがい」という言葉は「働く」と「かい(甲斐)」で構成されています。「甲斐」という言葉は「やった甲斐があった」という風に、過去を振り返って覚える感情のことです。勇気をもって、努力して、覚悟を持ってやった後に覚える感情、つまりやりきった後に覚える感情なのです。

 「働きがい」「やりがい」というのは、「働いた甲斐があった」「やった甲斐があった」という感情であり、覚悟を決めて行動をしたのちに覚える感情なので、働く前ややる前に「働きがい」や「やりがい」という感情を持つかどうかを推し量ることはできないのです。もちろん「働きがい」がありそうだとか、「やりがい」がありそうだと思うことはありますが、実際に働いてみて、やってみて「働きがい」や「やりがい」という感情が出てくるという保証はありません。したがって、「働きがい」ということが、働く目的にはならないのです。「甲斐」というのは、努力した結果の証(しるし)ではありますが、本質ではありません。

 大辞林では、「甲斐」とは「その行為に値するだけのしるし。また、それだけの値打ちや効果」としています。

2.最低限のビジネスセンスはすべての人に必要

 これまでも何度か書いていますが、今はVUCAの時代です。先行きが見えず何が正解かわからない時代なのです。こうした時代だからこそ、経営者だけに限らず、すべてのビジネスパーソンにビジネスセンスが必要です。

 ビジネスセンスは「ビジネス」と「センス」で構成されています。

 まず、ビジネスの本質ですが、それは収益を生むことです。下世話な言葉で言えば、「儲けること」「お金儲け」です。ボランティアではないので、収益を上げて納税し働く人に物心両面の豊かさを味わえるくらいの経済的報酬をもたらすことです。

 経営者の中には「お金を追求してはいけない」と言う人もいます。しかし、ビジネスの本質は「儲ける」ことです。儲けることができなければ社会的貢献もできません。以前紹介しました稲盛経営12箇条にも「売上を最大限に、経費を最小限に抑える」「値決めは経営」などとあります。

 社会に貢献するというのは、企業の立派な目的の一つですが、利益を上げられなければ社会に貢献できません。逆に社会に貢献できなければ利益を上げることはできません。利益と社会への貢献は両方とも企業にとって重要なものです。

 この記事でも「ビジネスの本質はお金儲けである」と断言し、この当たり前のことを忘れてはいけないと言っています。本質というのは流行に左右されるものではありません。ビジネスの本質は「お金儲け」であり、それに「社会貢献」という第二の目的が付け加わっているのです。

3.ビジネスセンスのある人、ビジネスセンスのない人

 ビジネスセンスのある人は、ビジネスが「お金儲け」であることを理解しています。きれいごとは言いません。正しい日本語を使います。

 「製品が売れる」「利益が出る」といった主体性に欠ける表現はしません。主体は「私」であり「私たち」です。正確な言葉で言えば、「私たちは、この製品でお客様のお困りごとを解決し、正当な対価をいただく、そして利益を上げる」という表現になります。

 ビジネスセンスのある人はお金が持つインパクトを理解していますし、「お金がなさすぎる」リスクも「お金がありすぎる」危険性も熟知しています。

 お金をどのように主体的に生み出せるのか、そのことが分かっていないのに、「お金のことを考えるのは汚い」などと言う人は、お金を軽視していますし、ビジネスの本質を理解していない、つまりビジネスセンスがない人なのです。

4.「働きがい」は、働く本質を理解した後に感じるもの

 繰り返しになりますが、ビジネスというのは「儲ける」ことです。「働く」というのも、日々仕事をこなすことではありません。「働く」人は常にビジネス、つまり「儲ける」ことを意識しなければならないのです。ビジネスの本質が「お金儲け」であり、自分の仕事がそれにどのように貢献できているのかを考えなければならないということです。これを考えることでビジネスセンスが身につきます。

 日々の努力と、その意義を理解した時に初めて「働きがい」を覚えられるようになるのです。少なくとも、何かをした「甲斐」というのは、努力や葛藤の体験があってはじめて抱く感情なので、働く前から「働きがい」を覚えるということはありません。

 「働きがい」という言葉の意味・意義を十分に理解せず、多用することは避けたいものです。